インターネットプラットフォームは、DMCAのセーフハーバー条項によってユーザが行う著作権侵害から免責されている。しかし権利者サイドからは、プラットフォームがコンテンツ使用料の支払いを回避する言い訳として利用されている、との批判もある。そのような損失を推定した米国の調査によると、その総額は、YouTube単独で年間10億ドルを上回る可能性があるという。
DMCAのセーフハーバー条項をめぐる議論は、収まるどころかますます加熱しつつある。
端的に言えば、権利者は、音声・動画のアップロードを可能にするインターネット・プロバイダが、ライセンス料を支払わずにコンテンツから金儲けするためにDMCAの免責条項を悪用している、と考えている。
ここ最近、ハリウッドや音楽産業がGoogleに敵意を剥き出しにしていることを考えれば、YouTubeが最前線になることは必然と言えるだろう。
特に、グローバルなレコードレーベルは、YouTubeがSpotifyやAppleのような「適切な」交渉によるライセンス料の支払いを回避しており、ユーザが行った著作権侵害から莫大な商業的利益を得ている、と主張している。
YouTubeはこうした批判に対し、違法コンテンツの報告があれば迅速に削除し、無断アップロード動画を特定し収益化オプションを提供するコンテンツIDのようなシステムを多額の資金を投入して開発するなど、可能な限りの著作権侵害対策はすべて行っていると反論している。また、YouTubeは音楽業界に年間10億ドルを支払っている。
最終的には法律によって解決される問題かもしれないが、いまのところ、エンターテイメント産業は、GoogleやYouTubeが他人の苦労から巨万の富を得ているフリーライダーだという印象づくりに躍起になっている。
どれだけの収益が失われているのか――その正確な数字が出されることはあまりないが、ワシントン州のフェニックス・センターはまさにその算出に取りかかった。T・ランドルフ・ビアード博士、ジョージ・G・フォード博士、マイケル・スターン博士の共著論文『Safe Harbors and the Evolution of Music Retailing』によると、莫大な金額であるようだ。
「音楽は、YouTubeのプラットフォームおよび広告収入に必要不可欠であり、その40%を占めている。しかしYouTubeは、これら『セーフハーバー』条項に依拠し、膨大なオンデマンドの音楽利用に対して、レコード業界の市場水準を遥かに下回るレートで支払っている。」
この論文ではIFPIが2016年に公表した統計を引用し、(通常のライセンス交渉を経て価格設定された)音楽サブスクリプションサービスが世界中に6800万人の加入者を抱え、1曲につき0.008ドルのレートで、アーティストやレーベルに20億ドルの収益をもたらしているという。
一方、(YouTubeなどの)広告ベースのサービスは9億人のユーザに利用されており、1曲につき0.001ドルのレートで、わずか6億3400万ドルしか生み出していないという。
「およそ代替可能な両者の間には、明らかに大きな価格差がある」と述べている。
20ページに渡るこの論文は、RIAAが望む結論を導くために記述されているかのような数字と理論が並んでいる。オンデマンドの音楽サービスとして、YouTubeはサブスクリプション・ベースの競合他社と同等のレートで使用料を支払うべきだと指摘する。
「より合理的なロイヤルティ・ポリシーは、レコード産業に重要かつポジティブな効果をもたらす。デジタル時代の壊滅的な結果からの回復を促し、産業に悪影響を及ぼす時代遅れの公共政策からの脱却を助けるだろう」
「米国最大のデジタル音楽提供者であるYouTubeのロイヤルティ・レートを適切なレートに設定した場合、2015年のデータに基づけば、ロイヤルティ収益は年間6億5千万ドルから10億ドル以上にまで増加する」
「これは相当な効果であり、YouTubeのセーフハーバーの使い方を批判するレコード産業に信頼性を与えるものである」
業界的にタイムリーな時期に公表されたこともあり、我々は共著者のジョージ・S・フォードに、この研究の動機や、音楽産業団体のからの依頼、あるいは資金提供などがあったのかについて質問した。
「私たちは著作権に関する多数の研究を行ってきました。私自身、最近で言えばCRB(著作権料委員会)でSDARS III(衛星デジタルラジオ放送)のケースを含め、さまざまな設定でこの種の問題に直面してきました。長い間、このテーマで書きたいと思ってきたのですが、ようやくその時間が取れたということです」とフォードはTFに語った。
「フェニックスセンターでは、特定のプロジェクトで資金を募ることはありません。例外的に、政府から委託されることもありますが、その場合はプロジェクトが資金提供を受けたことを明示しています。この論文でも記してるように、RIAAからはデータの提供を受けました」
特定の質問に回答が得られなかったため、我々は再度、RIAAやIFPI、あるいはメンバーのレーベルがフェニックス・センターの援助者、支援者であるかどうかを質問した。その回答は得られていない。
フェニックス・センターはこの数年、業界寄りの論文を複数公開している。たとえば、Megauploadのポジティブな影響を否定し、MPAAに賞賛された論文もそうだ。
論文はこちら(PDF)からダウンロード可能だ。
アップデート:「諸々の事情により、フェニックス・センターは後援者を開示していない」とフォード氏から返答があった。
DMCA Helps YouTube Avoid Up to $1bn in Royalties Per Year, Study Claims – TorrentFreak
Publication Date: March 30, 2017
Header Image: Kon Karampelas
Translation: heatwave_p2p