以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「“Disenshittify or Die”」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

先週末、ラスベガスで開催されたDefcon 32に参加し、トラック1で「脱メタクソ化か、死か! ハッカーはいかにして計算手段を掌握し、クソボスたちのメタクソ化への飽くなき強欲に対抗する新しき良きインターネットを構築できるか」という単独講演を行う光栄な機会を得た。

https://info.defcon.org/event/?id=54861

これは昨年の講演「インターネットのメタクソ化(Enshittification)を止める大胆な計画」の続編で、その講演でのプラットフォームの衰退(「メタクソ化」)に関する私の分析には多くの国際的な関心が寄せられた。

https://www.youtube.com/watch?v=rimtaSgGz_4

Defconの主催者たちは1、2週間ゆっくりと骨休めしているようで、私の講演のビデオはまだDefconのYoutubeチャンネルに投稿されていない。そこで、とりあえず私のスピーチ原稿を簡単に編集したものを投稿しようと思う。バーニングマンに行く予定があるなら、パレンケ・ノルテ(7&E)でこの講演を再演するのでぜひ聞きに来てほしい。8月27日火曜日の午後1時からレクチャーシリーズのオープニングを務める予定だ。

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古き良きインターネットにいったい何が起こったのか?

確かに、我々のボスは少々監視癖があり、NSAとデータを共有することにも前向きで、ユーザのセキュリティと金儲けのどちらを取るかという二択を迫られると、常に「YOLO(今が一番だいじ)」の精神だった。

でもその当時、Google検索は機能していた。Facebookはフォローするユーザの投稿を表示していた。Uberはタクシーより安くて、運転手にはタクシー運転手より高額が支払われた。Amazonは製品を売っていた――Sheinみたいなゴミカスドロップシッピングなんかじゃなかった。Appleはキミたちのプライバシーを守っていた――改造不可のiPhoneでキミたちを監視することもなかった。

Spotifyでアルバム検索しても、そのアルバムが表示されていた時代があった――AI生成の味気ない同名カバーアートが並ぶプレイリストじゃなくて

Microsoftはソフトウェアを――バグだらけだが――販売していた。 今じゃクラウド上のアプリにアクセスさせているだけだ。そうして、キミたちのアプリの使用状況を監視して、キミたちがよく使う機能をベーシックプランから削除して追加料金をせしめている。

いったい全体、何が起こったってんだ?!

さて、メタクソ化について話そう。

はじめに、メタクソ化を外から見るとどのように見えるかを説明しよう。まず、エンドユーザに親切な企業がある。この段階では、Googleなら最良の検索結果を上位に表示し、Facebookならフォローしているユーザやグループの投稿を律儀にフィードに表示する。Uberなら少額の運賃でサービスを提供する。Amazonなら製品や返品、配送の料金を一部負担し、検索ワードに最も適した製品をページの上位に表示する。

それが第1段階、エンドユーザを厚遇する段階だ。しかし、この段階にはもう1つの側面がある。それを段階1a)と呼ぼう。それはユーザをロックインする方法を見つけ出すことだ。

ユーザをロックインする方法は無数にある。

Facebookなら、ユーザ自身がユーザをロックインしてくれる。キミたちはFacebookに参加した。なぜなら、そこにキミたちが一緒に過ごしたい人々がいたからだ。そして、他の人々はキミたちと一緒に過ごすためにFacebookに参加する。

それが古き良き「ネットワーク効果」の作用だ。そして、このネットワーク効果には「集団行動の問題」が伴う。キミたちは友人たちを愛している。だが同時に、彼らは非常に面倒くさい! FBがクソだということに全員が同意してくれても、いつ去るべきかに全員が同意できるだろうか?

絶対にムリ。

では、次にどこに行くかに同意してくれるだろうか?

絶対ありえない

キミたちがそこにいるのは、そこに珍しい病気のサポートグループがあるからだし、キミたちの親友がそこにいるのは、引っ越した後も昔の友人たちとつながっていたいからだ。あるいは、子供のリトルリーグの送迎をFBで調整したいからだ。あなたが知る最高のダンジョンマスターだって、FBを離れちゃくれない。そこに彼女の顧客がいるからね。

もう、がんじがらめだ。FBを使用し続けるにはプライバシー、尊厳、そして正気という高額なコストを差し出さねばならないが、FBを去る場合に負担しなければならないスイッチングコスト――つまり、あなたを人質にしているすべての友人たちと、あなたが人質にしている友人たち、その関係すべてを失うこと――よりは幾分マシだからだ。

さて、時に企業はお金でロックインする。例えば、Amazonはプライム会員に1年分の配送料を前払いで支払わせたり、Audibleの書籍を月額サブスクリプションで購入させることで、事実上すべての買い物検索のデフォルトをAmazonにしてしまう。もうすでに支払わされているんだから。

時にDRMでロックインされることもある。例えば、HPは1ガロンあたり10,000ドル以上する液体を充填した4つのインクカートリッジを搭載したプリンタを販売していて、インクカートリッジの再充填や、サードパーティのカートリッジの使用をDRMで防いでいる。したがって、カートリッジが1つだけ空になると、新しいカートリッジを購入するか、残りの3つのカートリッジとプリンタ本体への投資を諦めなければならない。

時に、ロックインは様々な手段を組み合わせて行われる。

  • Apple以外のハードウェアではiOSアプリを実行できない
  • Appleの音楽、書籍、映画はiOSアプリ以外では実行できない
  • iPhoneはパーツペアリング、つまり交換部品とメインシステム間のDRMハンドシェイクにより、サードパーティの部品で修理できない
  • すべてのOEM iPhoneパーツには微細なAppleロゴが刻まれているため、Appleは商標違反を口実に、米国税関国境警備局に中古輸入iPhoneパーツの差し押さえを要求できる。

Think Different、だね?

キミたちをロックインすることで、メタクソ化サイクルの第1段階が完了し、第2段階に移行する。つまり、ビジネス顧客を厚遇するために、キミたちを冷遇し始めるんだ。

例えば、プラットフォームは検索結果を劣化させるかもしれない。Googleは検索ページにより多くの広告を詰め込むために、検索結果を可能な限り薄く、小さくするだろう。

あるいは、Amazonは製品検索を売り渡して、それを「広告」ビジネスだと言い張る。Amazonはこの詐欺で年間380億ドルを荒稼ぎしている。Amazonの検索で一番最初にでてくる製品は、ユーザが探す最良の商品よりも29%ほど高価で、最初の行に並ぶ商品も25%ほど高い。平均すると、ユーザに最適な商品は検索結果の17番目に見つかる。

他のプラットフォームは、あなたのフィードを売り渡す。例えば、Facebookははじめこそあなたが見たいと頼んだものを表示していたが、今やフォローしているはずのユーザのコンテンツはホメオパシーレベルにまで薄められ、キミたちのフィードはキミたちに見せるために金を支払ったもの、つまりパブリッシャのブースト投稿や広告で埋め尽くされる。

さて、ここでこう思うかもしれない。「確かに、製品に対価を払っていないなら、あなた自身が製品なのだ」と。

クソ喰らえ!

クソを

喰らえってんだ。

Google広告を購入する連中はどうか。彼らは劣化する広告ターゲティングや悪化する広告詐欺のせいで、毎年支払いが増え続けていく。

キミたちのFacebookフィードに不同意コンテンツをねじ込むために金を払っているパブリッシャは? 彼らはそうせざるを得ない。なんたってFBは意図的にフォロワーへのリーチを制限しているんだから。

じゃあ、Amazonの販売業者たちはどうだろう。彼らはたとえキミたちが気に入る製品を出品していようと、最初のページに表示してもらうためだけにそのスペースを他の業者よりも高額で入札しなきゃならない。Amazonでの販売がコストが高すぎて、独立系の販売業者は1ドル売るごとに45-51%をドン・ベゾスとAmazon一家に上納させられている。もちろん、通常の値段で売ってたんじゃ51%もの上納金は支払えない。売れるごとに赤字になるのはゴメンだから、彼らは価格を上げざるをえなくなる。

ここで「でも、ちょっと待って!」と聞こえてくる!

[さあ、言ってごらん!]

「でも、ちょっと待って!Amazonの商品価格はTargetやWalmart、個人商店、もしくは直販で購入するより高くはないよね?」

「販売業者がAmazonでの値段を上げたとして、その値段と他の店舗の値段は大して違わないじゃない? なぜ?」

[誰か答えられるかな?!]

そう、販売業者は全体の価格を上げているんだ。そして、彼らはそれを強いられている。Amazonは「最恵国待遇」というポリシーで販売業者を拘束していて、他の場所で売る場合にAmazonよりも安い価格にしてはいけない。自社工場から直販する場合でさえもね。

だからAmazonの販売業者は、他のすべての場所で価格を上げなければならないんだ。

さて、こうした販売業者はAmazonにとって最良の顧客だ。彼らは製品(訳注:Amazonマーケットプレイス)に対価(訳注:手数料)を支払っているのに、それでも騙され続けてくれる(訳注:Amazonの「広告」に金を出してくれる)んだから。

製品に対価を払ったとて、キミたちのつまらないボスのしわしわの心が喜びで満たされることはない。だからどこまでも騙す方法を探し続ける。

Appleを見てみろ。AppleがすべてのiOSユーザにアプリベースの監視をワンクリックでオプトアウトできるようにしたことを覚えているか?もちろん96%のユーザがそのボックスをクリックした。

(残りの4%は酔っ払いか、Facebookに雇われているか、酔っ払ったFacebookの従業員だったに違いない)

その結果、Facebookは監視から得られていた、少なくとも年間100億ドルの収益を失った。

ざまあみろw」キミたちはそう思ったはずだ。

だが、時を同じくしてAppleが始めたことに気づいただろうか? AppleはまさにFacebookと同じ方法でiOSユーザを監視し始めた。Facebookと競合する自社ターゲティング広告製品のために、監視データが必要だったからだ。

iPhoneは広告の見返りにタダで配られてるわけじゃないだろ? キミたちはその長方形に1000ドルもの大金を支払わされた。なのにキミたちはまだ製品なんだ。さらに、AppleはiOSを改造できないようにして、監視をブロックできないような小細工まで仕込んでいる。

製品に対価を支払っていないなら、あなた自身が製品で、製品に対価を支払ったなら、それでもなお あなたは製品だ。

農家だって知ってる。50万ドルで買ったトラクターが故障して、部品交換のために技術者を農場に呼びつけても、コンソールにパーツペアリングのアンロックコードを入力するまで部品は機能しない。そのコードの値段は200ドルだ。

ジョン・ディアはトラクターをタダで配っているわけじゃない。ジョン・ディアから50万ドルでトラクターを購入すれば、晴れてあなたは製品になる。

お願いだ、キリストの兄弟姉妹たちよ。どうか!「製品に対価を支払っていないなら、あなたが製品だ」とか言うのをやめてくれ。

OK、OK、これがメタクソ化の第2段階だ。

第1段階:ユーザをロックインしながら、ユーザを厚遇する。

第2段階:ユーザを少し冷遇して、ビジネス顧客に厚遇し、彼らをロックインする。

第3段階:誰もかれもを犠牲にして、すべての価値を独り占めする。クソ化したサービスにロックインし続けるための、最低限の効用だけを残して。

メタクソ化:3幕構成の悲劇。

これが外部から見たメタクソ化の姿だが、では企業の内部では何が起こっているのか? その病理学的メカニズムは何なのか? 優れたサービスをクソの山に変えてしまうSF的なエントロピー光線でもあるのだろうか?

そのメカニズムはいじくり回しtwiddling:トウィドゥリング)と呼ばれる。いじくり回しとは、誰かがサービスのバックエンドをいじって、その事業の運営方法を変更することだ。価格、コスト、検索ランキング、推奨基準、その他システムの基本的な側面が変更される。

デジタルプラットフォームはいじくり回しのユートピアだ。これが食料品店なら、腹ペコなヤツが来店したからって、値札ガンを手にローラーブレードで滑走するティーンエージャー軍団でもいなきゃ店内すべての価格を変更することはできない。

一方、マクドナルドの投資ポートフォリオ企業であるPlexureは、監視データを用いてアプリユーザの給料日を予測し、朝食のサンドイッチの価格に数ドル上乗せできるようにすると宣伝している。

そしてもちろん、ウィリアム・ギブソンが警告したように「サイバースペースは拡張する」。デジタル棚札があれば、食料品店は好きなときに価格を変更できる。ノルウェーの食料品店のように、電子インクの棚札は1日に2,000回だろうと価格変更し放題だ。

Uberドライバーには仕事ごとに異なる報酬が提示される。ドライバーが選り好みしているようなら仕事の単価は高くなり、ドライバーがアプリのどんなオファーだろうと必死に獲得していると見るや、報酬は下がって、下がって、下がって、下がる。

法学教授のヴィーナ・デュバルはこれを「アルゴリズム賃金差別」と呼んでいる。いじくり回しの典型例だ。

ユーチューバーなら誰でも、いじくり回されるとはどういうことかを知っている。何週間も何か月もかけて、何千ドルも費やしてビデオを作っても、アルゴリズムがすべてを決定する。チャンネル登録者であろうと、動画のタイトルを正確に入力して検索したユーザであろうと、誰にもその動画を見せない、という決定だってする。

なぜか? 誰にもわからない。アルゴリズムのルールは非公開だ。

コンテンツモデレーションは隠蔽によるセキュリティの最後の砦だ。アルゴリズムが何をダウンランクしているかを知られると、不正がはびこることになる――ということらしい。

Youtubeは、ルールに違反したら罰金を給料から天引きするがそのルールが何なのかは教えてはくれないクソボスのような存在だ。ルールを教えたらこっそりルールを破る方法を見つけ出すかもしれないから、とか言って。

もちろん、いじくり回しは一部のユーザに有利に働くこともある。時にプラットフォームは、エンドユーザやビジネス顧客を厚遇するためにいじくり回しを行う。

例えば、Forbesのエミリー・ベイカー・ホワイトは、Tiktokの管理者がアクセスする「加熱ツール」というバックエンド機能の存在を暴いた。

管理者がパフォーマーのアカウントに加熱ツールを適用すると、その動画は推奨アルゴリズムによる予測とは無関係に、数百万人ものユーザのフィードにねじ込まれる。

なぜそんなことをするのか? ここで、少年時代の思い出を話そう。毎年、夏の終わり頃にトロントにやってくる移動遊園地、カナディアン・ナショナル・エキシビジョンによく行った。移動遊園地に遊びに行ったことがあるなら、まるでコントみたいに巨大なテディベアを抱えている人を見かけたことがあるだろう。

表向きは、5つのボールをピーチバスケットに投げ入れられたらテディベアをゲットできるということになっている。だが実は、すべてのボールを籠に入れられないような細工がしてある。

その男がテディベアを「獲得」したのは、移動遊園地の巡回芸人が彼を指名したからだ。「お兄さん、君の顔が気に入った。こうしよう、1つでもボールを籠に入れられたら、このキーホルダーをあげよう。それでキーホルダー2つを集めたら、この超超巨大なテディベアと交換してあげよう」と。

かくして、その男は超巨大テディベアを手に入れ、これから1日中、移動遊園地のあちらこちらにそのテディベアを引きずり回さなきゃならなくなった。

いったいなぜ、巡回芸人はテディベアをくれてやったのか? そうすることで、その男が移動遊園地の歩く広告塔になるからだ。あのマヌケそうなユダの山羊(訳注:囮)でも5つのボールを入れられたんなら、自分にもできるかも、と思わせるために。

もちろん、できるはずもないのだけれど。

Tiktokの加熱ツールは、巨大テディベアを戦略的にくれてやる方法だ。Tiktokのブレーンが、プラットフォームにもっとスポーツ野郎(sports bros)を引き込む必要があると判断すると、ランダムに1人のスポーツ野郎に白羽の矢を立て、その日の王様にしてやる。彼のアカウントをクソほど加熱してやるんだ。

10億再生を獲得したソイツは、スポーツ野郎フォーラムを駆け回って自分の成功を吹聴する。「オレ様はスポーツ系インフルエンサー界のルイ・パスツールだ!

他のスポーツ野郎たちは色めき立ち、それまでのやり方を変えてTiktokの独特なフォーマットに合わせたコンテンツを作り始める。たとえ巨大テディベアが手に入らなくても、自分たちのTiktokのやり方が間違っているせいだと思い込む。そう、彼らは加熱ツールのことを知らないんだから。

だがある時、Tiktokの御前会議で、占星術師をもっと誘い込む必要があると決定される日が来る。かくしてあの幸運なスポーツ野郎から加熱が剥奪され、幸運な占星術師の加熱が始まる。

巨大テディベアは至る所にあった。10年前、NYTに時給50ドルを荒稼ぎしていると自慢したUberドライバーたち。札束を転がしていたSubstackerたち。1億ドルでSpotifyにスカウトされたジョー・ローガン。彼らは皆、巨大テディベアの誇り高き当選者であり、カモを誘い込むだ。

彼らがプラットフォームから1ドル得るごとに、インターネットのやり方が間違っているだけだと思い込むバカどもの5ドル分の無償奉仕が生まれる。

巨大テディベアはいじくり回しの一つの方法に過ぎない。プラットフォームはビジネスロジックのあらゆる要素で高度に自動化されたゲームを展開し、エンドユーザからビジネス顧客へ、あるいはその逆へと、機械のスピードでペテンを繰り返すことで、迅速かつ効率的に価値を吸い上げる。誰もが完全に翻弄され、すべての価値を独占するまでそれは続く。

これが「どのように」だ。プラットフォームがユーザを厚遇してロックインし、次にユーザを虐げてビジネス顧客を厚遇してロックインし、最後にすべての価値を自分たちで独占する手口だ。

さて、何が起こっているのか、そしてどのように起こっているのかはわかった。残る疑問は、なぜそれが起こっているのか、だ。

もちろん、なぜの答えは極めて明白だ。エンドユーザとビジネス顧客に渡る価値が少なくなるほど、株主と経営陣で分配できる価値は増える。

それがなぜの答えだが、じゃあなぜ今なのか? 企業は過去20年、いつだってこのクソッタレなことをできたはずなのに、そうしてこなかった。少なくとも、成功した企業はそうしなかった。自分たちをクソの山に変えた企業は、クソとしての扱いを受けた。我々はそうした企業を嫌い、彼らは死んだ。

MySpaceを覚えているだろうか? Yahoo Searchは? Livejournalは? もちろん、そのドメインにアクセスすれば今でもAIが吐き出したカスや自動広告のゴミを表示してはいるのだろうが、どれもただのゾンビだ

そこにヒントがある。かつては製品をメタクソ化するとその企業に報いが降り掛かった。だが今やメタクソ化に対する報いはない。だからこぞってやっている。

それを分解してみよう。何が企業のメタクソ化を阻んでいるのか?

テック企業を律する力は4つある。1つ目は言うまでもなく、競争だ。

顧客が簡単に離脱ができるなら、離脱されないように常に気にかけなければならない。

Facebookのネットワーク効果のように、プラットフォームの離脱のしにくさには様々な要因が影響する。だが、最も重要な要因は他に行き先があるかどうかだ。

2012年、FacebookはInstagramを10億ドルで買収した。ビッグテックが100億ドル単位で企業を買い漁っている現代にあっては、いささか小銭に思えるかもしれない。だが、あの無邪気な時代にはとんでもない大金だった。特にInstagramにとっては。従業員はわずか13人で、登録ユーザはたったの2500万人だったんだから。

しかし、ザッカーバーグにとって重要だったのは、Instagramのユーザ数ではなかった。そのユーザがどこから来ていたかだ。

[誰か、当時のInstagramユーザがどこから来てたか知ってるかい?]

そうだ、彼らはFacebookから逃げ出してInstagramに行き着いたんだ。彼らはFBにうんざりしていた。FBにいる友達は好きでも、薄気味悪いザックが嫌いだったし、そのプラットフォームも嫌いだった。だから彼らは去り、二度と戻ってこなかった。

そこでザックは、10億ドルで彼らを連れ戻した。彼はこの事実をCFOのデビッド・エバースマンへの真夜中のメールに書き記している。Instagramを法外な金額で買収するのは、ユーザたちが彼を嫌い、Instagramを愛しているからだと説明した。だから、買収してしまえば、彼らがFacebook(プラットフォーム)から離脱しようと、Facebook(企業)に捕らえられたままにできる。

さて、理屈の上ではザックのInstagram買収は違法だ。しかし通常、その阻止は難しい。なぜなら、競争を妨害するためにInstagramを買収したことを証明する必要があるからだ。

しかしこの時、おごれるザックは自爆した。それを書き残してしまったのだ。

にもかからわず、オバマ政権の司法省とFTCは黙認した。レーガン、ブッシュ1世、クリントン、ブッシュ2世から連綿と続いてきた独占保護政策を継続した。そしてトランプはその前例を踏襲し、壊滅的で近親相姦的なワーナー=ディスカバリーような巨大合併を承認したんだ。

この40年間、米国は公式な政策として独占形成を奨励してきた。それは、カーター政権に始まり、レーガン政権で加速した。独占は「効率的」だという理由からだ。

「もし誰もがGoogle検索を使っているなら喜ばしいことじゃないか。誰もが最良の検索を手にしているってことなんだから。彼らが最良の製品を作ったことで罰せられるのは間違っているし、しかも罰するのに公的資金を投入するなんておかしくないか?」

しかしご存知のように、Googleが検索市場を独占しているのは、最良の検索エンジンだからではない。賄賂をばらまいているからだ。Appleには年間200億ドル以上の賄賂を払ってiOSのデフォルト検索エンジンにしてもらい、Samsung、Mozillaなど、検索ボックスのあるありとあらゆる製品やサービスにも数十億ドルを支払っている。Googleより優れた検索エンジンにうっかり出会ってしまわないように。

その結果、ライバルの検索エンジンはどれほど優れていようと、投資の対象ではなくなった。製品に命が吹き込まれる前にGoogleが市場の酸素を買い占めてしまったというのに、より良い検索エンジンを作る意味などあるだろうか?

Facebook、Google、Microsoft、Amazon は「モノを作る」企業ではなく、「モノを買う」企業だ。反トラスト法で禁止されている反競争的買収、略奪的価格設定、市場を歪める排他的取引、その他の行為に対する黙認を知ってて利用している。

彼らの目標は、大きすぎて潰せない企業になることだ。なぜなら、大きすぎて罰することができず、大きすぎて気にしなくて良い企業になれるからだ。

そうして、Google検索はクソの山となり、Amazonは箱を開けた途端に揮発性有機化合物が充満してたちまち分解してしまうドロップシッピングのゴミであふれる。

ライバルに顧客を奪われる心配をしなくてすむようになると、企業は顧客を粗末に扱うことが格段に容易になる。だって、顧客にできることは何もないんだから。

SNLの古いコントで、リリー・トムリンがAT&Tのオペレーター、アーネスティンを演じていたのを覚えているだろうか?「私たちは気にしません。気にする必要がありません。だって電話会社なんですもの」。(訳注:当時、AT&Tは米国電話通信事業で事実上の一社独占体制を敷いていた)

競争は企業を律し、その経営陣のメタクソ化衝動を抑制する第一の力だ。だが、我々は競争法の執行を止めてしまった。

メガネからビタミンCに至るまで、あらゆる業界が5社以下のカルテルに収斂したのは独占を奨励した政策とは無関係だと主張するなら、そいつはツルツル脳みそのマヌケ、つまり体制派エコノミストだ。

まるで、かつてネズミ駆除剤を撒いていたがネズミには害はなかったと言っているようなものだ。このマヌケどもは、ネズミは我々にとって良き存在だと吹聴して回り、我々にネズミ駆除剤を撒くのを止めさせた。そして今やネズミが我々の顔をかじり散らすようになった。連中はこう言い放つ。「これらのネズミがどこから来たのか誰にわかろうか? おそらくネズミ駆除剤を撒くのをやめたからだろう。でもおそらくこれは、ネズミの時代の到来を告げているのだ。歴史の偉大な力がこの瞬間に押し寄せ、ネズミを計り知れないほどに増殖させているのだ!」

反トラスト法は、階段を滑り落ち、たまたまそこにあった短剣に背中を貫かれたわけではない。背後から刺され、その後で突き落とされたのだ。

彼らは反トラスト法を殺すのと同時に、規制も殺した。規制は企業を律する2番目の力だ。規制は可能だが、それは規制当局が規制対象よりも強力な場合に限られる。企業が政府よりも大きくなれば、その企業の罪が何であれ、罰するぞと脅したところで企業は言うことを聞かなくなる。

それがIBMが十数年もの間、米国テック業界の喉元を締め続けられた理由だ。司法省は1970年から1982年までの12年間、IBMの解体を求めて法廷で戦い続けた。だが、IBMがこの訴訟で米国政府と戦うためだけに費やした弁護士費用は、司法省反トラスト局が米国全土のすべての反トラスト事件に費やした予算を12年連続で上回っていた。

IBMは12年にわたり、この「反トラストのベトナム戦争」とも呼ばれる裁判で、アンクル・サムを上回る支出をし続けた。そして、IBMが費やした金は報われることになる。1982年までに、独占を「効率的」とする政策を掲げるロナルド・レーガンが大統領になったからだ。レーガンは訴訟を取り下げ、ビッグブルーは逃げ切った。

独占企業を規制するのは難しく、カルテルを規制するのも難しい。一方、何百もの競合企業で構成される業界では、企業同士が競争する。顧客や従業員を奪い合うために企業同士が本気で争う。企業同士が互いに熾烈な競争を繰り広げる。

数百人の経営者が何かについて合意に達するのは難しい。彼らが正当に競争し、本気で潰し合っているならなおさらだ。

そうした状況であれば、そのうちの一社が、「きめ細かい商業監視なしではまともな検索エンジンはあり得ない」とか「どのソフトウェアが実行できるかについて全面的な拒否権なしではセキュアで使いやすいモバイル機器は作れない」とか「『優先レーン』に賄賂を払わないサーバへの接続速度を遅くできないなら、ISPのネットワーク管理は不可能だ」というクソみたいな話を規制当局に持ち込むやいなや、他の企業から「そんなのデタラメだ。我々はそれを実現している! その証拠に、我々のサーバログ、四半期ごとの財務報告書、顧客の証言を提出したっていいんだぞ」という声が上がる。

100社は有象無象の暴徒だ。ロビー活動の方針をまとめることなどできやしない。お互いに潰し合うなかで、それを話し合う会議の開催方法すら意見がまとまらないのだ。

だが、その100社が合併し、近親相姦的な大乱交で互いを吸収し、ハプスブルク家のあごを持つほど近親交配を繰り返すと、5つの巨大独占企業へと収斂し、カルテルが形成される。

カルテルであれば、規制当局にデタラメを吹き込んでやろうという方針に合意するのは簡単だ。そして統合によって「無駄な競争」から開放され、手に入れた数十億ドルもの余剰資金の一部を流用して、規制当局を完全に掌握することもできる。

ご存知のように、連邦議会はかつて消費者プライバシー保護法を可決していた。だが、それもいまや過去の話だ。

連邦議会が可決した最後の消費者プライバシー法は、1988年のビデオプライバシー保護法だ。これは、ビデオ店の店員が、顧客の借りたVHSテープの情報を新聞社に漏らすことを禁じた法律だった。つまり、事実上存在しなくなった3つのものを規制している。

ビデオのレンタル履歴が公の目に触れる脅威は、アメリカ国民が直面した最後の脅威でもなければ、最も緊急の脅威でもない。にもかかわらず、議会はプライバシー法の制定に行き詰まっている。

テック企業による規制の虜は、あまりに愚かで、あまりに見え透いた策略だ。実際、その愚かさは際立っていて、世の中に存在する他のすべての、それなりに練られた愚かな策略まで侮辱するほどだ。

連中は消費者、プライバシー、労働者の権利を侵害しても、それがアプリ上で行われているのだから犯罪ではないと主張する。

アルゴリズムによる賃金差別は違法な賃金泥棒ではない。なぜなら、アプリでそれを行っているからだ。

キミたちのケツの穴から欲求まで監視してたってプライバシー侵害ではない。なぜなら、アプリでそれを行っているからだ。

なら、Amazonの詐欺的な検索広告が、キミたちが本当に必要としている商品より29%高い商品を買わせているのは? ぼったくりではない。なぜなら、アプリでそれを行っているからだ。

競争を殺せば/ネズミ駆除剤を置くのをやめれば、カルテルができる/ネズミが我々の顔を食い尽くす。そしてカルテルは規制当局を虜にする/ネズミは毒餌工場を買収して閉鎖する。

だから企業は競争や規制に制約されない。

だが、知っているだろうか? これはテクノロジーの話だ。テクノロジーは他の領域とは違う。柔軟性があるんだ。我々のコンピュータはチューリング完全万能フォン・ノイマン型マシンなんだ。つまり、プログラムを変更してメタクソ化できたなら、別のプログラムで脱メタクソ化できるということだ。

HPがインクを値上げするたびに、ライバルが補充キットや互換カートリッジを市場に投入する余地が生まれる。

テスラが追加の月額サブスクリプションに加入しない限りバッテリーの機能を制限するコードを仕込むなら、バッテリーを脱獄してフル充電できるようにするキットを販売するいじり屋を呼び寄せる。

この仕組みを説明しよう。ウェブサイトの製品デザイン会議に参加したつもりで聞いてくれ。会議を仕切っているヤツがこう言った。「みんな、我々のKPIが広告収入のトップラインだってのは知ってるよな? 試算してみたんだが、広告をたった20%だけ押し付けがましく不愉快なものにすれば、広告収入を2%増やせるんだ」

いいピッチだ。そのKPIを達成すれば、全員がボーナスを大盤振る舞いしてもらえる。スイスで家族と贅沢なスキー休暇を過ごせるぞ。

だが、ここで問題が発生する。誰かが腕を突き上げてこう言った。「なあ、イーロン、君の考え方は気に入っている。でも広告を20%より不快にしたら、ユーザの40%が検索エンジンに『広告をブロックする方法』と入力するようになるって考えたことはある?」

なんて悪夢だ! いったんそうされてしまったら、そのユーザからの収入は102%に上がるわけでも、100%をキープできるわけでもない。それはゼロになる。永遠に。

[なぜだかわかる?]

ユーザが検索エンジンに戻って「広告をもう一度見る方法」と入力することはありえないからだ。

ユーザが一度スマートフォンを脱獄したり、サードパーティのインクがあることを知ったり、車内のすべてのDLCをアンロックしてくれる独立系テスラメカニックとの関係を築くと、そのユーザは永遠に消え失せる

相互運用性、つまりチューリングとフォン・ノイマンが我々に遺してくれた、無限に柔軟で万能なマシンがもつ潜在的特性は、メタクソ化に対抗する強力な抑止力だ。

議会が1988年以来プライバシー法を可決していないという事実は、少なくとも部分的には、現在大多数のウェブユーザが広告ブロッカー(であり追跡ブロッカー)を使用しているという事実によって相殺される。

しかし、アプリの追跡ブロッカーをインストールできた者はいない。アプリをリバースエンジニアリングしたら、デジタルミレニアム著作権法第1201条の下で刑事・民事訴訟の危険にさらされるからだ。初犯でさえ禁錮5年、罰金50万ドルだ。

さらに、利用規約に違反すると、1986年のコンピュータ詐欺・濫用防止法違反で捕まるかもしれない。これはロナルド・レーガンが映画『ウォーゲーム』を見てパニクって署名した法律だ(マジで!)。

他のユーザの利用規約違反を助けると、契約妨害の不法行為で訴訟を起こされる可能性もある。さらに商標、著作権、特許権の問題もある。

「知的財産権(IP)」と呼ばれるこれらのナンセンスは、Cydiaのジェイ・フリーマンの言う「ビジネスモデル侮辱罪」として機能している。

さて、製品デザイン会議に戻ろう。今度はアプリについて議論する番だ。会議を仕切っているヤツがこう言った。「よし、アプリの広告を20%ほど不愉快にして、トップラインの広告収入を2%増やすのはどうだ?」

ウェブサイトを20%改悪することに異議を唱えたヤツは? 再びソイツの手が上がる。「いや、広告を100%押し付けがましくして、広告収入を10%増やすのはどうだ?」

ユーザが検索エンジンで「アプリの広告をブロックする方法」と入力しても関係ないからだ。「できない」んだから。OK、やっちまおう、好きなだけメタクソ化しちまおうぜ。

「知的財産権」とは、「自社の批判者、競合他社、顧客を強制的にコントロールするために、自社の影響圏を超えた支配力の行使を可能にするあらゆる法律」の婉曲表現だ。そして「アプリ」は、「使用したならば、ユーザのあらゆるプライバシー保護策を重罪にできる適切な知的財産権でスキンされたウェブページ」の婉曲表現だ。

かつて、相互運用性は企業のメタクソ化を防いでいた。企業がクライアントを台無しにしたら、誰かが代替クライアントを開発した。企業が機能を削除して有料サブスクリプション化すれば、誰かが買い切りか無料で機能を復元する互換プラグインを提供した。

かつてFacebookは、MySpaceからの逃亡を助けるために、ログイン認証情報を読み込ませるボットを提供した。このボットは、MySpaceメッセージをスクレイピングしてFacebookの受信トレイに表示し、その返信をMySpaceにログインしてMySpaceの送信トレイに投げ込んだ。これにより、MySpaceの愛する人々と別れることなく、Facebookに逃亡できたのだ。そう、絶対にキミたちを監視しないという約束で立ち上げられたFacebookにね!

知的財産権があちこちに転移したおかげで、今日ではそんなことは起こり得なくなった。AppleはiWorkスイート、つまりPages、Numbers、KeynoteとMicrosoftのWord、Excel、PowerPointとのファイル互換性のおかげで、現在も存在している。だが、他のプラットフォームでAppleのストアから購入したファイルを再生できるiOSランタイムを作ろうものなら、連中は消し炭さえ残さないほどの核攻撃を仕掛けてくる。

FBは、スクレイピングなしにはソーシャルメディアにおけるMySpaceの支配を打倒することはできなかった。だが今日、FBをスクレイピングして代替クライアントをサポートすれば、連中の弁護士はキミたちと瓦礫の見分けがつかなくなるほど爆撃してくる。

Googleは世界中のすべてのウェブサイトをスクレイプして検索インデックスを作成した。だがそのGoogleをスクレイピングすれば、連中はキミたちを晒し首にするだろう。

連中がそうしたとき、それは進歩だった。だがキミたちが連中にそうするのであれば、それは海賊行為だ。海賊は皆、提督になりたがる。

この少数企業が規制当局を完全に掌握しているため、彼らは自らの支配を打倒しようとする人々に対して、国家権力を振るうことができる。一方で、彼ら自身が我々の権利を露骨に侵害したとしても処罰されることはない。なぜなら、アプリでそれを行っているからだ。

テクノロジーは競争に対する恐れを失い、規制当局からの脅威を無力化するだけでなく規制当局を手駒にして、自分たちがやってきたことを自分たちにしようとするかもしれない新興企業を攻撃させてきた。

しかし、それでもなお、そのボスを抑制する力があった。その力こそ我々、テックワーカーだ。

テックワーカーは歴史的に供給不足で、そのことが我々に力を与え、ボスたちもそのことをよく知っていた。

我々を狂ったような時間働かせるために、連中はあるトリックを思いついた。我々のテクノロジーへの愛に訴え、我々が「世界の情報を整理して役立つものにする」デジタル革命のヒーローであり、「世界をより近づける」存在だと褒めそやしたんだ。

彼らはプロの舞台監督を雇い、我々の職場を無料ランドリーサービス、グルメカフェテリア、マッサージ、紅茶キノコを完備したキテレツなキャンパスに変えた。生殖可能年齢を通じて仕事を続けられるよう、卵子凍結保存を処置できる外科医も手配した。

たしかに激務ではあるが、官僚のように単調で創造性のカケラもないクソ仕事ではなく、素晴らしい環境・待遇で迎えられ、やりがいのある仕事を与えられていると信じ込まされた。

このトリックには名前がある。図書館理論家のフォバジ・エッターは「職業的畏敬」と呼び、イーロン・マスクは「極度にハードコア」と呼ぶ。

これは非常にうまくいった。ああ、我々はクッソ長時間働いた!

しかし我々のボスたちにとって、このトリックは大失敗だった。なぜなら、母親の葬式を欠席してでもデッドラインを守ったその製品をメタクソ化せよと命じようものなら、その従業員は著しい精神的苦痛を経験し、必ずその怒りをボスにぶつけてくる。

ボスに何ができる? 解雇する? 代わりの人材もいないのに? 従業員は解雇されたって、その日のうちに、次のもっといい仕事を見つけられた。

競争、規制、相互運用性がうまくいかなくなっても、テックワーカーたちが踏ん張ってくれた。

しかしついに、供給が需要に追いついた。テクノロジー業界は昨年26万人を解雇し、今年上半期にさらに10万人を解雇した。

キミたちはボスに「くたばれ」とは言えなくなった。そう言った途端にクビになり、代わりの人材が喜んでキミたちの製品をメタクソ化するだろう。

これがまさに、「いま」起こっている理由だ。我々のボスが変わったわけじゃない。連中が精神ウィルスに感染して、ユーザの幸福や製品の品質を気にかけない貪欲クソ野郎になったんじゃないんだ。

ボスたちにとって、ビジネスとは、常に最も稼げて、最も安上がりで、サプライヤ、労働者、ユーザ、顧客と可能な限り分配しないことだった。彼らは慈善事業をしているわけじゃない。

ボスたちは出社初日から、デスクの後ろにあるでっかいメタクソ化レバーを力の限り引っ張ってきた。ただ、そのレバーはあまり動かなかった。競争、規制、相互運用性、労働者という力が、それを妨げていたからだ。

摩擦がなくなるにつれ、メタクソ化レバーは自由に動き始めた。

最悪だ。ただ、ここで少し考えてみてほしい。我々のボスは、際限のない強欲やズルを正当化できるほどのダメ人間なはずなのに、それまで素晴らしい製品やサービスを次々に生み出してきたのはなぜなのだろうか。

それは、彼らがかつては善人だったからではない。かつては規律に従わされていたからだ。

したがって、メタクソ世を終わらせ、メタクソネットを解体し、我々のボスたちが台なしにできない新しき良きインターネットを構築したいのなら、これらの制約をインターネットの根幹と神経にしっかりと巻き付けなければならない。そして、それが再び解体されないよう、監視し続けなければならない。

新しき良きインターネットは、古き良きインターネットの良い面を併せ持っている。それは技術的自己決定の倫理であり、テクノロジーユーザ(その彼らの代理たるハッカー、いじり屋、新興企業など)が、テクノロジーを再構成・改造して、自分のニーズに合わせて使えるようにしたり、自分に敵対的に使用されないようにできることを意味する。

しかし新しき良きインターネットは、古き良きインターネットの欠陥を修正する我々以外には使いにくかったという問題を修正するんだ。もちろん、我々はそんなインターネットを作れる。テック企業のボスたちは、それは不可能だと断言する。ザックに知られることなく友人と会話することはできないし、Googleに自分の情報を根こそぎ収集されることなくウェブを検索することはできないし、Appleにインストールできるソフトウェアの決定権を委ねることなく、信頼性の高いスマートフォンを手にすることなんてできない、と。彼らはその世界が続くことを望んでいるからだ。

これを覆そうと考えることすらナンセンスだと言う。湿っていない水を作るようなものだ、と。だが、そいつはデタラメだ。我々は素晴らしいインターネットを作り出せる。愛する人々のために、彼らの時間と注意に値する場を構築し、与えられる。

そのためには、制約をインストールしなければならない。

当然、最初の制約は競争だ。今、競争政策の画期的な転換点を迎えている。反トラスト法の執行が昏睡状態にあった40年を経て、世界中で反トラスト法の強化に向けた動きが加速している。規制当局は独占的慣行の禁止、囲い込み戦略の開放、反競争的合併の阻止、さらには虚偽の口実で実施された腐敗合併の解消に乗り出している。

通常なら、ここは過去4年間で起こったすべての驚くべき出来事をリストアップするパートだ。企業が気にするには大きすぎるようになるのを阻止し、試みることさえ怖がらせる執行措置を。

例えば、史上最大の買収提案をあっさり断ったWiz。Googleからの230億ドルのオファーを断り、人々が欲しがる製品を競争力のある価格で作って販売することでお金を稼ぐ、ただのスゴい企業になることを決めた。

通常なら、ここは、FTCが全米で非競争条項を禁止した規則制定をリストアップしたり、FTCと司法省が作成した新しい合併ガイドライン(とりわけ、合併がプライバシーに悪影響を与えるかどうかを機関が考慮すべきだと定めている点について)をリストアップしたりするパートだ。

私のノートには、このセクションで語るべき数々の出来事がメモされている。まさに勝利のパレードといったところだが、今週それらをすべて削除した。

[なぜだか分かるか?]

そうだ! 今週、アメリカ合衆国コロンビア特別区巡回裁判所のアミット・メータ判事が、20-3010号事件、United States v. Google LLCとして知られる事件で判決を下し、「Googleは独占企業であり、その独占を維持するために独占企業として行動してきた」と認定し、Googleと司法省に企業分割などの是正措置のスケジュールを提案するよう命じたからだ。

だから、そう、これはマジでクソほどすげぇことだった。

さて、反トラスト法の話はかなり難解で、この話題に苦手意識を持っているかもしれないが、私はキミたちを置いてけぼりにするつもりはないし、よく知らないことを恥じなくてもいい。ほとんどの人は反トラスト法なんてよく知らないし、それでいい。ただ、あまり詳しくないと、おそらくこの問題の全体像を把握しきれないかもしれない。独占企業はそれを承知の上で、情報を氾濫させ、状況を混乱させている

ウォール・ストリート・ジャーナルは、FTC議長のリナ・カーンを非難する100本以上の社説を掲載した。彼女は無能な給料泥棒で人間で、勝つ見込みのない理想主義的な火遊びで罪のない哀れな企業を攻撃して公金を浪費しているんだ、と。

[さてウォール・ストリート・ジャーナルのオーナーは?]

そう、ルパート・マードックだ。ルパート・マードックがWSJの編集委員会に、何もしていない人物について100本もの社説を書くために金を払っているとでも?

現実には、米国、英国、EU、オーストラリア、カナダ、日本、韓国、そして中国でさえ、この4年間で、過去40年間よりも多くの反トラスト法に関連した措置が取られている。

競争は実際にはかなり強力であることを覚えておいてほしい。問題は法律ではなく、執行の優先順位だ。レーガンは40年前に反トラスト法を仮死状態にしたが、文明化された時代から受け継いだこの優れた武器は、今やその扱い方を心得た人々の手に再び戻り、今まさにその一太刀を振り下ろそうとしている。

次は規制だ。

テクノロジー大手の強力な力が、常にペテンであったことが明らかになるにつれ、政府と規制当局はついに「おかしなトリック」、つまり法律を違反しても「それはカウントされない、アプリでやったことだ」というトリックを殺すだろう。

EUは今年に入り、デジタル市場法を展開している。支配的なプラットフォームにAPIを公開させ、サードパーティが相互運用可能なサービスを提供できるよう義務づけるする法律だ。

つまり、協同組合、非営利団体、趣味の人、スタートアップ、あるいは地方自治体の機関が、支配的なソーシャルメディアと相互接続できるソーシャルメディアサーバを提供できるようになる。ユーザが新しいプラットフォームに切り替えたとしても、フォローしていたユーザやグループとメッセージを交換し続けられるので、スイッチングコストはほぼゼロにまで低下する。

実にクールなルールだが、さらにクールなのはどのように施行されるかだ。以前のEUのテクノロジー規則は、GDPRのような「規則」だった。そう、一般データ保護「規則」なんだ。EU規則は27のEU加盟国それぞれの法律に「置き換え」られなくちゃいけないし、その国内法は国内の裁判所が判断する。

つまり、ビッグテックにとっては、すべてのテクノロジー規制がアイルランドで施行されることを意味した。アイルランドはタックスヘイブンで、すべてのテクノロジー企業がアイルランド国旗を便宜的に掲げている。

ここで問題なのは、タックスヘイブンは犯罪ヘイブンでもあるということだ。もしGoogleが今週アイルランド企業になりすますことができるなら、来週はキプロス、マルタ、ルクセンブルク企業になりすますこともできる。だからアイルランドは、荷物をまとめて他の国に移転されないように、こうした移り気な犯罪企業を喜ばせておかなければならない。

これが、GDPRがクソみたいな冗談である理由だ。ビッグテックはGDPRでケツを拭く。連中を罰しようにも、その手続は必ずアイルランドのプライバシー委員会から始まる。この機関は、ベッドから起き上がろうともしないし、パジャマのままテレビでアニメを見ながらシリアルを貪ることに時間の大半を費やしている。だから、重大なGDPR案件は、すべてアイルランドに行き、そこで死ぬ。

これは秘密でも何でもない。欧州委員会もよく知っている。そこで欧州委員会は、DMAを「規則」ではなく「法律」にした。つまり、アイルランドのような犯罪ヘイブンの国内裁判所ではなく、EUの連邦裁判所で施行されるようにしたんだ。

つまり、やる気のないアイルランドのプライバシー機関には通用した「プライバシー法を破ってもアプリだから無問題」なんて言い訳は、もはや通用しない。EUの裁判官がそんなあからさまなデタラメを鵜呑みにする理由なんてないんだから。

そしてここ米国でも、ついに連邦消費者プライバシー法のダムが決壊しつつある!

プライバシー保護法が最後に制定されたのは1988年で、VHSレンタル履歴の神聖さを守るためのものだった。ずいぶんと昔の話だ。

そして、アメリカの悲惨なプライバシー保護がもたらしている状況に、多くの人々が怒っている。FacebookのせいでおじいちゃんがQアノンになっちゃった? Instagramのせいでティーンエイジャーが拒食症なった? TikTokがミレニアル世代を洗脳してオサマ・ビン・ラディンの言葉を引用させている? 警官がGoogleから位置情報を入手して、ブラック・ライヴズ・マターデモや1月6日暴動の参加者の身元を特定したのでは? レッドステートの司法長官が10代の少女を州外の中絶クリニックまで追跡してるんじゃないか? 黒人がオンライン融資や雇用プラットフォームで差別されている? 誰かがあなたのAIディープフェイクポルノを作っている?

連邦プライバシー法に私訴権を盛り込む、つまりプライバシーを侵害した企業を個人が提訴できるようにすれば、こうした問題は解決に向けて進み始めるだろう。

このようなプライバシー法を求める連合はとても大きい! だからこそ、不完全な(しかし着実に改善されている)プライバシー法が次々と議会に提出されているんだ。

eff.orgでEFFのメーリングリストに登録すれば、このような法案が出てきた時ににメールが届く。そうすれば、あなたの議員や上院議員に電話できるだろう。ただもっと良いのは、彼らが選挙区にいるときに事務所での面談のアポを取って、キミが単なる有権者ではなく、Defconに来るようなテクノロジストであることを説明し、そして法案について説明するんだ。そうすれば状況は変わっていくだろう。

自助についてはどうだろうか? ハッカーが議会や連邦機関の行動を待たずに、ただクソを修正できるように、相互運用性を再び合法化する取り組みに進展はあるだろうか?

この会場での全てのアクションが、修理する権利(R2R / Right to Repair)を求める州レベルの戦いにつながっている。州レベルでは修理する権利運動は着実に進展している。例えばオレゴン州では今年、DRMによって認定技術者が発行するロック解除コードを取得するまでデバイスに新しい部品を認識させないパーツペアリングを禁止する法案が可決した。

これらの法案を推進しているのが、Repair.orgのRepair Coalitionという素晴らしい組織連帯だ。彼らもこうした法案がキミらの州議会に提出されるとメールで知らせてくれるので、州議会議員に面会して説明できる。

Repair.orgの推進役は、修理革命の真のヒーロー、Ifixitだ。そのIfixit創設者のカイル・ウィーンズが、このコンベンションに参加している。彼を見かけたら、握手をして感謝を伝えよう。repair.orgの通知を受けるためにサインアップしたよと伝えたら、もっと喜んでくれるぞ!

さて、最後に、メタクソ化を逆転させ、その新しき良きインターネットを構築する最後の方法を話そう。キミたち、テクノロジー労働者の力だ。

キミたちのボスは長年、キミたちを創業者予備軍で、不本意ながら一時的に給料をもらっている起業家だと思わせてきた。

キミたちは確かに労働者ではなかった。キミたちの力は、労働組合の怠け者連中とは違って、アホみたいな団結の歌で連帯することによってではなく、キミたちの本質的な美徳によって生み出されていたんだ。

――というトリックだった。騙されてたんだよ。キミたちが持っていた力は希少性に立脚していた。そしてその希少性が消え去り、業界が年間6桁規模のレイオフを始めたとき、キミたちの力も一緒に消え去った。

今やテックワーカーにとって唯一の持続的な力の源は、労働者として、組合として活動することだ。

Amazonを考えてみよう。倉庫労働者はボトルに小便をしなければならず、同業他社の中で最も高い割合で労働災害に見舞われている。一方、Amazonのコーダーは、顔にピアスを付け、緑のモヒカン、そしてボスが理解できないことが書かれた黒いTシャツを着て出勤ができる。何より、好きなときに小便できる!

だたそれは、ジェフ・ベゾスやアンディ・ジャシーがキミたちを愛しているからじゃない。キミたちに辞められたくない、キミたちの代わりがいないからだ。

ウィリアム・ギブソンの言葉をもう一つ引用しよう。「未来はここにある。ただ、まだ均等に分配されていないだけだ」。じゃあ、未来を生きているのは誰だ? Amazonのブルーカラー労働者たちだ。彼らこそ最先端だ。

AIカメラで眼球を監視され、顔のデジタル骨相学で減給すべきかを判断されるドライバーたち。たった数ヶ月で体がボロボロになる倉庫作業員たち。

テック企業のボスたちが、レイオフ予備軍の熟練テックワーカー軍団を増強していけば、テックワーカーたち、つまりキミたち全員が彼らと同じ未来にたどり着くことになる。

キミたちがこれまで、ボスに理解できるような言葉で自社製品のメタクソ化を拒否し、メタクソ化に抗ってきたことはよく知っている。その貢献には感謝しかない。

しかし、ユーザのために戦い続けたいのなら、希少性よりも耐久性のある力が必要だ。組合が必要だ。どうすればいいかを知りたいか? Tech Workers CoalitionとTech Solidarityをチェックして、組織化しよう。

メタクソ化は我々のボスが変わったから起こったのではない。連中は常にそういう連中だった。

常に役員室でメタクソ化レバーを引っ張っていた。

変わったのは環境だ。そのレバーに抗っていたものすべてが変わったんだ。

これは、一周回って良いニュースだ。不完全な人間でも優れたサービスを作り出せるってことなんだから。私自身、不完全な人間だ。こんな心強いことはない。

新しき良きインターネットは我々の手の届くところにある。古き良きインターネットの技術的自己決定と、Web 2.0の滑らかなシンプルさを兼ね備えたインターネットだ。我々の普通の友人たちも全員が参加できるインターネットだ。

テック企業のボスたちは、優れたUXとメタクソ化は絶対に切り離せないと思わせたいんだ。嘘八百の身勝手な主張だ。我々はそれを知っている。なぜなら、我々は古き良きインターネットを構築し、過去20年間にわたって、それを維持するための後方支援を続けてきたんだから。

守勢に回るのはもう終わりにしよう。攻撃に転じる時が来た。競争、規制、相互運用性、テックワーカーの力を取り戻し、ファシズム、気候変動危機、ジェノサイドと戦うために、新しき良きインターネットを作り出そう。

我々の子供たちが成長し、繁栄できる21世紀のデジタル・ナーバス・システムを構築しようじゃないか。

(Image: Marco Silva, @fak3r@mastodon.social, CC BY 4.0, cropped)

Pluralistic: “Disenshittify or Die” (17 Aug 2024) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: August 17, 2024
Translation: heatwave_p2p

カテゴリー: AntitrustMonopoly