以下の文章は、TorrentFreakの「Piracy Highlights of The Decade: From Limewire to IPTV」という記事を翻訳したものである。

TorrentFreak

10年代が終わりを迎えつつある今、この10年に海賊界隈で起こった最も重要なトピックを振り返りたい。最も大きな変化は、著作権侵害コンテンツへのアクセス方法が、ダウンロードからストリーミングへと移行したことだ。法執行は盛んに行われてはいるが、海賊行為自体はこの10年の間も盛んに行われ続けている。

2010年はじめ、オンライン海賊版のエコシステムは現在とはまったく異なるものだった。

海賊版のIPTVやストリーミングボックスはまだ一般には普及してはいなかった。LimeWireは依然として数百万の利用者を抱えていたが、トラフィックではBTJunkie、isoHunt、Mininovaなどのトレントサイトが優勢だった。

いまやLimeWireは忘却の彼方に消え、上述のトレントサイトはすべて閉鎖した。他にもたくさんのことが変わった。本稿ではこの10年間に起こった最も重要な出来事を振り返りたい。

決して網羅的な概説ではないということを留意していただきたい。それでもなお、過去10年で多くのことが変わった。

2010年

2010年代の幕開けは、プライベートトラッカー「OiNK」運営者のアラン・エリスにとって明るいニュースから始まった。陪審員は全員一致の無罪評決を下し、エリスは釈放された。

程なくして、パイレート・ベイ事件の最終判決がくだされた。スウェーデン控訴審はピーター・スンデに禁錮8ヶ月、フレドリック・ネイジに禁錮10ヶ月、カール・ランドストロームに禁錮4ヶ月を宣告した。そこにパイレート・ベイ共同創設者のゴッドフリード・スバルソルムの姿はなかったが、のちに禁錮1年を言い渡された。

その後、4児の母であるジェイミー・トーマス=ラセットがRIAAとの裁判に敗訴。トーマス=ラセットはKazaaで24の楽曲を共有したとして150万ドルの損害賠償の支払を命じられた。この判決は控訴され、最終的に控訴審は賠償額を22万2000ドルに減額した。

10月には、RIAAがGnutellaベースのダウンロードクライアント「LimeWire」との訴訟に勝利。かつて世界で最も人気のあったファイル共有アプリケーションはすぐさま姿を消した

2010年11月、米国政府が「Operation in Our Sites」を開始し、トレント検索エンジン「Torrent-Finder」を始めとする複数の海賊版サイトのドメインを差し押さえた。数年後、司法省はTorrent-Finderの起訴を取り下げ、ドメインを返還した。

この作戦に伴い、NinjavideoのドメインもFBIの標的となり、刑事訴追された。以降「Operation in Our Sites」は継続し、主に偽造品に関連した数百万のドメインが差し押さえられている。

2010年は、米国のBitTorrentユーザと見られる人びとへの、いわゆる「著作権トロール」訴訟の幕開けでもあった。この年に起こされた訴訟は映画『ハートロッカー』の製作会社が起こしたものも含めて、数万人を相手取ったものとなった。

2011年

エンターテイメント業界からの圧力を受けたGoogleは、インスタントやオートコンプリートから海賊版に関連するキーワードの検閲を開始。以降、検索結果における海賊版ドメインのランク低減といった一連の海賊版対策が開始された。

3月、オバマ政権の「IPカエサル(知的財産執行調整官)」ことヴィクトリア・エスピネルがPIPA/SOPA法案の地ならしを進め、海賊版の摘発を容易にする法改正を議会に要請。その後、いずれの法案も激しい抗議に晒されることになる。

欧州では、史上最大規模の海賊版取り締まりが実施された。人気の映画ストリーミングポータル「Kino.to」が閉鎖され、同サイトに関与していた12人が逮捕された。

「TVShack」管理人のリチャード・オドワイヤが警察に逮捕される。オドワイヤは当時23歳。翌年、米国から身柄の引き渡しを要求されたものの辛くも回避した

MegauploadがMegauploadのテーマソングをリリース。P・ディディ、ウィル・アイ・アム、アリシア・キーズ、スヌープ・ドッグ、カニエ・ウェストが同サイトを宣伝した。

2012年

年が明け、前年から続いたSOPA/PIPAに対する歴史的抗議運動が激化。最終的にいずれの法案も廃案に追い込まれた。

ニュースヘッドラインはMegauploadへの強制捜査と「メガ・コンスパイラシー〈Mega Conspiracy〉」の起訴で占められた。この犯罪捜査によって同社のファイル共有ビジネスは頓挫することになったが、現在も創設者キム・ドットコムと元幹部の米国への引き渡しを巡って裁判が続いている。

当時最大手のBitTorrentインデックスサイトだったBTjunkieが自主的に閉鎖。他のファイル共有サイトへの法的措置と、他にやるべきことがあるとの理由が挙げられた。

「Operation in Our Sites」の最初の摘発を受けたNinjaVideoの創設者に、共謀及び著作権侵害の罪で有罪判決がくだされた。ハナ・ベシャラは禁錮22ヶ月、他数名の共犯者にも有罪判決がくだされた。

パイレート・ベイもニュースヘッドラインを賑わせた。この悪名高きBitTorrentサイトは、米国によるドメイン差し押さえを回避すべく、人気リリースのトレントを削除し、.SEドメインに移行。だが、ドメインが差し押さえられることはなかった。

さらにこの年、パイレート・ベイは英最高裁判決を受けて、ISPからブロッキングされることになった。ブロッキングされたにもかかわらず、同サイトのトラフィックは大幅に増加した

2013年

全米映画協会は、ファイルホスティングサイト「Hotfile」との著作権侵害訴訟に勝利。Hotfileが8000万ドルの和解金を支払うことで合意したとされた。巨額の和解劇は驚きと恐怖をもって迎えられたが、実は舞台裏で『わずか』400万ドルでの手打ちが行われていたことが明らかになった。

キム・ドットコムが、閉鎖したMegauploadの後継サイトとして「Mega」をローンチ。Megaは「プライバシー・カンパニー」を自称し、創設者との関係が絶たれた現在でも人気を保っている。

MPAAとRIAAが米大手ISP5社の協力を得て、「シックス・ストライク」著作権警告システムを立ち上げた。5〜6回の著作権侵害警告を受けた加入者に対し、ISPが海賊行為を抑止するための厳しい措置を講じられるようにするというものだった。結局、このシステムは4年後に終了した。

Netflixは、海賊版がライバル以上の存在であることを明らかにした。同社のコンテンツ買収担当副社長は、購入すべきテレビシリーズを評価するために、ファイル共有プラットフォームで人気の作品に注目していることを明かした。この戦略は功を奏したようで、NetflixはBitTorrentからトラフィックを奪い取ったとも発言している。

トレント検索エンジン「isoHunt」が、MPAAとの訴訟を経て1億1000万ドルで和解。サイトオーナーのゲイリー・ファンは数年に渡ってハリウッドとの戦いを続けたが、ついに負けを認めた。閉鎖の直後から同サイトのコピーキャットが登場し、多くの常連客をかっさらっていった。

法律事務所の「Prenda」が、パイレート・ベイにハニーポットを仕掛けていたことが発覚。海賊版ダウンローダーを訴えるために、自らトレントをパイレート・ベイにアップロードしていた。この告発はパイレート・ベイから情報を得たTorrentFreakが報じたもの。この一件はのちに刑事事件として捜査されることになる。

2014年

「Popcorn Time」という新たなアプリが人気を集めた。BitTorrentストリーミングをNetflixスタイルのインターフェースで提供したことが好評の理由。数週間後、弁護士からの圧力を受けた開発者たちは、自分たちの人生を歩みたいとの理由でサービスを停止した。だが停止までの間に複数のフォークが生まれ、プロジェクトの開発は継続した。

パイレート・ベイがオフラインに。その直前、スウェーデン警察がストックホルム近郊のデータセンターを家宅捜索していた。警察は同サイトのサーバー数十台を押収したと発表。同ドメインには謎めいた画像が表示されてはいたものの、その機能は2ヶ月に渡って停止した。のちに、パイレート・ベイの運営者は、押収されたサーバは取り立てて重要なものではなかったと発言している。

映画・音楽業界と英大手ISP数社が、海賊版対策を実施することで合意に至る。この取り決めにより、BPIとMPAは違法ファイル共有ユーザを監視し、当該の利用者に対してISPが「段階的」警告を送ることになった。警告の開始は2017年とされた。

ソニーがハッキングされ、様々な内部情報が流出。リーク文書から、ハリウッドが今後数年間の海賊版対策の詳細が明らかになった。ソニーの劇場公開前の複数の映画も海賊版サイトに流出した。

2015年

人気のテレビ・トレント配信グループ「EZTV」が閉鎖した。敵対的乗っ取りにより重要なドメインとデータが失われたことで、創設者のNovaKingは活動を停止。EZTVブランドがテレビトレントの代名詞であった時代が終わりを告げた。現在でもEZTVを名乗るサイトは存在しているが、元のグループとの関係はない。

『ゲーム・オブ・スローンズ』新シリーズの冒頭4話がプレミア前日に流出。このリークに海賊ユーザたちが群がったが、同シリーズのダウンロードのピークはそれから数週間後のシーズンファイナル。258,131人が同時に一つのトレントを共有するという史上最多のスウォーム記録を打ち立てた。その記録は現在も更新されていない。

ストックホルム地裁が、パイレート・ベイの2つのドメイン(thepiratebay.seとpiratebay.se)の差し押さえを命じた。いずれも著作権犯罪に関与しているとされた。この決定に対抗して、パイレート・ベイはthepiratebay.GS、LA、VG、AM、MN、GDなどの新たなドメインを転々としていった。

ハリウッド最大の標的の1つであった「YTS/YIFY」が、映画業界と前代未聞の合意を交わした。MPAAはYIFY運営者を訴える代わりに契約を結び、訴訟を起こすことなくサイトを閉鎖させた。YTS/YIFYという名称は現在も使われているが、オリジナルのサイトとは無関係である。

連邦陪審は、米ISPのCox Communicationsが加入者による著作権侵害の責任を負うとの判断を下した。Coxは故意に著作権を侵害したとみなされ、音楽出版社のBMG Rights Managementに2500万ドルの損害賠償を支払うよう命じられた。以後、同社は同様の著作権侵害責任裁判に見舞われることになる。

クリスマスに前後して、ハリウッド人気作の高画質スクリーナーがオンラインに登場した。『ヘイトフル・エイト』など複数の作品が劇場公開前に流出。このリークに関わったグループ「Hive-CM8」は後に謝罪した

2016年

米国政府の犯罪捜査により、当時最大手のトレントサイトであった「KickassTorrents」がダウンし、数百万のユーザたちが路頭に迷うことになった。その後、サイトの元スタッフらが新たにKickassTorrentsを立ち上げた

世界最大級のトレントサイト「Torrentz.eu」が数百万のユーザに「さよなら」を告げ、活動を停止。同サイトはトレントファイルをホストせず、パイレート・ベイなど他のサイトへのリンクを表示するメタ検索エンジンだった。この間隙を縫ってすぐさまTorrentz2.euという無関係なサイトが立ち上げられた。

パイレート・ベイは数ヶ月にわたるドメイン移転を経て、元の.orgドメインに戻った。同サイトはドメインの差し押さえを回避すべくさまざまなドメインを転々としていたが、結局新たに取得したドメインのほうがすべて差し押さえ・停止された。

音楽特化のプライベートトラッカー「What.cd」が閉鎖した。世界で最も豊富なデジタル音楽ライブラリとも称されたサイトだった。フランス軍警察の家宅捜索を受けた直後にサイトは停止。この捜索については、のちに同国の音楽業界団体「SACEM」が犯罪捜査の一環であったことを認めている。

著作権トロールの法律事務所「Prenda」の代表2人が逮捕。詐欺、マネーロンダリング、偽証の罪で起訴された。上述したように、この事件ではパイレート・ベイが重要な役割を果たした。

海賊版追跡企業「MUSO」のレポートにより、海賊行為のトレンドが変化していることが明らかに。BitTorrentからダイレクトダウンロードやストリーミングサイトへの移行が確認された。興味深いことに、プライベートトラッカーのトラフィックはあまり変化はなかった。

海賊版ストリーミングボックスや、Kodiメディアプレイヤーが話題に。英国では警察が販売業者への家宅捜索を行った。著作権侵害に巻き込まれるかたちとなったKodiチームは、海賊行為を助長する目的でKodiの名称を使用した者に法的措置をとると発表。その直後、Amazonは海賊行為への懸念からKodiそのものを禁止した。

2017年

トレントサイトの「ExtraTorrent」が“自発的に”閉鎖した。この突然の決定は、サイトホームページに短いメッセージで掲載され、敵味方問わず驚かせた。ExtraTorrentの配信グループの「ettv」と「EtHD」は活動を継続し、独自のウェブサイトを立ち上げている。

複数の著名エンターテイメント業界団体が結集し、大規模な著作権侵害対策連合「Alliance for Creativity and Entertainment(ACE)」を立ち上げた。この連合にはMPAAメンバーのみならず、Amazon、Netflix、CBS、HBO、BBCらも参加している。

人気アニメトレントサイト「NYAA」の複数のドメインを失われた。NYAAのオーナーが自発的にサイトの閉鎖を決断したため、と言われている。

世界的に人気を集めていたYouTubeリッピングサイト「YouTube-MP3」が閉鎖し、そのドメインをRIAAに譲渡することで合意した。和解金の金額など和解内容の詳細は不明。同サイトは前年から大手レコード会社との著作権侵害裁判を抱えていたが、この合意によって終結した。

かつてインターネット最大のトレントサイトであったMininovaが閉鎖。同サイトは、2009年にオランダ法廷より著作権を侵害するすべてのトレントを削除するよう命じられ、以前のトラフィックはほぼ失われていた。

パイレート・ベイが、訪問者のコンピュータリソースを使ったMoneroコインのマイニングを開始し、激しい論争が巻き起こった。支持者たちは、広告に代わる斬新な収益源だと評価したが、反対派はマイニングスクリプトのブロックで対抗した。

「科学版パイレート・ベイ」とも呼ばれる「Sci-hub」は2つの法廷闘争に敗れた。エルゼビアへの1500万ドルの損害賠償命令に続き、米国化学会は480万ドルの損害賠償を欠席裁判で勝ち取った。こうした判決はあったものの、同サイトは現在も広くアクセス可能なままだ。

海賊版ストリーミングの脅威が顕在化し、全米映画協会は違法ストリーミングデバイスを「パイラシー3.0」と命名。これらのデバイスは消費者にNetflix風の体験を提供するが、権利者に使用料が支払われることはない。

Kodiアドオンリポジトリ「TVAddons」が消滅。その後、サイトの創設者が米国とカナダで訴訟を起こされていたことが明らかになった。Dish Networksが米国で起こした訴訟は和解に至ったが、カナダでの訴訟は現在も続いている。

当初の消滅を経て、TVAddonsはキュレーションを強化して復活した。

2018年

Demonoidがオフラインに。夏の間、同サイトはたびたびダウンしていたが、その後完全に消滅。その頃、サイトオーナーのDeimosも失踪していた。数カ月後、サイト関係者からDeimosが死去していたことが明かされた。

任天堂がLoveROMS.comとLoveRETRO.coをアリゾナ州連邦裁判所に提訴。同社は著作権および商標権の侵害を主張した。サイト運営者夫妻が任天堂に1200万ドルを支払うことで和解が成立した。

広告のないプライバシー重視のトレントサイト「SkyTorrents」が成功の代償を支払わされた。日に数百万ページビューを抱え、サイト管理に多額の費用がかかるようになったため、運営者は閉鎖を選択せざるを得なくなった。

Androidの人気「海賊版」アプリケーション「Terrarium TV」が永遠に停止した。開発者のNitroXenonは、必要に応じてユーザデータを当局に提出する用意はあるとTorrentFreakに語った。

著作権トロールブームは依然落ち着いてはいないが、その反動もある。第9巡回区控訴審は、Cobbler Nevada v. Gonzalesの判決を下した。IPアドレスから加入者を特定するだけでは、その人物が著作権侵害者であると主張しえない判断。この判断はほかの裁判にも影響を与えた。

2019年

Demonoidの旧スタッフらが、創設者のDeimosの遺産を存続されるために新たなトレントサイトを立ち上げた。オリジナルのDemonoidは依然復活していないが、新サイトは今は亡きDemonoidを失った人たちに新たな我が家を提供することを目指しているという。

先日お伝えしたように、2019年は、海賊版サイトやサービスに対する強制措置や閉鎖が相次いだ。Xtream Codes、Openload、Gears Reloaded、Cotomovies、Vaderなど枚挙にいとまがない。こうした動きは、IPTVをはじめとするストリーミングサイトやアプリへの注目が高まっていることも示唆している。

法律事務所「Prenda」の弁護士2人が有罪判決を受けた。いずれも海賊版ユーザから和解金をだまし取ろうとした詐欺計画の首謀者とされた。両者は海賊版ユーザを引っ掛けるハニーポットを設置し、法廷に虚偽を繰り返した。ジョン・スティールは禁錮5年、ポール・ハンスマイヤーには禁錮14年の判決がくだされたが控訴している

Disneyが新たなストリーミングプラットフォームをローンチし、数百万人の購読者を獲得した。正規のプラットフォームが増えることは喜ばしいことのようにも聞こえるかもしれないが、増えれば増えるほど断片化が進み、海賊行為の抑止にはほとんど貢献しないのではないかとの懸念もある。むしろ、ほかのサブスクリプションサービスに加入できない、加入したくないというユーザが、海賊版サイトやツールに引き寄せられてしまう可能性もある。

この10年間に、海賊版のトレンドがトレントやダイレクトダウンロードからストリーミングベースのツールに移行したが、ほかならぬパイレート・ベイもその波に乗ろうとしている。現在、この悪名高きトレントサイトは新たなストリーミングサービス「Baysteam」へのリンクを提供しており、ユーザはブラウザで直接動画ストリーミング再生できるようになった。

Piracy Highlights of The Decade: From Limewire to IPTV – TorrentFreak

Author: Ernesto / TorrentFreak / CC BY-NC 3.0
Publication Date: December 30, 2019
Translation: heatwave_p2p
Materials of Header Image: ICOOON MONO / Ivan Gromov
カテゴリー: CopyrightPiracy