以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Trump loves Big Tech」という記事を翻訳したものである。

大統領就任式の壇上でトランプの背後に美しい半円を描くように居並んだApple、Google、Facebook、Amazon、Tiktokの各CEOの姿。この光景は、テクノロジー企業が民主主義(あるいは民主党)の味方であるというオバマ時代の幻想に最後の楔を打ち込むものだった。

これら億万長者たちは、自分の個人口座から何百万ドルもの金をトランプの「就任式基金」へと流し込んだ。この基金は言わば大統領のチップ箱のようなもので、トランプは自分の政権から特別待遇を期待する業界リーダーたちの目の前でこの箱を鳴らして見せたのだ。そしてその投資は見事に報われた。
就任式のほんの数日前、トランプはダボス会議で世界のリーダーたちに――特にEUに対して――EUの画期的なデジタル市場法(DMA)やデジタルサービス法(DSA)など、米国ビッグテック企業への規制の試みを容認しないと宣言した。
https://gizmodo.com/trump-returns-big-techs-ass-kissing-at-davos-2000554158
ビッグテックの寝返りに幻滅したリベラル派――特にシリコンバレーの人々――について多くの議論がなされてきたが、ビッグテックを憎むトランプ支持者たちはどうなのだろう?トランプの支持基盤の多くがビッグテックへの嫌悪を公言している。さらには「カーン保守[Khanservatives]」とも呼ばれるJD・バンス、ジョシュ・ホーリー、マット・ゲッツ、マーシャ・ブラックバーン、テッド・クルーズらがいる。彼らはバイデン時代のリナ・カーンFTC委員長と足並みをそろえ、ビッグテックの独占に原則的な反対を表明し、エリザベス・ウォーレンのような人物とさえ、独占テック企業の力の根源を叩くよう設計された法案を共同提案していた。
トランプ主義は――どんな成功した政治運動もそうだが――連合体である。それは主要な問題で激しく対立する派閥から構成されており、トランプ自身がどの派閥が勝利を収め、どの派閥が不満を飲み込まなければならないかを決める仲裁者となる。
https://pluralistic.net/2025/01/06/how-the-sausage-gets-made/#governing-is-harder(邦訳記事)
現時点で、トランプ党の反ビッグテック派が敗北したことは明白だ。トランプの虚勢は何十億ドルもの資金をビッグテックのポケットに流し込み、彼らの権力を強化している。これが最も露骨に表れているのが英国だ。キア・スターマー首相は同国の最高の反トラスト法執行者を解任し、Amazon UK元トップと交代させた。
https://pluralistic.net/2025/01/22/autocrats-of-trade/#dingo-babysitter(邦訳記事)
しかし英国の米国独占テック企業への譲歩はそれだけではない。スターマーは今や米国ビッグテックに年間8億ポンドの税制優遇を与える計画を発表したのだ。
https://www.bbc.com/news/articles/c8j0dgym8w1o
もしトランプ派のテックバスターたちが、ビッグテックの力が強すぎるから解体すべきだという主張に本気で誠実だったなら、これらの動きに対して怒りの声を上げているはずだ――しかし彼らは皆、奇妙なほど沈黙している。
傑作ポッドキャスト「Trashfuture」のショーランナー、ライリー・クインはかつて、保守派のビッグテックへの敵意の正体を見抜いていた。それは単に、陰謀論や人種差別的発言、詐欺まがいの極右政治家の資金調達メッセージをダウンランクするコンテンツモデレーションアルゴリズムへの不満にすぎないのだと。クインは冗談めかして、保守派テックバスターたちは、ビッグテックの取締役会が開催されるたびに「奪われた『いいね』の確認」――シャドウバンされた文化戦士たちの犠牲の上に先人たちが築いた富を公に否定する儀式――で開始するだけで上機嫌になるだろうと語った。進歩派の会議やプレゼンテーションの前によく聞かれる「奪われた土地[stolen land]」確認のTwitterファイルズ鏡面世界のドッペルゲンガーみたいなもんだ。
https://pluralistic.net/2023/09/05/not-that-naomi/#if-the-naomi-be-klein-youre-doing-just-fine
一方、EUはトランプ主義に直面しても毅然としている。実際、トランプの不快な傲慢さはEUの多くの極右政党、特に北欧諸国の人気を地に落とした。デンマークからグリーンランドを奪うというトランプの脅しに直面して、そこで芽生えつつあったネオファシスト運動はほぼ完全に勢いを失った。
https://www.bbc.com/news/articles/c4g0718g3jwo
(同様のことがカナダでも起きており、トランプ主義のピエール・ポワリエーブ保守党党首は、総選挙の直前に唐突に大きなリードを失った)。
しかしEUが本当にアメリカのビッグテックに対して主権を主張したいのなら、著作権指令第6条を撤回すべきだ。この条項は1998年のアメリカのデジタルミレニアム著作権法をコピーしたもので、テック製品やサービスのリバースエンジニアリングや改変を禁止している。
https://pluralistic.net/2025/03/08/turnabout/#is-fair-play
米国通商代表がこれを可決しなければEU輸出品に関税をかけると脅して強引に通した法律を撤廃すれば、EUはアメリカのテック巨人と競争するEU企業の余地を広げ、彼らの最も収益性の高い事業を攻撃できるようになる。EU企業は携帯端末やゲーム機向けのアプリストアを開発できるようになり、EUのソフトウェア開発者はすべての収益の30%を米国の独占テック企業に支払う必要がなくなる。また、EU企業はテスラのような米国車をジェイルブレイクし、すべてのソフトウェアアップグレードを解除して、欧州のドライバーにEU製アプリを販売することも可能になるだろう。これにより、EU域内の整備士は米国の自動車会社に高価な診断ツールの代金を払うことなくどんな車も修理できるようになり、EU中小企業がプリンターのインクカートリッジを詰め替えられるようになれば、HPなどの米国巨大企業が享受している1000万%という途方もないマージンを崩壊させることができる。
トランプは米国ビッグテックの懐に入り込んでいる。彼は米国のテック巨人を批判してみせることで反ビッグテック派の支持を集めたかもしれないが、数百万ドルの賄賂で簡単に手のひらを返した。米国ビッグテックは今やトランプ党連合の中で優勢な派閥となった。だからこそ、彼らは通商戦争の格好の標的なのだ。
Pluralistic: Trump loves Big Tech (24 Mar 2025) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow
Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: March 24, 2025
Translation: heatwave_p2p