以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Academic economists get big payouts when they help monopolists beat antitrust」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

40年にわたる企業犯罪の横行の末、新たな保安官、ジョナサン・カンターが登場した。彼はバイデン政権により司法省反トラスト局局長に任命され、過去2年半で170件もの「重要な反トラスト訴訟」を監督してきた。その集大成として、Googleが違法な独占企業であると裁判所で判決が下された。

https://pluralistic.net/2024/08/07/revealed-preferences/#extinguish-v-improve

カンターの仕事は驚異的であると同時に、時代の要請に応えるものでもある。カンターは最近、フォーダム大学ロースクール競争法研究所が主催した「第51回国際反トラスト法・政策年次会議」の基調講演で、我々は反トラスト法の世界的な復活という歴史的な瞬間を目撃していると述べた。

https://www.justice.gov/opa/speech/assistant-attorney-general-jonathan-kanter-delivers-remarks-fordham-competition-law-0

カンターの驚くべき法執行の実績は、単に米国内のトレンドだけにとどまらず、世界的な潮流の一環でもある。FTC、CFPBなど他の機関の同僚たちも、何世代も見られなかった反トラスト法の執行を推進している。また、カナダ、英国、EU、韓国、オーストラリア、日本、そして中国でさえも、反トラスト法執行官たちが企業の独占状態を打破することを目指している。彼らは、これらの巨大企業に対して印象的な勝利を収めるとともに、企業の傲慢さをも打ち砕こうとしている。結局のところ、法執行の目的は不正行為を罰することだけでなく、他者の不正行為を抑止することにもある。

つい最近まで、企業は違法な計画(合併、略奪的価格設定、抱き合わせ販売、取引拒否など)を恐れることも躊躇することもなく進めてきた。今や、これら常習犯の多くが悪習を断ち切り、試みることすら諦めている。例えば、スタートアップ企業のWizは、Googleの過去最高額となる230億ドルの買収オファーを断った。その理由は、その試みが価値以上の反トラスト法の精査を招くことを理解していたからだった。

https://finance.yahoo.com/news/wiz-turns-down-23-billion-022926296.html

反トラスト法の復活は歓迎すべきことだが、同時に重要な疑問も投げかける。なぜ我々は、レーガン政権からバイデン政権までの40年間、反トラスト法を執行しなかったのか。

これこそがカンターの発言の大半が向けられているポイントである。端的に言えば、不誠実な経済学者たちが独占企業や独占を志向する企業から賄賂を受け取り、独占企業の影響に関する研究を捻じ曲げ、独占は良いものであり効率的だと証言して(文字通り)何百万ドルもの金を手にしたのである(1億ドル以上を稼いだヤツもいる)。

つまるところ、政府の役割は単にルールを執行することだけではない。まずルールを作らなければならないし、そのためには世界がどのように機能しているかを理解し、破綻している部分をどのように修復すべきかを把握しなければならない。そこで専門家が登場し、規制当局の記録や陪審員の耳に、自身の研究に基づく真実で事実に基づいた証言を届けるのである。もちろん、専門家も間違うことはあるが、システムが適切に機能しているのであれば、その間違いは「偶発的」なものにすぎない。

しかし、システムは適切に機能していない。1950年代、タバコ業界は喫煙がガンを引き起こすという科学的コンセンサスの高まりに脅威を感じていた。業界の科学者たちもこの発見を確認した。それに対し、業界は統計学者、医師、科学者たちに金を握らせ、タバコとガンの関連性について欺瞞的な研究報告書や証言を作らせた。

この取り組みの目的は、必ずしもタバコが安全だと人々を説得することではなかった。むしろ、タバコの安全性が根本的に答えの出せない問題であるという印象を作り出すことだった。「専門家の意見が分かれている」のであり、あなたには誰が正しくて誰が間違っているかを判断する資格がないのだから、考えるのをやめてタバコに火をつければいい、というわけである。

言い換えれば、ビッグ・タバコによるガン否定の筋書きは、「真実」への攻撃というよりも、認識論(何が真実で何が真実でないかを見極めるシステム)への攻撃だった。この戦術は驚くほど効果的だった。タバコ大手は何百万人もの人々を罰せられることなく殺しただけでなく、そこから数十億ドルの利益を得ることができたのだ。

それ以来、認識論は持続的な攻撃にさらされてきた。1970年代までに、ビッグ・オイルは自社製品が地球を人間の居住には適さない惑星にしてしまうことを知っていた。そして、ビッグ・タバコの大量殺人を幇助したのと同じ企業を雇い、自らのスローモーションのような、惑星規模の殺人行為を隠蔽させた。

何度も何度も、大企業は認識論への攻撃を用いて、想像を絶するほどの犯罪の隠れ蓑としてきた。このことが今日の認識論的危機を引き起こしている。我々は何が真実かについて単に意見が分かれているだけでなく、(そしてはるかに重要なことに)真実をどのように知ることができるかについて意見が対立しているのだ。

https://pluralistic.net/2024/03/25/black-boxes/#when-you-know-you-know

陰謀論者に、なぜQアノンやスプリングフィールドのハイチ人がペットを食べているという噂を信じるのかと尋ねれば、ふんわりとした感覚的な答えが返ってくるだろう。ようするに、彼らはそれが真実だと感じるから信じているのである。古い格言にあるように、理屈で到達したわけではない信念を、理屈で覆すことはできない。

この理性そのものへの攻撃が、カンターの批判の核心である。彼はまず、経済学者たちが研究対象の独占企業によって堕落させられた3つのケースを挙げている。

i. ジョージメイソン大学が、国際的な反トラスト法執行官を騙し、米国政府の関連機関だと思い込ませて研修セミナーに参加させた。実際には、そのセミナーは執行官の精査対象の企業が主催しており、これらの企業がどれほど素晴らしいかを賛美する「専門家」で溢れていた。

ii. テック業界から多額の資金提供を受けているジョージメイソン大学の学者が、資金提供者に対する法執行に反対する法廷助言書に署名した。この学者はまた、中立を装い、資金源を開示することなく、OECDにこれらの資金提供者を擁護する発表を行った。

iii. ジョージメイソン大学の元エコノミスト、ジョシュア・ライトが、FTCにQualcommを擁護する研究を提出したが、そのために報酬を受け取っていたことを開示しなかった。ライトは、利益相反の未開示を芸術の域にまで高めている。

https://www.wsj.com/us-news/law/google-lawyer-secret-weapon-joshua-wright-c98d5a31

カンターは、これら3つの事例が例外的なものではないことを強調する。「インセンティブが重要である」を中核的な教義とする経済学の領域で、個々の研究者やその学術機関が巨大企業から巨額の報酬を受け取ることが当たり前になっている。信じられないことに、彼らは金をもらっていることと、独占は「効率的」だとする自分たちの支持とは無関係だと主張している。

学術センターはしばしば、独占企業の資金提供者のマネーロンダリングの場として機能している。研究者たちは、学術誌への発表や裁判所での証言に際し、開示要件を回避できている。彼らは名声ある大学に所属していることだけを述べ、その大学が擁護する企業からの資金に全面的に依存していることには触れないのだ。

さて、カンターは学者ではなく弁護士であり、それは彼の仕事が立場を擁護することだということを意味する。彼はイデオロギー的な主張そのものに対しては敬意を払っているが、公平な専門知識を装った党派的な主張には反対しているのだ。

カンターにとって、主張と専門知識を混ぜ合わせても、専門的な主張にはならない。少なくとも良い政策を作る上では、それは専門知識を台無しにするだけである。この混合は、「競争政策における専門知識と主張の区別の広範な崩壊」という「専門知識の危機」を生み出している。

米国大学教授協会の憲章に謳われている独立した学術界の意義は、「公平な研究者による自由な研究と自由な議論によって知識を前進させること」にある。我々に独立した学術界が必要なのは、「立法者や行政官にとって有用であるためには、(学者は)自らの結論が公平無私であることについて完全な信頼を享受しなければならない」からである。

経済学者たちが独占企業を擁護して稼ぎだしている金額の大きさは、誇張しようがない。『アメリカン・プロスペクト』誌のロバート・カトナーは、その金額を時給1,000ドルと評している。独占企業の最高レベルの擁護者たちは想像を絶する金額を手にしていて、例えばシカゴ大学のデニス・カールトンは1億ドル超のコンサルティング料を手にしている。

https://prospect.org/economy/2024-09-24-economists-as-apologists

これら一連の状況がもたらす見えない代償として、認識論的コンセンサスが損ねられているのだ。ティム・ハーフォードが2021年の著書『統計で騙されない10の方法(The Data Detective)』で書いたように、真実は研究と査読を通じてこそ到達できるのだから。

https://pluralistic.net/2021/01/04/how-to-truth/#harford

しかし、専門家が意図的に専門知識の概念を損なおうとすると、素人を認識論的な空白に追いやってしまう。我々はこれらの問題が重要であることを知っているが、腐敗した専門家を信頼することができない。そうなると、我々は緊急の問題を抱えながら、答えを得られないという状況に置かれる。このような恐ろしい状態に置かれると、権威主義的な詐欺師や陰謀論的なペテン師の格好の餌食となってしまう。

この観点から見ると、カンターの反トラスト法の取り組みはさらに重要性を増す。企業権力そのものを攻撃することで、彼はこの虚無主義を誘発する腐敗マシンに資金を提供する構造に挑んでいるのだ。

(Image: Ron Cogswell, CC BY 2.0, modified)

Pluralistic: Academic economists get big payouts when they help monopolists beat antitrust (25 Sep 2024) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: September 25, 2024
Translation: heatwave_p2p