以下の文章は、TorrentFreakの「YouTube Rolls Out Upload Filters as a Feature, Not an EU Requirement」という記事を翻訳したものである。

TorrentFreak
2019年、大きな批判を集めながらも可決されたEU著作権指令は、可能な限り著作権侵害コンテンツがオンラインサービス上に表示されないようにするためにアップロード・フィルターを導入するよう事実上義務づけるものであった。だが、アップロード・フィルターが煩わしいものではなく、コンテンツ制作者に有益な機能として開発されたならどうだろうか? この点について、YouTubeがすでに彼らの側に立っているのかもしれない。

2016年、欧州委員会はEUの著作権法を近代化する計画を発表した。

新たな著作権指令の第13条(のちに17条に改称)は、世界中から批判を集めることになった。これが採択されれば、多くのオンラインサービスは著作権者からコンテンツ使用のライセンス契約を交わすことが義務づけられ、それが不可能である場合には、侵害コンテンツを自動的に削除し、再アップロードされないようにしなくてはならない。

2019年3月に著作権指令が可決されたことにより、第17条は「アップロード・フィルター」導入の可能性も含めた、未解決の法的義務となった。アップロード・フィルターとは、侵害コンテンツをオンライン上から完全に排除することを目的とするメカニズムである。

しかし、この種のシステムが実際にどのように実装されるのかという疑問は、現時点でもほとんど解消されていない。欧州委員会が昨年7月にパブリック・コンサルテーションを開始して以降、議論はますます激化している

大別すれば、著作権者は問題のあるコンテンツが直ちに削除され、それが適法なものであることが確認された場合にのみ、もとに戻せばよいと考えている。一方、フィルタリングに反対する人々は、「著作権侵害が明白な」コンテンツに限って削除し、それ以外のコンテンツは目視で確認するというバランスの取れたものにすべきだと考えている。

常に「フィルタリング」議論の中心にあるYouTube

著作権者、とりわけ音楽業界関係者は、YouTubeと、侵害が疑われるコンテンツをアップロードする無数のユーザたちを批判し続けてきた。YouTubeは侵害コンテンツを検出するコンテンツIDシステムを1億ドル以上を投じて開発・実装し、権利者の求めに応じて収益化・公開停止を可能にするなど、大多数のクレームに対応しており、この点に関しては先手先手で対応していると主張している。

だが、コンテンツIDはユーザがビデオをアップロードした後にしか機能しないため、侵害が疑われるコンテンツがしばらくの間プラットフォームで提供される可能性がある。タイミングが重要な要素であるとすれば、コンテンツIDはアップロード段階で事前検出するというものではない。つまり、コンテンツがYouTubeに公開されることを防ぐものではなく、したがって、それ自体が「アップロード・フィルター」として機能するものではない。

だがもし、コンテンツIDのタイミングが入れ替わり、つまりコンテンツがYouTubeに公開された後にチェックされるのではなく、アップロードの段階でチェックされるようになったとしたらどうなるだろう? それは、アップロード・フィルターなのだろうか? おそらくは、そういうことになるだろう。しかし、YouTubeによる比較的穏やかなアナウンスによると、このプロセスは(これまでYouTubeユーザが恐れていたものに比べると)前向きに捉えることができるかもしれない。

YouTube “Checks”の発表

今週、YouTubeはデスクトップの「アップロード・フロー」に新しい機能を追加したと発表した。「Checks」と名付けられたYouTubeユーザ向けのシステムは、アップロードされたコンテンツの著作権侵害や広告適合性の制限の可能性について、公開前に自動スクリーニングするツールであると説明されている。

「この新しいステップは、著作権クレームや黄色いアイコンがつくアップロード動画の数を最小限に抑え、不要な驚きや心配を避けるのに役立ちます」とYouTubeコミュニティマネージャーの『サラ』は説明する

「Checks」の仕組みはシンプルだ。アップロードの過程で、おそらくはコンテンツID機能を利用して、ビデオに問題がないかをスキャンするオプションが提供される。著作権遵守のチェックには3分以内に完了し、収益化のチェックはさらに2、3分ほどかかるという。

「チェックページでは、動画への著作権クレームや、YouTubeパートナープログラムに参加している場合には広告の適合性を審査できます。著作権チェックでは、クレームに異議を申し立てたり、問題が見つかった動画を編集して修正することができます」とYouTubeヘルプセンターの記事にはある。

つまり、「Checks」の機能は、「アップロード・フィルター」と同様に、YouTubeにコンテンツが掲載される前に、著作権上の問題を指摘する事前スクリーニングツールとして機能する。大々的に発表された機能ではなかったが、この機能は広く注目を集めた。

現時点では、YouTubeユーザはこれらのチェックが完了する前にコンテンツをYouTubeに公開できる。だが、その場合は検出された問題を修正することはできないため、事後的に対応することになる。その結果、ビデオ投稿者が不利益を被る可能性もある。

制限ではなく機能としてのフィルタリング

「Checks」の目的が、著作権侵害が疑われるコンテンツがYouTubeに掲載されるのを防ぐことにあることは明白である。だが、この「Checks」は著作権者のためというよりは、むしろビデオ投稿者を支援するツールとして推進されている。ユーザは、コンテンツを公開する前に、著作権者がコンテンツにクレームを入れているかを確認できるだけでなく、理論的には収益化の制限や著作権ストライクを回避することもできる。

このツールは、ビデオのどの部分に問題が含まれているかを事前に警告してくれるため、ビデオ投稿者は公開前に必要な修正を加えることができる。この機能を利用しても、後から著作権クレームが入ることもないわけではないが、全体としてクレームを減らすことができると考えられる。

チェックとレビュー

アップロード・フィルターに関する主要な懸念事項としてあるのは、たとえ適法な方法で著作物を使用するコンテンツであっても、自動化されたシステムがいわゆるフェアユースを判定できるとは限らないということだ。YouTubeの「Checks」機能は、おそらくこの問題を解決するには至らないだろう。

アップロードされたビデオに著作権侵害が見つかった場合、「Checks」システムでは、ビデオ投稿者は編集を加えるか、クレームに異議申し立てすることができる。YouTubeはこの点についてあまり詳しい説明をしていないが、ビデオ投稿者がクレームを回避するためには、自らの立場を表明し、何らかの許可を求めなくてはならないようだ。

著作権クレームに関する目視チェックは「Checks」の機能として謳われてはいないものの、YouTubeによると、広告の適合性チェックに起因する問題で、ユーザが「システムの間違い」として申し立てた場合にはスタッフが確認するのだという。

YouTube Rolls Out Upload Filters as a Feature, Not an EU Requirement * TorrentFreak

Author: Andy Maxwell (TorrentFreak) / CC BY-NC 3.0
Publication Date: March 18, 2021
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Mathew Schwartz

YouTubeパートナープログラムに参加するYouTuberにとっては、コンテンツIDに引っかかるような音源が投稿ビデオに入り込むのはできる限り避けたいという事情がある。投稿ビデオがコンテンツIDに引っかかってしまえば、投稿ビデオの収益の一部・全部分配や非収益化、ビデオの非公開化といった事態に陥りかねないためだ。

少なくとも収益性を重視するYouTuberにとっては、商業音楽を使用したからといって視聴数が増えるわけではないので、商業音楽を使うメリットは(良し悪しはさておき)まったくない。それでも、意図せず収録時(あるいは編集時)に入り込んでしまうこともある。この「Checks」機能によって公開前に意図せぬ混入を防ぎ、修正することができるというのは望ましい機能なのかもしれない。

もちろん、コンテンツIDを利用する権利者サイドとしても、YouTuberから利益をかすめ取ることを良しとしているわけではないだろうし、コンテンツIDシステムそのものに変更を加えずに、結果を事前に知らせる機能を追加して問題を軽減しようという方向性には異論は無いのではないだろうか。

とはいえ、上記記事で指摘されているように、フェアユースのような文脈に依存する適法利用がコンテンツIDによって阻害されてしまう問題の解決策にはなっていない。最もわかり易い例で言えば、批評・解説のために音源の一部を利用するといった場合には、コンテンツIDに引っかかる可能性は極めて高い。

また、YouTubeがこのような機能を導入できるのは、莫大な資金を持ち、ビデオ投稿プラットフォームとして独占的シェアを固め、すでにコンテンツIDというシステムを導入しているからこそであって、他の競合や新規参入者にそれを求めるのは難しい。YouTube単独で見た場合には、「Checks」のような新機能の導入は前向きな変化とも言えるが、このような方式がビデオ投稿プラットフォームが直面している「アップロード・フィルター」問題を解決するものとはなりえないのは確かだろう。