以下の文章は、TorrentFreakの「WinRAR Nukes Pirate Keygen But is a “Good Guy” Towards Regular Users」という記事を翻訳したものである。

TorrentFreak

WinRARは歴史上最もよく知られたソフトウェアの1つであり、事実上いつまでもタダで利用できる。にもかかわらず、開発会社は依然として海賊版対策に追われており、今週にはキージェネ製作者にクレームを入れている。とはいえ、WinRARはTorrentFreakに、そもそも海賊版など使う必要はないと語ってくれた。

この記事を読むような方なら、右の画像をよくご存知だろう。

コンピューティングの歴史を振り返れば、データ圧縮ツール「WinRAR」ははるか昔から存在し続けてきた。

来年4月に25周年を迎えるWinRARは、もはや今どきのネットユーザよりも年上の存在だ。それだけの歴史を持ちながら現在も愛用されており、約5億人のユーザに利用されている。

実際、WinRARはChrome、Acrobat Readerに次いで、世界で三番目にインストールされているソフトウェアであるという。その成功の秘訣はどこにあるのか。少なくとのその1つには、同社のリベラルなビジネスモデルが挙げられる。

WinRARのもっとも興味深い点は、このツールが無料であるかのように思われつつも、技術的には有料ソフトであるということだ。ユーザには40日間の試用期間が与えられ、気に入ったならお金を支払ってライセンスを購入できる。

だが、WinRARの機能自体は試用期間後も損なわれることなく、払う必要はないけれどもお金を支払ってくれるユーザの意思に完全に委ねられている(訳注:40日が経過すると起動ごとに購入のお知らせがポップアップする)。その結果、WinRARは膨大な海賊版ユーザを抱えているのだが、同社はそれを抑止するための対策はほとんど講じていない。

ライセンスを購入すれば、「しつこい」ポップアップから開放され、大半の人には不要ないくつかの機能が手に入る。だが、海賊たち(このツールは海賊の間では非常に人気がある)にとって、ライセンスを購入しなくてもWinRARは十分期待に応えてくれているのである。たとえば、圧縮された海賊版ファイルの解凍とか。

もちろん、基本無料のソフトウェアなのに、びた一文払いたくないというユーザもいる。そうしたユーザは「キージェネ(keygen)」と呼ばれるソフトウェアを使用して「ライセンス」を取得し、「しつこい」ポップアップを消し去っている。

WinRARの開発会社は、カジュアルな海賊版ユーザをほとんど気にとめていないものの、このキージェネには警戒しているようだ。我々は今週、Win.rar GmbH社の弁護士がこの手のツールのGithubリポジトリにクレームを入れていることを確認した。

「当社は解読不可能なライセンス生成システムを導入しています(今現在)。このシステムは、当社従業員がユニークな.keyファイルを生成し、それをエンドユーザのWinRARインストールディレクトリに配置して、製品をアクティベーションするというものです」と通知では述べられている。

「当社のライセンス生成システムをバイパスしてビルドされたカスタムメイドのキージェネのソースコードおよびコンパイルされたアプリケーションのレポジトリを保持し、エンドユーザが無償でユニークな.keyファイルを生成できるようにすること、つまり技術的手段をバイパスすることは、当社の技術的保護手段を侵害するものです」

こうしたDMCA通知は最近のトレンドでもある。キージェネがWinRARのコードをコピーしているという主張ではなく、DMCAの迂回禁止条項に違反することで同社の権利を侵害しているという主張だ。こうしたケースでは反論は容易ではない。

「このGithubリポジトリは、デジタルミレニアム著作権法を構成する17 U.S.C. § 1201に違反している」と通知にはある。

「17 U.S.C. § 1201では、Githubが異議申立手続きを提供しない限り、この通知に対する反論を認めてはいません。Githubは迂回禁止の申立に対し、異議申立手続きを提供する法的義務を負ってはいません」

Githubは迅速にこのリポジトリを削除したが、その直前のスクリーンショットが以下の画像だ。とりわけ興味深いのが、上段にある言語、つまり中国語である。

このツールの開発者は、中国・天津大学卒のDouble SineまたはDoubleLabyrinthというユーザだった。彼ないし彼女は、どうも技術的挑戦としてキージェネを作成したようだが、その居住地を考えれば実に皮肉である。

WinRARは2015年から、中国の一般ユーザ向けに完全無料のWinRARを提供している。同社によると、長年のWinRARのご愛顧に感謝するためのものだという。

中国版ウェブサイトには「長年の努力の末、ついに完全無料の簡体字中国語版WinRARを中国の個人ユーザに提供できる運びとなりました」と書かれている。

「WinRARはwinrar.com.cnから完全無料で公式でダウンロードできるようになりました。もうクラック版を手に入れるために、セキュリティ上のリスクがある危険なウェブサイトに行く必要はありません」

WinRARマーケティングチームの担当者に話を聞いたところ、DMCA通知の詳細については話せないが、WinRARはそもそも海賊版を利用する必要がないのだと話をしてくれた。

「実際これは実に興味深いケースで、そもそもWinRARは試用版の代わりに海賊版を使う必要がないのです。確かに当社のエンドユーザ向けライセンスポリシーは他社ほど厳しくはありません。試用期間終了後もWinRARを使い続けてもらうことのほうが重要なのです」

「法的に見れば、試用期間の終了後に購入してくれる方が望ましいのでしょうが、いずれにしてもunrar.exeはオープンソースなので、圧縮ファイルの解凍はできるべきだろうと考えています」

同社はさらに、WinRARの実質永遠の試用期間をネタにしたマンガやミームが生み出されていることを挙げて、「どれも面白くで、私たちはああいうの大好きなんです」という。

だがもっと重要なのは、試用期間を過ぎても使用を続けるユーザを迫害しないことで獲得したポジティブなイメージを維持することの重要性を理解しているということだろう。そうしたユーザの追跡を最優先事項にしていない彼らではあるが、それでも海賊版は使ってほしくないという。

「個人ユーザに関して言えば、試用期間の終了後も使用を続けたとしても法的措置を検討することはないという意味で、常に『お人好し〈good guys〉』であり続けてきました。ですから、WinRARの海賊版ライセンスキーが必要だということが理解しがたいのです」と語った。

7-Zipなどライバルのオープンソースツールが同様の機能を無料で提供しているが、WinRARは多くのユーザにとって、四半世紀が過ぎた今でも、依然として選択肢の1つとなっている。これは興味深いビジネスモデルに裏打ちされた見事な成功と言えるだろう。

WinRAR Nukes Pirate Keygen But is a “Good Guy” Towards Regular Users – TorrentFreak

Author: Andy / TorrentFreak / CC BY-NC 3.0
Publication Date: December 07, 2019
Translation: heatwave_p2p
Material of Header Image: Paweł Czerwiński

日本だとテキストエディタの秀丸が同じようなスタンスを取っているように思える。

WinRARはある意味では成功したビジネスモデルであるが、それでも先行者利益を獲得してシェアを拡大したことが勝因と考えると、これを真似て再現するというのはやはり難しそうだ。サブスクリプションモデルへの移行が流行しているなか、十数年前に購入したライセンス(.keyファイル)が未だに使い回せるというやり方を真似ようとする物好きもそうはいないだろうが。

それはさておき、WinRARといえば今年はじめに「19年前からの脆弱性」が発見され、修正アップデートが行われている。今年に入ってからアップデートをしていないなという方はこの機にどうぞ。