「違法ダウンロードの範囲を音声・映画以外にも拡大して、リーチサイトを違法化すれば、海賊版問題なんてすべて解決! ハッピーエンド!」なんて安直に考えているわけではないのだろうが、さりとて「それなりの効果が絶対にあるからやるべきだ」という前向きさがあるようにも見えない。

それが文化庁が現在募集している「侵害コンテンツのダウンロード違法化等に関するパブリックコメント」である(10月30日〆切)。

添付資料を見てもうんざりするのだが、「文化庁案に問題はなかった! 問題はなかった! 問題はなかった!(と考えられます)」と連呼しているだけで、メリット〈海賊版対策としての実効性、抑止効果〉とデメリット〈萎縮効果や濫用の可能性〉が比較衡量されているわけでもない。前者は「ある」、後者は「ない」と強弁し、天秤にのせてすらいない。

「深刻な海賊版被害への実効的な対策を講じること」と「国民の正当な情報収集等に萎縮を生じさせないこと」という2つの課題を両立した案を作成するとは言いながら、違法ダウンロードの対象範囲拡大しても、抑止効果はほとんど期待できず、萎縮効果ばかりが懸念されるように思える。

本日10月30日が〆切ということで、それほど時間があるわけではないが、この機にダウンロード違法化について考えていることをざっくりと殴り書いて、それを下書きとしてパブリックコメントをしたためたい。

ダウンロード違法化の抑止効果について

文化庁は抑止効果が期待できるとする根拠として、6年前の2013年に実施された委託調査の結果を挙げている。音楽・映像の違法ダウンロード刑事罰化のフォローアップとして行われたこの調査では、刑事罰化以降にP2Pファイル共有ソフトやサイバーロッカーの利用が減少したことが確認されている。だが、ダウンロード/PC全盛だった当時と、ストリーミング/スマートフォン全盛の現在とで、ダウンロード違法化に同等の効果が期待できると考えるのはあまりに浅はかであろう。

もちろん、現在もP2Pファイル共有やサイバーロッカーを(おそらくPCで)利用する“ハードコア”な海賊版ユーザがいることも事実ではあり、まさにその層をダウンロード違法化のターゲットにしているのだろうが、2012年の調査ではそれぞれ0.4%程度しか存在しておらず、この6年の変化――当時のインターネットアクセスはPCが9割、スマートフォンが4割だった――を考えれば当然ながらその割合は減少しているだろう。そしてその層が、現実離れした被害額(推定)を生み出しているのである。

当時のカジュアルパイレーツは海賊版コンテンツをダウンロードしていたのだろうが、あらゆるものが便利になった現在のカジュアルパイレーツはそんな手間をかけることはしない。少し考えればわかるはずだ。漫画村にあったコンテンツは概ねP2Pファイル共有ソフトでもサイバーロッカーでも入手できたはずなのに、なぜ漫画村だけがあれほどまでの人気を集めたのか。ダウンロードという七面倒な手間をかけずとも、スマートフォンで簡単に閲覧できたからである。

ハードコアパイレーツがたとえごく僅かだとしても、その層に効果があるのであればやるべきだという考え方もあろうが、その層に効果があるかどうかも疑問がある。そもそも「海賊版アップローダーを摘発できない」という事情からダウンロード行為を違法化して「抑止効果を期待しよう」という話になったわけで、違法アップローダーを摘発できもしないのに違法ダウンローダーを摘発できるはずもない。文化庁は違法ダウンロードの要件をゆるくすれば、海賊版サイトや違法ダウンローダーが法律を捻じ曲げて都合よく解釈し、「海賊版対策としての効果が大きく低下することが懸念される」という無用の心配をしているが、金儲けを目論む海賊版サイトや、未だにP2Pファイル共有やサイバーロッカーを利用しているハードコアなダウンローダーのようなスレた連中が気にするのは「自分が摘発されるかどうか」でしかない。この便利なご時世にP2Pファイル共有ソフトだのサイバーロッカーだのを利用しているハードコア層が、摘発されるはずもないダウンロード違法化に怯えて利用を止めると期待できるものだろうか(もちろん、調査をすればカジュアル層から一定のネガティブな反応は得られるだろうから、それによって再び効果はあったと強弁することくらいはできるだろうが)。

また以前にも指摘したが、上述の調査では2012年の音楽・映像の違法ダウンロード刑事罰化の時点で、違法ダウンロード刑事罰化を認識している人の86.4%に「違法アップロードされたイラストや写真などのファイルのダウンロード」も刑事罰の対象となると誤って理解されていることが明らかになっている。つまり、すでに多くの国民は音楽・映画以外のイラストや写真のダウンロード行為も刑事罰の対象となっていると誤解しており、新たに立法しなくてもすでに萎縮効果として抑止効果が働いているように思える。

加えて、仮に何らかの抑止効果があるにせよ、すでに違法ダウンロードが刑事罰化されたはずの映像コンテンツであってもAnitube、Miomioへの憲法度外視の緊急対策が打ち出されたように、結局は別の形で現れることになる。ストリーミング全盛の時代であること、漫画村が人気を博したことを考えれば、たとえ以前には抑止効果があったにせよ、すでに対策としては消費期限切れと言わざるを得ない。

ダウンロード違法化の萎縮効果について

文化庁は萎縮効果について徹底的に否定しているが、上述の文化庁の委託調査では萎縮効果と思われる結果も出ている。違法ダウンロード刑事罰化後の「実際の行動変容」の項目では、違法ダウンロードに関連する項目で、「増えた、または新たに始めた」者を「減った」「やめた」者が上回っていたが、正規版の各種ダウンロード/ストリーミングサービスでも同様の傾向――つまり違法ダウンロード刑事罰化後に海賊版と同じように減少していた。2012〜13年という期間を考えれば、ネット接続環境(PCからスマホへ)の変化による行動変容とも考えられるが、違法とも適法とも判断のつかない音楽や映像のダウンロードは49.1%も減少しており(減った:16.0%、やめた:33.1%)、これについては“萎縮”としか言いようがない

いかに細かな限定を加えたところで、法律家や政策立案者、司法には理解できても、多くの国民には理解されていないということが、(周知を徹底したはずの)先の違法ダウンロード刑事罰化後の調査結果から明らかになっている。違法ダウンロード刑事罰化の範囲を実際よりも広く誤認していたし、違法か適法かわからないダウンロードを控えていたのである。

文化庁は「違法にアップロードされたことが確実だと知りながら」という要件や、有償提供、継続性という要件を設けたり、重過失、適法・違法評価の誤認、権利者の黙認、二次的著作物等の除外という限定を設けているが、このような複雑な要件、限定を加えたところで、専門家ではない国民の大半は、なんとなく良いか悪いかでしか判断できず、結果として萎縮することになる。

テキストや画像は音楽や映像以上に、インターネットにおけるコミュニケーションのツールとして用いられていることを考えれば、慎重さが求められるのは当然であるはずなのに、懸念に対して法文上は大丈夫なはずだという反論に終止する文化庁の姿勢は萎縮効果についてあまりに無頓着だと言わざるを得ない。

複製(ダウンロード)や情報発信が国民生活と深く結びついた時代になっているにも関わらず、国民不在のまま産業界や法律家のための議論だけが先走っているように思える。

リーチサイト規制について

典型的なリーチサイトは、CODAが指摘するように「サーバー、ストレージ、レジストラーはすべて海外。サイト運営者の検挙は困難」であるため、海賊版対策としての有効性はまったく期待できない。

仮に邦人が運営するリーチサイトが刑事罰を恐れて運営を停止したところで、CODAの指摘にあるように「削除要請にほぼ応じない」後継リーチサイトが域外に次々に登場するだけである。

近年では、とりわけ米国政府機関からの要請(圧力)を受けて、海賊版サイトの拠点となっている国の捜査機関が海賊版サイトのクラックダウン、テイクダウンに乗り出しており、組織化著しい海賊版サイトの運営者(と彼ら向けのビジネスを行う者)たちは、よりリスクの少ない、儲かる新天地を探している。その点では、国外の海賊版サイトに対して有効な施策を持たず、国内法の整備で満足しているような国は格好の標的になりうることは間違いない。

捜査権の濫用について

明日書く。内容としては@fr_toen氏、小倉秀夫弁護士の意見に近い。著作権者が違法ダウンローダーを突き止めることは現実的に不可能であることを考えれば、著作権者自身が自ら意思で行使できるようなものではなく、むしろ捜査当局が何らかの手段によって手に入れた情報をもとに権利者に告訴を促すことでしか摘発は実現しない。

まとめ

違法ダウンロードの対象範囲を拡大したところで、(そもそも少数者による)P2Pファイル共有ソフトやサイバーロッカーを介した海賊版コンテンツのダウンロードを抑止する効果は期待できず、むしろ(大多数による)日常的なコミュニケーションへの萎縮効果が懸念される。

違法ダウンロードの対象範囲拡大にしても、リーチサイト規制にしても、結局は、「域外サイトには対応できず、そのために違法ダウンロードという犯罪行為も摘発できずに野放しにされている。国民を犯罪者にしないためにも、ブロッキングによって遮断しなければならない」という“口実”として役に立つことになるのだろう。

というのを多少整えつつ、切り貼りしながら、パブリックコメントに仕上げたい。

私は明確にダウンロード違法化の対象範囲拡大にもリーチサイト規制にも反対の立場をとっているが、どのような立場を取るにせよ、一人でも多くの人が意見と届け、それが反映されることが望ましいと考えている。なので、ここまで読んだあなたにも以下のリンクからパブリックコメントを送ってほしい。

情報学者の山田奨治氏が言うように、自由記述欄まで埋めるのはなかなか骨が折れるし、もうそんなに時間が残されていないので、パブリックコメントのフォーマット前半の選択肢を埋めるだけでも良いだろう。1.(1)の誘導質問というか、後付でなんとでも解釈できるように設定された、社会調査の基本すら守れていないような設問もあるが、くじけることなく回答して送ってほしい。

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