以下の文章は、電子フロンティア財団の「Security and Privacy Tips for People Seeking An Abortion」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

中絶や、妊娠の終了を意味するさまざまな生殖医療を必要としているなら、デジタルプライバシーとセキュリティに細心の注意を払うに越したことはありません。私たちは以前、中絶アクセスの支援者たちが自身とそのコミュニティの安全を確保するための方法を紹介しました邦訳記事)。また、ユーザのプライバシーと身体的自律の権利を尊重するにあたってプラットフォームが従うべき原則的なガイド邦訳記事)も提供しています。この記事は、中絶を必要とし、かつデジタルプライバシーを懸念している人々のためのガイドです。以前に提供したガイドで概説されたヒントと多くの点で重なっているので、繰り返しになる部分も多くあります。

中絶に関連するデータの開示を求める法執行機関の要請に企業がどう対応するかは依然としてわかりません。それに、個人が企業の決定に対抗するのも難しいことです。ただ、あなたが自分自身の情報を誰に提供し、どのようなデータを取得し、中絶に関連するデータがあなたのデジタルライフのそれ以外の部分とどのように結びつくかを管理するためにできることはあります。

データを“いつもの”生活から切り離す

あなたが法律を懸念しているのであれば、センシティブな活動をそれ以外の活動から切り離すことが最も重要です。これにはさまざまな方法がありますが、基本的な考え方は、センシティブな情報を「いつもの」生活の側面から切り離しておくということです。それによって、個人の特定は難しくなります。

これは難しいことでもありませんし、お金もかかりません。プライバシー設定がしっかりしているブラウザを選べば良いのです。Brave、Firefox、モバイル版DuckDuckGoなどのブラウザは、使いやすく、プライバシー保護を重視しています。どのブラウザでも、「環境設定」メニューからプライバシー設定をさらに上げておくことをおすすめします。また、ブラウザの閲覧履歴やサイトのデータ/クッキーを記録する機能をオフにしておくのも良いでしょう。Firefoxの「プライバシーとセキュリティ」のメニューは以下の通り。

FirefoxのプライバシーメニューにあるCookieと履歴のオプション
Firefoxのブラウザ履歴を記憶する機能をオフにする方法

クリニックや医療機関に電話する場合は、Google Voice(無料)、HushedBurner(いずれも有料アプリですが、Google Voiceよりもはるかに優れたプライバシーポリシーがあります)など、いつもとは別の電話番号を用意することを検討するといいでしょう。また、プライバシーとセキュリティを考慮して作られた別のメールアドレスを取得することもおすすめします。そうしたメールサービスには、TutanotaProtonmailなどがあります。

モバイルのプライバシー

プライバシーを守るために、「プリペイド式携帯電話(burner phone)」、つまり通常のモバイル契約とは無関係の携帯電話を入手するという方法があります。ただ、プリペイド式携帯電話を超安全に維持するのはとても難しいことです。プリペイド携帯を使えない場合は、現在使っている携帯電話のプライバシー設定を見直し、あなたに関するどんな情報が収集されているのか、誰が収集しているのか、彼らがそれを使って何をする可能性があるのかを考えてみるのが良いでしょう。

すでに生理管理アプリを使っているなら、そのプライバシー設定をよく確認してみてください。できれば、よりプライバシーを重視するアプリへの乗り換えを検討することをおすすめします。たとえば、Eukiはユーザ情報を一切保存しないことを約束しています。

あなたのスマートフォンの広告識別子をオフに設定することも重要です。iOSとAndroidそれぞれの設定方法についてはこちらのガイド邦訳記事)を参考にしてください。スマートフォンにインストールしたアプリがあなたの行動を追跡したり、そうして得られた情報を第三者に共有するのを制限できます。

それと同時に、あなたのスマートフォンのアプリに与えられている許可(パーミッション)を確認することも重要です。特に、位置情報サービスは注意深く確認すべきです。位置情報が必要なアプリ(たとえばGoogleマップ)であっても、「使用中のみ許可」を選択し、アプリを開いている間だけ位置情報を許可するようにしましょう(アプリを使い終わったら、完全に終了させることもお忘れなく)。

スマートフォンを「探す」機能(Appleなどが提供している他のコンピュータからスマートフォンの位置を確認できる機能)をオンにしている場合には、誰にも知られたくない場所に出入りする際に、その機能をオフにすることも検討するとよいでしょう

警察官に止められたり、デバイスを押収されかねない場所(クリニックや抗議集会など)に出入りするときや、スマートフォンを勝手に覗いてくる人が近くにいるようなときには、生体認証ロックをオフにしたほうがよいでしょう。顔認証や指紋認証でのロック解除をオフにするということです。その代わりに、推測しにくいパスワード(他のパスワードもそうですが、長く、ユニークで、ランダムなものにしましょう)を使うことをおすすめします。

あなたがデータプライバシーやセキュリティを懸念しているのなら、おそらく同じような懸念を持っている他の人とスマートフォンでメッセージを送ったり通話することもあるでしょう。そうであれば、エンドツーエンド暗号化メッセンジャーのSignalをダウンロードすることをおすすめします。Android向けiOS向けにそれぞれガイドを用意しているので参考にしてください。

ロックと暗号化

スマートフォンに保存されたデータが証拠として押収されかねないと、怖い思いをしているかもしれません。暗号化の仕組み自体を知る必要はありませんが、使用しているデバイスで暗号化がオンになっているかは確認しておくと良いでしょう。AndroidとiOSのデバイスは、デフォルトでストレージの暗号化がオンになっています(それでも確認しておくに越したことはありません)。ノートパソコンなどのコンピュータでも暗号化は重要です。お使いのOSでは、暗号化がデフォルトでオンになっているとは思いますが、これも確認しておきましょう。確認方法については、MacOSはこちらWindowsはこちらをご覧ください。Linuxの場合は、お使いのディストリビューションのガイドを参照して、フルディスク暗号化を有効にする方法を確認してください。

消去と電源オフ

スマートフォンやコンピュータから何かを消去するのは、口でいうほど簡単ではありません。センシティブなデータであればなおさら確実に消去しておきたいものです。

スマートフォンから画像を削除するときは、「最近削除したもの」フォルダからの削除を忘れないでください。iOSから完全に削除する方法はこちらで紹介しています。iOS同様、AndroidのGoogle Photoアプリでも、最近削除した画像を一定期間保存する「Bin」フォルダから写真を削除しなくてはなりません。

WindowsでもMacOSでも、「安全な削除」機能を使うのが望ましいのですが、先ほど説明したフルディスク暗号化をオンにする(オンになっていることを確認する)ことのほうが優先度は高いということを覚えておいてください。

ここに来たことを誰かに知られるのが怖いというような場所に行くときに、最も簡単かつ信頼できるソリューションは、スマートフォンの電源を切り、ノートパソコンを自宅から持ち出さないことです。クリニックや中絶禁止抗議集会への行き帰りにスマートフォンをオフにすることのデメリットと、オンにしたときのリスクのどちらが大きいかを判断できるのはあなただけです。詳細は、抗議デモに安全に参加するためのガイドをご覧ください。

Security and Privacy Tips for People Seeking An Abortion | Electronic Frontier Foundation

Author: Daly Barnett / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: Jane 23, 2022
Translation: heatwave_p2p