主要会派で投票が割れたものの、本日、欧州議会議員は、著作権指令案のおぞましい提案のすべてを受け入れ、望ましい提案のすべてを拒絶した。これにより、インターネットは、TwitterのテキストメッセージからFacebookの更新、写真、ビデオ、音声、ソフトウェアコードにいたるまで、著作権で保護されるあらゆるメディアが大衆自動監視と恣意的検閲される舞台となる。
欧州議会が可決した3つの提案は、表現の自由、プライバシー、そして芸術に破滅的損失をもたらす。
- 第13条:著作権フィルタ。ごく小規模のプラットフォームを除き、あらゆるプラットフォームは、すべての投稿を検査し、著作権侵害と判定されたすべてのものを検閲する著作権フィルタを自衛のために導入しなくてはならない。
- 第11条:ニュースサイトとライセンス契約を交わしていないサービスでは、記事中に含まれる単語2語以上を使用してニュース記事にリンクする行為は禁止される。ニュースサイトは、引用を許す権利を主張するかライセンスを拒否することで、実質的に批判者を排除する権利を得る。加盟国は、この権利がもたらす弊害を緩和するための例外や制限を設けることができるが、必須ではない。
- 第12条a:スポーツイベントの写真やビデオの投稿は禁止される。スポーツイベントの「主催者」のみが、試合の記録を公表する権利を持つ。セルフィーも、好プレーの短いビデオも許されない。観客であるあなたは、指定された席に座り、受動的に試合を眺め、そのまま帰ることが求められる。
同時に、EUは21世紀に適した著作権の控えめな提案でさえ拒絶した。
- 「パノラマの自由」の拒絶。公共空間で写真やビデオを撮影すると、バス側面に掲載された広告やTシャツのプリントに使用される写真素材から、建築家が著作権を主張する建築物のファサード(正面玄関)にいたるまで、意図せず著作物が含まれることがある。背景にあるオブジェクトの著作権侵害を気にせずに街頭の風景を撮影することを欧州全域で合法化する提案をEUは拒絶した。
- 「ユーザ生成コンテンツ」の免除の拒絶。これはEU加盟国に、「批評、レビュー、イラスト、似顔絵、パロディ、パスティーシュ(作風の模倣)」のための作品の抜粋を可能にする著作権法の例外を提案していた。
この夏、私はこれらを成果として歓迎する多くの人々と対話し、なぜ彼らがそう考えているのかを理解しようとした。そこでわかったのは、こういうことだった。
* 彼らはフィルタを理解していない。まったくわかっていない
エンターテイメント業界は、この世には著作物を識別し、紙の契約書をかわさずにそれを提示することを抑止するテクノロジーが存在し、唯一の障害はプラットフォームが強情さだけだとクリエイターを信じ込ませている。
現実には、(クリエイターを含む)真っ当なユーザがによる適法な行為がフィルタによって阻止されているにもかかわらず、本当の侵害者は簡単にフィルタを回避しているのだ。
つまり、フィルタの仕組みを理解し、それを回避する方法を学ぶことなく、熟練したアーティストにはなれないということだ。たとえば、画像を遮断する中国政府のフィルタ技術は、簡単な方法で破れる。一方、こうしたフィルタは、莫大な資金と技術力を背景に、秘密裏に行われているため、著作権フィルタよりも何千倍も効果的だ。
あなたがプロの写真家であれ、趣味で写真を投稿する一般人であれ、あなたの人生にハードコアなフィルタ戦士として捧げる時間はないはずだ。あなたの作品がフィルタに著作権侵害だと誤検出されたとしても、アングラな著作権侵害テクニックを駆使してフィルタを回避することなどできようはずもない。あなたにできることといえば、ブロックしたプラットフォームに異議を申し立て、同じ目にあった数百万の不幸な人々の列に加わること、そして、疲弊しきった人間のレビュワーがあなたの申し立てを正しく判断することを願うだけだ。
もちろん、大手エンターテイメント企業やニュース企業は、こうした弊害は気にかけてはいない。フィルタが問題を起こしたとしても、彼らにはプラットフォームに直通のバックチャンネルが与えられ、ヘルプラインに優先的にアクセスすることができる。大手エンターテイメント企業に囲われたクリエイターは、フィルタによって保護されるだろう。だが、インディペンデントのクリエイター(あるいは一般市民)は、自分自身で身を守らなくてはならないのだ。
* 待遇を改善してくれるはずの「競争」を著しく損ねる
EUが義務づけるフィルタの構築には、数億ドルもの費用がかかる。それほどの資本を持つ企業は、世界を見渡しても米国のテクノロジー企業と中国のテクノロジー企業、ロシアのVKなどにごく一部だ。
インターネットをフィルタリングする義務は、競争法規制当局が巨大なプラットフォームを分割しようとした場合、どれだけ小さく分割するかに歯止めをかける。ネットワーク全体の侵害を取り締まれるのは、最大規模の企業に限られ、したがって、最大規模の企業をそれより小さくできなくなってしまうのだ。最新版の指令は、ごく小規模の企業に義務の免除を与えているが、裏を返せば小規模なままでいることを強いられるということである。さらに、ある日突然著作権警察としての振る舞いを強制されることを常に心配し続けねばならないということでもある。今日、欧州はテクノロジーセクターの企業統合の強化を支持し、インディペンデントなクリエイターの立場を極めて危うくした。競争に問題を抱える2つの巨大産業は、自らを利する取引のために交渉を続けてきたが、それにより競争環境は損ねられ、インディペンデント・クリエイターたちは蚊帳の外に置かれてしまうことになった。我々が本当に必要としていたのは、テクノロジー産業とクリエイティブ産業双方の独占的慣行を是正するためのソリューションだった。しかし、そうはならず、彼らにとって都合の良い(それ以外のすべての人たちを追いやる)譲歩案が得られただけだった。
どうしてこんなひどい状況に陥ってしまったのか。
悲しいかな、その理由は単純だ。インターネットはすでに我々の生活の一部となっている。つまり、我々の抱えるあらゆる問題は、すべてインターネットと交差しているのだ。そして、テクノロジーをよく理解していない人は、問題は『テクノロジーを修正する』ことで当然に解決できると思い込んでいる。
アーサー・C・クラークは、「十分に発達したテクノロジーは、魔法と見分けがつかない」という名言を残した。確かに技術的成果が魔法のように見えることもある。そして、こうした凡庸な奇跡を目にすることで、テクノロジーはどんなことでもできてしまうと思い込むのも必然だ。
技術者がなせることと、なしえないことを理解できないままでいると、無限の厄介が生み出されることになるーーネットワーク化された投票機が国政選挙を実施する上で十分なセキュリティを備えていると無邪気に主張する人々、いかさま師には我々のデータ破りはできないが警察にはデータ破りが可能な暗号化技術を確立できると主張する当局、ブレグジット後のアイルランド国境問題を未知のテクノロジーで解決できると主張するペテン師。
一握りの巨大エンターテイメント企業が持ち出してきた青写真では、大規模なフィルタリングが可能であり、無害であると主張されてきた。そしてそれは彼らの真実となり、たとえテクノロジスト(その分野の世界的な権威であろうとも)が不可能だと伝えたところで、エンターテイメント業界は、テクノロジー企業が強情で、ビジョンに欠けているだけだと非難し、何ができて、何ができないかの有益な情報として捉えることはない。
このようなパターンはよくあることではあるが、EUの著作権指令の場合、より悪化する要因があった。著作権フィルタの提案と、テクノロジー大手から新聞社に数百万ユーロを支払わせるという提案とが結びついたことで、悩みを抱える報道機関からの好意的な報道が保証された。
最後に、インターネットがある種の視野狭窄をもたらす――我々が相互作用するネットの一部がインターネットのすべてであるかのように思えてしまう――という問題がある。インターネットは日々無数の公衆コミュニケーションを扱っている。誕生日のお祝いから追悼メッセージ、パーティや会議の通知、政治キャンペーンやラブレターにいたるまで。第13条が対処しようとしている著作権侵害はこうしたコミュニケーションの1%にも満たない。しかし、第13条の支持者たちは、プラットフォームの「第一の目的」が著作権で保護されたエンターテイメント作品を提供することにあると主張する。
エンターテイメント業界の人々が、インターネットで多くの娯楽作品に触れているのは疑いない。警察がインターネットを犯罪に利用する人々をより多く見ているように。ファッション好きがインターネットで衣装を公開する人々をより多く目にしているように。
インターネットは我々が知りうる以上に広大である。だが、だからといって、自らの狭い範囲の利益を追求するために、広大な電子世界を犠牲にし、他のインターネットユーザから何かを奪うことに無頓着であって良いわけではない。
本日の著作権指令投票は、クリエイターの生活をより困難にするだけでなく、コンテンツ大手、テクノロジー大手に巨万の富をもたらすものである。そして、我々すべての生活を脅かすものでもある。昨日、私がメンバーとして参加する制作者ユニオンの政策担当者は、彼らの仕事は「シェイクスピアを引用したい人を守ることではない」と私に言った(何者かがシェイクスピアの作品を自分の作品であるかのように著作権フィルタに虚偽の登録をすれば、シェイクスピアの引用をインターネットから消し去ることができる)――彼らの仕事は、作品を「食い物にされている」の写真家の利益を守ることだと言う。私の参加するユニオンが支持した破滅的な提案は、写真家の役に立たないだけでなく、コミュニケーションが十字砲火にさらされ、すべての人に多大な被害をもたらすもののだ。たとえ誤り率が1%であったとしても、日々数千万件の検閲が行われることになる。
では、これからどうなっていくのか。
この問題について、欧州市民が選出された指導者に影響を及ぼす方法はいくつかある。
* 直近:この指令は今、加盟国の代表者と欧州連合による秘密主義的な非公開会合となる「トリローグ」に進んだ。ここで議会が次の投票する最終指令案が決定されるが、ここに影響を及ぼすのは極めて難しい(難易度:10/10)
* 来春:欧州議会はトリローグで決定された最終指令案に投票する。しかしここでは条文の修正はできず、指令案自体の可否のみを問う投票が行われることになるだろう。この段階で指令を打ち破るのは非常に困難だ。(難易度;8/10)
* その後:28の加盟国は、指令に応じた国内法を議論し、制定しなくてはならない。EUレベルでの修正に比べ、28カ国の議会それぞれに影響を及ぼすのは多くの点で困難が伴うが、一方で、加盟国の議員は個々のインターネットユーザにより一層の責任を感じているはずだ。さらに、1カ国で勝利すれば、それをてこに他国に広がっていく可能性もある(「見ろ、ルクセンブルグがやりやがった。我々も続くぞ」)。(難易度:7/10)
* いつか:法廷闘争。これらの提案は極めて広範囲に及ぶ性格、既得権益、および関連する権利との比較衡量に未解決の問題を抱えており、いずれ、欧州司法裁判所の判断が求められることになるだろう。しかし残念ながら、法廷闘争は時間も、金もかかる。(難易度:7/10)
そんななかで、欧州選挙が迫りつつある。EUの政治家は、自らの地位をかけて戦わなくてはならない。欧州議員候補者が著作権の拡大を自らの業績として選挙戦を勝ち抜ける地域などほとんどないだろうが、対立候補が「私に投票を!対抗馬はインターネットを破壊した」と訴えるキャンペーンに直面する可能性は大いにある。
米国のネット中立性をめぐる混乱で見られたように、フリーでオープンなインターネットを守ろうとするムーブメントは幅広く強力な支持を得ており、政治家が自らの地位を失いかねないトピックになるかもしれない。
振り返ってみよう。これまで、1度きりの「勝利」ですべてが終わる戦いなどはなかった。自由で、公正で、開かれたインターネットを守る戦いは、永遠に続いていく。
人々が
a) 問題を抱え、それが
b) インターネットと交差する限り、
問題を解決するためにインターネットを破壊しようとする試みが絶えることはない。
確かに今日、我々は強烈な挫折を味わった。しかし、我々のミッションが変わることはない。オープンで自由でフェアなインターネットを守り、インターネットを人種やジェンダー、表現、民主的正統性などの問題をめぐる闘争のための場とし続けるために、戦って戦って戦い抜くことだ。
この投票が別の結末を迎えていたとしても、我々は今日も戦い続けているだろう。明日も、そして明後日も。
自由でフェアでオープンなインターネットを守り、回復するための戦いは、勝利のための戦いではない。自分自身のコミットするためにこそある。そうでなくては、あまりにもつらい戦いだ。
Today, Europe Lost The Internet. Now, We Fight Back. | Electronic Frontier Foundation
Publication Date: September 12, 2018
Translation: heatwave_p2p