以下の文章は、Wikimedia Foundationが2019年2月28日に公表した記事「We do not support the EU Copyright Directive in its current form. Here’s why you shouldn’t either.」を翻訳したものである。

欧州デジタル単一市場における著作権指令案の最終条文は、大企業や著作権業界に過大な利益をもたらす一方、知へのアクセスを損ねるものである。限定を加えたとしても、Wikimediaはインターネットにおける情報共有を急進的にコントロールすることを目的とした改革を支持することはできない。

長い立法プロセスを経て、先週、欧州委員会、議会、理事会のトリローグが終結し、EU著作権指令案の最終条文が固まった。最終条文が公表された現在、議会による可否の投票だけが残されている。Wikimediaは、この改革をそのまま支持できないと判断した。その理由を以下に記す。

指令案の変遷

この数年間、私たちはEU著作権指令案の問題点を指摘してきた。はじめこそ、私たちも希望を持っていた。私たちのコミュニティはこの改革を支援し、指令案が提出される以前から欧州委員会にコミットし欧州議員加盟国の代表者らとともに、指令に必要とされているものについて議論を続けてきた。そこで要望されていたのは、パノラマの自由(公共の場に設置されたアートや建築物を写真家が自由に撮影し、共有できるようにするなど)の例外規定、パブリックドメインに関するルールの統一(パブリックドメイン作品の忠実な複製物を新たな権利の対象としないなど)といったものだった。

しかし、欧州委員会は一方的に提案を付きつけるだけで、さらに指令案に憂慮される要素を追加した。大手の著作権業界や報道出版社に利益をもたらす規定が優先される一方で、コミュニティ側の提案は後回しにされたことで、指令案に向けられる批判はますます高まっていった。第11条と第13条という極めて有害な条項は、大きな批判にもかかわらず残り続け、議会と理事会が先週合意した最終条文にも含まれたままとなっている。改革パッケージにはいくつか好ましい部分も含まれているが、Wikimediaはこの2つの条項を含む改革を支持することはできない。最後のステップとして、今春、議会で最終投票が行われることになっている。

限定しても損なわれる自由な知

第11条は、ニュースアグリゲーターを対象としたものだが、実際には更に広範囲に適用される。この条項は、ごく僅かな例外を除き、オンラインでニュースコンテンツを使用する場合にはライセンスを要求する。つまり、ニュースを集約、整理、解説するウェブサイトは、その記事のリンクとともにスニペット(抜粋)を表示できなくなり、ユーザがネットで情報を見つけたり、使うことがはるかに難しくなるのだ。第11条に、個人的、非営利的使用や「個々の単語」ないし「極めて短い抜粋」といった些細な例外を設けてくれたことには感謝する。しかし、第11条はインターネット上の情報、特に欧州固有の情報源を探しにくくすることによって、、Wikipediaをより良いものにすべく奮闘するボランティア貢献者の能力を損ねることになる。

第13条は、ユーザがアップロードした著作権侵害コンテンツについて、厳格な要件を満たさない限り、プラットフォームが直接の責任を負うこととしている。この規定は、侵害コンテンツを迅速に削除し、その再アップロードを防ぐだけでは足りず、投稿されうるすべてのコンテンツについてライセンス契約を交わすようウェブサイトに「最善の努力」を講じることを要求している。多数のユーザにコンテンツのアップロードを可能にするプラットフォームにとって、極めて困難なタスクであり、このルールを満たせるのは、技術力と資金力を兼ね備えたウェブサイトだけに限られるだろう。また、ウェブサイトがこのような要件を厳密に遵守すれば、インターネット上で利用できるコンテンツの多様性は劇的に損ねられる。さらに、アップロードフィルターによる私警的な著作権侵害取締システムは、責任を回避するために、あるいは誤検出(false positive)のために、コンテンツが過剰に削除される可能性もある。Wikipediaの外のコンテンツが減れば、Wikipediaコンテンツの深み、正確さ、品質も損なわれることになるだろう。私たちの協同的な百科事典は、外の世界に頼っているのだ。法律が(訳注:Wikipeidaが対象とならないよう)直接的に限定を加えたとしても、インターネットのエコシステム全体に影響を及ぼすのであれば、Wikipediaもまた影響を受けるのである。

それでも、自由な知のコミュニティが苦労を重ね、この改革に幾ばくかの影響を与えてきたことは誇らしく思う。現在の条文には、テキストおよびデータマイニングに関する広範な例外規定、パブリックドメイン作品のデジタル化保護、より多くの文化的遺産をインターネット上で活用できるようにする商業的利用されていない(out of commerce)作品に関する規定、非営利プロジェクトにもたらされる悪影響を限定するための制限などが含まれている。

こうした優れた規定は、前時代的な法制を来るべきデジタル時代に即して見直すという当初の改革の目的と一致したものである。だからこそ余計に、この改革案の未来志向でない部分に失望させられるのだ。

結論:自由な知の恩恵を享受するのはWikipediaだけではない

特定非営利プロジェクトの大部分が対象外となり、パブリックドメインの状況が改善されるのなら、なぜこの改革に不満が持つのかと思われるかもしれない。だが、ポジティブな部分が含まれているからといって、改革全体がバランスの取れたまともなものになるわけではない。たとえ善意からであったとしても、重大な問題を抱える第11条と第13条は、知の共有の基本原則が根底から覆してしまう。つまり、プラットフォームがそれを遵守しようとすれば、ユーザやプロジェクトにアップロードを許可する前に、共有が許可された知であるかを証明することを求めなくてはならない。このEU著作権指令が想定する技術的・法律的基盤は、適法であると証明されない限り、ユーザ生成コンテンツを疑わしいものとして取り扱うということなのである。このようなものを支持することは到底できない。こうした有害な規定を含む改革なのであれば、しないほうがいい。

3月下旬に開会する議会で、この指令の最終投票が行われる。この投票は、欧州全域のWikimediaコミュニティが、たとえオープンコミュニティを例外としたところで、インターネットのエコシステム全体を考慮することのない著作権改革を支持することはないと欧州議会議員に伝える最後のチャンスになる。現時点では、修正や交渉の機会は既に失われている。欧州議会はこの改革全体を否決しなくてはならない。第11条と第13条がこれほどの論争を巻き起こしていること、さらに多くの欧州議員が5月に再選挙を控えていることを考えれば、この指令案を否決し、新たな体制のもとで解決に向けて取り組んでいくことが賢明であろう。

欧州の前向きな著作権改革の実現を願うならまだ間に合う。だが、もうすぐ手遅れになるかもしれない。欧州全域の仲間たちが行動を起こすべくコミュニティを組織しているのはそのためだ。彼らの活動、行動についてはこちらを参照して欲しい

Allison Davenport, Technology Law and Policy Fellow, Legal
Wikimedia Foundation

EU著作権指令についてもっと知りたい方はこちらを

We do not support the EU Copyright Directive in its current form. Here’s why you shouldn’t either. – Wikimedia Foundation

Author: Allison Davenport / Wikimedia Foundation / CC BY-SA 3.0
Publication Date: February 28, 2019
Translation: heatwave_p2p