YouTubeは著作権者に侵害コンテンツを削除するために必要なあらゆるツールを提供するべく最善を尽くしている。これは全体としてはうまく行っているが、フェアユースに関してはほとんど考慮されないこともある。これについてギタリストのポール・ダーヴィッツが自身の経験を詳細に説明している。教育用ビデオでわずか2秒ほどのリフを演奏しただけで「クレーム」が寄せられることもあるという。
無数の人々が、批評や娯楽、教育、その他さまざまな目的で、YouTubeを通じて作品を世界に共有している。
多くの場合、そうしたビデオが問題に巻き込まれることはない。しかし、一部のクリエイターにとって、YouTubeの著作権取り締まりは、日々の活動に深刻な影響を及ぼすほどの混乱を引き起こしている。
我々は、YouTubeのコンテンツIDシステムが抱える問題について繰り返し伝えてきた。初めて取り上げたのは7年も前のことだ。そのほとんどは、YouTubeが本来適用すべきでない著作物との一致を見出してしまうガバガバなフィルターが引き起こした結果である。
しかし問題は、『ボット』が引き起こすデタラメな間違い以上に深刻だ。コンテンツID以外でも、YouTubeの通常の削除通知も問題を引き起こしている。これは詐欺師が人々を脅すためにも利用されているし、本来の著作権者が間違って申し立ててしまうこともある。
こうした事例が際限なく繰り返され、クリエイターのフラストレーションは高まる一方だ。このトラブルは今週、ギタリストのポール・ダーヴィッツの身にも降り掛かった。彼は教育的・情報的なビデオを100万人を超える購読者に共有していた。
ダーヴィッツはギタリストとしての自身のスキルを実演し、特定のテクニックの詳細を説明し、ギターを学ぼうとする人々を手助けしてきた。時には、人気の楽曲のリフやコードを演奏することもある。ギター教師が長らく行ってきたことだ。
もちろん、著作権者が楽曲全体のカバーを望んではいないのは理解できる。だが、教育的な文脈で短いリフやコードを演奏したとしても、損害を与えるほどのものではないだろう。
ダーヴィッツもそう考えていた。しかし、彼の作品に対し、Universal Music Groupをはじめとする大手音楽会社からのクレームがますます増えているのだという。
ダーヴィッツはこの問題を取り上げたビデオを投稿し、彼が直面したいくつかの事例を挙げている。先月には、投稿から1時間と経たずして15件のクレームが寄せられるという新記録を樹立したという。
ダーヴィッツは、わずか2秒程度のリフを演奏したことで、クレームが寄せられたビデオの例をいくつか挙げている。その中には、ジョン・メイヤーの『Neon』のリフを演奏したビデオも含まれている。現在、このビデオは明らかなフェアユースのケースであるにもかかわらず、非収益化(demonetized)されている。
「オリジナル・レコーディングの楽譜を使用したことは1度もなく、曲全体を演奏したこともない。ほんの短いリフについて話しているだけ。わずか5秒のリフ。そのリフを分析したうえで、それがどのような効果を生んでいるのか、なぜ難しいのかを説明しているだけなのに」とダーヴィッツは話す。
「ようするに、私たちはもうYouTubeでは楽曲を分析できないということなのだろう。楽譜でも見ようものならすぐさまクレームが飛んでくる。それをちょっとばかし演奏するなんてとんでもない」と彼は付け加える。
ダーヴィッツによると、最も人気のビデオは数百万回にわたって視聴されているが、そのビデオもすでに『クレーム』に晒されているという。彼を標的とする音楽会社は喜び勇んで彼のお金をかすめ取っているが、次世代のギター教育はますます難しくなってきている。
「ギターを学ぶという古くからの伝統は廃れつつあるようだ。私があなたに音楽を教えようとすれば、クソッタレなUniversal Music Groupサマが現れて、金を持ち去っていく。根こそぎね」とダーヴィッツはいう。
ダーヴィッツはビデオのなかで、友人のミュージシャンで教師のアダム・ニーリィとも話している。彼もYouTubeの著作権クレームの息苦しさを経験した人物だ。彼がビヨンセの「Single Ladies」をMIDIで再現したことがUniversal Music Groupを立腹させたようだ。
「Single Ladiesの作曲のどんな部分も示すことができない。楽譜であれ、MIDIであれ、彼らの目にはすべて楽曲のカバーに映っているようだ。本当に馬鹿げてるよ」とニーリィはいう。
ニーリィもダーヴィッツと同様に、曲をカバーしていたわけではない。彼は楽曲の一部をMIDIで再現し、その興味深い側面を説明していた。そのビデオは大きなQ&Aの一部分であり、明確に「教育用」というラベルがつけられていた。
ニーリィは、実際のカバーであればアーティストは補償を受けるべきだという。しかし、ここで示された事例はそれとは程遠いものだ。
「誰かが文字通り、私のビデオをクリックした。そして私が『Single Ladies』について語っているのを見た。そして言うんだ。『いやいや、君の稼いだ金は全部オレたちのものだから』。それがホント簡単にできてしまう。狂気の沙汰だよ」とニーリィは話す。
got recording copyright'd on my "Single Ladies" video. you know, the one where I use crappy MIDI sounds.
I guess Universal Music Group owns the rights to the recording of "piano".
— Adam Neely (@adamneelybass) 2019年3月29日
申立者がどんな理由でクレームを付けたにせよ、こうしたケースではフェアユースに基づく反論が可能であることは明らかである。しかし問題は、YouTubeがフェアユースを考慮に入れていないことにある。
そう、著作権クレームに対して異議申し立てはできる。チャンネルのオーナーが根気強く異議を申し立て続ければ、そのビデオは最終的には復旧する。しかし、そのプロセスに大きなリスクをはらんでいる。
はじめて削除通知を受け取ると、YouTubeはワンストライクを宣告する。そして3度の警告を受けると、チャンネルのオーナーは自らのアカウントを失うことになる。同時に、異議申し立てを繰り返すと、訴訟を起こされる可能性もあり、これも決して望ましいものではない。
ダーヴィッツはビデオの中で、こうしたクレームに対して「できることは何もない」と話す。彼は異議申し立てという選択肢があることは理解しているが、裁判してまで争う気はないとTorrentFreakに語った。
「私の時間すべてを費やさなければならないような法廷闘争には巻き込まれたくないのです」とダーヴィッツはいう。
つまり、ユーチューバーは理屈の上では自らのビデオを確実に取り戻せるとわかっていても、その高すぎるリスクゆえに(訳註:復旧の)手続きを避ける傾向にあるということである。
代わりに、多くのユーチューバーが選択しているのは、著作権クレームを受けないようにする、ということである。これは明らかに彼らのクリエイティビティや公共教育に悪影響をもたらしているし、同時に公正とも言い難い。
さらに不公正なことに、ダーヴィッツは数年前に彼自身が製作したバッキングトラックのビデオにまでクレームを受けたという。どうやら、誰かがそれをコピーして、第三者に譲渡したようだ。(訳註:オリジナルの製作者が著作権クレームを受けるという)実にねじれた状況に陥っているが、この詳細についてもビデオの中で語られている。
我々に突きつけられている問題は、これをどのように修正できるかということだ。ダーヴィッツは、我々が過去に述べたように、YouTubeは優良チャンネルのホワイトリストを作成できるはずだと訴えている。少なくとも、同社は明らかな悪用に対処し、抑制するためのポリシーとシステムを開発していかなければならない。
‘YouTube’s Copyright Mess Is Stifling Music Education’ – TorrentFreak
Publication Date: April 03, 2019
Translation: heatwave_p2p
Material of Header Image: Joshua Rawson-Harris