以下の文章は、TorrentFreakの「Sci-Hub Only Option For Academics In Russia After Major Publishers Pull Out」という記事を翻訳したものである。

TorrentFreak


科学論文を世界的に支配する大手出版社15社が、ロシアでの販売・サービスの停止に踏み切った。これによって生じる知識と情報の空白はSci-Hubが埋めてくれるはずだが、出版社による法的措置によってそれさえも容易ではない。

ウクライナ侵攻の根底には、歴史的・地政学的な野心が横たわっている。シニカルな偽情報と知識の否定がその野心を増長させ、いまやその勢いを増している。

責任を持って利用されれば、インターネットはこうした悪に対抗するためのメカニズムを提供するはずである。だがロシアでは、政府は自らのナラティブだけが正しいと定め、それを否定する者はウェブサイトをブロックされ、最高で15年の禁錮刑に処しているのである。

学者と研究者――希望の光

2月の侵攻開始以降、多数のロシア人学者が、流血の原因をロシアに求め、勇気ある行動を見せた。政府を公然と批判し、ロシア政府が「特別作戦」と呼ぶものを「戦争」と表現したのである。

「この戦争に合理的な正当性はない。ウクライナが我が国の安全保障に脅威を与えていないことは明白である。ウクライナに対する戦争は不当であり、率直に言って愚かである」と彼らは綴り、この戦争がロシアにもたらす悪影響を警告した。

「ロシアはこの戦争によって国際的に孤立し、亡国となる運命にある。つまり、我ら科学者は、もはや通常の仕事をできなくなる。他国の科学者の協力なくして、科学研究を行うことなど到底考えられない」

この書簡は政府にブロックされるまでに、8000人以上の科学者が署名したが、ここに書かれた警告はすでに現実のものとなりつつある。国際協力の欠如はさまざまな形で現れることになるだろうが、先週末の出来事は科学者たちでさえ予見しえなかったかもしれない。

大手学術出版社がロシアでの販売を停止

ロシアのボイコットに乗り出した西側企業・団体と同様に、科学出版界を事実上支配する主要15社もロシアからの撤退を決断した。エルゼビア、シュプリンガー・ネイチャー、アメリカ化学会らは、この戦争を非難し、ロシアからのサービス撤退を発表した。

「我々は、ロシアとベラルーシの研究機関への製品及びサービスの販売とマーケティングを停止するという、前例のない措置をとった。我々は、この侵略に終止符を打ち、平和を取り戻すための世界的協調の輪に加わる」。

「我々は、国際社会における科学と学問の理想にすべてを捧げる。我々の行動はロシアの科学者ではなく、ロシアとベラルーシの研究機関を対象としたものである」。

出版社側は、既存の契約は尊重するが、それ以降は科学研究への新たなアクセスを停止するという。だが、それでさえ、甘い見通しである。

ロシアでの国外科学雑誌の購読(ロシア市場の97.5%)は、ロシア基礎研究財団(RFBR)が一元的に購入している。ロシア国内の1200の科学・教育機関が30の国外出版社のプラットフォームにアクセスするために、同財団は年間4400万ドル近くを費やしている。出版社は、同財団のライセンス更新を前に撤退したのである。

つまり、科学者という批判的に思考し、勇気を持って声を上げ、情報によく通じた稀有な市民グループが、やがて学術的に孤立するという未来が待っているのである。もちろん、それまでに彼らが国を去らなければの話だが。

出版社は利益への渇望から、撤退がもたらす経済的影響を検討したことだろう。一方で、科学的知識が中央集権的にコントロールされてしまうと、蛇口の水を締めるが如く簡単に止められるということを出版社は体現してみせた。それに対処するための処方箋はある。だが、出版社はそれを阻止すべく取り組んできたのである。

Sci-Hubが示すその存在意義

日々、数百万人が映画やテレビ番組、音楽の海賊版を手に入れている。だが調査によると、海賊版に手を出さない人たちの大多数が、そのような行為は倫理的に受け入れがたいと考えているという。一方、興味深いことに、研究論文への侵害的アクセスは広く許容されており、多くの学生、学者、研究者が公然と支持を表明している。出版社が課す高額な購読費用と制限に対して、とりわけ経済的に厳しい国から、常に批判の声が上がっている。

こうした問題を地球規模で解決しているのが、悪名高きSci-Hubだ。そのミッションは利用可能なすべての科学的知識への無料かつオープンなアクセスを提供することである。だが、それは出版社の財政目標と相反する。とはいえ、出版社がロシアでの販売停止を決定した今となっては、お金を支払うことすら許されないロシア人がSci-Hubを利用したところで、出版社への経済的影響は限定的であろう。

もちろん、他にも考慮すべき点はある。出版社が情報の枯渇によってロシアの軍事力に直接影響を与えようとしているのか(ロシアでは多くの研究・教育機関が国有である)、それとも単にロシア国内での販売が現時点では倫理的に許容できないと考えているのかは不明である。いずれにせよ、Sci-Hubは知識を広めるという明確なミッションを持っており、今それを放り出すことはしないだろう。

もう1つの問題は、Sci-Hubがロシア国内でアクセスできないことである。これは、現在ロシアをボイコットしているシュプリンガー・ネイチャーの行動がもたらした直接的な結果である。

シュプリンガー・ネイチャーはモスクワ市裁判所に提出した訴状のなかで、Sci-Hubが適切なライセンスを得ずに心臓と脳の健康に関する3つの研究を提供したと主張した。侵害を繰り返したとのレッテルを貼られたSci-Hubは、現在、ロシア国内のISPから恒久的にブロッキングされている。

そのため、Sci-Hubが新たなドメインを取得すると、通信監視当局のロスコムナゾール(同機関は、この戦争に関する政府のプロパガンダを掲載しないサイトをすべてブロッキングしている)はSci-Hubの新規ドメインをブロッキングし、Googleに検索結果から削除するよう命令している。

実際問題として、ロシア政府の検閲部門は現在、同国の科学界、ないし少なくともその残骸に直接的に危害を与え続けているのである。

ブロッキングはVPNを使えば簡単に回避できるが、知識へのアクセスの制限が破壊的であることは極めて明白だ。ロシアにはかつてないほどの圧力を(そしてあらゆる手段を用いて)かけるべきではあるが、長期的視座に立てば、ロシア社会に変革をもたらしうるのは知識への自由なアクセスだけであろう。

国民全体に日常的に植え付けられてきた嘘が、この戦争を正当化しているのだ。その逆こそが、意味のある恒久的な平和をもたらす。

販売を停止した出版社は以下の通りである。

ACS Publications
Apple Academic Press
Brill
Cambridge University Press & Assessment
De Gruyter
Elsevier
Emerald Publishing
Future Science Group
IOP Publishing
Karger Publishers
Springer Nature
The Geological Society
The Institution of Engineering and Technology
Thieme Group
Wolters Kluwer

Sci-Hub Only Option For Academics In Russia After Major Publishers Pull Out * TorrentFreak

Author: Andy Maxwell / TorrentFreak (CC BY-NC 3.0)
Publication Date: April 5, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: engin akyurt

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