以下の文章は、EDRiの「Promoting human rights in the digital era」という記事を翻訳したものである。

デジタル技術はいまや私たちの生活の一部となった。だが、それが私たちの権利にどのような影響を及ぼしているかについてはほとんど知られていない。チェコとノルウェーの共同プロジェクトは、この状況を変えることを目指している。

デジタルライツ団体でEDRiのメンバーでもあるIuReが、チェコの非営利団体や公共セクターと共同で、新たに「デジタル時代の人権の促進(Promoting Human Rights in the Digital Era)」というプロジェクトを立ち上げた。このプロジェクトの目的は、デジタル技術がいかにして人権を侵害しうるかについて、一般市民に注意喚起することにある。チェコ共和国では初めて、コンソーシアムがジャーナリストを対象に詳細な調査を実施し、この問題に対する意識レベルを測定する。この調査結果は、メディア関係者向けの特別研究の開発に活用されることになっている。

「デジタル時代の人権の促進」は、新技術、デジタル化、人権、ジャーナリズムを結びつけるユニークなもので、チェコ共和国におけるCOVID-19の経験に直接対応するものである。COVID-19パンデミックは、他国と同様に、チェコ市民の生活や仕事でのデジタルツールの使用を大いに促進した。同時に、デジタルトランスフォーメーションに伴うリスクも浮き彫りになった。

「技術に疎い人たち、使い方がわからない人たちが、社会から脱落し始めたのです。ワクチン接種のオンライン登録ができなかったり、オンライン授業にアクセスできなかった子どもたちもいました」とIuReのヤン・ヴォボジールは言う。彼は政府人権協議会の人権と現代テクノロジー委員会デジタル格差アドバイザーも務めている。

このプロジェクトではまず、インターネットへのアクセスが制限されていたり、利用する能力が限られていたりして、デジタル化が進む社会に参加できない人びとにインタビュー調査を行う。この定性調査から得られた知見は、チェコのジャーナリストが社会のデジタル化の影響をどのように理解しているのかをマッピングするための、さらなる調査の基礎となる。

「デジタル技術の普及に伴い、ジャーナリストやメディアの役割は大きく変化しています。機械学習やアルゴリズムは、動画やテキストの生成に直接関わるだけでなく、インターネットメディアのパーソナライズされた環境で、何を、いつ、誰に向けて表示するかを決定しています」と、テレビジャーナリストで大学教員のヴァーツラフ・モラヴェッツは語る。彼は数年前、このテーマへの関心をもとにカレル大学社会学部に「人工知能ジャーナリズムセンター」を設立した。同学部はこのプロジェクトのコンソーシアムメンバーであり、研究をリードすることになる。「チェコのジャーナリストがデジタル技術について実際に何を知っているかは、これまで調査されてきませんでした。ここで得られる知見はユニークなものになるでしょう」とモラヴェッツは強調する。

ジャーナリズム関係者や一般市民向けには、パートナー団体のプラハ・センター・フォー・メディア・スキルズ(PCMS)がプロジェクトの成果や知見を定期的に提供することになっている。

「ダイナミックに変化する世界で人権を守るには、デジタル革命が社会に役立つものであり、その逆ではないことを確認しなければなりません。だからこそ、デジタル化や新技術の導入により悪影響を受けやすい高齢者や特別なニーズを持った人たちなど、社会的に弱い立場にある人たちの声に耳を傾けることが重要です」とPCMSのプロジェクトリーダー、アドリアナ・デルガムは説明する。「そうした人たちの意見も、研究・教材に反映させるつもりです。また、啓発キャンペーンやカンファレンスでのスピーチにも参加してもらいたいと思っています」

また、カレル大学社会科学部でジャーナリズムを学ぶ学生を対象にした「デジタル技術と人権」の特別講義に、研究成果が盛り込まれるのも初めての試みとなる。講座の内容は、チェコ科学アカデミー国家法律研究所のエリザベス・クラウソヴァーが監修する。彼女は欧州の専門家グループのメンバーとして、過去に人工知能システムによる損害賠償責任に関する規則の策定にも携わっている。

「大学の講義以外にも、専門家と一般市民が無料で利用できるオンライントレーニングも開発することになっています。その目的は、テクノロジーが人権に与える影響、例えば人工知能による意思決定でなぜ差別が生じるのか、あるいはテクノロジーを使って私たちの権利を守るにはどうすればよいのか、といった意識を高めることにあります」とクラウソヴァーは説明する。

このプロジェクトのすべての活動は、エレクトロニック・フロンティア・ノルウェーからの継続的なコンサルティングと支援を受けることになっている。EFNとLuReはともに、欧州デジタルライツ団体のネットワークの一員であり、デジタル環境における人権保護にさらなる注目を集めるべく呼びかけを行ってきた。両団体の参加は、このプロジェクトの成果をより多くの国際的なステークホルダーに広めることに繋がるだろう。

「デジタルライツ運動は、90年代にコンピュータおたくの間で共有された信念から発生したものです。私たちはその後、私たちが共有するすべてのアイデアは、人権の強固な基盤であることを理解しました。デジタルライツとは、まさにデジタル時代の人権です。それを推進することがEFNのコアミッションです」とEFNのトム・フレドリク・ブレニング事務局長は説明する。

「デジタル時代の人権の促進」は、欧州委員会が「デジタルライツおよび原則に関する欧州宣言」草案を提示してからわずか数週間後にローンチされた。これには、デジタル接続は普遍的なものであり、どこでも、誰でも利用できなくてはならないこと、ユーザは常に自分の個人データがどのように利用され、誰に対して提供されているかを知ることができなくてはならない、といった基本原則が含まれている。また、この提案には、従業員が勤務時間外に「接続を切断する」権利を有するという規定も含まれている。欧州委員会の最近の報告書ではさらに、欧州人口のほぼ半数が未だに基本的なデジタル技術を身につけていないことに警告を発している。

「人権を守るためには、まず人権が何を意味するのかを理解しなくてはなりません。そのためには、今日の世界ではデジタル技術を理解しなくてはならないということです。私たちのプロジェクトは、ジャーナリスト教育に重点を置いていますが、ジャーナリストを通じて社会全体を教育することができると考えています。デジタル時代の人権と自由を守る必要性を認識させることで、このプロジェクトはメディアと社会の領域だけでなく、チェコ共和国の経済と競争力にも貢献できると信じています。個人を中心に据えず、社会全体もそれを容認しているようでは、デジタル・トランスフォーメーションを長期的な成功に導くことはできないでしょう」と、IuReのヤン・ヴォボジールは語った。

本稿はこちらで最初に公開された。

Promoting human rights in the digital era – European Digital Rights (EDRi)

Author: Hynek Trojánek / Iuridicum Remedium (IuRe) | via European Digital Rights (EDRi) (CC BY-SA 4.0)
Publication Date: March 23, 2022
Translation: heatwave_p2p