以下の文章は、TorrentFreakの「YouTubers Lose Brains Over Night of The Living Dead Copyright Claims」という記事を翻訳したものである。

TorrentFreak

ジョージ・A・ロメロ監督の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』は、著作権の問題を抱えたことよってホラージャンルを大いに発展させたパブリックドメインの名作である。だが恐ろしいことに、YouTuberたちはいま、同作の所有や収益化の権利を主張する大量のコンテンツID通知にさらされている。助けを求める声は無視され、ユニバーサルミュージック傘下のINgroovesがその生き血を啜っている。

事務的なミスで著作権を失ったことを知ったときの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』制作陣の悲痛な叫びたるや、どれほどのものであっただろうか。

1968年、ジョージ・A・ロメロ監督の傑作『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の公開当時、観客たちは想定外の才能におののいた。だが、その配給会社のウォルター・リード・オーガナイゼーションは、それを上回る想定外に見舞われていた。

この作品は公開を前に、『Night of the Flesh Eaters』という原題から現在のタイトルに改題されていたのだが、その際に著作権の再申請を失念してしまったため、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(NOLD)は公開後にすぐさまパブリック・ドメインとなってしまったのだ。

だが、パブリックドメインとなった同作がもたらした途方もない後続効果(subsequent effect)は歴史が証明しているとおりである。絶望は無駄ではなかったのだ。NOLDの影響は時代とともに勢いを増してきたホラージャンル全体を活性化していった。このストーリーは、EFFなどのアドボカシーにとって、パブリックドメインが社会全体にどれほどの利益をもたらすかを示す格好の教材となっている。

ジャスティンは、モノクロホラーの名作『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』をインターネット・アーカイブからダウンロードし、その映画の音声サンプルを自分のオリジナル曲にミックスしている。これは著作権侵害だ。
間違いです。『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』は、公共財であるパブリックドメインになっています。ジャスティンは、パブリックドメインの素材を使って自由に創作活動を行うことができます。

EFFのQ&Aは非常にわかりやすく、パブリックドメインの理論を正確に反映しているが、どんな教科書よりもわかりやすいこの顛末は「事実は小説よりも奇なり」を具現化したような出来事だった。

ナイト・オブ・ザ・コピーライト・クレーム

先月、NOLDの映像を使ったショートフィルム「Trick ‘r Creep (Horror Short Film)」を制作したというユーザから、Redditの/r/copyrightに投稿が寄せられた。YouTubeにこのショートフィルムをアップロードしたところ、YouTubeからビデオに第三者の著作物が使用されているとの通知が来たのだという。

これは自動的なコンテンツIDクレームだったためストライクはつかなかったものの、パブリックドメインコンテンツ(とりわけNOLDのサウンドトラック)がどうしてシステムに引っかかったのかはまったくわからなかった。このYouTuberは著作権侵害クレームに異議を申し立てたものの、すぐさまYouTubeに却下されてしまい、それっきり、このYouTuberは打つ手なしになってしまった。

上記画像からは、YouTubeがこのビデオと「Night of the Living Dead, Pt.1」という別の動画を照合していることがわかる。この動画は、ジャック・ミーキン(Jack Meakin)という人物がアップロードしたもののようだ。

コンテンツIDの通知によると、著作権者はPlastic Recordsの代理人のINgroovesだという。参考までに、彼らが権利を所有しているという動画を以下にエンベッドしておこう。

チャンネル登録者がたった1人のJack Meakinのチャンネルに、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の31分間の音声を収録したと見られるビデオが投稿されている。だが不可解なのは、ビデオの直下にこのコンテンツがIngroovesからYouTubeに直接提供されたという表記があることだ。

そして、このジャック・ミーキンのビデオにはコンテンツマッチの表記はない。ほかの無数のNOLDビデオ――たとえば『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』のファンビデオ「Night Of The Chopping Wood」や、ディスカッションビデオ「Night of the Living Dead – Themes and Film Technique」など――に、このジャック・ミーキンのビデオとマッチしたことが明記されているのに。

つまり、コンテンツIDは、NOLDのファンビデオがすべてJack Meakinチャンネルのビデオと一致していると識別しているのである。そして、この1968年のパブリックドメイン映画の音声を含むジャック・ミーキンのビデオこそが、Jack Meakin/Ingroovesが他のあらゆるNOLDコンテンツの収益化を主張する根拠になっている。

彼らは何者で、何を望んでいるのか?

Ingroovesはユニバーサル傘下の企業で、独立系レーベルやアーティストにマーケティングや権利管理サービスを提供する世界的な音楽配信企業だと説明されている。

コンテンツID通知の情報から推測するに、Ingroovesはジャック・ミーキンの代理人で、その代理人たるIngroovesがPlastic Recordsと何らかの契約を交わしているのだろう。だが、彼らはパブリックドメイン映画『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』と関係があるのだろうか。関係があるとして、どのような関係なのだろうか。

ジャック・ミーキンという謎の人物に注目したことで、混乱はますます深まった。Twitterでこの人物を検索すると、同名のDJ/エレクトロニック・ミュージシャンがヒットしたのだが、その名前と映画のタイトルを組み合わせると、さらに意外なつながりが浮かび上がってきた。

Jack Meakin .feat George Romero

Living Dead Wikiによると、映画の音楽はこの映画のために作られたものではなく、WRSスタジオとキャピトル・レコードのライブラリから提供されたものだという。その音楽の作曲家の中に、1906年生まれのジャック・ミーキンという人物がいる。彼は1982年にすでに亡くなっている。

では、これが欠けていたパズルのピースなのだろうか。『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の音楽の権利を、故ジャック・ミーキン氏が持っていたということなのだろうか。そして彼が亡くなった後、その権利が誰かに相続されたのだろうか。だとしたら、映画のどの楽曲が彼のもので、なぜPlastic Recordsが関わっているのだろうか。

我々はコンテンツIDにアクセスできず、YouTubeがこの問題の説明を拒否している。もはや正攻法で掘り下げていくのは限界があったので、少し違った切り口からアプローチしてみることにした。そこで、YouTubeのジャック・ミーキンのNOLDビデオを再生し、Shazamにかけてみると……なんとヒットした。

我らがデジタル指紋先生によると、この作品は「ジョージ・ロメロ」というレコーディングアーティストの「チャプター1」という作品だそうだ。すごい……何一つわかったことはないけど、ありがとう、Shazam。

さて、YouTube以外のプラットフォームでも、ジャック・ミーキン、ジョージ・ロメロ、ナイト・オブ・ザ・リビングデッドの三者の間には何かしらのつながりがあるようだ。そこで、Spotify、Apple Music、Amazon、Google検索などに目を向けてみることにした。なにか見逃している手がかりが見つかるかもしれない。

そういえば、あのTwitterのDJ、なんて名前だったっけ?

当初、完全にスルーしていたTwitterのジャック・ミーキンは(1968年には生まれてもいない若いDJだったので)、テクノ/トランスのプロデューサーでもある。彼は「He Was Taught」「Bodyskills」などの楽曲をAppleやSpotifyなどでストリーミング配信していて、彼のTwitterアカウントによるとSeb Jamesともコラボしているらしい。ただ、少なくとも我々が調べた限りでは、ゾンビに言及したことはない。

興味深いことに、DJ Jack Meakinは他にも複数の作品を手掛けているらしい。その中には、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』のサウンドトラックも(訳注:彼の作品に)含まれていて、Apple Musicなど世界中の音楽プラットフォームで聴くことができる。

SpotifyでJack Meakinを検索すると、ゾンビの曲だけでなく、カタログ自体がもはやフランケンシュタイン状態である。

つまり……1906年に生まれ、最も有名なパブリックドメインのホラー映画の著作権を(死後に)主張する権利を持ち、116歳になってもトランスのトラックを回し続ける、それが唯一無二の(本当の)ジャック・ミーキンだったんだよ!

この信じがたいハイブリッド人間は本当に実在するのか。それを知りたければ、Googleでジャック・ミーキンの検索パネルを見てみるといい。

とはいえ、Discogsなどのサイトでは、実際の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の作曲者はフルネーム(Jack Brunker Meakin)で記載されていて、ソルトレイクシティ出身のアメリカの音楽家、オーケストラリーダー、映画作曲者であると記述されている。まぁ、誰かがGoogleにJack Meakinは2本の映画に出演した俳優で、ダンス/エレクトロニックの作曲家でもあると信じ込ませてしまったのだろう。

我々はジャック・ミーキンに直接コンタクトするため、彼とレコードレーベルにメールを送ってみた。が、生存の兆候を示すものは何一つ返ってこなかった。やはりゾンビ……なのか?

ということで、ユニバーサル傘下の企業が、40年前に亡くなった男性の代理人として、たまたま同名の生存男性の氏名で『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』を収益化している理由は依然としてわからずじまいである。ただ、乱暴ではあるが多少の推測はできる。

音楽関係者の誰かが、凡ミスで間違ったボックスにチェックを入れてうっかり2人のアーティストの存在を悪魔合体してしまい、パブリックドメイン作品を自動的に捕食することでしか満足できないほどの飢餓感を持つ1人のアンデッド的存在を生み出してしまった……という仮説はどうだろう。あるいは、誰かが誤ってNOLDのサウンドトラックをDJ Meakinの作品としてアップロードしてしまった、とか。

正直なところ我々にはわかりようもないのだが、ひとつだけ確かなことがある。何者かがYouTubeのコンテンツIDを申請して、合法的にパブリックドメイン作品を使用する一般のYouTuberを標的にし、お前たちにはそのようなことをする権利はないのだと警告するメッセージを送っている。そして彼らは、誰の権利かはわからないにせよ、その権利侵害の代償としてすべての金を巻き上げているのである。

素晴らしいスキームじゃないか。脳みそがなくったってうまく稼げそうだ。

YouTubers Lose Brains Over Night of The Living Dead Copyright Claims * TorrentFreak

Author: Andy Maxwell / TorrentFreak (CC BY-NC 3.0)
Publication Date: September 22, 2022
Translation: heatwave_p2p
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