以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Stock swindles」という記事を翻訳したものである。
トランプ主義には、米国史における先例が数多く存在する――ジム・クロウ法による恐怖支配、マッカーシー公聴会、先住民に対する嬉々とした大量虐殺といったファシズム運動がそうだ。だが、トランプ主義の台頭を考えるとき、決して忘れてはならないことがある。米国は残忍な偏見の国であるだけでなく、裕福な詐欺師たちの国でもあるということだ。
我々はトランプを「リアリティTV スター」と呼ぶが、それ自体は事実である。トランプは何十億ドルもの金を騙し取るはるか以前から、テレビの中で億万長者を演じていた。貧乏人が思い描く金持ちのイメージを武器に、虚偽の融資を引き出し、債権者、請負業者、ビジネスパートナー、労働者、そして地方・州・連邦の各政府を食い物にしてきた。
こうしたやり口で権力の座にのし上がった彼は、ステージ上でこう豪語した。不正をすることは「賢いやり方だ」と。
https://pluralistic.net/2024/12/04/its-not-a-lie/#its-a-premature-truth (邦訳)
数多の腐敗した政治家と同様、トランプのブランドイメージは「あいつは盗むが、仕事はする」だ(もちろん実際にはそんなことはない。どの瞬間を切り取っても、昼寝をしているか、Fox Newsを観ているか、ゴルフをしているかのいずれかである確率が高い)。
https://www.reddit.com/r/AskBalkans/comments/utui8s/in_romania_we_have_a_saying_about_corrupt/
思い出してほしい。右派とは、政府は非効率で腐敗していると主張する勢力であり、だからこそ右派の政治指導者は自ら無能と腐敗を実践することで自分たちの主張を証明してみせる。トランプのような人物は、人々に制度も隣人も頼りにならないと確信させなければならない。制度はイカサマだ、だが自分は――不正の達人として――そのイカサマをあなたのために仕組む方法を知っている。彼の権力への道は、人々にそう信じ込ませることにかかっている。
https://www.factcheck.org/2016/07/trumps-rigged-claim/
だが、「制度はイカサマだ」と主張するだけでは不十分だ。制度がイカサマだと人々に信じ込ませたいなら、制度が本当にイカサマであることが大いに役立つ。選挙が腐敗していると信じ込ませたいなら、無制限のダークマネー支出を合法化し、ワシントンの政商たちが随意契約で売りさばく欠陥だらけで監査不能な投票機を投票所に溢れさせればよい。
裕福なペドフィリアの秘密結社がピザ屋の地下に子供を拉致しているという陰謀論を信じ込ませたいなら、実際にプライベートアイランドで1000人以上(今も増え続けている)の子供を虐待する裕福なペドフィリアの組織が存在していれば好都合だ。金融システムがイカサマのカジノなのだから暗号通貨や賭け市場にでも賭けた方がましだと信じ込ませたいなら、実際の金融システムが数十億ドルの公的資金を注入された銀行に運営され、オバマがティモシー・ガイトナー財務長官の助言に従って米国民の家を使って銀行のために「滑走路に泡を敷いている」(衝撃を和らげる)間に、数百万人の米国民の住宅が奪われるような仕組みであれば好都合だ。
つまり、イカサマの制度の中で自分のために不正を働いてくれる強い指導者を求め、ファシストに騙されるカモが大量発生した原因を理解したいなら、人種差別や排外主義だけでなく、制度が実際にどのようにイカサマになっているかにも目を向けなければならない。人種差別と女性蔑視だけでファシズムは生まれない。ファシズムの手先となる国民を育て上げるには、まずイカサマの制度が必要だ。
https://pluralistic.net/2025/07/22/all-day-suckers/#i-love-the-poorly-educated
だからこそ、金融を理解することには価値がある。金融セクターは「退屈さの盾」(クレア・エヴァンズに感謝)の背後に罪を隠す。何層にも重なる専門用語と見せかけの複雑さが、一般の人々による金融セクターへの批判を困難にしている。金融の亡者たちはこれを利用し、制度に内在する煩わしい曖昧さを武器にして、「批判者は何もわかっていない、すべて問題ない」と言い張る。これは極めて不安定化を招く。毎日搾取されながらも、自分より賢そうな人間がもっともらしい説明で「すべて合法で正当だ」と言う世界に生きていれば、制度への信頼、専門家への信頼、合法的プロセスへの信頼をすべて投げ捨て、自分のために不正をしてやると約束する独裁者に身を委ねたくなる。それは当然のことだ。
自社株買いを例にとろう。これは1982年まで違法だった株式詐欺の一形態である。自社株買いでは、企業が公開市場で自社の株式を購入する。株式数が減れば、1株あたりの価格は上がる。つまりは「仮装売買」だ。NFTや詐欺コインの詐欺師が、自分の商品を自分で買って価値があるように見せかけるのと同じ手口なのである。
https://pluralistic.net/2025/09/06/computer-says-huh/#invisible-handcuffs
資源配分の仕組みとしての市場の擁護者たちは(民主的な説明責任を負う国家による配分とは対照的に)、価格が財やサービスの望ましさ、実現可能性、その他の性質に関する「情報を内包している」がゆえに市場は効率的だと主張する。これこそ「予測市場」とかいうイカサマカジノの新種を正当化する理屈だ。予測市場は、人々から身ぐるみを剥ぎながら、そのプロセスは正当であるばかりか科学的であり、我々を取り巻く世界の「内包された情報」を取り出す方法なのだと吹き込むことで、ファシズムの次世代の歩兵たちを養成している。
市場システムにおいて、株価は企業の健全性と将来性に関する集約された情報を反映するはずのものだ。ところが企業が自社株買いを行うと、株価は上がる一方で企業価値は下がる。
これは文字どおりの意味である。たとえば10億ドルの現金を保有する企業の時価総額が100億ドルだとしよう。ここから、この企業の実物資本(工場、在庫など)、知的財産(特許、プロセス、著作権など)、人的資本(給与支払い対象の従業員、請負業者)の価値は90億ドルと推定できる。10億ドルの現金の価値は正確にわかるからだ。10億ドルの値打ちは、すなわち10億ドルである。
さて、この企業が10億ドルを自社株買いという形でドブに捨てたとしよう。企業の手元から10億ドルの現金は消え、残るのは実物資本、知的財産、人的資本のみで、その価値は90億ドルだ。企業の価値は自社株買い前より下がったことになる。
しかも、企業価値の低下幅は自社株買いに費やした10億ドルを上回る。現金準備のない企業は脆く、破綻しやすい。現金というクッションがなければ、家賃の急変、市場環境の変化、その他の不測の事態が発生した際、危機を乗り切るためには(切迫した状況ゆえの懲罰的な金利で)資金を借り入れるしかない。株価が本当に企業の価値に関する「情報を内包している」のであれば、10億ドルの自社株買いは株価を10億ドル以上押し下げるはずだ。ところが実際には、株価は上がる。
まさしく株価操作であり、だからこそ1982年まで違法だった。しかしこの制度の弁護者たちは、自社株買いは別名の配当金にすぎない――企業が株主に価値を還元するもう1つの方法であり、株主は結局のところ会社の所有者なのだから利益を引き出す権利がある――と言い張る。
そんなものは嘘っぱちだ。配当金は確かに企業の金庫から金を取り出し、株主に分配する。だが配当は企業の将来の成功に対する賭け材料であって、配当発表後に企業の株価が上昇するのはそのためだ。投資家は、現金準備の一部を株主に還元する余裕があるほど経営がうまくいっている企業を見て、巧みな経営からさらなる配当を期待し、その企業の株を買い増す。
しかし、翌年の事業継続すら危うくなるほど巨額の配当を出した企業を想像してほしい。たとえばある出版社が、翌シーズンの新刊の前払い金を一切払えなくなるほどの配当を行ったとする。その場合、すでに倉庫にある既刊本からしか利益を得られず、翌年のベストセラーを出版する競争からは完全に脱落することになる。
そのような配当は、投資家をその企業の株に引き寄せはしない。経営陣が自ら会社を不振なシーズンに、あるいは回復不能な死のスパイラルに追いやったばかりの株に、なぜ賭けるというのか。売る新刊がなければ配当に回す現金も生まれず、配当が止まれば株価は下落し、株主自身のバランスシートに穴が開く。
自社株買いとの対比で考えてみよう。自社株買いを行うには、フリーキャッシュフロー、借入金、主要資本の売却益、大量解雇による節約分を充てて自社株を買えばよい。すると株価は上がる。
言い換えれば、配当のニュースで株価が上昇する場合、そこには企業の経営陣と将来の成長に対する市場の信頼という「情報が内包されている」。一方、自社株買いのニュースで株価が上昇する場合、そこに内包されているのは、企業が崩壊するまで略奪が続くという市場の確信にほかならない。
かつて私は、これが自社株買いの全貌だと思っていた。しかし金融の常として、自社株買いはフラクタル的に腐敗している。今週、ボストン・カレッジ法学教授レイ・D・マドフの著書『The Second Estate: How the Tax Code Made an American Aristocracy(第二の身分制度――税法はいかにして米国の貴族制を作り上げたか)』を読み、自社株買いについてさらに汚い真実を知った。
https://press.uchicago.edu/ucp/books/book/chicago/S/bo256019296.html
税務上、配当金は「経常所得」に分類され、最大37%の税率が課される。一方、自社株買いで株価が吊り上がった後に株式を売却すると、その利益は「キャピタルゲイン」として扱われ、税率の上限はおよそ半分の20%にとどまる。つまり株主は、企業を持続的成長に向けて経営することで得られる利益に対して払う税金の半分しか、企業を骨までしゃぶり尽くして得た金に対しては払わないのだ。
話はそれで終わらない。キャピタルゲインはキャピタルロスで相殺できるからだ。値下がりした株に投資した場合、利益の出る株を売る準備ができるまでポートフォリオに保持しておき、損失分を利益から差し引くこともできる。
それどころか、株を売却しなくても非課税の所得を得ることすらできる。超富裕層は「バイ・ボロー・ダイ(買って、借りて、死ぬ)」と呼ばれる金融スキームに従って生活し、すべての税を回避する。
仕組みはこうだ。大量の株式を保有していれば、それを担保に非課税の融資を受けることができる。さらに賢くやれば、融資の利子の一部または全部が税控除の対象にさえなる。十分に裕福であれば、融資の定期返済すら不要だ。株式の価値が上がり続け、融資の満期が来るまで待ち、そのときに新たな評価額を担保にさらに多くの金を借りて旧ローンを返済すればよい。
ここまでが「買って」と「借りて」だ。次は「死ぬ」である。死亡すると資産は子供に移転され、子供たちは「ステップアップ・イン・ベーシス(取得原価の引き上げ)」と呼ばれる制度の恩恵を受ける。これにより、資産の値上がり分に対するキャピタルゲイン税が一切免除される。
もしかすると、自分もこの仕組みを利用できるのではと思うかもしれない。残念ながら、あなたは定期返済不要のクールな融資の対象にはなれない。もし株式を保有していたとしても、ほぼ確実に401(k)のような退職金プランを通じて保有しているはずだ。そしてその401(k)を現金化するとき、それは「経常所得」として扱われ、我々の支配者たる富裕層が払う税率のほぼ倍の率が課される。
こうして自社株買いは、優れた製品を生み出し一般の人々を雇用している企業が自らの内臓をえぐり出し、破綻への道を歩むたびに、富裕層がはるかに裕福になるシステムの一部となる。一方、労働者はたとえ株式を保有していても、この仕組みから恩恵を受けることはない。彼らはただ、事業が略奪され閉鎖され、富裕層が税金を払わないことで均衡財政規則により政府が支出できなくなった結果として公共サービスが削減される世界で生きていかなくてはならない。
自社株買いに擁護者がいるのはそういうことだ。存命中の人々の記憶にある時代にはまだ違法だったこの株式詐欺は、富裕層を肥え太らせ、彼らはその戦利品の一部を使って、自社株買いは別名の配当にすぎないというメッセージを拡散する工作員の軍団に資金を提供している。
これは、暗号通貨の億万長者たちがロビー活動、賄賂、脅迫によって投機的資産を実体経済に組み込ませ、一般市民の経済的安定を危険にさらしている搾取経済の一端である。
https://www.levernews.com/what-tech-wants-crypto-reign-of-terror
また、AIブロたちがインチキな会計と空虚な約束でグローバル市場を危機に陥れている搾取経済の一端でもある。
https://www.wheresyoured.at/the-enshittifinancial-crisis
搾取経済は米国という国家の経験に深く焼きついている。トランプ主義の土台であり、「Project 2025」の財政的基盤でもある――文字どおりに。ヘリテージ財団(Project 2025を策定した組織)は、破壊的ねずみ講のアムウェイ創業者によって設立・資金提供された。アムウェイは、その創業者の選挙区選出議員であったジェラルド・フォードが大統領に就任し、FTCに見逃すよう命じたことで刑事訴追を免れたのである。
https://pluralistic.net/2025/05/05/free-enterprise-system/#amway-or-the-highway (邦訳)
トランプの言うとおり、制度はイカサマだ。愛する人々をファシズムへのニヒリスティックな転落から引き戻したいなら、そのイカサマの仕組みを理解し、説明できなければならない。ヒラリー・クリントンのように、「米国はすでに偉大だ」などとは口が避けても言言えるはずがない。
米国は偉大ではない。エプスタイン階級によって骨の髄まで搾り取られ、子供たちを犯され、今や詐欺コインとチャットボットと、抗議者が路上で撃たれる見世物を売りつけられている。だが、制度がイカサマだと知っているだけでは足りない。制度がイカサマであることは誰もが知っている。だが運動を構築し、未来を救うためには、どのようにイカサマされているのか、誰がイカサマを仕組んだのかを知らなくてはならない。
Pluralistic: Stock swindles (02 Feb 2026) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow
Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: February 2, 2026
Translation: heatwave_p2p