以下の文章は、TorrentFreakの「Piracy Boosts Sales of Some Manga Comics, Research Shows」という記事を翻訳したものである。

TorrentFreak

マンガ出版社は、海賊版サイトの撲滅に向けて懸命に取り組んでいる。Manga Rockの閉鎖が決定するなど、出版社は大きな勝利を目前にしている。しかし興味深いことに、すべての海賊版コンテンツを削除することが、必ずしも最大の利益につながるというわけでもないとの調査結果が示されている。海賊版は結果的に、コミック本の売上に貢献することもあるようだ。

今月は海賊版マンガに関連したニュースが相次いでいる。

人気マンガスキャンレーションプラットフォームのManga Rockが閉鎖が発表し、その数日後には日本の出版社が海賊版漫画サイト「星のロミ」を米国の裁判所に提訴した

いまとなっては、ほとんどの人が著作物を無断で再公開してはならないことを理解しているだろう。だが、海賊版マンガが出版社の収益に与える影響については意見が分かれている。

権利者側はしばしば、コンテンツを「盗む」連中のせいで業界が危機に瀕していると訴えているが、一方では海賊版マンガの消費者は、プロモーションの一形態であると見ている。無料サンプルがあれば懐事情に関わらず、新たな作品を開拓できるというわけだ。

慶應義塾大学の田中辰雄教授が先日発表した研究では、どちらの意見にも一理あることが示唆されている。

この研究は、2015年にCODAが実施した大規模削除キャンペーンを利用した自然実験から得られた知見をまとめている。田中教授は、このキャンペーンによって海賊版コミックの入手が困難になったことが、3360冊のコミックの売上に与えた影響を分析した。

この『漫画海賊版が正規版売上に与える影響』と題された論文では、海賊版マンガの影響が連載中の作品と完結した作品とで異なることが示されている。言い換えれば、海賊版の影響は不均一だということだ。

「海賊版は連載中の作品の売上を減らすが、完結した作品の売上を増やす効果があった」と田中教授は記している。

手法の限界から海賊版の全体的な影響を測定することはできなかったものの、この調査結果は、海賊版が何らかのプラス効果――この場合は完結したコミックシリーズの売上増――をもたらすことを明らかにしている。

海賊版が売上に及ぼす不均一な影響は、他にも指摘されている。これまでの調査によると、Megauploadの閉鎖により、大作映画の興行収入は増加したが、ミニシアター系映画の興行収入は減少していたことが明らかになっている。

この海賊版マンガに関する知見は、Manga Rockが現在置かれている状況にも関連している。同サイトは、出版社との交渉を経て、今月末に海賊版タイトルをすべて削除し、数カ月後には完全に合法的なプラットフォームへの移行を予定している。

だがこの動きは、田中教授の提言には反しているようだ。論文には以下のように記されている。

「海賊版の効果が不均一な場合は、海賊版サイトを一律に閉鎖することは最善とは言えず、可能であれば有害な海賊版ファイルを選択的に削除するのが望ましい。この場合、完結したコミックの海賊版ファイルの利用可能性は出版社と消費者の双方に有益であるため、全体の効果がポジティブかネガティブかに関わらず、完結したコミックの海賊版ファイルのみを削除することが、出版社が最初に手を付けるべき最善の戦略である」

8月に発表されたこの論文は、以前に公表されたデータに基づいている(訳註:ディスカッション・ペーパー日本語記事)。したがって、より新しく、ファンメイドのスキャンレーションを扱っていたManga Rockに当てはめて考えるのはいささか注意が必要だ。とはいえ、出版社には考えるための材料となるかもしれない。

Manga Rockは非常に人気があり、数百万のマンガファンを抱えている。その彼らを単に次の海賊版マンガサイトに追いやってしまうよりは、その一部でも留めておく方が賢明かもしれない。

Piracy Boosts Sales of Some Manga Comics, Research Shows – TorrentFreak

Author: Ernesto / TorrentFreak / CC BY-NC 3.0
Publication Date: September 20, 2019
Translation: heatwave_p2p
Header Image: Moujib Aghrout

まずは連載中の作品を重点的にテイクダウンしていくべきというのはたしかにそうかもしれない。ただ、ポジティブな効果があるのであれば、海賊版ではなく正規版で実現してほしいなぁと願うばかり。出版社にとっても「わかっちゃいるけど踏み出せない」というところではあるのだろうけれど。

なお、完結作品の売上を増加させる理由としては、「すでに終わった作品を読者に思い出させる効果があるためではないかと考えられる」とのこと