以下の文章は、2024年5月24日に公開された電子フロンティア財団の「Wanna Make Big Tech Monopolies Even Worse? Kill Section 230」を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

友人同士の争いに巻き込まれて、どっちの味方なんだと迫られるのは楽しいことではない。ディナーパーティー、結婚式、葬式でさえ、「あの人を招待したら、この人は来ないだろうな」と頭を悩ませる。

グループチャットからMastodonサーバ(あるいはいずれはBlueskyサーバ)、その他のビッグテックのソーシャルメディアから離脱した友人(とその友人たち)がオンラインで交流できる空間を運営するなら、もっと楽しくないことがある。

しかし、炎上の渦中にある当事者からどっちの味方だと迫られるよりもタチがわるいのは、それを断った(または一方の要求に応じた)ことで訴訟に巻き込まれることだ。

EFFでは、オンライン論争につきものの過激な言説について、何十年もの直接的な経験がある。

それが、セクション23047 U.S.C. § 230)という誤解されがちな法律を我々が強く支持する理由の1つである。この法律は、オンラインサービスの運営者たちを、ユーザ間の法的紛争に巻き込まれないよう保護している

訴訟というは、たとえ勝利できたとしても人生を大きく左右する。ほとんどの人は裁判を戦い抜く余裕がないため、多くの場合、法的な脅威にさらされると和解を余儀なくされる。さらにひどいことに、法的な脅迫を用いて批判者を黙らせる手助けをする業界すら存在している。

それゆえ、下院エネルギー商業委員会に提出された法案を、我々は非常に憂慮している。この法案は、オンラインサービスプロバイダをユーザ間のオンライン紛争や法的闘争に巻き込まれないよう保護する規定を設けずに、2025年12月31日をもってセクション230を廃止するものだ。

インターネット上のアットホームな居場所は、もはや単なる趣味でも、Web 1.0時代の名残でもない。

反独占アクティビズムが復活しつつある時代において、小さなオンラインコミュニティは、単独で、あるいはゆるやかな「連合」に参加することで、ビッグテックの執拗な監視や、場当たり的で説明責任のない支配から逃れる最良の手段を提供する。

よく覚えておいてほしいのは、オンラインコミュニティの運営は、寛大なデジタルホスト偏狭な元オンラインホストに変えてしまうほどに報われない仕事だということだ。

ビッグテックのオルタナティブは、個人、協同組合非営利団体、スタートアップから生まれる。コミュニティが集う場を提供する人々が、コミュニティメンバー間の訴訟に巻き込まれやすい世界では、オルタナティブは存在しえない。

オンラインで居心地の良い場所を作るために時間と資源を提供することと、人生の貯蓄、家、老後の資金を危険にさらす保険の効かないリスクを負うのはまったく別問題だ。たった1件訴訟を起こされただけで、数十万ドルが吹っ飛ぶかもしれない

これは本当に悪いニュースだ。セクション230のない世界にこそ、ビッグテックのオルタナティブが切実に必要とされるのだから。

ビッグテックは莫大な利益を溜め込んでいる。それゆえ、たとえ物議を醸す可能性のあるものを見つけ次第即削除するモデレーション体制を整えても、おびただしい数の法的脅威を引き付けることになる。

FTX(不祥事を起こした詐欺的な暗号通貨取引所)がどうなったかも参考になる。ビッグテックと同様に、FTXにも正当な不満を持つユーザがいるが、一方で同社は一攫千金狙いのトレジャーハンターの標的にもなっていて、同社に対する請求額は236京ドルに上る

ビッグテックがセクション230の失われた世界で何をするかはわかっている。なぜなら、すでにその世界に生きている人がいるからだ。ドナルド・トランプは2018年にSESTA-FOSTAに署名した。この法律は、人身売買の事案を認識していながら介入しなかったプラットフォームに責任を負わせるという、焦点を絞った措置だと喧伝されていた。だが実際にどうなったかといえば、(我々が懸念していたとおりにこの法律は合意の上でのセックスワークを無差別に標的にするために使われ、セックスワーカーの安全を危険にさらす結果を招いた

セクション230が失われれば、ビッグテックは議論を醸すオンライン言論(#MeTooやBlack Lives Matterなど)を問答無用で削除するようになるだろう。社会的権力を持たないマイノリティのユーザ(繰り返すが、#MeTooやBlack Lives Matterの参加者など)は、未来永劫、ビッグテックによってその声を奪われることになる。なぜなら、ビッグテックにはその言論にホストする価値があるかどうかを判断するインセンティブがないからだ。

一方、富裕層や権力者にとって、セクション230なき世界は理想的な世界だ。独裁者戦争犯罪者詐欺師が批判者を黙らせる強力なツールを手にする世界なのだから。

言い換えれば、セクション230なき世界は、ビッグテックのモデレーションの失敗に最も苦しめられているユーザが、ビッグテックによって際限なく苦しめられていく世界だ

それは同時に、ビッグテックの巨大な囲い込み(walled garden)を打ち破るオルタナティブの登場が、際限なく難しくなる世界でもある。

テック長者がセクション230の撤廃を支持するのも不思議ではない。彼らは、自分たちの肥大化した、未来永劫嫌われ続けるサービスが、真のオルタナティブに対しては脆弱だとわかっているのだから。

4年前、バイデン政権は競争促進を政府全体の優先事項だと宣言した我々はそれを称賛した)。セクション230の撤廃は、その真逆の方向だ。つまり、インターネットを現在の独占状態のまま凍結し、今日のテック王の支配が、より民主的でユーザ中心のインターネットによって決して脅かされない世界を作り出すのだから。

Wanna Make Big Tech Monopolies Even Worse? Kill Section 230 | Electronic Frontier Foundation

Author: Cory Doctorow / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: May 24, 2024
Translation: heatwave_p2p
Material of Header Image: charlesdeluvio