以下の文章は、TorrentFreakの「“Legal Options Are a Better Way to Beat Piracy Than Enforcement”」という記事を翻訳したものである。

TorrentFreak

American University International Law Reviewに掲載された新たな論文によると、価格の手頃さと入手しやすさが海賊行為を減らす主要な要因であるという。研究者らは、訴訟や侵害警告、ウェブサイトブロッキングなどの強制的なアプローチよりも、供給面に焦点を当てたほうが効果的だと結論づけている。

海賊行為は興味深い現象である。その一方で、エンターテイメント業界からは現実の脅威とみなされている。だが、海賊版ユーザは正規コンテンツを大量に購入する消費者でもある。

これまで数多くの研究が実施され、著作権侵害が正規版の収益にどれほど影響を与えるのか、そしてどうすれば海賊行為をやめさせることができるのかを明らかにしようとしてきた。

現時点では決定的な答えはなく、各研究がそれぞれパズルの小さなピースを埋めるにとどまっている。アムステル大学の研究者、ジョアン・ペドロ・クィンタイスとジュースト・ポルトは、価格の手頃さと入手しやすさが重要な要素だと示唆している。

彼らは豊富なデータを分析し、13カ国の35,000人の回答者を対象に調査を実施した。調査の結果、2014年から2017年の間に、ドイツを除く欧州の対象国すべてで自己申告による海賊版利用率の減少が明らかになった。

研究者らはAmerican University International Law Reviewに掲載された70ページに及ぶ論文の中で、この減少が何によって引き起こされたのかを特定しようと試みている。

% Pirates on Internet population 2014 / 2017

彼らは詳細な文献研究を行い、海賊版サイトブロッキング、刑事摘発、ファイル共有ユーザ個人への民事訴訟に至るまで、さまざまなエンフォースメントについて論じることから始めた。これらを扱った研究のなかには、エンフォースメントの有効性を示唆するものもあれば、効果が限定的であるか、まったくないという論文もあった。

すべての文献の完全なレビューは本記事では割愛するが、論文の著者らの結論は明白である。エンフォースメントは海賊行為を阻止する銀の弾丸ではない。

「多数のエンフォースメント措置が実施されているものの、その実効性については不明確である。したがって、インターネット上の著作権侵害への有効な対策が、さらなるエンフォースメント措置であるかどうかは疑わしい」と論文にはある。

研究者らは、海賊行為の減少には他の要因が関係している可能性が高いと考えている。具体的には、価格の手頃さと正規コンテンツの入手しやすさを指摘する。

フランス、ドイツ、オランダ、ポーランド、スペイン、スウェーデン、イギリス、ブラジル、カナダ、香港、インドネシア、日本、タイで行われた調査から、その2つの重要性を示すいくつかの手がかりが得られている。

研究者らは、すでに多数のデータを公表している。たとえば、国民総所得(Gross National Income)が低い国ほど海賊版利用率は高くなる。この効果は、特に低所得者層で顕著に見られる。

Pirates per legal user / GNI in 2014 and 2017

著者らはまた、海賊版利用率が減少した地域で正規コンテンツへの支出が増加していることを確認した。さらに以前の研究では、オランダで2008年から2012年の間に音楽の海賊版利用が減少する一方で、映画や連続ドラマの海賊版利用が増加し続けていたことが示されていたと指摘する。オランダではSpotifyが2012年までに導入されていたが(2010年に開始)、Netflixはまだサービスを開始しておらず、HBOだけが提供されていた。

研究者らはこうした分析に基づき、価格の手頃さと入手しやすさが海賊版利用率を減少させる主要な要因であると結論づけている。とりわけ、彼らは海賊版対策の有効性を確認する決定的な証拠は見いだされなかったという。

「われわれの研究から導出された主要な結論は、オンライン海賊行為は減少しているということである。この減少の主な要因は、エンフォースメント措置ではなく、正規コンテンツの価格の手頃さと入手のしやすさの拡大であった」と論文は結論している。

適切な条件下では、人々は最終的により多くのコンテンツを適法に消費するようになるという。この点は、海賊を自認するユーザの95%が正規版の消費者でもあったという彼らの調査結果からも裏づけられている。彼らの多くは、入手のしにくさや高額な価格ゆえに海賊版に手を出すのだという。

「正規コンテンツが手頃で、便利で、多様であれば、消費者の需要は増加する。適切な条件下では、消費者は正規コンテンツに喜んで対価を支払い、海賊版の利用をやめる」と論文には記されている。

このことは、政治家や著作権者に対し、エンフォースメントよりも供給(supply-side)に精力を傾けるべきだということを突きつけている。

「ここでの重要な政策的含意は、政策立案者はこれらの条件を改善することに資源と立法努力を集中すべきであるということである。特に、オンライン侵害に取り組む抑圧的なアプローチから、著作権で保護されたコンテンツへの適法で対価を伴うアクセスを促進する政策や措置に焦点を移すべきである」と研究者らは提唱している。

これは何も新たな発想ではない。この数年、多くの人々が正規の選択肢をアピールすることの重要性を強く訴えてきた。この研究はそれを裏づけるものである。とはいえ、この論文は、近年の海賊版利用の減少が正規版の利用可能性が改善されたことにより生じたことを直接的に示すデータを示しているわけではないことに注意が必要である。

ただ裏を返せば、海賊版対策戦略を決定的に支持する証拠も示されているわけではないということでもあるのだが。

たとえば、2014年から2017年までの各国の正規版利用者の海賊版利用率と国民総所得(上述)のグラフを見ると、スウェーデンで最も顕著な海賊版利用率の減少が見られている。だが、我々の知る限り、他国と比較して正規版の利用可能性に明らかな変化はなかった。

TorrentFreakがこの論文の著者の1人、ジュースト・ポルトに話を聞くと、彼は直接的な証拠がないことを弱点であると認めた。近年の海賊行為の減少は、主に適法な選択肢の改善によるものであることを示す複数の手がかりは見つかっているが、特定のケースでそれを裏づける確かなデータはないという。

海賊行為の影響分析は複雑であり、場合によってはエンフォースメントが機能する可能性もありうるだろう。たとえば我々は先週、ウェブサイトブロッキングが一部の海賊版ユーザを有料ストリーミングサービスの加入に促すとの研究をお伝えしたように。

だが人は、ムチではなくアメこそが前進の道だと思い込みたがるものだ。

とはいえ、海賊版問題の解決策にはいずれもある程度は必要だと言う可能性もある。いずれかのほうがより効果的なのかもしれないが、いずれにしてもこのパズルはまだ解明されてはいない。

ジョアン・ペドロ・クィンタイスとジュースト・ポルトの論文「オンライン海賊恋の減少:市場はいかにして――エンフォースメントではなく――著作権侵害の減少をもたらしたのか」の全文はこちらから

“Legal Options Are a Better Way to Beat Piracy Than Enforcement” – TorrentFreak

Author: Ernesto / TorrentFreak / CC BY-NC 3.0
Publication Date: August 31, 2019
Translation: heatwave_p2p
Material of Header Image: Paweł Czerwiński / MCruz (WMF) (CC BY 3.0 US)