以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「A Democratic media strategy to save journalism and the nation」という記事を翻訳したものである。
「左派のジョー・ローガン」を探そうなどという考えは耐えがたいほど痛々しいが、「方向性としては正しい」(使い古された言い方だが)。民主党はメッセージの発信が下手くそで、それゆえに選挙で高い代償を支払わされている。
右派には、極めて潤沢な資金が投入されるメディアエコシステムがあり、SEOアルゴリズムゲーミングを駆使するアホどもを従えた高給取りのクソッタレに支えられている。だが、このシステムは必ずしも利益を上げる必要はなく、収支を合わせる必要すらない。PragerU(訳注:保守派・右派視点の動画を制作・配信する米国の非営利組織)の目的は広告収入ではない。「インフレの原因は何なのか」とGoogle検索した人に、親しみやすく、明るく、サイコパス的に陽気なオーストリア学派経済学を25分間たっぷりと目に焼き付けさせることにある。極右のニュースは営利事業ではなく、オルガリヒに優しい政策のための原価割れ商品なのだ。効果はバツグンだ。ニュースに100万ドルをつぎ込めば、米国の超富裕層は10億ドル分の減税と、労働者を痛めつけ、顧客を毒殺しても利益を得られる権利を手に入れられるのだから。
一方、民主党は従来、メッセージの発信を「伝統メディア」に頼ってきた。これは、現実(reality)には周知の左派バイアスがあり、「ジャーナリズム倫理」を遵守するニュースメディアは真実を報道し、その真実は民主党の立場を支持するはずだ、という考えに根ざしている。たとえば、トランスジェンダーは人間であり、人種差別は実在し、中絶は殺人ではなく、住宅危機は市場の失敗であり、地球は燃えている、などなど。
これは愚かな方針であり、すでに破綻している。「信頼できる」ニュースメディアは、自主的な「バランス」と「中立性」の規範に従っているが、これは簡単に悪用される。「ハイチ人はペット犬を食べないと主張する人もいれば、食べると主張する人もいる。どちらの意見も報道しなければならない!」というように。これは「どこからでもない視点(the view from nowhere)」と呼ばれ、まさに民主党をどこにも導かない。
http://archive.pressthink.org/2008/03/14/pincus_neutrality.html
バランスと中立性など、所詮は建前にすぎない。億万長者とその取り巻きたちに逆手に取られて徹底的に悪用されているじゃないか。それでもその近視眼的な規範に従うべきだと考えるなら、それは誠実なのではなく、不誠実なだけだ。
報道の中立性――どこからでもない視点――は永遠の真理ではない。報道の長い歴史から見れば、ほんの10秒前に生まれたばかりのアイデアだ。ニュースの黄金時代は、The Smallville DemocratやThe Ruling Class Republicanといった名前の新聞(訳注:党派性を明らかにした新聞)が飛び交っていた。世界の大半の人々にとって、ニュースメディアが政治的立場を表明しないことのほうが困惑させられるのだ。英国人なら、TelegraphがTorygraph(訳注:保守日報)で、Guardianが労働党びいき(特にブレア/スターマー派による左派の粛清を後押しすることに熱心)で、Mirrorが左派タブロイド紙、Mailが極右(編集委員会がフン族のアッティラすら「ウォークだ」とみなすほど)であることをよく知っている。
優れた左派系ニュースメディアであるThe American Prospectで、ライアン・クーパーは、想像上の「左派のジョー・ローガン」を探すよりもずっと優れた解決策を提案している。それは、明確な民主党系ニュースメディアを支援することだ。
https://prospect.org/politics/2024-12-12-democrats-lost-propaganda-war
現在、米国内にニュース砂漠が広がっている。有権者はトランプが何を言おうとしているのかすら耳にすることがなく、たとえ耳にしたとしても、それが何を意味するのかを説明できる人の声を聞く機会もない。一般の有権者は「関税」が何なのかも知らず、おそらくそれは他国が米国民に非常に安価なものを売る特権のために、なぜだか支払わなければならない税金のようなものだと思い込んでいる
皮肉なことに、このニュース砂漠には、飢えた、失業中の、才能あるジャーナリストたちがひしめいている。もし民主党がニュースの砂漠で真実を伝える自由なニュース取材と発信に資金を提供したらどうだろう? もしそのニュースメディアが、党の補助を受けた明確な党派的プロジェクトであることを活かして、不愉快な監視、押しつけがましい広告、AIのスロップ記事、メールアドレスを求めるポップアップなど、日々ニュースを劣化させ、読者に嫌われる手法を採用しないとしたらどうだろう?
クーパーは、これが実際に小規模で試され、控えめながらも良い効果を上げた例を挙げている。シンクタンクのアメリカ進歩センター(Center for American Progress)が明確な左派系ニュースメディアのThinkprogressに補助金を出していた時期だ。2019年まで順調に進んでいたものの、Thinkprogressが企業民主党とそのメガドナーたちの腐敗した取引を報じる胆力を見せたがため、彼らの手で葬り去られてしまった。
https://www.thedailybeast.com/thinkprogress-a-top-progressive-news-site-is-shutting-down
そして、クーパーが指摘するように、これは極右が資金を注ぎ込むニュースでは起こり得ない。右派のインフルエンサー、有名人、作家たちは、党の路線から大幅に逸脱しても潰されることはない。
メタクソ化されない、明確な政治的立場を持つ左派の民主党系ニュースメディアというアイデアに、私は大きな可能性を感じている。メッセージをできるだけ広く拡散することを目的としたニュースルームを想像してみてほしい。まず、ペイウォールはない――クリエイティブ・コモンズの帰属ライセンスのみで、元のサイトにリンクしていれば、誰でも、営利目的でも転載できる。AIに学習されたり、コタツ記事がGoogle Newsのトップに来ることに頭を悩ませる必要もない。むしろ、大歓迎じゃないか!ページビューや再生回数を稼ぐことではなく、自分の主張を広く理解してもらうことが目的なら、誰かがあなたのコンテンツを再パッケージ化して広める方法を見つけることは、意図せぬバグではなく意図した機能なのだ。
Napster戦争の時代、(訳注:RIAA元会長の)ヒラリー・ローゼン(何万人もの子供たちを訴える運動を指揮し、その後に民主党の主要な権力ブローカーになった)のようなエンターテインメント業界の連中は、「フリーとは競争できない」と言い続けていた。これは完全に正しいわけではないが、完全な間違いでもない。もしあなたのニュースが、人類の繁栄と居住可能な惑星に取り組む民主主義社会のための原価割れ商品であるなら、そのニュースを自由という意味でも、無料という意味でも「フリー」にできる。そうすれば「本物の」ニュースを読むことをクソほど不愉快にしているあらゆる要素を排除できるのだ。
この5年間、私はニュースレター――今あなたが読んでいるこれ――を発行してきた。アナリティクス、広告、トラッキング、ポップアップ、その他のゴミは一切排除している。作家として、深い満足と解放感を味わっている。私が気にかけているのは、読み手が私のアイデアにどう関わってくれるかだけだ。私は文字通り、何人の人がこれを読んでいるのか全く知らないが、人々が私の文章について語ったことはすべて把握している。
これは、誰もが恋い焦がれる良き古き時代のニュースの仕組みそのものだ。作家や編集者は、クリック数や、離脱前にどれだけスクロールしたかという指標ではなく、大衆の反応を見て記事の成功を測っていた。「データ駆動」の編集ポリシーが約束していた恩恵など実現してはいない――「データ駆動」というのは結局のところ、そのサイトが永遠に見限られるまでの間に、ウェブサイトがどれだけ監視的で不愉快になれるかの臨界点を探ることにすぎないのだ。
ProPublicaのようなメディアは、明確な左派的アジェンダを持ってはいないが、このプログラムの多くを採用することで成功を収めている(彼らが左派的に見えるのは、真実を報道することへの揺るぎない姿勢を反映しているにすぎない。例えば、クラレンス・トーマス最高裁判事は億万長者たちの腐敗した操り人形で、その億万長者たちは富を惜しみなくトーマス判事に注ぎ込んでいるという事実をProPublicaは報じただけである(訳注:トーマス判事の腐敗を伝えるProPublicaの記事/それを伝えるBBCの日本語記事))。
彼らが全国報道において――そして地域報道のために数少ない地方紙と手を組んで――これほどの成功を収めているという事実が、まさにその証左である。民主党に必要なのは「味方してくれるジョー・ローガン」ではない――彼らに必要なのは、切実にニュースを必要とするこの国に、決してメタクソ化することなく、適切でタイムリーなニュースを届ける、党が後援する地域メディアの全国ネットワークだ。
Pluralistic: A Democratic media strategy to save journalism and the nation (12 Dec 2024) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow
Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: December 12, 2024
Translation: heatwave_p2p