ある国のソフトウェアの違法コピーがその国の知能指数と相関することを発見した研究が公表された。100以上の国を対象したこの研究では、知能指数の高い国ほど海賊版ソフト使用率が低いことが示された。とはいえ、知能指数の低い国が、こうした傾向を抑える術がないというわけではないようだ。
海賊行為を引き起こす理由はさまざまである。経済的な理由とも、適当な正規サービスが存在しないためとも言われる。
Munich Personal RePEc Archive(MPRA)の研究者グループが公表したレポートによると、その国の知能指数もその1つに加わるようだ。
研究者たちは、「知能と犯罪:海賊版ソフトの新たな証拠」と題された論文のなかで興味深い洞察を提供している。
かなりストレートな分析であるが、研究者は各国のIQスコアと海賊版ソフト使用率(Business Software Allianceのデータ)との相関を検討した。以下の図にあるように、IQが高い国ほど海賊版ソフト利用率が低いという傾向が示されている。
「知能は、統計的有意に海賊版ソフト利用率に影響を及ぼしていることが示された」と研究者はレポートのなかで確認し、因果的な結論を導き出している。
一部外れ値もあり、中国はIQも違法コピー率も比較的高く、逆に、南アフリカはIQも違法コピー率も低くなっている。しかし全体としてみると、国別の平均IQとその国の海賊版ソフト使用率との間には相関が見られている。
「サンプル中の外れ値の潜在的影響を取り除くと、国別のIQが10ポイント上昇するごとに、違法コピー率は5.3パーセンテージ減少する」という。
研究者たちは、外的要因による影響の可能性を排除するため、知財執行の強度や政治的要因、経済発展など複数の変数を投入したロバスト性(頑健性)テストを実施した。しかし、こうした統制を行っても、この相関は確認された。
著作権者にとって幸運なことに、知能指数の低い国々は、必ずしも『絶望的』なわけではない。統治するエリートたちが賢ければ、海賊版ソフト使用率を抑制できるのだという。
「(この結果は)高い知能指数を持つ社会がソフトウェア違法コピーを抑制するための必要条件であるという普遍的な証拠をもたらすものではない」
「統治するエリートたちが海賊版利用を抑制する政策を講じれば、知能は、(訳註:国民が)その政策に従って行動することを介在して(訳註:海賊版ソフト使用率の抑制に)影響を及ぼす」
この結果が本当なのであれば、海賊版ソフトウェアの使用は、長期的に見れば自然と解決する問題ということになる。
以前公表された論文に、海賊版ソフトウェアの使用が、アフリカ諸国の識字能力を向上させているという研究があった。つまり、海賊版ソフトウェアの使用が識字能力を向上させ、それがその国のIQを向上させることになり、その結果、海賊版ソフトウェア使用率は低下する。……ん? 海賊版ソフトウェアの使用率が下がれば、ふたたび識字能力も下がってしまうのでは?
レポート全文はこちら(PDF)から。
“High IQ Countries Have Less Software Piracy, Research Finds – TorrentFreak”
Publication Date: June 19, 2016
Translation: heatwave_p2p
Header Image: jarmoluk
相関はどこまでいっても相関であり、因果的な説明にはならない。もちろん、そのような説明をしているわけではないのだけれど、その相関にどのような意味があるのかということもよくわからない。かなりセンシティブな指標を扱っている割には、ちょっと投げっぱなし感がある。
この研究で検討された交絡要因(この研究では海賊版ソフト使用率とIQスコアの双方に相関する要因)は、経済発展(国民1人あたりのGDP)、経済自由度指数(EFI)、民主主義指標(Freedom Houseの人権・政治的権利インデックスの平均値)、腐敗認識指数(CPI)などであるが、本当にこれだけで足りているのかなとも思う。
IQを生得的な知性をはかる指標と考えている人もいるのだろうけど、実際にはそう断言できるほど、頑健なものではない。実際、年を重ねるごとに人類のIQは向上し、1950年以降20ポイントも上昇している。進化論的にその変化を説明できればおもしろいが、現実にはそんなわけもなく、環境が変化したことがその背景にあるのだろう。
そうしたIQの時代的な変化を指摘したジェームズ・フリンは、社会の産業化・情報化によって、抽象的仮説的な思考が求められるようになったことで知能が向上したと主張している。ただ現在のところ、IQスコアを上昇させている要因について明確な答えは出ていないようだ。
いずれにしても、IQスコア自体が、おそらくは環境要因によって上昇しているという経験的なデータが得られている以上、IQという指標を持って海賊版ソフト使用率を推定することにあまり意義を感じない。むしろ、その環境要因こそが、海賊版対策に意味を持つんじゃないかなと。その意味で、誰得な研究なんだろと思わずにはいられない。