以下の文章は、電子フロンティア財団の「Cops Using Music to Try to Stop Being Filmed Is Just the Tip of the Iceberg」という記事を翻訳したものである。
窓口の警官とのやり取りをライブストリーミングで配信しようとしたところ、その警官は音楽をかけ始めた。2月5日、活動家とビバリーヒルズ警察とのやり取りの最中、サブライムの「サンテリア」が再生された。その警官は水晶玉を持ってはいなかったのだろうが、著作権フィルターには随分と詳しかったようだ。
撮影を察知した警官が爆音で音楽を再生し始めた理由はお察しのとおりだ。警官はInstagramの過剰な著作権フィルターに音楽を検出させようとしたのだろう。Instagramの著作権フィルターは、実際のコンテンツの内容ではなく、BGMを検出してストリーミングを停止してしまう。このような仕組みは決して珍しいものではない。残念ながら、著作権フィルターの仕組みは悪用されやすいのだ。
一般に、著作権フィルターは映像コンテンツよりも音声コンテンツに敏感に反応する。この過敏さが、オンラインでの音楽の演奏や議論、レビューを難しくしている。これは完全に仕組みの問題である。映像全編とオーディオ素材の一部分だけを照合して一致をフィルターに検出させるのは非常に容易だ。さらに、フィルターは単にビデオファイルの数秒間にオーディオファイルが含まれているかどうかだけをチェックしている可能性もある。
いずれにしても、見られたくないビデオストリーミングをシャットダウンさせるためには音楽を再生すればいい、ということになる(あるいは、ディズニー映画を再生したディスプレイを持ち歩くのに比べたら、音楽を再生するほうが容易である)。
裏を返せば、ミュージシャンが所有者のいない音楽を演奏できるようにするフィルターがいかに難しいかということでもある。たとえば、クラシック音楽家がパブリックドメインの音楽を演奏している様子を撮影するとしよう。PDの楽曲は著作権で保護されていないので誰にでも演奏できる。だが著作権フィルターは、さまざまなコンテンツとの一致を検出する。大手権利者やテクノロジー企業が、パブリックドメイン楽曲の演奏をサンプルとしてシステムに大量に投入しているためだ。ビデオ内で誰がその曲を演奏しているのかは判断されず、音声だけに基づいて一致しているかどうかが判定される。その結果、適法なはずの素材の利用がインターネットから消されてしまうのだ。
もう1つの問題は、他人に楽曲の利用を許可していたり、自由に利用できる楽曲を使ったコンテンツが複数存在している場合である。同一の素材を用いた別の作品が著作権フィルターのデータベースに先に登録されている場合、後に投稿された作品は先に登録されていた作品との一致が検出される。その場合、楽曲のすべての権利を持っている人の方が削除・ブロックされたり、収入を失うことにもなりうるのだ。これは極めて深刻な問題である。我々が「コンテンツID」(YouTubeの著作権フィルター)のホワイトペーパーをまとめる過程でも、こうしたトラブルに直面した人々から、この問題を強調してほしいという要望を受け取っている。
著作権フィルターが音楽に過剰に反応することもあって、オンラインの音楽議論で生計を立てるのは極めて難しい。コンテンツIDに引っかからないように音楽クリップをコンテンツに盛り込むことの困難さが、YouTubeの音楽批評コンテンツの少なさを説明している。このことはYouTubeクリエイターの間ではいわば常識ともなっていて、ある人物は「これがあるから音楽関連のコンテンツは作らない」とさえ語っている。
音楽の批評、解説、教育は、全てフェアユースによって法的に保護されている。議論の対象の一部分を用いて自らの主張を説明することは、有意義なコミュニケーションであるはずだ。さらに、法律は音楽が他の分野よりもフェアユースの立証が難しいとしているわけではない。だが、著作権フィルターはそのようには機能していないのだ。
YouTubeのフィルターは、単に動画を削除するだけに留まらず、もっと陰湿な事態をも引き起こしている。一致が検出されると、作品の所有権を主張するレーベルが、オリジナルクリエイターの収益の一部、あるいは全部をかっさらっていってしまうのだ。ある楽曲の一部分を批評するビデオが、批評されている当事者だけを豊かにするのである。ある音楽批評家は次のように説明している。
投稿したどのビデオにも、何がしかの作品のフラグが立てられている。彼らが持っていくのは広告収入だけなので、私としては何もしないことにしている。私はそれでいい。コンテンツIDの編集方法もよくわからないので、無理して対処するよりは、広告収入を失ってでもこれまでどおりに動画を作り続けるほうがいい。仮にやり方を知っていたとしても、明日には変わってしまうものなのだろうし。なので、気にしないようにしている。
10時間のホワイトノイズ映像が5件の著作権侵害判定を受けたのも、この仕組みのせいである。「貧乏人からむしり取り、金持ちに与える」というのは実に不条理ではあるが、YouTubeではこれが現実なのである。
警察のような技術に精通したグループは、お金をかすめ取ること以上に、どの曲が動画を効果的に削除できるのかを把握している。インターネットのクリエイターたちはソーシャルメディア上で、彼らが直面する問題や、彼らに害をなす存在について語り合っている。権利者の中にはひどく攻撃的で、訴訟好きな者もいる。
気に食わない言論を排除するために著作権を悪用させてはならない。著作権法は、アーティストに一定期間、創作物の独占的な権利を与えることで、創造性を奨励することを目的としている。批評から金を巻き上げたり、当局が悪用するための抜け道であってはならないのだ。
Publication Date: FEBRUARY 19, 2021
Translation: heatwave_p2p