YouTubeの最高ビジネス責任者が、侵害コンテンツに対するプラットフォームの責任を強化し、フィルタリングを義務づけるEU著作権指令案第13条の議論に加わった。ロバート・キンセル氏は、この提案がプラットフォームによるユーザ生成コンテンツのホスティングを阻害し、クリエイティブ・コミュニティを損ねる可能性があると主張する。
来週、欧州議員は、論争を巻き起こしている著作権指令案第13条の投票を再び行う。
反対派は、この著作権指令案が違法アップロードを防止する厳格なアップロードフィルターの導入を、YouTubeをはじめとするプラットフォームに強制するものだと批判している。こうしたシステムは、フェアユースなど適法な著作物を利用を判別できず、クリエイティビティを阻害するものだと主張している。
一方、賛成派は、YouTubeはセーフハーバーを利用したフリーライダーであり、第三者のコンテンツをフェアに扱うべきだと主張する。
音楽業界の理屈では、第13条がプラットフォームの責任を強化することで、最大のターゲットであるYouTubeに対し、通常よりも高い音楽ライセンス料の支払いを強制できるという。業界関係者は、YouTubeからセーフハーバーを引っ剥がすことこそが、アーティストへの公正な補償をさせる唯一の方法だという。
この数ヶ月、音楽業界とテクノロジー業界、そしてインターネットの自由の唱導者らによる議論が激化している。しかし、YouTubeとその所有者であるGoogleは比較的静観を保ってきた。自らがこの規制の標的にになっていることを考えると、いささか不自然ではある。
しかし現在、YouTubeの最高ビジネス責任者のロバート・キンセル氏が議論に参入し、第13条が通過すれば、クリエイティブな環境がさらに制限されることになると警告している。
「オープン・インターネットは、伝統的なメディアゲートキーパーという障壁を排除し、クリエイターやアーティストに世界規模のあたらしいクリエイティブ・エコノミーをもたらしました。情熱を共有し、世界中でファンを見つけ出し、ビジネスを構築するアイデアが万人に開放されたのです」とキンセル氏はYouTubeクリエイターブログで述べている。
「9月12日の新たな欧州著作権指令案の投票に向け、欧州議員が準備を進めていますが、それが善意によるものだとしても、危機をもたらすと感じています」
実際、提案の一部――特に「第13条」は、プラットフォームによるユーザ生成コンテンツのホスティングを阻害し、その結果クリエイティブ・エコノミーを害することになると見られている。
キンセル氏は、この指令案を通過させてしまえば、クリエイティビティは鈍り、すべてのYouTubeユーザに悪影響がもたらされると警告する。
プラットフォームが厳格な責任を負うことになれば、YouTubeのクリエイターたちの収益がリスクにさらされることになる。反対派は、YouTubeのようなサイトが、用心しすぎるあまり、判断の難しいコンテンツを検閲(フィルタリング)するようになってしまうと長らく警告してきた。
YouTubeの最高ビジネス責任者は、同社が著作権者を支援するためのテクノロジーに投資してきたことを改めて訴えている。
同社のコンテンツIDやコンテンツマッチシステムは、著作権者の求めに応じて、検出されたコンテンツの収益化や削除を可能にしている。
「著作権者は自分のコンテンツを管理しています。彼らはツールを使って、作品をブロックまたは削除したり、YouTube上にそのまま残して広告収入を得ることができます。90%以上のケースで、権利者たちはコンテンツを残すことを選択しています」と彼は記している。
「このような新しいクリエイティビティやファンとのエンゲージメントのかたちを可能にすることで、世界規模のプロモーションが可能になり、さらに多くの収益がもたらされています。世界的なアーティストを例にとっても、ドレイクの「In My Feeling」やMaître Gimsの「Sapés Comme Jamais」のように、バイラルしたファンメイドのダンスビデオのなかでその楽曲が使われています。Dua Lipaのキャリアはカバー動画からスタートしていますし、Alan Walkerは自身の楽曲『Fade』をユーザ生成コンテンツやビデオゲームで使用することを許し、世界にファンを増やしています」
今週、音楽業界関係者との非公式協議において、TFはなぜコンテンツIDやコンテンツマッチのようなツールでは、YouTube上の著作権侵害問題を解決できないのかと質問した。これらのシステムの有用性については認めつつも、YouTubeによるコンテンツの過小評価を是正し、公正なライセンス料を支払わせるためには、第13条による責任強化が唯一の方法だと彼らは答えた。
音楽業界が電子商取引指令のセーフハーバー保護からYouTubeを除外しようとする一方で、YouTubeは第13条の影響がインターネットで最も人気のあるビデオサイトだけに留まるものではないと警告する。
「この著作権指令案の影響を受けるのは、YouTubeのクリエイターやアーティストだけにとどまりません。インターネット上のありとあらゆるユーザ生成コンテンツにも影響します。だからこそ、多数の人々が懸念を表明しているのです」
「個人や組織(European Digital RightsやInternet Archiveなど)、企業(PatreonやWordpress、Mediumなど)、インターネットを作り上げたアーキテクトやパイオニア(ティム・バーナーズ=リー卿ら)、表現の自由を担当する国連特別報告者が、声を上げています。Phil DeFranco、LeFloid、TO JUZ Jutroをはじめ、インターネット中のクリエイターが、創造し、表現するための権利のために立ち上がっています」
そのために、キンセル氏は第13条の反対派に、ソーシャルメディア(#SaveYourInternet)で自らの意見を訴え、ChangeCopyright.orgを通じて議員に声を届けることを推奨している。極めて重要な投票が9月12日に迫っている。これから数日間、議論はさらに白熱していくのだろう。
YouTube Chief Says Article 13 “Undermines Creative Economy” – TorrentFreak
Publication Date: 2018/09/09
Translation: heatwave_p2p
Material of Header Image: Musickness