以下の文章は、TorrentFreakの「EU Study Shows Online Piracy is Complex and Not Easy to Grasp」という記事を翻訳したものである。

TorrentFreak

欧州連合知的財産権局(EUIPO)は、欧州における海賊版利用が減少していることを示す新たな調査結果を公表した。この調査は海賊版“サイト”にのみ限定したものではあるが、平均収入の低い国ほど海賊版サイトへの訪問率が高いなど、興味深い知見が含まれている。さらに、この調査では正規版サービスの認知が必ずしも海賊版の抑止には働かないことも示唆している。

EUIPOが先週公表した調査結果によると、海賊版IPTVサービスは年間10億ユーロもの収益を上げているという。ヨーロッパだけで、である。

この数字は依然として海賊版が大きな問題であることを裏付けるものではあるが、一方で、それに続いて公表された第二の調査では明るいニュースも伝えられた。2017年から18年にかけて、欧州全体の海賊版コンテンツへのアクセスは15%以上減少していた、というものだ。

この数字は間違いなく権利者から歓迎されるものではあるが、報告書全体を慎重に分析するとその複雑さも浮かび上がってくる。

まず、本調査は海賊行為の一部のみを切り取ったものであることに注意が必要だ。これはウェブサイトへのアクセスのみを監視する海賊版追跡企業MUSOから提供されたデータに基づいているためだ。つまり、アプリやストリーミングデバイス、IPTVサービスは含まれていないということになる。

この数年、これらの追跡されていない海賊版チャネルが爆発的に成長していることから、本調査で見られた海賊行為の減少は額面通り受け入れられるものではない可能性もある。実際、こうしたストリーミングツールが現在の海賊行為の最大の脅威だという声もある。つまり、海賊行為全体で見ると減少していないどころか、増加している可能性もあるということだ。

この点についてEUIPOに問い合わせたところ、MUSOのデータは、欧州オーディオビジュアル観測所とEurostatのデータとともに、現状を可能な限り正確に把握するために選ばれたとの回答があった。

「MUSOのデータベースは、適当な方法論に基づいて、EUにおけるオンライン著作権侵害の全体像を可能な限り詳細に描き出すためのデータとして選択されました」とEUIPOは回答している。

たしかにその通りである。新たな海賊版ツールは追跡が非常に難しく、そもそも利用できるデータが存在しないという可能性もある。

EUIPOの「全体像」は、海賊版をめぐる状況の一部しかカバーしていないことになるが、それでも非常に詳細であり、さまざまな要因に基づく経時変化を分析することはできる。とりわけ、地域差に関連して興味深い知見を提供している。

たとえば、1ユーザあたりの月間サイト訪問回数で示される海賊版サイト利用率を見ると、ラトビアとリトアニアが群を抜いて高い。また以下の図が示すように、海賊行為全体でみると、両国はフィンランドの6倍以上であった。

2018年 国別・コンテンツ別の海賊版サイト利用

この結果を論理的に説明するとすれば、左側に記載されている国ほど海賊行為が蔓延しているということになる。ただし、この調査は海賊版“サイト”の著作権侵害のみを対象としているという点に注意が必要だ。

先週、EUIPOが公表した別の調査では、海賊版IPTVサービスの利用はラトビアは平均以下であったが、上記のグラフでは最も海賊行為が盛んだということになる。一方、海賊版IPTVサービスの利用が盛んなスペインでは、海賊版サイトへのアクセスは平均を下回っている。海賊版の全体像を把握するには、ストリーミングボックスやアプリについても同様に知らなければならないということなのだろう。

海賊版サイトと海賊版IPTVの大きな違いは、後者は通常サブスクリプション契約が必要になるという点にある。つまり、海賊版業者に月額料金を支払わなければならないということだ。調査対象国ごとに1人あたりの平均所得が異なることを考えれば、利用する海賊版ツールの差異は地域差に起因している可能性もある。

EUIPOの調査でも、この経済的格差について検討している。統計分析の結果、1人あたりの所得が低いほど、海賊版利用の増加につながることが確認されている。ただし、繰り返しになるこれは海賊版サイトの訪問回数にのみ基づいた分析である。

「社会経済的要因の中では、1人あたりの所得水準と格差の程度が海賊版消費に最も大きな影響を及ぼしているようである。すなわち、1人のあたりの所得の高さと所得格差の低さは、違法な消費の低さに関連しているということである」と報告書は結論している。

収入と海賊版利用との相関は感覚的にも理解できる。これは、海賊行為の社会的受容度と海賊行為の量との相関についても同様であった。だが驚くべきことに、一部のコンテンツについては、正規サービスの認識と海賊行為との間に同様の相関は見られなかった。

EUIPOによれば、正規のテレビサービスの認知が高いほど、テレビ番組の海賊版利用が増加するという。音楽についても同様の傾向が見られているが、統計的に有意ではなかった。一方、正規の映画サービスの認知の高さは、海賊版の減少と相関していた。

「正規サービスの提供と海賊行為との関連性は複雑で、さらなる調査が必要であると思われる」とEUIPOは結論している。

EUIPOの調査は全体として、EUにおける海賊行為の現状について、いくつかの興fug味深い洞察を提供している。この調査は海賊版サイトのトラフィックのみを対象としているが、海賊行為の利用習慣は国によって大きく異なり、その把握は必ずしも容易ではない。

報告書「欧州連合におけるオンライン著作権侵害」の写しはこちらから(pdf)

EU Study Shows Online Piracy is Complex and Not Easy to Grasp – TorrentFreak

Author: Ernesto / TorrentFreak / CC BY-NC 3.0
Publication Date: December 05, 2019
Translation: heatwave_p2p
Material of Header Image: ICOOOON MONO