以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Private-sector Trumpism」という記事を翻訳したものである。

トランピズムとは、不満、監視、そして狭量さの混合物である。「俺はお前のあざけりを決して許さない。お前があざけった証拠を握っている。俺はお前とお前に関わるすべての人間を罰してやるぞ」といった具合に。トランプが(臆病な)BigLaw企業にどのように攻撃を仕掛けているかを見れば明らかだろう。
https://abovethelaw.com/2025/03/skadden-makes-100-million-settlement-with-trump-in-pro-bono-payola
この数十年にわたって、社会の隅々に広がる民間・公共の監視に対する警告が具現化した存在がトランプである。この監視システムが、いつか人権の体系的解体と反対意見の処罰に向けられるだろうという警告が、今まさに目の前で実現しているのだ。
23年前、私はロンドンの友人宅に滞在し、住む場所を探していた。町での一日を終えて帰宅した後、我々はカレーを注文して楽しく語り合った。その時、私は街中のあらゆる民間ビルの前に突然現れた監視カメラの不快感について話した。地方自治体や警察が設置する公共の監視カメラについては言うまでもない。友人はこの意見を過剰なアメリカ的個人主義に基づくプライバシー純粋主義だと言って一蹴し、監視カメラは公共の安全のためにあるんだと説明した。つまり、不法投棄者、破壊行為者、強盗、危険な速度で街を走り抜ける暴走族を捕まえるためにあるのだと。私がカメラに顔を撮られるのを懸念しているのは、迷信的な恐怖にすぎないと言う。まるで、カメラに撮影されても魂なんて抜かれないよとでも言わんばかりだった。
当時、その友人がブッシュ・ブレアによるイラクへの違法な侵攻計画に反対する大規模デモに参加したことを知っていた私は、こう切り返した。「考えてみてくれ。君は声を上げるために街頭で行進した。だが、もし抗議の参加条件として、まず政府の記録簿に自分の身元を登録することが強制されていたとしたら、どう感じただろう?」友人は請願書に署名していたし、街頭デモにも参加していたが、それでも公の政治的イベントに参加する条件として身元を記録されることに何らかの萎縮効果があることは認めざるを得なかった。
トランプは国を二つのグループに分けた。「市民」(時に半市民に過ぎない)と移民(一切の権利を持たない)である。
トランプは、移民(そして一部の半市民)を、彼が気に入らないことを言ったという理由だけで、あるいは彼が否認するソーシャルメディアの投稿に「いいね」をしただけで、逮捕し国外追放できると主張している。彼はタトゥーが気に入らないという理由だけで人々を生涯、海外の強制労働キャンプに送ることができると論じている。これは、社会の隅々に広がった監視を基盤とし、恨みと不満を燃料とする専制政治そのものである。
トランピズムの最も重要な信条の一つは、民間機関が彼の嫌いなマイノリティを差別する法的権利を持つべきだということだ。例えば彼は。人種差別を横行させた住宅ローンブローカー、Townstoneに対するCFPB(消費者金融保護局)の執行措置を終わらせようとしている。
これとは対象的に、トランプは民間機関が彼の好む人々を差別することを許すべきではないと考えている。それゆえ「DEI」(多様性・公平性・包括性)に対する聖戦を繰り広げているのだ。
これこそがウィルホイトの法則の核心であり、「保守主義」の重要かつ真実の定義だ。
保守主義はただ一つの命題から成り立っている。すなわち、法律に保護されるが法律には縛られない内集団と、法律に縛られるが法律には保護されない外集団が存在しなければならない。
https://crookedtimber.org/2018/03/21/liberals-against-progressives/#comment-729288
ウィルホイトの定義は、保守派が国家の役割をどう捉えているかを理解するうえで重要な視点を提供している。だが私が好きな別の定義もある。スティーブン・ブラストから聞いた、我々がどのように互いに関わるかについての定義だ。「『人権と財産権、どちらが重要か』と問うてみよう。『財産権は人権である』と答えたなら保守派だ」
この考え方に基づけば、住宅ローンブローカーや雇用主、銀行、家主が肌の色、性的指向、性別、あるいは信条を理由にあなたを差別できるはずだということになる。「財産権は人権である」なら、同性カップルに住居を貸さない人間の権利は、カップルが住居を保障される人権と同等ということになる。
財産権と人権の区別は、右派と左派を分けるだけでなく、左派とリベラルを区別する基準でもある。リベラルは「民間が行うなら検閲ではない」と主張する。私的財産の所有者には、どの言論を許可し、どの言論を禁止するかを決定する絶対的な権利があるという理由で。慈悲深く言えば、こうした人々の一部は単に「憲法修正第1条の違反」と「検閲」との間に誤った同等性を見ているのかもしれない。
https://pluralistic.net/2022/12/04/yes-its-censorship/
確かに、民間の検閲は多くの場合、国家による検閲よりも影響が小さい。だが常にそうとは言えないし、たとえそうだとしても、民間の検閲が表現の自由に危険をもたらさないという意味ではない。
ちょっとした思考実験をしてみよう。「食卓では政治を語らないカフェ」というレストランチェーンが町のあらゆる飲食店を買収し、地元の食品生産者と独占契約を結んでその支配を維持し、さらに理髪店、タクシー、職場の食堂にまで事業を拡大して、これらすべての場所で政治的議論を禁止するルールを施行するとしたら?
https://locusmag.com/2020/01/cory-doctorow-inaction-is-a-form-of-action/
独占と財産権が結びつくことで、政府の規制と同じくらい強力な検閲システムが生み出される。そして、それらの施設すべてがAI搭載カメラとマイクを導入し、禁止された政治的発言について我々の会話を自動的に監視するようになれば、監視は完全にパッケージ化され、事実上、政府の検閲と区別がつかない民間の検閲が実現する。主な違いは、憲法修正第1条が前者を許容し、後者を禁止していることだけだ。
私有財産が私的な支配システムをもたらすという恐れは、建国以来米国に存在してきた。ベンジャミン・フランクリンが(結局は失敗に終わったが)米国憲法に独占禁止条項を盛り込もうとしたのはそのためだ。1世紀後、ジョン・シャーマン上院議員は初の反トラスト法であるシャーマン法を起草し、上院の議場でこう述べた。
我々が皇帝に屈服しないのであれば、競商業の独裁者にも屈服してはならない。
https://pluralistic.net/2022/02/20/we-should-not-endure-a-king/
40年前、新自由主義経済学者たちは米国の100年にわたる独占との闘いに終止符を打ち、独占は「効率的」だと宣言して、カーター、レーガン、そしてすべての後継大統領(バイデンを除く)に独占形成を奨励するよう丸め込んだ。米国政府は反トラスト法の執行をほぼ全面的に停止し、反競争的な合併、略奪的価格設定、違法な価格差別を容認した。こうして彼らは米国を独占者の楽園へと変え、「食卓では政治を語らないカフェ」のような存在が我々の経済のあらゆる分野を支配するようになった。
https://www.openmarketsinstitute.org/learn/monopoly-by-the-numbers
これは特に我々の言論の場――政治、市民生活、家族関係などに関わる主要な手段となった巨大オンラインプラットフォーム――において顕著である。これらのプラットフォームは誰が発言できるか、何を言えるか、そして我々が何を聞けるかを決定する力を持っている。
https://pluralistic.net/2022/12/10/e2e/#the-censors-pen
これらのプラットフォームは大規模監視に最適化されている。そして、これが民間の顔認識データベースと組み合わされることで、23年前に私がロンドンで懸念した悪夢のシナリオが現実となる。仮想世界と物質世界の両方を移動する中で、あなたは識別され、あなたの政治的発言はあなた個人に紐づけられ、それがあなたに対する差別の根拠として使用されるおそれがある。
https://pluralistic.net/2023/09/20/steal-your-face/#hoan-ton-that
こうした事態はすでに米国国境で起きている。国境警備隊は反トランプの見解を持つ学者の入国を拒否している。
https://www.nytimes.com/2025/03/20/world/europe/us-france-scientist-entry-trump-messages.html
これは国境だけの問題ではない。巨大民間企業は我々の世界の広大な領域を所有している。彼らには人々を自らの所有物から排除する無制限の財産権がある。そして彼らは彼らの望むがままに我々を監視できる。なぜなら、過去40年で衰退したのは反トラスト法だけでなく、プライバシー法もだからだ。議会が最後に成立させた消費者プライバシー法は1988年の「ビデオプライバシー保護法」であり、これはビデオ店の店員があなたのVHSレンタル履歴を開示することを禁じるものだった。プライバシーに関する法整備の怠慢は――独占対策の不作為と同様に――私的権力で満たされた空白を生み出した。今日では、あなたのあらゆる行動(あらゆる発言、あらゆる移動、あらゆる購入)が記録され、保存され、突合され、分析され、そして当たり前のように販売されている。
広大な財産保有、無制限の財産権、そしてプライバシー法の不在により、企業は「商業の専制者」となり、少なくとも理論上は憲法修正第1条によって禁止されているはずの国家行為と区別がつかないほど、我々の言論と集会の自由を規制することができるようになった。
マディソン・スクエア・ガーデン(MSG)を例に挙げよう。全国の劇場、会場、スポーツスタジアム、チームを所有する企業グループだ。同社に対して訴訟を起こした法律事務所の社員全員を、顔認識カメラを使って同社のすべての施設から締め出すという事件が相次いだことで、その執念深さは広く知られている。
https://www.nytimes.com/2022/12/22/nyregion/madison-square-garden-facial-recognition.html
この慣行は裁判所によって支持された。MSGの財産権は、巨大法律事務所の無名の一般社員の人権よりも優先されるという理由からだ。その法律事務所が抱える数千人の弁護士のうちたった一人が同社を訴えていただけなのに。
子どものガールスカウト部隊をラジオシティ・ミュージックホールに連れて行きたい? もちろん、今の仕事を辞めて別の事務所に転職すれば無問題だ。
だが、これは始まりにすぎなかった。現在、MSGはソーシャルメディアを調査して同社を批判した一般人を特定し、その人々の顔を出入り禁止データベースに追加している。例えば、フランク・ミラーというニューヨーカーは、20年前にMSGのCEOであるジェームズ・ドーランを揶揄するTシャツをデザインしたという理由で、MSGのすべての施設から永久追放された。
https://www.theverge.com/news/637228/madison-square-garden-james-dolan-facial-recognition-fan-ban
これこそ民間セクターのトランピズムである。そして、それはまだ始まったばかりだ。
ホテル業界を考えてみよう。業界全体が二つの巨大チェーン――マリオットとヒルトン――に集約されている。両社とも悪名高く労働者に厳しい雇用主であり、労働組合と(そして露骨で違法な組合潰しに直面しながら、組合結成を試みる非組合員とも)絶え間なく抗争を繰り広げている。あなたがこの2つのホテルチェーンの組合潰し、スト潰しをオンラインで批判し、彼らがあなたを顔認識ブロックリストに追加したとしたら、あなたはもうホテルの部屋を確保できなくなるのだろうか?
UberとLyftの違法な略奪的価格設定が10年以上続いた結果、多くの都市では民間タクシーが消滅し、公共交通機関への投資も大幅に減少した。UberとLyftがオンラインで両社の批判者のリストを作り始めたら、あなたは無数の都市で移動の自由を失うことになるのだろうか?
プライベート・エクイティはペットのトリミングサロン、葬儀場、透析センターを次々と買収統合してきた。これらの巨大複合企業を運営する資本家たちが、自分たちへの批判者をポートフォリオのあらゆるビジネスから締め出すと決めたらどうなるだろう? Foundation Partners Groupの最高経営責任者を批判したというだけの理由で、母親の葬式から締め出されるとしたら、どんな気持ちになるだろうか?
https://kffhealthnews.org/news/article/funeral-homes-private-equity-death-care/
さらに重要なのは、こうしたことが実際に起こり始めたら、いったい誰が企業犯罪者をオンラインで批判する勇気を持てるだろうかということだ。そこでは彼らの発言が記録され、顔認識技術と「財産権は人権であるだけでなく、究極の人権である」という荒唐無稽な思想で武装した民間版トランプによって、復讐されるのだから。
ベンジャミン・フランクリンとジョン・シャーマンの古の恐れが現実となった。我々は「商業の専制者」の支配下で暮らしている。そして、憲法がこれらの民間政府による我々への支配を制限できるなどとは誰も真剣に考えていない。
(Image: Cryteria, CC BY 3.0, modified)
Pluralistic: Private-sector Trumpism (31 Mar 2025) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow
Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: March 31, 2025
Translation: heatwave_p2p