以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Gandersauce」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

資本家は概して資本主義を嫌っているという事実がある。許されるのであれば、起業家たちは価格と賃金を自ら設定し、競合他社を恐れる必要のない地位に就きたいと願う。何もかもが奪い合いの対象となる市場が素晴らしいと思えるのは、奪う側に立ってこそだ。利益や顧客、従業員を奪われる側になるとそうは考えないようになる。

だが、すべての資本家が資本主義を憎む中でも、特に激しく特定の資本主義を憎む連中がいる。最も資本主義を憎む資本家はビッグテックのボスたちだ。その彼らが最も嫌うのがテクノ資本主義だ。具体的には、今世紀初頭の10年間のテクノ資本主義――「素早く動き、破壊せよ」という哲学、「許可を求めるな、謝罪せよ」資本主義、猛スピードで拡大する資本主義である。

テックボスたちが骨の髄まで嫌う資本主義は破壊的資本主義だ。リソースの乏しい個人や小グループによる単一の技術的介入が産業全体をひっくり返してしまう可能性があるからだ。そうした破壊は、破壊する側にとっては愉快だろうが、破壊される側にとっては悪夢でしかない。

ジェフ・ベゾスがAmazonの創業時に掲げた理念は「あなたの利益は私のチャンス」だった。これは典型的な破壊のシナリオ――業界の既存プレーヤーよりも少ない利益で満足する。低価格で彼らの顧客を奪い、急成長して、さらに利益率を削りながらも量でカバーする機会を見つける――だった。ベゾスはこれをフライホイールと呼び、どんどん速く回転して、より多くの産業を飲み込んでいくと説明した。たしかにそれはうまくいった。

https://pluralistic.net/2023/04/25/greedflation/#commissar-bezos

もちろん、そのフライホイールの目的は価格を下げることではない。Amazonはペーパークリップ・マキシマイザーAIのようなもので、最大化したいのは利益だ。そして最大利益への道は、コストゼロの商品に無限の価格を付けることである。無限の価格と支払わなくていい賃金――これがAmazonの二つの極北だ。Amazonの倉庫労働者に業界平均の3倍もの怪我を負う作業をさせる必要はないが、労働者に怪我を負わせる方が安全に働かせるよりも安上がりである。ライバルを打ち負かし、米国消費者の過半数を獲得すると、Amazonは価格を引き上げ、市場支配力を使って他のすべての企業にも彼らの価格を引き上げるよう強制した。これを「ベゾスフレーション」と呼ぶことにしよう。

https://pluralistic.net/2023/04/25/greedflation/#commissar-bezos

我々はさまざまな方法でAmazonを破壊できる。例えば、Amazonのすべての「ASIN」識別子をスクレイピングしてブラウザプラグインを作成し、ユーザーがAmazonで購入しようとしている商品を地元の店が在庫している場合に広告表示するようにできる。

https://pluralistic.net/2022/07/10/view-a-sku/

Amazonドライバーの運転操作から眼球の動きまで追跡する監視するアプリをハックして、ドライバーに自律性を与え、Amazonより自分の健康と経済的福祉を優先したことで経営者に処罰されないようにすることもできる。Amazonの宅配アプリを改造すれば、ドライバーが配達中にAmazonのライバル企業の配達を請け負って、追加収入を得られるようにもできるだろう。

https://locusmag.com/2020/09/cory-doctorow-ip/

Amazonの顧客にバーチャルPVRを販売して好きな番組を録画・保存できるようにすれば、Primeの解約が容易になり、11月から1月にかけてクリスマス映画を追加料金で提供するというAmazonの姑息な手口も無効化できる。

https://www.amazonforum.com/s/question/0D54P00007nmv9XSAQ/why-arent-all-the-christmas-movies-available-through-prime-its-a-pandemic-we-are-stuck-at-home-please-add-the-oldies-but-goodies-to-prime

競合オーディオブックストアは、Audibleから別のプラットフォームに移行したい登録者向けに脱獄キットを販売し、購入済みのすべてのファイルからAmazonのDRMを削除して、Amazon以外のアプリで再生できるよう変換することもできるだろう。

https://pluralistic.net/2022/07/25/can-you-hear-me-now/#acx-ripoff

ジェフ・ベゾスの利益は理論上、誰かのチャンスになる……。しかしAmazonは自社と自社のアプリ、製品を「デジタルライツマネジメント」というラッパーで包み込み、多額の罰金や投獄の脅しのもとで削除や改変ができないようにしている:

https://locusmag.com/2020/09/cory-doctorow-ip/

Amazonは破壊を好み、「自由市場と個人の自由」について声高に叫ぶ――だがAmazonがその先人たちしたことと、まさに同じことをAmazonにしようとすると、同社は大慌てで政府にすがり、法的救済を求め、国家に自社のビジネスモデルを強制するよう懇願する。

https://apnews.com/article/washington-post-bezos-opinion-trump-market-liberty-97a7d8113d670ec6e643525fdf9f06de

この臆病さはテック業界全体で見られる。Appleは、App StoreとiTunes Storeを立ち上げた際、市場――広告によって無料で得るのではなく、対価を支払うこと――が「市場の歪み」を是正するというレトリックをふんだんに用いた。市場は商品やサービスとお金の交換を通じて価格と需要の信号が伝わるため、優れた資源配分を生み出すと我々は教えられた。

しかしAppleは自らが市場の力にさらされることを決して許さない。彼らは独立した修理店が自社の中央計画的で独占的なサービスプログラムと競争することさえ認めない。

https://pluralistic.net/2022/05/22/apples-cement-overshoes

ましてやユーザとアプリをめぐって競争する競合アプリストアの創設など論外だ。

https://pluralistic.net/2024/02/06/spoil-the-bunch/#dma

彼らは修理業者が修理不可能なスマートフォンやラップトップから部品をリセールすることすら許さない。

https://www.shacknews.com/article/108049/apple-repair-critic-louis-rossmann-takes-on-us-customs-counterfeit-battery-seizure

そして彼らは、もし壊れたデバイスから部品を調達できたとしても、それを別の故障機器に移植することは――Amazonの搾取行為を保護するのと同じDRM法のもとで――重罪だと主張する。

https://www.theverge.com/2024/3/27/24097042/right-to-repair-law-oregon-sb1596-parts-pairing-tina-kotek-signed

「リップ、ミックス、バーン[Rip, mix, burn]」はAppleがリッピング、ミキシング、バーニングをする分には素晴らしいが、誰かが同じことを彼らにしようとすると、同社は泣き言を言い、税関・国境警備隊や連邦警察に泣きついて、過去に自分たちがしてきたことから自社を守ってくれと懇願する。

破壊的資本主義の混沌の渦から逃れようとするペーパークリップマキシマイザーの遅いAI企業を責めるべきなのだろうか?そうは思わない。私はこの情けない臆病さを偽善的だからといって軽蔑しているわけではない。それが労働者、顧客、環境を犠牲にする略奪だから嫌うのだ。

しかし、確かに責めるべき相手は存在する。Apple、Google、Amazon、Microsoft、その他のテック大手が自らを破壊しようとする者たちを排除できるIP法を可決した政府だ。我々のために働くはずの政府が、リバースエンジニアリング、改造、改変を重罪とする法律――デジタルミレニアム著作権法1201条など――を成立させた。これらの法律こそがメタクソ化を生み出す環境を作り出している。

https://pluralistic.net/2024/05/24/record-scratch/#autoenshittification

米国がこれらの法律を可決し、米国をテック企業のメタクソ化という略奪にさらしたことだけでも十分にひどい話だ。さらに悪いことに、米国通商代表部は世界中を這いずり回り、米国と取引するすべての国にIP法を可決するよう強要し、その国の市民を米国のテック搾取者のための食べ放題ビュッフェに変えてしまった。

https://pluralistic.net/2020/07/31/hall-of-famer/#necensuraninadados

この「ビジネスモデル侮辱罪」というグローバルな体制が生まれたのは、米国に関税なしで輸出したい国が取引を結ぶためだ。それゆえにテック製品のリバースエンジニアリングを禁止する法律を可決しなければならなかった。だからこそ、世界中の農家は、自分のトラクターを自分自身で修理するたびにジョンディアに数百ドルを支払わなければならない。

https://pluralistic.net/2022/05/08/about-those-kill-switched-ukrainian-tractors/

しかし、トランプが米国の貿易相手国に関税を課している今、これらの法律を世界中で維持する理由はまったくなく、廃止する理由しかなくなった。どの国でも、少額の資本だけで事業を始め、S&P500をリードする米国テック大手の法外な利益に照準を合わせ、その利益を自らのチャンスに変える破壊者を生み出すことができる。彼らはHPのプリンターを脱獄してどんなインクカートリッジでも使えるようにしたり、iPhoneを脱獄してあらゆるアプリストアを実行できるようにしたり、トラクターを脱獄して農家がジョンディアに手数料を払わずに修理できるようにしたり、あらゆる車種を脱獄してどんな整備士でも診断・修理でき、どんなメーカーの互換部品でも使えるようにすることができる。これは自国民のための慈善だけではない――これはビジネスであり、巨大な投資機会なのだ。万能車両診断ツールを最初に完成させる国は、世界中のあらゆる整備士に1台ずつ販売できるし、新車や新しいメーカーのソフトウェアアップデートに対応するサブスクリプションも提供できるだろう。その国は、Nokiaが世界中の固定電話キャリアの市場を破壊した10年間、フィンランドが携帯電話業界に築いた地位を自動車修理の世界で獲得できるだろう。

https://pluralistic.net/2025/03/03/friedmanite/#oil-crisis-two-point-oh

トランプ関税のおかげで破壊されるリスクを負うことになった米国企業は、トランプ主義の台頭を支えてきた。テスラを例に取ろう。同社の常軌を逸した評価額は、テスラがサブスクリプション機能に月額料金を徴収しつつ、ソフトウェアアップグレードごとに料金を課すという市場の賭けである。さらにこれらは車のオーナーが変わるごとにリセットされ、次のオーナーからも新たな支払いを引き出せるようになっている。

このビジネスモデルは完全に、テスラ車のリバースエンジニアリングと改造を犯罪とすることに頼っている。素早く動いて破壊する破壊者が、テスラ車の全機能を永久に解除できるツールを整備士に50ドル(あるいは50ユーロ!)で提供できれば、マスクの利益は彼らのチャンスとなる――なんというチャンスだ!

それこそがマスクにダメージを与える方法だ。彼のナチス式敬礼に大げさに驚いてみせるのではなく、奴のドングルを直撃してやれ。

https://pluralistic.net/2025/02/26/ursula-franklin/#franklinite

市場、製品、セクターに一方的に介入する行為――つまり「素早く動き、破壊する」こと――は本質的に非道徳的ではない。破壊する必要のあるものはたくさんある。問題は破壊そのものではない。長距離電話の崩壊を嘆く必要なんてなかったじゃないか! 破壊者が歴史の終わりを宣言し、自らを永遠の王と称して、他者が自分たちを破壊することを阻止できるようになることこそが、本当の問題なのだ。

投機家が支配し、ドライバーに法外な賃料を課していたタクシーメダリオンシステムをUberがを破壊し、その後、ギグワークアプリを改造して運賃を自分たちのものにするドライバー協同組合に打ちのめされていたとしたら、どれほど素晴らしかっただろう。

https://pluralistic.net/2022/02/21/contra-nihilismum/#the-street-finds-its-own-use-for-things

問題は破壊そのものではなく、むしろ破壊不可能な法的保護を受けた独占なのだ。泣き虫億万長者CEOたちが、創業当時に存在していた企業をぶっ壊したのと同じように、彼ら自身がぶっ壊されないようになってしまったことこそが問題なのだ。

我々には破壊が必要だ!彼らの利益はあなたのチャンスだ。今こそ素早く動き、米国ビッグテックをぶっ壊してやれ!

Pluralistic: Gandersauce (08 Mar 2025) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: April 12, 2025
Translation: heatwave_p2p