以下の文章は、電子フロンティア財団の「A Roller Coaster for Decentralization: 2022 in Review」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

今年は、我々が日々利用するサービスやツールの分散化(脱中央集権化:decentralize )ムーブメントにとって、激動の一年だった。インターネットサービスの分散化は、既存の大企業との競争からオンライン・プライバシーにいたるまで、様々な懸念の解消に役立つ可能性を秘めている。

ユーザの自律性とオンライン上の競争に影響を与えるこれらの問題にさらに注力すべく、EFFのは今年、分散化担当シニアフェローにロス・シュルマンを迎えた。ロス・シュルマンはとりわけ、EFFのDWeb CampやUnfinished Liveなどの取り組みを手動している。さらに世界を見渡すと、2022年には暗号通貨市場が激動し、大規模な不正と様々な疑惑により、連邦レベルの政治家たちがこの分野の規制の検討に乗り出している。

8月、米国財務省外国資産管理室(OFAC)は、暗号通貨プライバシーツールのTornado Cashを、北朝鮮に利用されていたことを理由に制裁リストに追加し、米国市民の使用を事実上禁止することを発表した。多くの暗号通貨は、すべての取引がグローバルな公開台帳に記録されるため、ユニークな金融プライバシー問題を抱えている。Tornado Cashは、イーサリアムブロックチェーン上でプライベートかつ匿名での金融取引を可能にするために作られた。利用者の多くは、医療費の支払いや、抑圧的な状況でのLGBTグループへの支援、宗教団体への寄付といった完全に適法な用途において、自らのプライバシーを守る必要性に駆られることもある。だが、他のテクノロジーと同じように、違法な用途に使われる可能性もある、というだけだ。

OFACの決定は、表向きは違法な用途に対処するためとされたが、あまりにも曖昧である。EFFが指摘してきたように、コードは言論であるため、そのツールの公開は憲法修正第1上の中核的権利に関わる。OFACの命令は、Tornado Cashのスマートコントラクトを実行するコードそのものが規制の対象になるのかが曖昧にされていたため、GitHubはTornado Cashの公開コードリポジトリを削除し、主要開発者のアカウントを凍結してしまった。裁判所は1990年代後半から、コンピュータコードは憲法修正第1条で保護される言論の一形態であると認めてきた。だがOFACの行動がその自由に影響を及ぼした可能性がある。我々がこの事実を指摘したところ、幸いなことに、OFACはその後まもなく、Tornado Cashのコードを単にホストしたり議論したりすることは制裁には含まれていないことを明確化し、懸念を払拭した。

だがOFACの行動は、オンラインにおける基本的なプライバシー権や、ブロックチェーン上で実行される自律的なコードの管轄など、さまざまな問題をはらんでいる。我々は今後もこの問題を注視していきたい。

Internet Archiveが、コロナ禍にあって数年間休止していたDecentralized Web Campを開催したことも話題になった。今年のDWeb Campは8月末、8月末にカリフォルニア州メンドシーノ郊外のレッドウッドで開催された。OFACのTornado Cash制裁の発表からわずか2週間後ということもあり、参加者の多くが関連する法律や政策に関心を持っていた。EFFは今後生じうる結果、立法者や規制当局との認識のずれ、政府に効果的に影響を与え主張する方法などについての議論に参加した。

最後に、この数ヶ月、最も意外な人物――つまりイーロン・マスクの行動によって、分散化の可能性に注目が集まっている。イーロン・マスクは、プラットフォームを改善する上で我々のアドバイスに耳を傾けるどころか、重要な認証システムと席になるコンテンツモデレーションを切り捨ててしまった。その結果、多くのユーザが懸念を抱き、Twitterの代替手段を探すようになった。とりわけ、ActivityPubプロトコルで相互接続されたソーシャルネットワークの集合体の「フェディバース」、その中でも最も有名な「Mastodon」に注目が集まっている。

フェディバースは、オンラインサービスの分散化モデルを示す好例と言えるだろう。電子メールのような連合ネットワークスタイル(それゆえ「fediverse」という名称)に従い、中央集権的なオルタナティブと比較して多くの利点を有している。だがそれは同時に、さまざまな新しい課題、あるいは古い課題の新しい課題を提起する。EFFは、フェディバースの解説その可能性、そしてフェディバースにアカウントを作り、設定する方法について、いくつかの記事を書いている。我々はこのシリーズを継続し、ソーシャルメディアの完全に相互運用可能なアプローチという約束の実現を支援していくつもりだ。

全体として、2022年は分散化ムーブメントにとってはエキサイティングな1年だった。だが、それは始まりに過ぎない。一握りの巨大インターネット・プラットフォームがオンラインの生活にお呼びしている圧倒的な支配力を緩和するための機会が数多く提示されている。我々は2023年に向けて、支配的プラットフォームに依存する人々により多くの自律性と民主的コントローラビリティを提供する分散型ウェブを推進する準備を整えていきたいと考えている。

本稿は、「Year in Review」シリーズの一部である。2022年のデジタルライツの戦いに関する他の記事もご覧いただきたい。

A Roller Coaster for Decentralization: 2022 in Review | Electronic Frontier Foundation

Author: Ross Schulman / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: December 22, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Kes47 (CC BY-SA 3.0)