以下の文章は、TorrentFreakの「‘Pirate’ Site Manga Rock Starts Shutdown, Will Go Legal」という記事を翻訳したものである。
絶大な人気を誇るマンガスキャンレーションプラットフォーム「Manga Rock」が閉鎖の準備を進めている。Google Playストアのアプリはすでに削除され、公開された工程表によるとiOS版アプリ、サイトも順次閉鎖していくという。同サイトの運営者は、海賊版がどれほどの損害を与えているかを理解したと述べている。今後はMR Comicsという正規サービスとして再スタートをはかるという。
マンガや小説の人気は、日本にとどまらず、世界中に及んでいる。
かつては紙で読まれていたマンガや小説も、今やデジタルがスタンダードになりつつある。それにより、コミックはますますアクセスしやすくなったが、その一方で海賊版も容易になっている。
長年に渡り、『スキャンレーション』コミュニティは活発に活動してきた。スキャンされたマンガをファンが翻訳し、オンラインで共有してきたのだ。掲示板に投稿する程度の無邪気なものから始まった活動も、時に手に負えないほどに暴走していく。
Manga Rockというサイトがある。マンガに興味がなければ一度も聞いたことのないサイトかもしれないが、その人気はそこいらの海賊版サイトなど足元にも及ばない。MUSOのデータによると、Manga Rockはパイレート・ベイやハリウッド映画のストリーミングサイトよりも人気があるという。
さらに、SimilarWebでは『書籍・文学』カテゴリで2番目に人気のあるサイトだという。多くのユーザがこのサイトにブラウザではなく、AndroidやiOSの専用アプリからアクセスしているにも関わらず、だ。
数日前まで順調に運営を続けてきた同サイトだが、どうも運営者の心境が突然変化したようだ。Manga Rockを運営する「Not a Basement Studio」社が、J-Castニュースのインタビュー(via Animenewsnetwork)のなかで、近日中にサイトとアプリを閉鎖すると語ったのだ。
当初、取り立てて変化は見られなかったが、本日、Manga RockのアプリがPlayストアから削除されていることが確認された。iOS版もまもなく削除されるという。
この削除をめぐってさまざまな混乱が起こったが、新たな声明によりMangaRock.comの閉鎖も正式に確認された。「公式発表:Mnaga Rockは閉鎖します」とNot A Basement Studioは述べている。だが、熱心なマンガファンからのアクセスを利用しないというのももったいない。『Not A Basement Studio』もまさにそう考えているようだ。同社は水面下で複数の出版社と交渉を重ね、合法的なオルタナティブを作り出すべく奔走しているという。
当初の計画では、許諾を得ていないコンテンツをMangaRock.comから(訳註:年末までに)一度にすべて削除し、利用者に新しい合法的なサービスとして提供することを予定していた(訳註:8月より有料のプレミアムサービスを開始し、それを資金として公式コンテンツのライセンシングに当てるとしていた)。『海賊』を消費者に変える仕掛けとして考えれば、権利者を含め、誰にとっても好ましい選択であるかのように思われた。
だが、この計画は中止となり、Manga Rockの閉鎖が決定された。その後継サイトとして「MR Comics」という合法プラットフォームが立ち上げるのだという。
「たくさんの出版社やクリエイターと接触しているうちに、新たなプラットフォームを開発しつつManga Rockを運営し続けることは、意図的ではないにしても海賊行為をホスティングし、支援しているということに気づかされました」とManga Rockは説明する。
「100%公式なコミックプラットフォームに完全移行し、すべての無料読者を正規コンテンツの支援者に転向させない限り、クリエイターと出版社は我々や他のすべてのスキャンレーションサイトから被害を受け続けることになります」
「Not A Basement Studio」 は閉鎖の具体的な理由については説明していないが、この閉鎖が、少なくとも部分的には権利者からの要請に背中を押されたものであったとしても不思議ではない。長年に渡って運営そ続けてきたことを考えれば、それがあと数週間伸びたところで大した違いはなかっただろう。
閉鎖の理由が何であれ、インターネット最大級の「海賊」の活動は、終焉を迎えつつある。Manga Rockが公開した工程表によると、アプリは9月第1週には削除されることになっている。同サイトは来週にも、未完成の新たな「MR Comics」プラットフォームにリダイレクトされるという。
MR Comicのサイトには、Manga Rockチームがどのようにしてスタートし、現在までどのように成長してきたのかが詳細に描かれている。そして最後の言葉が明確に示すように、出版社への深い謝罪が述べられている。
「長年応援してくださった皆さま、ありがとうございました。すべての方々に深くお詫びいたします」
一方、サイトの利用者のほとんどがショックを受け、失望をあらわにしている。彼らはお気に入りのスキャンレーションサイトなしにはいられないだろう。なかには新しい合法プラットフォームを試してみようと思う人もいるだろうが、それが登場するころには代わりのサイトを見つけてしまっているかもしれない。
‘Pirate’ Site Manga Rock Starts Shutdown, Will Go Legal – TorrentFreak
Publication Date: September 05, 2019
Translation: heatwave_p2p
Material of Header Image: Alex Rodríguez Santibáñez
スキャンレーションの問題というのは実に厄介である。市場を開拓する原動力という側面もあるのだが、一方で正規コンテンツの進出を阻む障壁ともなっている。
日本語という言語の壁はものすごく高くて、日本人以外の消費者は翻訳なしではほとんど楽しむことはできない。日本のマンガでローカライズされるのは、ほとんどはメジャータイトルに限られていて、日本のマンガに興味を持てば持つほど、その選択肢が狭いことに気づかされてしまう。
とはいえ、出版社としても商業的利益が見込めないタイトルを国外向けに翻訳してリリースするというのはおいそれとはできない。スキャンレーションはそうしたギャップを埋めているという側面もある。
ただ、スキャンレーションサイトにローカライズされたメジャータイトルが並んでいることも珍しくはないし、海賊版が幅を利かせまくっている市場に正規コンテンツが参入しづらいというのも確かである。ローカライズされたらスキャンレーションは引っ込めるという(昔ながらの)仁義を守るサイトもあるのだろうが、必ずしもそうはなっていないし、そうでないサイトのほうが人気があるのだろう。少なくともManga Rockはそのような仁義を重んずるサイトではなかった。
その点で、Manga Rockの閉鎖は歓迎すべきことでもあるのだが、スキャンレーションサイトが潰れれば海外の日本マンガファンは再びギャップに直面することになる。このギャップをどう埋めるか、というのはやはり難しい問題だ。ファンサブサイトから始まったCrunchrollが正規のアニメ配信サービスに生まれ変わったように、ファンメイドの翻訳を活用したコミック配信サービスというものも1つの方向性としてはありなのではないかと思う(個人的には、Manga Rockは海賊版サイトに近い存在だと感じているし、謝罪すりゃいいってもんでもないので、ファンメイド翻訳の受け皿として適任とは思わない)。
それはそうと、すでにManga RockはMR Comicsにリダイレクトしており、公式マンガ配信プラットフォームとしての準備を進めているようだ。日本の出版社は含まれていないが、すでに「Zhiyin Animation」と「Tan Comics」という出版社、マンガスタジオと契約を交わしており、テンセントの「閲文集団」、ベトナムの「Comicola」ともコンテンツパートナーシップ契約の交渉を進めているという。これが実現するか、どの程度のパートナーシップなのかはわからないけれども、何なんだろうね、この変わり身の早さ。