上院は今週、今年はじめに下院が承認した音楽近代化法(MMA:Music Modernization Act)を大幅に修正しうえでを可決した。上院の法案には、古いレコード作品(訳註:音源)を保護しつつ、公共のアクセスを高める譲歩的修正が加えられた。
最近まで、CLASSICS Actとして知られてきたMMAは、レコード会社が20世紀の文化を永遠にコントロールするための試みと見られてきた。下院が可決した法案は、大手レーベル――1972年以前のレコード作品の大半を保有する権利者――にそれらレコード作品が2067年まで保護される権利を与えるものであった。これら1972年以前のレコード作品の著作権は、すでに他の創作物に与えられている著しく長い保護期間よりもさらに長い期間の保護が与えられ、a) デジタルストリーミングなどの演奏を管理する新たな権利を含むようになり、b) 著作権者の厳格なペナルティレジームに組み込まれ、さらに c) 他の著作権に適用される多くのユーザ保護や制限がないというものであった。
法案の起草プロセスにも大いに問題があった。この法案は数十年前に逆戻りしたかのように、一握りの業界の代表者によって密室で書かれ、その後も市民の意見に耳を傾けることなく議会は可決してしまった。ワシントンに乗り込んできた著名ミュージシャンが政治家と握手を交わすなど、スターの力も存分に発揮された。
しかし、2つの出来事が結末を変えた。1つ目は、この法案により影響を受ける様々なグループが声を上げ、その声に耳を傾けるよう訴えたことだ。図書館団体や、音楽ライブラリ、アーキビスト、著作権を専門とする学者、起業家、音楽ファンによる懸命な努力により、下院を全会一致で通過した後にもかかわらず MMAの問題が広く知られるようになった。あなたが、下院の法案を受け入れてはならないと上院議員に訴えたことが、事態を大きく動かしたのだ。
2つ目は、ACCESS to Recordings Actというより良い選択肢を提案したロン・ワイデン議員が市民の側についたことだ。この法案は、1972年以前のレコード作品を規定する州法の継ぎ接ぎの上に連邦著作権法を置くのではなく、レコード作品の権利を完全に連邦法によって規定し、他の著作権と同様の権利と制限が適用するというものだ。もちろん、著しく長い保護期間が与えられ、大きな欠陥を抱える著作権システムに組み込まれることになるのだが、少なくとも一貫性はもたらされる。
数週間に渡る交渉の末、今週の譲歩案が生み出された。新たに追加された「Classics Protection and Access Act」セクションでは、1972年以前のレコード作品の権利を定めた複雑で曖昧な州法の大部分を排除し、ほぼすべてに連邦著作権法の規定が適用されることになる。レコード会社を中心とした著作権者には、インターネットや衛星ラジオでストリーミングされる近年のレコード作品と同様のデジタル演奏権が新たに与えられる。しかし、古いレコード作品についても、他のクリエイティブな作品にも適用される公衆の権利と保護(訳註:権利制限)――フェアユースや権利消尽の原則(ファースト・セール・ドクトリン)、図書館や教育者の保護――が明示的に適用される。この点は、カリフォルニア州など、多く州著作権法に、フェアユースの例外や権利消尽の原則が定められていないこともあり、非常に重要だ。
さらに新たな法案では、古いレコード作品がパブリックドメインになるまでの期間が短縮されている。1923年以前のレコード作品は、3年の猶予期間を経て、すべての著作権保護が終了する。1923年から1956年までのレコード作品は、今後数十年に渡ってパブリックドメインになり(訳註:95年間の保護期間と5年間の猶予期間を経て保護期間が終了する)、1957年以降のレコード作品は、下院の法案と同様に2067年まで著作権が続くことになる。これらの保護期間は、他の米国著作権(訳註:の保護期間 95年)に比べ非常に長く、最長で公表から110年間にもなる。しかし、私たちの音楽的遺産が、メジャーレーベルの独占的なコントロールから外れるまでの期間は(訳註:いい部の州法や下院の法案に比べ)短縮されることになった。
また、この法案には、たとえ権利者が見つからなくても古いレコード作品をより使いやすくする「孤児作品」形式の規定も含まれている。著作権局に通知し、営利目的での使用でないことが確認されれば、誰でも1972年以前のレコード作品を非営利目的で使用することができるようになる。著作権者は90日以内に異議を申し立てることができるが、その場合でも、作品の利用者は自身の利用が公正であることを主張することができる。この規定は、より大規模な孤児作品問題を解決するための重要なテストケースとなるだろう。
MMAは依然として多くの問題を抱えている。譲歩を加えたことで法案はさらに複雑になり、186ページにも及ぶ。そもそも議会は何十年も前に作られた作品に新たな権利を与えるべきではない。著作権法は、新たな創作に対するインセンティブを与え、それにより公共を豊かにするものでなくてはならない。古いレコード作品に新たな権利を追加したところで、新たな創作へのインセンティブが生まれることはない。また、レコード作品の著作権を含め、著作権全体の保護期間があまりに長すぎるという問題も抱えたままだ。
それでも、この譲歩は我々に希望を与えるものでもある。音楽ファンや非営利のユーザ、さらに広い範囲の人々が声を上げ、その声に政治家が耳を傾け、行動を起こすことで、著作権法の形成に影響を及ぼせることが示されたのだから。
Publication Date: September 19, 2018
Translation: heatwave_p2p
この上院の法案は、当初の下院の法案とは異なるため、修正部分について下院の承認後、大統領の署名を経て成立することになる。
一部の州法や、それに合わせた下院の法案では、1923年のレコード作品の保護期間が2067年まで続くことになり、最長で144年間に及ぶことになっていたが、上院の法案で修正が加えられたことで最長で110年ということになった。映画などの著作権保護期間95年間に比べると長いのだが、やはり一旦認められてしまうと短縮が難しいのだろう。とはいえ、1972年以降の作品については他ジャンルの著作権と同様に95年で統一されるので、EFFとしてもいわば過渡期の混乱として許容範囲だと考えているのなのだろう。
レコード業界としても、出来るだけ早くMMAを成立させたいだろうし、下手に反対して混乱させるよりは、この妥協案を認めるんじゃないかなとは思う。
ちなみに、GIGAZINEは「古い楽曲を140年以上も保護する著作権法案がアメリカ上院を通過、法律として施行される見込み」と伝えているのだが、上院法案の「CHAPTER 14–UNAUTHORIZED USE OF PRE-1972 SOUND RECORDINGS」を確認した限りでは、140年以上になることはなく、多分以前の情報をもとに144年になると勘違いしているのだと思う。