違法にアップロードされたテレビ番組やアニメ、映画へのリンクを掲載することに特化した、いわゆる「リーチサイト」を排除すべく、政府知的財産戦略本部にてリーチサイト規制導入に向けた検討が始まるようだ。
読売新聞によると、「リーチサイトの取り締まり基準を設け、悪質な運営業者の摘発のほか、サイトの強制閉鎖や検索エンジンの表示停止を行いやすくする」等規制が検討されるとのこと。次世代知財システム検討委員会報告書の素案で示されているが、規制の範囲には一定の要件が設けられるという。その要件については、営利を目的として大量かつ継続的に行われている場合、警告をしても止めないような侵害コンテンツを拡散する意図を持って行っている場合、市販されている著作物を原作そのままに利用し著作権者の利益を害する場合など、さまざまな案が出されている。
ここで想定されているリーチサイトは、広告収入を得るために、違法コンテンツへのリンクを継続して紹介するような典型的なリーチサイトだろう。典型的なものとしては以下のようなサイトだ。
ジャンルやタイトルごとに整理され、個別ページでは韓国系や中国系の動画共有サイトにアップロードされたテレビ番組や映画などへのリンクが張られている。
ほかには、トレントを紹介するサイト、サイバーロッカーの侵害コンテンツを紹介するサイトなどがリーチサイトに含まれるだろう。
ただ、侵害コンテンツのリンクを掲載するリーチサイトの排除といえば聞こえは良いが、インターネットの根幹であるハイパーリンクを制限することにほかならない。悪質なもののみを排除するのであればまだよいが、範囲を広げすぎれば、侵害とは無関係のコンテンツまで巻き込み、言論・表現の自由を害する可能性もある。その点については、以下のように一応の配慮はされているようだが、どうもテンプレ的な配慮という感じがして、不安は拭いきれない。
情報を紹介するのみ、単にリンクを張るのみといった行為は基本的に著作権侵害に該当しないというこれまでの考え方との関係を含め、言論・表現活動の自由とのバランスに留意することが必要である。
次世代知財システム検討委員会 報告書(素案)
また、検討されているリーチサイト規制が導入されたとして、その効果性には疑問が残る。リーチサイト経由で侵害コンテンツにアクセスする割合が高いとはいうものの、その侵害コンテンツそのものを削除できなければいたちごっこになるのは目に見えている。侵害コンテンツは海外の動画共有サイトなどに置かれており、それを削除しきれないために、経路となっているリーチサイトの規制が必要だという流れになっている。結局、国内からリーチサイトを排除したところで、その役割は海外のリーチサイトにうつるだけだろう。そうなれば、結局また同じ状態に戻ってしまうか、以前よりも状況が悪化することになる。
そうして、リーチサイト規制の行き着く先は、海外の侵害コンテンツやリーチサイトへのアクセスを遮断する「著作権ブロッキング」である。既に児童ポルノを対象にしたブロッキングが行われているが、著作権侵害を理由にユーザのアクセスが遮断されることになる。もちろん、この著作権ブロッキングも上記報告書において、継続検討課題として挙げられている。
サイトブロッキングについては、英国等諸外国における運用状況の把握等を通じ、他に対抗手段が難しい悪質な侵害行為として念頭に置くべき行為の範囲や実効性の観点や、円滑な情報の流通や表現の自由等の観点から、是非を含め引き続き検討していくことが考えられる。
はじめのうちはパイレート・ベイなどのわかりやすい「ならず者サイト」が標的になるだろう。しかし、その後どうなっていくのかは不透明だ。ただ少なくとも「増えていくこと」「範囲が拡大していくこと」は間違いない。そして、著作権侵害とは無関係な膨大なコンテンツが巻き込まれ、ブロックされることになるだろう。
当然のことながら、著作権ブロッキングを導入したところで状況は大して改善しない。結局、リーチサイト規制や著作権ブロッキングを求める既存のコンテンツ産業が以前のような状況に戻るという叶わぬ夢が叶わぬかぎり、同じことを繰り返すことになるのだろう。ダウンロード違法化のときも、違法ダウンロード刑事罰化のときもそうだったのだから。
そんなことに力を入れるより、大変な不評をいただいているTVerを「使える」アプリにするほうが、よほど建設的ではないだろうか。