以下の文章は、電子フロンティア財団の「How California Reproductive Health Workers Can Protect Information They Submit to the Government」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

ドブス事件の最高裁判決により、長年の中絶アクセスの権利が覆されたことで、リプロダクティブヘルス・クリニックの従事者やボランティアは、自らが直面するリスク(脅威モデルとも呼ばれる)を再評価し、政府に提出した情報等の個人情報を守る必要に迫られている。

ガットマッハー研究所のデータによると、2020年には米国内での中絶の約17%がカリフォルニア州で実施されているが、カリフォルニア州が数十の中絶制限州から来る妊婦のサンクチュアリになろうとすることで、この数字は大幅に増加すると予測されている。その結果、中絶反対派の活動家がカリフォルニアの公文書管理法を利用して、リプロダクティブヘルス・クリニックの医療従事者の個人情報を入手・公開し続けることも予想される。公文書がDoxxingやハラスメントの情報源の1つになっているためだ。

EFFはこれまで、オンラインの世界で自分のデータを保護するためのガイダンスを数多く提供してきた。この新たなガイドでは、カリフォルニア州の医療従事者がAB1622――政府に提出しなければならないデータをカリフォルニア州の公文書として公開されない保護を要求できる2019年の法律――をどのように利用できるかを取り上げる。従事者のデータを保護するためにクリニックが政府に提出できる書類のテンプレートも掲載する。

また、カリフォルニア州の「Safe at Home」プログラム――政府記録などで、自宅住所の代わりに使用できる代理郵便住所を州務長官事務所に要請できるプログラム――の情報も提供する。

医療従事者が政府に提出しなければならない証明書類等の記録に関しては、透明性と説明責任、労働者のプライバシーのバランスを取ることが難しい場合がある。患者には、医療従事者が免許を取得しているかどうか、過去に違反行為によって懲戒処分を受けたことがあるかなどを知る権利がある。だが医療従事者にもプライバシーの権利はあり、公文書法によって開示された個人情報がハラスメントや暴力、脅迫などにつながるおそれもある。

EFFにとって、政府の透明性と個人のプライバシーとのバランスは重要なミッションの1つであるが、これもまた難しさをはらんでいる。現在の状況において、医療従事者と医療従事者のプライバシーと安全の権利には説得力がある。プライバシーと透明性の両方の観点から、これらのプライバシー保護はより効果的に構成しうると考えられるため、我々は医療従事者が現在の法律のもとで権利を行使することを支持する。州当局による医療施設の監視の透明性を確保する公共の利益は、公文書法に対する部分的な免除によって妨げられることはないと考える。

このガイドを読み進める前に、2つの重要な注意点がある。

第一に、これらの法律は一般に、公文書開示請求で公開される可能性のあるデータのみを保護するが、Safe at Homeプログラムではプライバシー保護が更に強化されている。だが、いずれのプログラムも、法執行機関が捜査令状などの法手続きによって個人情報を取得することを妨げるものではない。

第二に、この2つのオプションは、あなたがあなたの権利のための最高の擁護者であることを求める。そのためには、当局や機関に何度もメール、電話で連絡し、法律が定める義務について繰り返し当局者に注意喚起する必要があるかもしれない。

AB1622 – カリフォルニア州公文書法におけるオプトアウト

内容

AB1622では、医療に携わるトップレベルの4つの州機関は、リプロダクティブヘルスケア従事者の特定カテゴリの個人情報をカリフォルニア州公文書法に基づく要求に応じて開示する必要はないとしている。だが、これらの保護は自動的なものではなく、医療従事者は自らの情報を開示しないよう求める書類を提出しなければならない。

本法律で保護される情報は、「社会保障番号、身体的特徴、自宅住所、自宅電話番号、セクション6254(n)に従って提出された個人の資産または個人の財務データ、個人の病歴、職歴、電子メールアドレス、電子ネットワークの位置または身元を明らかにする情報」である。

この4つの州機関は、州医療サービス局、消費者庁、管理医療局、州公衆衛生局である。カリフォルニア州医師会、正看護師会、医師助手会、薬剤師会、およびその他の医療専門規制機関は消費者庁に属するため、本法律の適用を受ける。医療従事者のライセンスを管轄する関連委員会にも追加で書類を提出することを推奨する。

対象者

条文では、「家庭医療、産科、婦人科を専門とする認可医師のオフィスまたは認可診療所で、医師または診療所の患者の少なくとも50%が家族計画ないし中絶医療を提供されている場所」と定義されるリプロダクティブヘルス・サービス施設の「授業員、ボランディア、役員、所有者、パートナー、幹部、請負業者」に適用されるとしている。請負業者は、患者のケアサービスに関して施設と契約する個人または団体が含まれる。

保護を受けるには

繰り返しになるが、これらの保護は自動的に適用されるものではない。医療従事者とその雇用主は、個別に書面で要求しなければならない。また、法律は面倒な方法を強いている。

  • 書類は、施設の公式レターヘッドを用いること
  • 書類の本文は、プライバシー保護の要求がページ上の他の文章から明確に分離されていること
  • プライバシー保護の要求は、従事者と施設の執行役員ないしその代理人の署名、および日付を記入すること
  • 施設は書類の写しを保管すること

こうした詳細は非常に重要である。法律が求める正確な書式に誤りがあると、要求が無効とされてしまい、その結果、公文書開示請求に応じたり、公文書訴訟の審理により個人情報が開示されるおそれがある。

法律の要件を満たしていると思われるサンプルレターを作成したが、これも成功を保証するものではない。繰り返しになるが、あなた自身が、あなた自身の最大の擁護者にならなければならない。書類には各機関の住所を記載しているが、この書類は各機関にそれぞれ、直接郵送しなければならない。

この保護は、書類を機関に提出した時点で有効になる。

制限事項

このプライバシー保護は、保証されているわけでも、恒久的な保護でもない。

カリフォルニア州公文書法の多くの適用除外と同様に、AB1622の個人情報開示の保護規定は裁量的なものに留まる。つまり、法律が情報の差し止めを義務付けているわけではなく、カリフォルニア州公文書法が「いかなる個人情報の開示も要求していない」だけである。この裁量は、現在、将来において、機関が情報開示を保留しないことを選択しうることを意味する。

さらにこの法律では、職歴情報の公文書開示請求が拒否された場合、裁判所に情報公開を請願できるようになっている。裁判官は個々のケースを検討し、「職歴情報の開示によってもたらされる公益が、情報を開示しないことによってもたらされる公益を明らかに上回る」場合には、情報の開示を命じることができる。

EFFは本法律がどのように履行されているかを把握するため、指定された機関に連絡した。残念ながら、ほとんどの機関から満足のいく回答は得られなかった。保護を得るためには、さらに圧力をかけていく必要があるのかもしれない。本稿を参考に、AB1622に付いて説明できるように準備しておくことをおすすめしたい。

Safe At Home – 郵送先住所の機密保護

カリフォルニア州では、脅威に晒されているリプロダクティブヘルスケア従事者や患者が、プライバシーを守るための秘密郵便住所を取得できるプログラムが実施されている。

住所秘匿プログラムとも言われるSafe At Homeプログラムは、主に家庭内暴力やストーカー行為の被害者のために開発された。現在でも、そうした人たちがプログラムの主要な保護対象となっており、2021年の登録者4858人のうち72%がそれに該当する。

だが、リプロダクティブヘルスケアの従事者、患者も本法律の対象となっており、パンデミックの際、ニューサム州知事は脅威に直面するすべての医療従事者を対象にするよう行政命令を発布している。

Safe at Homeの内容

Safe at Homeプログラムに参加すると、カリフォルニア州務長官事務所が管理する私書箱とプログラムのIDカードが渡される。運転免許証などのさまざまな公的書類に、自宅住所ではなく、その住所を使用できるようになる。一般的な郵便物をこの住所に送ってもらえば、州務長官はあなたに転送してくれる(もちろん処理に遅れは生じる)。2021年、州務長官は登録者に代わって81,159通の郵便物を転送した。

Safe at Homeプログラムは、最近引っ越した人や、新しい住所に引っ越そうとしている人に最も効果的だ。すでに住所インターネット上に晒されてしまってからでは、このプログラムの効果は限定的だろう。

郵便物の秘密転送に加え、手続き送達や秘密有権者登録の代理として、この住所を利用することもできる。法律では、州や地域の機関(法執行機関を含む)はあなたの代理住所を認めることが義務づけられている。ただし、出生証明書、死亡証明書、胎児死亡証明書、結婚証明書、離婚証明書については例外で、自宅の住所を記載しなければならない。

登録が完了すると、カリフォルニア州自動車局の記録管理、カリフォルニア州高等裁判所への氏名変更の申請などのサービスを受けられるようになる。ただし、これらの手続きには、このガイドでは説明されていない別の手続きが必要になる。

対象者

Safe at Homeプログラムは、リプロダクティブヘルスケアサービスの提供者、従業員、ボランティア、患者が利用できる。この定義には、「リプロダクティブヘルスケアサービスの施術、提供、または他者の求めに応じた援助、リプロダクティブヘルスケアサービス施設の所有ないし運営する者」が広く含まれる。

つまり、このプログラムの適用を受けるためには、自分自身や施設が過去1年以内に暴力行為や脅迫の被害を受け、身の危険を感じていることを証明してくれる施設管理者がいなければならない。脅迫に関する書類を提出するに越したことはないが、機関がそれを義務づけているわけではない。ただし、雇用証明は必須である。

ストーカー被害にあっている場合は、リプロダクティブヘルスケアに特化した要件を満たす必要はなく、プログラムを申請できる。

保護措置の取得方法

このプログラムを利用するには、Safe at Home指定の登録機関を通じて申請しなければならない。このプログラムは主に家庭内暴力やストーカーの被害者を対象としているため、登録機関の多くは被害者支援の民間非営利団体であることが多い。その一覧はこちらにまとめている。これらの機関は、本法律がリプロダクティブヘルスにどのように適用されるかについての研修を受けてはいるものの、(訳注:十分に理解していない可能性が高いため)個々のケースワーカーに手続きを説明したり、法的要件に従うよう求めなければならないかもしれない。

残念ながら、Safe at Homeプログラムは無料ではない。リプロダクティブヘルスケア従事者には30ドルの申請料と、年間75ドルのサービス料がかかる。ただし、患者やその家族は除外される。

情報を広める際のポイント

この情報をリプロダクティブ・ジャスティスの関係者と共有する際、リプロダクティブヘルスの関係者に伝えるべきいくつかの重要なポイントがある。

カリフォルニア州公文書法におけるプライバシー保護とSafe at Homeプログラムは、いずれも範囲が限定されており、包括的な保護を提供するものではない。この2つの保護は、政府機関が法手続きに則って個人データにアクセスし、中絶禁止を矯正するのを防げるほど強力ではないことを繰り返し述べておく。加えて、これらのプログラムの有効性は、プログラムの管理者の能力と意思次第でもある。申請者は自分自身を擁護し、当局を教育するくらいの強い決意が求められるだろう。

また、これらの保護は、日夜、自分のデバイスやオンライン活動を通じて生成される膨大なデジタルデータを保護するものでもない。リプロダクティブヘルスの従事者は、プライバシーを保護するためにさらなる措置を講じなければならない。以前に公開した中絶支援者のためのデジタルセキュリティガイドを参考にしてほしい。

このガイドをトレーニングで使用する場合、これらの措置には官僚的なハードルがあることを認識しなければならない。たとえば、Safe at Homeプログラムでは、指定された施設で被害者支援カウンセラーとの面会が義務づけられている。その手続は煩雑で、さらに移動を強いられることになるため、とりわけ地方在住の申請者の意欲が削がれるかもしれない。また、申請料、サービス料も人によっては支払う余裕が無いかもしれない。

一方で、この選択肢は、とりわけストーカー、Doxxing、ネットでの脅迫など、極度の脅威モデルに直面している人には有用だろう。ただし、Doxingは、自身の脅威モデルが深刻であることを認識する前に被害にあうことが多い。また、Doxxing一般のリスクを軽減するためのガイドも参考になるだろう。

だが、この2つのシステムは現在あまり活用されていないようだ。これらのプログラムの欠陥を明らかにするには、多くの新規申請者が必要になるかもしれない。もし問題に遭遇したり、改善のためのアドバイスをお持ちの方は、dm@eff.orgまでご連絡いただきたい。

関連リンク

cpra_reproductive_health_opt_out_template_8-10-22.docx

How California Reproductive Health Workers Can Protect Information They Submit to the Government | Electronic Frontier Foundation

Author: Dave Maass / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: August 10, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Rene Böhmer