以下の文章は、BoingBoingの「How DRM has permitted Google to have an “open source” browser that is still under its exclusive control」という記事の翻訳である。

BoingBoing

1年前、ベンジャミン・“マコ”・ヒルは、いかにして大手テクノロジー企業がフリーソフトウェアライセンスが生み出した利益を独占してきたかを講演した。テクノロジー大手は、本来は所有権が存在せず、自由かつオープンな条件でライセンスされているはずのツールを狡猾にも自らの支配下に収めてきた。そうして、大企業は自らの貢献以上に、ソフトウェア開発者による「オープン」プロジェクトへの貢献の恩恵を享受してきたという。

マコは「software as a service」がフリー/オープンソフトウェアライセンスを破壊する方法に焦点を当てていたが、同等の悪質さをはらんでいるのが、デジタルミレニアム著作権法第1201条で特別な保護が与えられている「デジタル著作権管理」(DRM:digital rights management)だ。この法律は、著作物へのアクセス制限に関連するコードをリバースエンジニアリングして再実装することを違法としている。つまり、製品やサービスにDRMが施されると、そのDRMをコントロールする企業は、相互運用可能な製品のメーカーをコントロールできてしまうのである。

まさにそれを現実のものとしているのが、ウェブを席巻するGoogleのChromeブラウザだ(名目上は、フリー/オープンなChromiumのいとこにあたる)。これらはウェブブラウジングのデファクトスタンダードであり、Microsoft EdgeとOperaもChromiumベースにもなっている。

(オープンソースの)Chromiumは、ブラウザの開発の自由に使用できる。だが、そのブラウザは、Googleの「Widevine」というプロプライエタリなDRMコンポーネントのライセンスを取得しない限り、ほとんどのインターネットビデオを再生できない。WidevineのAPIは、2017年にワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアムで標準化された。その際、DRMが競争を阻害するツールとして用いられないよう、DMCAの濫用を禁じる規則を設ける提案がなされたが、W3Cメンバーはこれを僅差で否決した。

2017年以前、W3Cスタンダードは誰もが自由に実装でき、フリー/オープンブラウザの開発者は、大企業の製品を競合するライバル製品を開発できた。しかし現在、主要なW3Cスタンダードは、プロプライエタリなコンポーネントを機能させることを要求している。そのコンポーネントはGoogleの支配下にあり、同社がそのコンポーネントの使用をフリー/オープンソース開発者に許可することはないだろう

まさしく、W3CのDRMの標準化に反対した電子フロンティア財団を始めとする団体の危惧したとおりになっている。

問題はこれだけに留まらない。DMCA第1201条のずさんさゆえに、セキュリティ研究者がDRMシステムの欠陥を公表すれば、刑事責任・民事責任を追求されるリスクにさらされてしまうのだ。今やWidevineは、事実上あらゆるのブラウザの共通コンポーネントとなりつつあり、Widevineに何らかの欠陥があった場合、数十億モノユーザに悲惨な結果をもたらすことにもなりかねない。W3Cは、セキュリティ研究者による標準されたDRMの欠陥に関する真実の開示を保護するよう求める要請も否決している。Googleはセキュリティエラーを頻発する企業であり、DRMがはらむリスクはとりわけ大きい。DRMはその性質上、コンピュータの所有者に隠れて実行され、所有者がそれをシャットダウンしたり、破壊するのを防いでいるためだ。Widevineに重大な脆弱性が発見されたとしても、悪党ばかりがそれを(数十億人を攻撃するために)使用でき、その一方で善良な市民が脆弱性の存在を我々に警告しようとしても、大きな法的リスクを抱えることになる。

「ブラウザはあなたのほとんどすべてを見ている」と反トラスト法を専門とするコロンビア大学のエベン・モグレン教授は話した。同氏は過去数十年にわたってブラウザとその競争における役割について研究している。教授によると、Chromeは広告ブロッカーなどの広告を遮断しようとするサービスに完全に敵対的になっているという。

Google’s Chrome Becomes Web ‘Gatekeeper’ and Rivals Complain(Gerrit De Vynck / Bloomberg)

How DRM has permitted Google to have an “open source” browser that is still under its exclusive control / Boing Boing

Author: Cory Doctorow / BoingBoing / CC BY-NC-SA 3.0 US
Publication Date: May 29, 2019
Translation: heatwave_p2p