以下の文章は、Walled Cultureの「Copyright has been one of life’s certainties: but will it always be?」という記事を翻訳したものである。

Walled Culture

著作権は、私たちの法的、経済的、社会的なシステムに定着しているようです。300年もの間、著作権はクリエイターにインセンティブを与え、報酬を与えるシステムの支柱でした。その間、著作権は何度も拡張され、その保護期間も対象も拡大していきました。1710年に制定された「アン法」は、著作権の保護期間は14年間の独占的保護と更新による14年間の延長というものでしたが、現在では世界の大部分で著作者の死後70年にまで伸びました。当初は印刷物を対象としていた著作権も、今ではさまざまな領域に適用されています。世界中の立法者は、著作権は強ければ強いほど望ましいという一方向のアプローチを取り続けています。アーティストに公正に報いる方法として機能しているからこそ、そこまで一方的な流れになっていると思われるかもしれませんが、現実にはそうではありません。

2018年、全米作家協会は米国の作家を対象に調査を実施しました。その結果、作家の収入の中央値は6,080ドルで、2014年の8,000ドル、2009年の10,500ドル、2007年の12,850ドルから年を追うごとに減少していったことが明らかになりました。専業作家を自認する回答者は、講師など他の収入源を含めても、中央値で20,300ドルにとどまっています。これは、3人以上の世帯の貧困ラインを大きく下回る水準です。

学術出版の世界はさらにひどい状況にあります。一般に、論文の著者はその執筆から報酬をまったく得てはいません。大手学術出版社のエルゼビアが常に30~40%の利益率を誇っているのも当然のことです。さらに学術界は、自分の論文の著作権を出版社に譲渡することが慣行になっています。そのため、出版社から許可を得なければ、研究者が自分の論文や成果を他の研究者たちと共有しにくかったり、できなかったりしています。著作権は、学術界においては知識へのアクセスを妨げ、研究の核となる共同研究を妨げるものとなっているのです。

音楽業界でも状況は悪化しています。英国議会の委員会が2021年に発表した報告書では、「とりわけメジャーレコードレーベルが音楽の権利を取得する契約は、クリエイターを犠牲にしてメジャー(レーベル)を優遇している」ことが明らかになりました。その結果、演奏家の平均所得は賃金の中央値を下回っているのです。

音楽ストリーミングサービスやインターネットプラットフォームの収益の取り分が不釣り合いに多く、アーティストへの支払いが少なすぎるからなのでしょうか。英国の競争市場庁(CMA)の新しい報告書は、この問題を詳細に調査しています。その結果、「音楽ストリーミングサービスは持続的な超過利益を上げてはおらず、実際、分析では多くのサービスの営業利益率は低いかマイナスであった」ことがわかりました。YouTubeのようなプラットフォームがアーティストに支払う金額と、Spotifyのようなストリーミングサービスが同様の作品に支払う金額の間に、大きな「バリューギャップ」があるという批判もあります。CMAは、2021年時点のギャップは、同年の英国レコード音楽収入総額11億1500万ポンドの0.5%未満、つまり約500万ポンドに相当することを明らかにしました。2020年に英国で音楽をリリースしている40万人のクリエイターに分配すると、1年あたり平均約12ポンドの「損失」ということになります。

スーパースターでさえ、現在のシステムでは苦戦しています。たとえばテイラー・スウィフト。彼女以上に人気のミュージシャンなどいないでしょう。先日も彼女の曲が、全米シングルチャートのトップ10を独占して話題になりました。しかしそんな彼女でさえ、レコード会社への著作権譲渡を強要された結果、初期の楽曲をコントロールすることはできません。2020年、彼女は初期楽曲を再レコーディングすることで、新たなマスター音源の権利を手にしたのです。

書籍や音楽、映画が絶え間なく制作され続けているのだから、著作権は十分に役割を果たしているのではないかと思われるかもしれません。ですが、そうではありません。例えば、「孤児著作物」の問題があります。数十年前に作られた無名の作品の権利者を探すのは簡単なことではありません。ですが、その権利者を特定できなければ、再利用することも、再販することもできません。無断でやれば著作権侵害です。この問題に対処する取り組みとしては、EUの「孤児著作物指令(Orphan Works Directive)」などがありますが、いずれも中途半端で効果は薄く、問題は解決していません

映画の世界では、状況は間違いなく悪化しています。図書館に所蔵されている書籍は耐久性があるので、著作権が切れるまで(そして再版されるまで)存続させることはできるでしょう。残念ながら映画はそうはいきません。フィルムは非常にデリケートなメディアで、燃えやすく、しかも一つしか現存してないこともめずらしくありません。1950年以前に製作されたアメリカ映画の半分が失われ、1929年以前に撮影されたフィルムはすでに90%以上が消失していると言われています。著作権の制限によりフィルムの複製ができず、後世に残すことができなかったからです。

デジタルの世界も無縁ではありません。ビデオゲームの世界では、すでに著作権の問題が顕在化しています。ビデオゲームのコードをフロッピーディスクなどの古いメディアから、クラウドストレージなどの新しい、信頼性の高いシステムにバックアップすることがリスクになってしまっています。また、古いゲームを動かすのに必要なハードウェアのソフトウェアエミュレータの作成も難しい状況です。ゲームの著作権保護が終了する100年後くらいには、保存しているメディアやハードウェアの劣化により、古いゲームはプレイできなくなっていることでしょう。

アーティストはその大半が生活の糧を得るのにすら苦労しているのですが、多くがその基盤としての著作権システムを容認しているようです。というのも、著作権が作品の制作から対価を得る唯一の方法として信じ込まされているためです。確かに、以前はそうだったかもしれません。しかし、現在はインターネットが普及し、クリエイターがオーディエンスにアプローチするもう1つのチャンネルが生まれました。ウェブサイトに掲載された音楽、書籍、映画は、インターネットに接続できる環境があれば、世界中の誰もがダウンロードできます。こうしたグローバルなアクセス可能性は、全く新しいビジネスモデルの開拓をも可能にしました。

2008年にケビン・ケリーが提唱した「真のファン(true fans)」モデルはその最たるものです。出版社やレコード会社といった仲介者が取り仕切る作品の販売収入の一部を受け取る代わりに、最も熱心な「真の」ファンから直接お金を出してもらい、クリエイターがほぼ全額を受け取るというモデルです。つまり、少数の真のファンからの経済的支援が、今日の大規模なオーディエンスからの収益と同水準になりうるというわけです。一般に、真のファンは定期的に、そして作品の制作前に支援してくれます。このアプローチはアーティストに安定した収入をもたらし、作品の制作中や完成して販売されるまでの無収入の期間の不安を解消するものにもなります。

インターネットの普及により、クエリエイターが自分の作品を応援してくれる真のファンを世界中から見つけられるようになり、ファンもPatreonやKickstarterなどの有名なサービス経由で直接支援できるようにもなりました。クラウドファンディング・プラットフォームを使ってファンから制作支援をしてもらった好例としては、Walled Cultureの最初のインタビューに応じてくれた作家のコリイ・ドクトロウが事例が挙げられます。2020年、ドクトロウは新刊のオーディオブックの制作にあたってファンに支援を求め、1ヶ月で267,613ドルを集めたのです。

誰もがドクトロウほどの支援を集められるわけではありませんが、少なくともこの事例は、今日の著作権モデルに代わる、「真のファン」アプローチの可能性を示しています。こうしたファンベースのパトロネージ・エコシステムの規模はあまり評価されていません。ある調査報告書によると、クラウドファンディングの市場規模は2021年に170億ドルと評価されています。それが2028年には、世界のクラウドファンディング市場は430億ドルに成長し、当該期間中の平均複合成長率は16.5%に上ると予測されています。そのすべてがクリエイターの手に渡るわけではありませんが、莫大な金額が支払われることは確実で、出版社、映画スタジオ、音楽レーベルといった旧来の仲介者からの支払いと同水準にまでなります。

「真のファン」アプローチの興味深い点は、著作権と完全に互換性があるにもかかわらわず、著作権を必要としないことです。クラウドファンディングは、アーティストの創作活動の支援や、将来の制作資金の調達を目的としています。アーティストはすでに対価を得ているのですから、作品のリリース後に、あえて著作権を行使して無断コピーを処罰する必要性も薄れます。アーティストの作品がより多くの人に知れ渡れば、そのなかには真のファンになって、将来の作品のために資金提供してくれる人もでてくるでしょう。また、不適切な(mis-attributed)コピーであっても、最終的にはオリジナルにたどり着くことができ、アーティストの評判を高め、経済的にも貢献する可能性すらあります。

こうしたクラウドファンディングは、今日の著作権の最大の問題の1つ、著作権保護された作品の無断コピー対策(訳注:つまり海賊版対策)の必要性を解消するものともなります。過去25年間、海賊版を防ごうとする試みはことごとく失敗してきました。巨額の罰金やインターネット切断の脅し、あるいは最近では書籍版『Walled Culture』(無料の電子書籍版もあります)で詳述したアップロードフィルタの義務化など、さまざまな手を尽くしてきました。しかし、いずれも無駄な努力です。なぜなら、私たちはデジタル世界に住み、その世界中の数十億の人々がポケットの中に安価なコピーマシンであるスマートフォンをもっているからです。このコピーマシンを1日に何百回となく使って完璧なコピーを作成し、インターネットを通じて家族や友人に送り、そこからさらにコピーが作られては送られているのです。こうした共有を防ごうとする試みは、テクノロジーと人間の本性の双方に抗うことを意味します。歴史が示すように、勝ち目のない戦いです。

クラウドファンディングと「真のファン」アプローチを幅広く活用することで、著作権に依存する今日のビジネスモデルのもとにあっても、わずかばかりの報酬にあえぐ大多数のクリエイターを助けることになるでしょう。それと並行して、著作権の重要性が低下し、もはや必要不可欠なものとはみなされなくなっていくかもしれません。もちろん、それに抗うように、オンラインで著作権を行使しやすくする無意味な法律が求められることになるのでしょう。

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Copyright has been one of life’s certainties: but will it always be? – Walled Culture

Author: Glyn Moody / Walled Culture (CC BY 4.0)
Publication Date: February 23, 2023
Translation: heatwave_p2p