以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Blue Cross of Louisiana doesn’t give a shit about breast cancer」という記事を翻訳したものである。

陪審員がLouisiana Blue Crossに4億2100万ドルの支払いを命じた。支払い先は乳がんサバイバー向けの高度な乳房再建術を専門とする病院だ。この保険会社は数千人もの患者の手術を「事前承認」しておきながら、実際には支払うべき金額の92%を踏み倒していた。スティーヴン・ウドヴァルヘイCEOは開き直りとも取れる発言をしている――「承認したからといって、必ず支払うとは一言も言っていない」。
https://www.documentcloud.org/documents/25882446-steven-udvarhelyi-deposition/#document/p1/a2630959
PropublicaのT・クリスチャン・ミラーの調査報道は素晴らしかった。彼の綿密な取材で、Louisiana Blue Crossが全米の他のBlue Cross系列と結託し、いったん承認した請求を後から拒否することで数億ドルを文字通り盗んでいた実態が明らかになった。
この問題の核心にあるのは、ニューオーリンズにある乳房温存療法センターだ。この病院は二人の外科医、フランク・デラクローチェとスコット・サリヴァンが設立した。彼らは「自家組織再建」と呼ばれる先進的な乳房再建法の第一人者で、人工インプラントではなく患者自身の脂肪組織で乳房を再建する技術を磨いてきた。この手術を行う医師は他にもいるが、デラクローチェとサリヴァンは革新的技術を多数開発し、多くの外科医を育てた、この分野のリーダーとして認められている。それゆえ米国中から患者が彼らの病院を訪れている。
彼らの手術は極めて精密かつ労働集約的で、当然ながら高額となる。患者は手術を受ける前に保険会社から事前承認を取り付けるが、ルイジアナ州では通常、州最大の保険会社であるBlue Crossに連絡することになる。ところがLouisiana Blue Crossは、事前承認したにもかかわらず、病院への支払いの90%以上を拒んでいたのである。
デラクローチェとサリヴァンは患者にその負担を押し付けるようなことはせず、未払い金を自分たちの帳簿に計上し、Blue Crossに対して繰り返し訴訟を起こしてきた。ついに先週、陪審団はBlue Crossに4億2100万ドルの支払いを命じた(Blue Crossは控訴中)。
この裁判によって、通常なら官僚的な書類のやり取りや電話での拒否といった形で隠されていたBlue Crossの卑劣な行為が白日の下にさらされた――その内容はまさに醜悪そのものだ。Blue Crossが請求を拒否した公式の言い訳は、「州内の何百万人もの保険加入者の利益を守るため」というものだった。デラクローチェとサリヴァンのサービスは単に高すぎる――保険加入者がそのレベルの医療を期待するのは非現実的だというわけだ。しかし皮肉なことに、Blue Crossの幹部たちは自分の妻がこの手術を受けられるよう、特別枠で「個別症例合意」に何度も署名していたのである。
Blue Crossはさらに、これらの手術を事前承認したとしても、後で支払う義務はないと強弁した。「承認」とは単なる専門用語で、いろいろな免責条項が付いており、払うかもしれないし払わないかもしれない程度の意味しかないと。しかし法廷では、「承認された」手術は例外的なケース(例えば承認後に患者が保険を解約したような場合)を除いて支払わなければならないことを、渋々認めざるを得なかった。
保険会社側は「恣意的な請求拒否を防ぐためのチェック機能がある」とも主張したが、Blue Crossの執行副社長ポーラ・シェパードは「過少支払いに対する異議申し立て制度はない」ことを認めた。ミラーが指摘するように、「保険会社は単に『支払額は正しい』と宣言するだけで終わり」なのだ。
さらに悪質なことに、Blue Crossはこうした請求拒否で単に出費を抑えただけでなく、積極的に儲けていた。他州のBlue Cross組織は、支払い拒否のたびにルイジアナのBlue Crossに16%のキックバックを支払い、不正利益を山分けしていたのである。
これらすべてが、信じがたいほど卑劣で、明らかに詐欺的な行為を行う手段、動機、機会となっていた。全体として見れば、Blue Crossは病院からの5億ドル相当の請求に対してわずか4300万ドルしか支払っていない。請求の60%については、まったく支払いをしなかったのだ。
Blue Crossは米国最大級の医療保険会社であり、この病院への支払いを渋る彼らの論理こそが、保険会社同士の合併・巨大化を正当化する根拠となっている。デイヴィッド・デイエンは2020年の傑作『Monopolized』の中で、米国の病的な医療独占化のプロセスを浮き彫りにした。
https://pluralistic.net/2021/01/29/fractal-bullshit/#dayenu
はじめに、我々が製薬会社の合併と独占化を許してしまったことで、彼らは法外な薬価で病院を苦しめる力を得た。そこで病院も防衛的に地域独占を形成し、交渉力で薬価を下げる一方、保険会社に高額請求する力も手に入れた。これに対抗するため保険会社も合併を繰り返し、病院チェーンの価格決定力に対抗して料金を抑制できるほどの規模になった。
事実、ルイジアナ州の医師と病院の97%がLouisiana Blue Cross(州最大の保険会社だ)と交渉料金を設定している。しかしデラクローチェとサリヴァンはBlue Crossのネットワークに加わっていない。保険会社が提示した料金では、手術のコストすらカバーできないからだ。
独占企業が他の独占企業から我々を守ってくれるという理論は、「ハエを飲み込んだおばあさん」の童謡のような悪循環だ。この戦略が機能するためには誰もが独占者にならねばならず、そうでなければ――賃金、医療、補償のいずれにおいても――踏みにじられる運命にある。
もちろん患者は独占を形成できない(それが政府の役割のはずだが、単一支払者医療制度についてBlue Crossがどう思っているかは容易に想像できる)。労働者も同様だ(それが労組の役割だが、医療独占企業ほど労組を憎むものはない)。
Blue Crossの立場――営利医療産業全体の立場――は、彼らこそが患者たる我々を犠牲にして際限なく巨大化すべきだというものだ。つまり彼らは経済の癌なのである。乳がん患者の味方であるはずがないのも、実に納得がいく。
Pluralistic: Blue Cross of Louisiana doesn’t give a shit about breast cancer (12 Apr 2025) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow
Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: April 12, 2025
Translation: heatwave_p2p