以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「“That Makes Me Smart”」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

バイデン政権は、ジェノサイドを容認するなど多くの失望、挫折、怒りをもたらした。だがこの4年間に一貫していた光明は、企業権力と企業腐敗に対する過去に例のない全面攻勢だった。

この戦いを象徴するのが「不公正で欺瞞的な(unfair and deceptive)」という3語だ。この言葉は連邦取引委員会法第5条や、運輸省に「不公正で欺瞞的な」行為を禁止する権限を与えた連邦規則集40巻1訳注:49巻のタイプミスと思われる41712条(a)項など、それをモデルにした他の法律にも登場する。

https://pluralistic.net/2023/01/10/the-courage-to-govern/#whos-in-charge

議会が「不公正で欺瞞的な」行為を処罰する機関を設立したとき、それは国民に「あなたには騙されない権利がある」と宣言したのである。当たり前だと思われるかもしれないが、現実の世界はそうはなっていない。

我々の日常生活にどれだけ多くの詐欺的行為が存在するかを理解したいなら、過去4年間にFTCなどの機関が「不公正で欺瞞的な」基準であなたをどのように守ってきたのかを見てみるといい。例えばAmazon Prime。Amazon幹部らは社内メールで、ユーザーテストにおいて「Primeで送料無料」というダイアログボックスが人々を一貫して欺いていることを認めていた。ユーザは無料配送に登録するつもりが、実際には年間140ドルを支払う契約を結んでいたことを理解していなかったのだ。彼らはユーザが正しく理解できる他のバージョンのサインアップフローもテストしていたが、より多くの収益が見込めるという理由で分かりにくいバージョンを採用することを決めた。

https://arstechnica.com/tech-policy/2024/05/amazon-execs-may-be-personally-liable-for-tricking-users-into-prime-sign-ups

Primeへの登録は、一回140ドルを支払うだけの問題ではない。Amazonは定期課金に誘導する滑り台を用意する一方で、その解約プロセスはまるで這い上がれない滑り台のようにした。これはAmazon以外の多数のサービスに共通する特徴で、登録は数クリックで済むのに、解約はカフカ的な悪夢だ。FTCはこれを「不公正で欺瞞的な」商慣行だと判断し、その権限を使って「Click to Cancel」ルールを定めた。これにより、企業は定期支払いの解約を登録と同じくらい簡単にしなければならなくなった。

https://www.theregister.com/2023/07/12/ftc_cancel_subscriptions

企業はユーザをロックインすると、あなたを監視し始める。車の購入やウェブサイトへのアクセス、アプリのインストール、あるいは単に物理的な存在によって「同意」した商業的監視データを大量に取り込み、あなたの切迫度を推定して「監視価格」を設定する。Uberは10年前、バッテリー残量が少ないユーザのタクシー料金を引き上げていたことが発覚したが、今やどの企業もこのゲームに参加している。例えばマクドナルドは、あなたの財務状況を監視して給料日を特定し、その日にいつも食べている朝食用サンドイッチの価格を1ドル吊り上げる企業に投資している。

https://pluralistic.net/2024/06/05/your-price-named/#privacy-first-again

ストアをクリックした瞬間に価格を変更することから、チケットを受け取るためにアプリをダウンロードするよう強要され、QRコードを送信する企業があなたの一生を可能な限り監視し、そのデータを購入者に売ることを許可する2万語の利用規約に同意せざるを得ない詐欺的な同意にいたるまで、その全てが「不公正で欺瞞的」だ。

消費者として不当な関係に縛られるのも十分にひどい話だが、労働者として縛られるのはその百万倍たちが悪い。米国の労働者の18人に1人が競業避止「契約」に縛られ、転職して同業他社で働くことを違法とされている。その大多数は低賃金のフードサービス業に従事する労働者たちだ。米国の競業避止条項の主な目的は、ウェンディーズのレジ係がマクドナルドで時給25セントアップする仕事に就くのを阻止することにある。

競業避止条項は、簡単に論破可能な、経営者側のデタラメに包まれている。彼らは、賃金を上げるために必要なんだ(実証的に誤り)とか、「知的財産」集約型産業の成長を支える企業秘密の保護に必要なんだと言う。だが、こうした主張は完全な戯言である。その証拠に、カリフォルニア州憲法では競業避止条項が禁止されているにもかかわらず、最も知的財産集約型の産業が数千億ドル――あるいは数兆ドル――の投資資金を引き付けているのだ。これは従業員が競業避止条項に拘束されないにもかかわらずだ。FTCの米国全労働者に対する競業避止条項禁止命令は、シリコンバレーとハリウッドを生んだ労働体制を全国に広げるものに過ぎない。

https://pluralistic.net/2023/10/26/hit-with-a-brick/#graceful-failure

「不公正で欺瞞的な」労働慣行は競業避止条項だけではない。過去10年間、ペットのグルーミングなどの低賃金産業ではプライベートエクイティによる統合が進んできた。あなたの家から20マイル以内のペットグルーミングサロンの新規オーナーたちは、労働者の賃金を削減したばかりか、この最低な仕事を辞めようとする労働者に数千ドルの請求を可能にする策略を編み出した。この計略は「訓練費用返還契約条項」(その名もTRAP!)と呼ばれる。Petsmartでトラップされた労働者は、まず3〜4週間、床掃除のような単純作業をさせられる。Petsmartはこれを「訓練」と呼び、5,500ドルの価値があると言い張っている。以降2年以内にペットグルーミングの仕事を辞めると、訓練費用の「返還」として法的にPetsmartに5,500ドルを支払う義務が生じる。

https://pluralistic.net/2022/08/04/its-a-trap/#a-little-on-the-nose

労働者はまた、「不公正で欺瞞的な」ボスウェアにも従わされている。優秀な労働者と劣った労働者を選別できると主張する「AI」ツールが経営陣に売られているが、実際には乱数生成器として機能し、恣意的に労働者の人生を破壊するペナルティを与えている。

https://pluralistic.net/2024/11/26/hawtch-hawtch/#you-treasure-what-you-measure

我々が耐えている「不公正で欺瞞的な」行為の一部は、業界の暗部で起きている。そこでは、暗躍する仲介業者が寡占企業の価格引き上げとあなたからの搾取を助けている。スーパーマーケットで購入する肉はすべて、同じ「価格コンサルティング」サービスを利用して全面的な価格引き上げを調整する食肉加工・包装企業のカルテルから来ている(グリードフレーション(貪欲インフレ)は存在しないとでも?)。

https://pluralistic.net/2023/10/04/dont-let-your-meat-loaf/#meaty-beaty-big-and-bouncy

これは食品だけではなく、マズローの欲求階層説のすべてに及ぶ。住居を例に取れば、高度に統合された不動産業界はRealpageのようなアプリを使用して家賃の値上げを調整し、住宅危機を住宅緊急事態にまでエスカレートさせている。

https://pluralistic.net/2024/07/24/gouging-the-all-seeing-eye/#i-spy

そしてもちろん、最も「不公正で欺瞞的な」産業は医療だ。「政治力を持ったスプレッドシート」(マット・ストーラー)とも呼ばれる「薬剤給付管理業者」のような不必要な仲介業者が、命に関わる薬の大規模な価格引き上げを調整している。そのため、米国政府が公的資金を使って他のどの国よりも多くの医薬品研究資金を提供しているにもかかわらず、米国人は世界で最も高い薬価を支払っている。

https://pluralistic.net/2024/09/23/shield-of-boringness/#some-men-rob-you-with-a-fountain-pen

薬だけではない。すべての機器――病院のベッドや核医学機器をに至るまで――そして包帯や生理食塩水といったすべての消耗品は、「グループ購買組織」というカルテルを通じて地域の病院に供給される。彼らは医療機器に対して薬剤給付管理業者が医薬品に対して行っているのと同じことを行っている。

https://pluralistic.net/2021/09/27/lethal-dysfunction/#luxury-bones

過去4年間、我々は行政機関が不公正で欺瞞的な慣行を一掃するために日夜戦う米国に住んでいた。それは今も続いている。昨日、CFPBは(マスクが閉鎖を宣言した機関だ)すべての米国人の情報を非同意で収集し、「中絶を求める赤い州のティーンエイジャー」「ギャンブル癖のある軍人」「認知症のある高齢者」などのカテゴリーにパッケージ化して、マーケター、ストーカー、外国政府、そしてクレジットカードを持つ誰にでも売るデータブローカー業界全体を禁止する新規則を提案した。

https://www.consumerfinance.gov/about-us/newsroom/cfpb-proposes-rule-to-stop-data-brokers-from-selling-sensitive-personal-data-to-scammers-stalkers-and-spies

そして同じ日、FTCはあなたのすべての移動を監視し、過去と現在の位置情報を――やはりマーケター、ストーカー、外国政府、そしてクレジットカードを持つ誰にでも――売る位置情報ブローカーを禁止した。

https://www.404media.co/ftc-bans-location-data-company-that-powers-the-surveillance-ecosystem

これらは、すべての米国人にとってより良い生活――「公平にプレーする」というルールがある生活――への心ときめく予告編だ。だがそれは、トランプとその仲間たちが築きたい世界ではない。彼らのモットーは「詐欺師をのさばらせない」ではなく、「買い手が気をつけろ(caveat emptor)」だ。2016年の討論でクリントンがトランプの脱税を非難し、トランプが「それが賢いやり方というものだ」と認めたことを覚えているだろうか?トランプ主義とは、たとえ騙されたとしても自己責任だで済まされる、「それが賢いやり方というものだ」がまかり通る人生のムーブメントである。悪いな負け犬、お前の負けだ。

これはクリプトの世界で最も顕著だ。数千万ドル――おそらく数億ドル――の暗号通貨ダークマネーが選挙に流れ込んだのは偶然ではない。その金はまず、「不公正で欺瞞的な」勢力と戦うために権力を行使した民主党議員を追い出すために民主党予備選挙に注ぎ込まれ

https://www.politico.com/newsletters/california-playbook-pm/2024/02/13/crypto-comes-for-katie-porter-00141261

そして、民主党全体と戦い、共和党を「買い手が気をつけろ」/「それが賢いやり方というものだ」の党として選出したのだ。

https://www.coindesk.com/news-analysis/2024/12/02/crypto-cash-fueled-53-members-of-the-next-u-s-congress

暗号通貨は「買い手が気をつけろ」経済を象徴している。設計上、詐欺的な暗号通貨取引は取り消すことができない。もし騙されたなら、それは文字通りあなたが悪いことになる。そうして、暗号通貨ユーザたちは、本当によくもまぁ騙される(とりわけ、トランプのクソコインを買い漁った連中なんかは)。

https://www.web3isgoinggreat.com

暗号通貨ユーザがオンラインウォレットに「お金」を預けて詐欺に遭ったとしても、「お前のキーでなければ、お前のコインでもない」と同情すらしてもらえない。

https://www.ledger.com/academy/not-your-keys-not-your-coins-why-it-matters

「不公正で欺瞞的な」世界は、騙されるのはカモ――つまり、アウトサイダー、標的、小物――だけということに支えられている。つまりインサイダーが騙されなら、すべての原則は破棄される。したがって、暗号通貨のインサイダーがDAOを作って数百万ドルを失えば、彼らがクリプトランドのすべてのルールを捻じ曲げて、他の誰にも与えられない特別救済を自分たちに与える。まったく驚きはない。

https://blog.ethereum.org/2016/07/20/hard-fork-completed

暗号通貨のあるところにイーロン・マスクあり。彼は「買い手が気をつけろ」思考を象徴する男だ。2015年以来毎年「1年以内に完全自動運転は実現する」と約束してはドライバーにTeslaを買わせてきた。

https://www.consumerreports.org/cars/autonomous-driving/timeline-of-tesla-self-driving-aspirations-a9686689375

マスクは投資家に、労働者に代わる自律型ロボットの「プロトタイプ」があると語り、ロボットのふりをするロボットスーツを着た男性をデモで披露した。

https://gizmodo.com/elon-musk-unveils-his-funniest-vaporware-yet-1847523016

そして2年後、マスクは再び遠隔操作ロボットをデモで見せながら、それが自律型だと嘘を吐いた。

https://techcrunch.com/2024/10/14/tesla-optimus-bots-were-controlled-by-humans-during-the-we-robot-event

AI業界ではまったくもってよくあることである。「AI」は何度も何度も、ロボットのふりをした低賃金労働者であることが暴露されてきた。インドのテック業界では「AI」は「遠くのインド人(Absent Indians)」の略だと揶揄されるほどだ。

https://pluralistic.net/2024/01/29/pay-no-attention/#to-the-little-man-behind-the-curtain

マスクの世界観では、彼を嘘をついているのではなく、単に早すぎる真実を語っているだけに過ぎない。自律型自動車やロボットはすぐそこまで来ている(まさしく、あなたの代わりに仕事をこなすチャットボットと同じだ。実際にはあなたの仕事をこなすことはできなくても、あなたのボスを騙してあなたを解雇させることはできる)。彼は騙しているのではない、成功するまで誤魔化しているだけだ。詐欺などではなく、インスピレーションなのだ。もちろん、もし彼が間違っていてあなたが騙されたとしても、それはあなたの問題だ。買い手が気をつけろ。それが賢いやり方というものだ。

マスクはいつだってそうだ。Twitterの青いチェックマークもそうだった。元々このマークは、有名人になりすます(「不公正で欺瞞的な」)詐欺師からTwitterユーザを守るためものだった。マスクがTwitterで最初に着手したのは、認証済みユーザから青いチェックマークを剥奪し、月額8ドルを支払う誰にでも売りつけることだった。これに金を払ったヤツはほとんどいなかったが、例外もある。詐欺師だ。彼らは購入した未認証の青いチェックマークを使ってTwitterユーザから盗みを働いた(「それが賢いやり方というものだ」)。

Twitterの広告収入が激減し、マスクが月額8ドルの有料会員を増やすことにますます躍起になると、彼は次の詐欺を働いた。著名なアカウントに勝手に青いチェックマークをつけて、人気のユーザが自腹で青いチェックマークを買ったかのように見せかけようとした。

https://www.bbc.com/news/technology-65365366

それに騙されて青いチェックマークを購入したとしても、そう、買い手が気をつけろだ。そもそも、それは嘘ではなく、早すぎる真実なのだ。いつか、勝手に青いチェックマークを付けられた人気ユーザたちは、きっとそれに高い価値を見出して金を払い始めるに違いない。では、もしそうならなかったら? まあ、マスクはあなたから8ドルを手に入れた。「それが賢いやり方というものだ」。

詐欺師たちはいつだって、自分たちは嘘をついてなんかない、早すぎる真実を語っているだけだと言い張る。サム・バンクマン-フリードの擁護者たちは、彼が数十億ドルを盗んだわけではないと言うだろう。彼は賭けに挑んで(まぁなんか)勝ったんだ。最終的に、彼は被害者全員を(まぁなんか)全額弁済できたんだから、窃盗ですらない、と。

https://www.cnn.com/2024/05/08/business/ftx-bankruptcy-plan-repay-creditors/index.html

同様に、Tetherは「ステーブルコイン」であり、発行する無担保かつ無規制の証券に対して、発行する1ドルごとに1ドルの準備金があると嘘をついていたので、長らく監査に合格できなかった。Tetherは現在(おそらく)発行残高に見合う準備金を保有している。したがって、彼らが嘘の主張をしていた何年間というのは、彼らは嘘をついていたのではなく、早すぎる真実を語っていただけ、ということになるのだろう。

https://creators.spotify.com/pod/show/cryptocriticscorner/episodes/Tether-wins%E2%80%93Skeptics-lose-the-end-of-an-era-e2rhf5e

たとえその間にTetherがマージンコールに失敗してあなたがすってんてんになったとしても、まあ買い手が気をつけろだ。そしてTetherのインサイダーはつねにそのリスクから守られていた。それが重要なのだ。「それが賢いやり方というものだ」。

次の4年間について、私はこう考えている。「公正と真実」に対する「それが賢いやり方というものだ」の勝利だと。

長年、プログレッシブは右派の偽善を指摘してきた。それも、米国民が冷笑主義を内面化し、露骨な偽善でさえ認識できなくなっている中で。「買い手が気をつけろ」だと? それは単に他人が悪しき信念を持っているとか、倫理観が低いというような話ではない。それはあなたの人生を物質的に、著しく悪化させる。企業寄りの民主党と「不公正で欺瞞的な」ものに戦いを挑んだウォーレン/サンダース派に分裂していたバイデン政権は、公正さと誠実さのための自らの画期的な取り組みについて、まるでバツの悪いもののように、ほとんど沈黙していた。それはありえないほどの失策だった。

米国民は偽善には関心がないかもしれないが、盗まれることには極めて敏感だ。カモにされたいヤツなんていやしないんだから。

Pluralistic: “That Makes Me Smart” (04 Dec 2024) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: December 4, 2024
Translation: heatwave_p2p

カテゴリー: AntitrustMonopoly