以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Boss politics antitrust」という記事を翻訳したものである。
習近平は2期目を始めるにあたり、大規模な反腐敗キャンペーンを展開した。2012年から2015年にかけて繰り広げられたこの大規模な粛清により、中国社会の権力構造は大きく様変わりすることになった。
当時、中国の内外では、このキャンペーンは政敵の排除と権力基盤の強化が真の狙いではないかとの見方が支配的だった。実際、この粛清は習近平の事実上の終身在職を可能にする中国法改正への地ならしとなった。
2018年、USF(米サンフランシスコ大学)経済学部のピーター・ロレンツェンとシンガポール国立大学(NUS)政策研究大学院のシー・ルーが、巧妙な実証分析によってこの問題の本質に迫る論文を発表した。
2人の研究者は、粛清された官僚の汚職裁判で公開された膨大なデータを分析し、それぞれの官僚が実際に汚職を行っていた可能性を推定した。分析の結果、反腐敗キャンペーンで粛清されたのは、高位の官僚を含め、実際に汚職に手を染めていた人物たちだったことが判明した。
ところが、失脚した官僚たちの人脈を分析すると、彼らはいずれも習近平とその側近に対立する派閥に属していた。一方で、習近平に忠実な官僚たちは、たとえ汚職の事実があっても見逃されていたことがわかった。
つまり、習近平の反腐敗運動は確かに汚職官僚を標的にしていた――ただし、それは習近平の政敵を支持する者に限られていた。習近平の取り巻きたちは黙認されたのだ。習近平はたしかに反腐敗運動を政権基盤の強化に利用したが、無実の者を告発したわけではない。有罪者を選り好みして告発したにすぎないのだ。
ドナルド・トランプが次期米国大統領となる。彼は「エリート」打倒を掲げ、大企業による搾取と虐待に怒りを募らせる米国民の支持を集めた。ただ、バイデン政権は企業権力との闘いに乗り出し、2020年7月には「政府一丸」となったアプローチを示した72項目の大統領令を発令するなど、腐敗との戦いに取り組んできた。
https://www.eff.org/de/deeplinks/2021/08/party-its-1979-og-antitrust-back-baby
トランプは現政権の施策をどう扱うべきか決断を迫られることになる。トランプがすべてを廃止し、巨大企業に好き放題させるだけだろうと予想するのは簡単だが、それは違う。先日、司法省がGoogleへの反トラスト訴訟でついに勝利したが、この訴訟は前トランプ政権下で始まったものだ。トランプはまた、あの悪名高いWarnerとAT&Tの合併阻止にも動いた。
むしろトランプは、企業が自分に従うか敵対するかで、反腐敗の取り締まり(反トラスト法を含む)を選択的に行うと考えるほうが妥当だろう。テック企業のボスたちもそれを察知したのだろう。先週、彼らが争うようにトランプに媚びを売ったのはそのためだ。
https://daringfireball.net/2024/11/i_wonder
トランプはCNNへの報復としてAT&T・Time Warner合併を阻止した。「ウォーク」なテック企業への制裁としてGoogleを追及した。しかしそのことは、AT&TやTime Warner、Googleが善良な企業だということを意味しない。いずれも有害な独占企業であり、米国政府が当然追い詰めるべき相手なのだ。
トランプは、忠誠を示さない企業に偽の証拠をでっち上げる必要などない。米国の大企業はどれもこれも汚職、詐欺、略奪の巣窟だからだ。今後4年間に予定されているあらゆる合併は、レーガン時代に執行を停止し、バイデン政権下でわずか4年間だけ息を吹き返した反トラスト法に違反する。どれもが有罪なのだから、トランプはどこに対しても正当に訴訟を起こせる。
これは、トランプを嫌悪しながら反腐敗訴訟に無関心な人々への危険な罠となる。トランプは最初の任期中、「インテリジェンス・コミュニティ」――国内外の正義を求める労働者たちの宿敵であり、冷血で腐敗し、非道で無法な米国のスパイ機関――を攻撃することで、この罠を見事に仕掛けた。米国のリベラル派は敵の敵は味方だと短絡的に考え、ロバート・モラーをあたかも救世主のように祭り上げたのだ(訳注:モラーは元FBI長官で、当時のトランプ大統領に対する捜査で特別検察官を務めた)。
https://pluralistic.net/2021/12/18/schizmogenesis/
これから4年間、トランプは反トラスト法やその他の腐敗防止規制を駆使して、不正企業を選り好みして処罰するだろう。不正を働いているからではない――十分な忠誠を示さないからだ。
トランプへの憎しみから企業の不正に目を瞑れば、まさにトランプの思うツボだ。トランプがこれらの企業を容易に処罰できるのは、その企業がどれもこれも有罪だからだ。それを忘れ、敵の敵を味方だとみなせば、トランプは政敵を腐敗と悪徳の擁護者と断じるだろう。皮肉なことに、それは正しい指摘だ。
トランプは腐敗した手口で腐敗と戦うことができる。そして間違いなくそうするだろう。だが、トランプがこれらの企業を憎んでいるからといって、私たちが彼らを擁護する必要などないのだ。
Pluralistic: Boss politics antitrust (12 Nov 2024) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow
Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: November 12, 2024
Translation: heatwave_p2p