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ブルーグラスの音楽史講座が、YouTubeコンテンツIDなどのコンテンツ・フィルタリング・システムの新たな被害者となった。

デジタルミレニアム著作権法のセーフハーバー条項は、YouTube、Vimeo、Twitter、その他多くのサービスを著作権裁判に巻き込まれることから守っている。また、セーフハーバーは、自らの作品をインターネットに投稿するユーザのフェアユース裁判に巻き込まれないようオンラインプラットフォームを守っており、その意味では人びとのフェアユースの権利を守っているともいえる。しかし、YouTubeなどのプラットフォームの自動フィルタリングと削除システム――DMCAが義務づけてはいないシステム――は、明らかにフェアユースの作品であっても、著作権侵害の可能性がある作品と判定している。大手エンターテイメント産業が議会にDMCAセーフハーバーを破棄させ、自動フィルタリングを義務づけようとする動きに警鐘を鳴らしているのはそれ故である。

ハドソン渓谷ブルーグラス協会(HVBA)は、「ミュージシャンとファンのブルーグラス・コミュニティを形成する」ために設立された。この非営利団体は、ジャムセッションやコンサートを開催したり、米国が生み出したこの芸術の歴史を学ぶ講座を開いている。ニューヨーク州ポーキプシーで開催された「ブルーグラスの進化」と題されたこの講座は、参加できなかった人びとも学べるようYouTubeに投稿された。一般的な音楽史講座のように、各1時間程度のセッションには、30秒程度の多数のショートクリップがブルーグラスミュージシャンの静止画像とともに使われ、さらにコメントが被せられている。

HVBAによる古いブルーグラス音源の使用は、著作権法のもとで認められた明らかなフェアユースである。このクリップは短く、ビデオの目的は教育であり、この団体はそのビデオから金銭的な利益を得てはいない。加えて、クリップは1時間程度の講義の中盤で使用されるため、楽曲の購入を妨げるといったこともない。

にも関わらず、HVBAのビデオはYouTubeの自動フィルタリングシステムであるコンテンツIDに何度も捕捉されている。マッチしたクレームのほとんどはソニー・ミュージックとその子会社からのものだった。その結果、HVBAはYouTubeから不穏な警告を何度も受け取り、講座ビデオは複数の国で視聴をブロックされるなどの憂き目にあってきた。HVBAはそのたびに、ソニー・ミュージックにコンテンツIDのマッチを取り下げるようお願いをしてきた。これまではそれが受け入れられてきた。

しかし、今年に入って状況が変化した。HVBAのウェブマスターがソニーミュージックに講座ビデオでの音源使用はフェアユースだと説明した際、ソニーの担当者はソニーミュージックが「会社が新たな方針を採用し、あなたの動画のような使用については最低でも500ドルの使用料を徴収」するとし、「新たにビデオをアップロードする場合には、私どもの規定にしたがっていただく」と言われたという。ソニーの担当者は、HVBAのビデオがフェアユースではないとは言及しなかったものの、たとえフェアユースであっても使用料を支払う必要があることをほのめかした。さらに、ソニーは支払いがあるまでHVBAに対するYouTubeのコンテンツIDシステムの使用を続けると話した。

これは滅茶苦茶だ。著作物の使用がフェアユースのように適正とされている場合には、ユーザはライセンスも、許諾も、使用料の支払いすら必要ないのである。このやり取りは、ソニーの担当者が法律を知らないか、法律を知っていてなおHVBAに支払いを強要しようとしているか以外に考えようがない。コンテンツIDシステムは、HVBAのようなフェアユースを無視し、ソニーによるデタラメな要求を許している。

コンテンツIDは――いまのところは――法律ではない。ソニーミュージックなどの大手エンターテイメント企業とYouTubeとの間で構築された任意のシステムであり、DMCAセーフハーバー条項で義務づけられている通常のノーティス・アンド・ステイダウン・プロセスの外に存在している。しかし、エンターテイメント産業の巨人たちや、政府のご友人たちは、これを変えようとしている。議会公聴会や公式のコメントのなかで、彼らは議会にDMCAセーフハーバー条項を破棄し、コンテンツIDのようなシステムを義務づけるよう求めている。つまり、ありとあらゆるウェブサイトやサービスにユーザが投稿したコンテンツを、彼らが送付したすべての削除要請を照合し、マッチしたすべてのものをブロックし、あまつさえアップロードすることすら禁止させるように求めている。

ノーティス・アンド・ステイダウンからノーティス・アンド・センサー(通知による検閲)への変更は、インターネットユーザに大災害を引越す。HVBAの経験が示すように、コンピュータはフェアユースか著作権侵害かを判断することはできない。もし、自動著作権フィルターがすべてのユーザ投稿サイトに義務づけられれば、より多くの人びとが、HVBAのように、許諾、提訴、誤認などの攻撃にさらされることになる。自らの創造的な作品や教材を伝えたいだけなのに。そして、たくさんの人びとが支払う必要のないライセンス料を支払うよう強要されることになるだろう。議会はセーフハーバーを維持し、強化すらしなくてはならない。言論を萎縮させ、ノーティス・アンド・センサー・アプローチのために、破棄してはならない。

“YouTube’s Copyright Robots Help Sony Shake Down Bluegrass Educators | Electronic Frontier Foundation”

Author: Mitch Stoltz / Electronic Frontier Foundation / CC BY 3.0 US
Publication Date: May 11, 2016
Translation: heatwave_p2p
Material of Header Image: Pexels

この記事の公開から数日後、ソニーミュージックはハドソン渓谷ブルーグラス協会への著作権侵害フラグを取り下げ、HVBAの動画はふたたびオンラインとなった。ソニーミュージック幹部からHVBA宛に送られたメールには、「(同社は)2つの楽曲の使用に対する異議を取り下げることにし」、「ソニーミュージックの管理手数料の徴収を見送る」と書かれていた。

EFFブログでも言われているように、ソニーミュージックが紳士的な対応をしたように見えるが、そもそも使用料を請求する道理はなく、フェアユースであったものにクレームをつけただけである。フェアユース等に関する法律的な知識を持たず、あるいはこのように大々的に報じられなければ、権利者の根拠の無い言い分を鵜呑みにして、支払う必要のない使用料を支払ってしまうユーザもいるかもしれない。