以下の文章は、TorrentFreakの「Court Orders Google to “Uninstall” Pirate IPTV App Sideloaded on Android Devices」という記事を翻訳したものである。

TorrentFreak

海賊版IPTVサービス「MagisTV」との闘いで、アルゼンチンの裁判所が前代未聞の判断を下した。69の関連ドメインのブロックのみならず、GoogleにAndroidデバイスから「MagisTV」アプリを「即時アンインストール」するよう命じたのだ。この措置は、ユーザがサイドローディングしたアプリが対象となる。MagisTVは公式のGoogle Playストアでは配信されていないためだ。

先週報じられたように、2024年9月13日付のアルゼンチンの裁判所命令は、国内のインターネットプロバイダに対し、知的財産権侵害を理由にMagisTV関連の数十のドメインへのアクセスをブロックするよう求めている。

ブロック対象となるのは計69のドメインで(詳細は前回の記事を参照)、これにより、アルゼンチン国内からはアクセスできなくなる。リストを見る限り、権利者はMagisTVの再販業者を標的にしているようだ。このサービスのメインドメインの1つも含まれているが、現時点では影響は限定的かつ一時的なものにとどまりそうだ。

「Operation 404」との関連性

この動きは、先週木曜日にブラジルで実施された「Operation 404」の取り締まりと時期を同じくしており、アルゼンチンでも3人が逮捕された。金曜日には複数の現地メディアが、これらの逮捕がMagisTVに関連していると報じている。

報道によると、ブエノスアイレス在住の47歳、ウーゴ・ハビエル・モスパン容疑者はアルゼンチンでコンピュータ講座の講師をしていたという。それ以前は運送会社に勤めていた。

同じくブエノスアイレス在住の46歳、レオポルド・フェデリコ・ペーニャ容疑者は家電や電子機器のマーケティングに携わった経歴があるという。2022年半ばには仲間と共に、これらの製品の輸出入、販売、メンテナンスを手がける会社を複数立ち上げたとされる。

レオポルド・ペーニャ、ケビン・ベンタンクール、ウーゴ・モスパン

Infobaeの報道によると、3人のうち最年少の27歳、ケビン・アリエル・ベンタンクール容疑者はブエノスアイレスの自動車販売店で働いていたという。先週末、地元メディアは3人の逮捕時の写真を大々的に報じた。

また、ニュースでは捜査当局が「フル装備fully-loaded」TVボックスの販売が疑わがわれる店舗や販売店を捜索する模様も放送された。少なくとも一部の機器にはMagisTVアプリがプリインストールされていたという。ミシオネスの「TodoTech」への捜索ではわずか3台のTVボックスしか押収されなかったが、首都ブエノスアイレスの「Kive」では481台ものTVボックスが押収された。

出典: YouTube

他にも2人の容疑者、ロベルト・V氏とマルコス・DJ氏がアルゼンチンでMagisTV機器の主要な「マーケター」だったとされているが、この2人はまだ逃走中で行方をくらませているという。

こうした大規模な摘発は、明らかに警告の意味合いが強い。実刑判決まで下るかどうかはわからないが、押収された機器への投資が水の泡になるだけでも、十分な痛手になるだろう。

しかし、アルゼンチンでの取り締まりがどう展開しようと、今回の裁判所命令には機器の押収やISPによるブロッキング以上の意味合いがある。それは議論を呼ぶだけでなく、場合によってはアルゼンチンの国内問題を超えて国際的に大きな波紋をもたらすかもしれない。

この異例の措置を要求した側に綿密な計画があったとすれば(その形跡は明らかだ)、今後の展開次第で、権利者が海賊版ライブTVコンテンツの視聴を阻止するためにどこまで踏み込む覚悟があるのかが明らかになるだろう。

歯止めなき闘い

MagisTV対策には、ドメイン・ブロッキングと刑事捜査という2つの側面がある。当局への最初の申立ては中南米の海賊版対策グループ「Alianza」が行った。Alianzaは、Direct TV、Sky Brasil、Warner Bros. Discovery、Disney、Globo、Win Sports、Telecineなど、有料TV業界の大手企業を代表している。

捜査はアルゼンチンのサイバー犯罪ユニット(UFEIC)が担当し、アレハンドロ・ムッソ検察官が指揮を執った。先述の通り、MagisTV関連の69ドメインのブロッキング要請は9月13日、サンイシドロ第4裁判所のエステバン・ロシニョーリ判事によって下された。

物議を醸す人物として知られるロシニョーリ判事だが、今回はさらに大きな論争の種を蒔いた。ムッソ検察官は69のドメインをブロックしたことで「アプリのダウンロードは不可能になる」としながらも、さらに踏み込んだ対策が必要だと主張した。具体的には、すでにユーザの端末にインストールされている何百万ものMagisTVアプリの脅威を取り除く必要があるとし、判事はこれに同意したのだ。

GoogleにユーザのデバイスからのMagisTV強制削除を命令

ロシニョーリ判事はGoogleに対し、「アルゼンチン国内のIPアドレスを持つ(同国に割り当てられたIPアドレスで確認可能な)Androidシステムから、MagisTVアプリを即時アンインストールするために必要な技術的手段を講じる」よう命じた。

命令では、ファイル名(magis_mobile_v6.5.2.apk)と以下のハッシュ値が指定されている。

• SHA1: e68156b531ffaade1090b7326b7ae7d604975cd0 • MD5: c4614c08c3be4ee9972870056d47afae

VirusTotalのレポートによると、両方のハッシュが同一のファイル、48.89 MB(51262825バイト)のAndroid APKに関連していることが確認された。

2つのハッシュ、同一のファイル

Googleへの指示についてムッソ検察官は、「前例のない措置だ」と認めつつも、絶対に必要な対策だと主張している。

「今回の裁判所命令は前例のないのものだ。Googleは現在内容を精査中だが、我々の見立てではこれを拒否することはできないだろう。つまり、Androidのシステムアップデートを通じて、アルゼンチン国内のIPアドレスを持つすべての端末からアプリがアンインストールされることになる」

他国への波及は必至

権利者は一度得た権限を手放さず、それを最大限に利用する。近年、海賊版対策の取り組みが国境を越えて広がるにつれ、ある国の裁判所命令が他国で引用されるケースが増えている。知的財産保護を本気で優先すれば、裁判所がどれほどの力を持ち得るかを示す好例だ。アルゼンチンの場合、この波及効果を見越した戦略だったようだ。

「我々の予想では、同様の問題を抱える多くの国々がこの措置をすぐに真似するだろう」とムッソ検察官は続ける。

「これが実現すれば、インストール済みのアプリは消え、再ダウンロードもできなくなる。そうすれば、デジタル海賊版の連鎖を断ち切れる。彼らが唯一取れる手は新しいアプリの開発だが、我々はそれを特定次第、再び同じ対応を取る準備ができている」

Alianzaのメンバーであるスペインのサッカーリーグ「ラ・リーガ」にとって、この展開は待ちに待ったものだった。ラ・リーガは以前からAndroid端末からのアプリの強制アンインストールを訴えており、昨年9月にはGoogleとこの件について協議していると主張していた。

「Alianzaが提出した証拠に基づくムッソ検察官の捜査を受けたアルゼンチン当局の今回の裁定は、海賊版や視聴覚コンテンツの窃盗との戦いにおける世界的な模範となる」とラ・リーガのハビエル・テバス会長は述べている。

「違法サービスに関連するすべてのドメインとその技術インフラがブロックされただけでなく、GoogleがAndroid端末にすでにインストールされている違法アプリの使用を防止しなければならないという裁定も下された。これは我々が何度も要求してきたことだ。実際、スペインの第一審裁判所の判事が2022年に、ラ・リーガの要請に応じてGoogleに同様の措置を求める命令をすでに出しており、その手続きは現在も進行中だ」

Googleは沈黙したまま

権利者は海賊版との戦いに歯止めをかけない構えだが、Googleにとってこの問題はまさに火中の栗だろう。グローバルなAndroidブランドを守るためには、極めて慎重な対応が求められる。ユーザはGoogle Playを通じてダウンロード・インストールしたアプリをGoogleが勝手に無効化することに反発するだろう。ましてや、ユーザ自身が個別にインストールしたサードパーティ製アプリが遠隔で削除される可能性があるとなれば、すべてのAndroidユーザにとって由々しき問題だ。

Googleがこの裁定に真っ向から異議を唱えるのか、それとも別の理由をつけて削除を正当化しようとするのか、現時点では不明だ。その影響も未知数だが、Androidユーザがそれを知るまでにはそれほど時間はかからないかもしれない。

Court Orders Google to “Uninstall” Pirate IPTV App Sideloaded on Android Devices * TorrentFreak

Author: Andy Maxwell / TorrentFreak (CC BY-NC 3.0)
Publication Date: September 23, 2024
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Viktor Forgacs