以下の文章は、TorrentFreakの「U.S. Copyright Groups Are Concerned About Russia’s Handling of Online Piracy」という記事を翻訳したものである。

TorrentFreak

ロシアによるウクライナ侵攻は、世界中にさまざまな影響を及ぼした。たくさんの命が失われ、たくさんのものが損なわれた。米国のエンターテイメント企業は、ロシア国内での事業を停止することで対抗した。だがその企業が現在、IIPAを通じてロシアにオンライン海賊版対策を働きかけようとしている。

2月、ロシアが隣国ウクライナに侵攻したことで、両国の生活は一変した。

ウクライナ国民が自由のために戦う一方、ロシア国民は制裁などの影響に対応しなければならなくなった。

エンターテイメント業界を始め、多くの大企業は制裁を支持している。たとえばハリウッドの大企業やストリーミングサービスは自主的に撤退を決めた。

予想されていたことだが、こうした撤退は各企業に莫大な損失をもたらした。一方、ロシア市民への影響はそれほど深刻ではないようだ。どうやら多くの人が正規コンテンツの代わりに海賊版に手を出し、国内の映画館ですらそれに追随している。

以前に紹介したように、制裁の影響を受けたロシアの100以上の映画館が、海賊版映画の上映を開始している。明らかに違法なのだが、ロシア映画協会の会長ですら苦境に立たされている映画館経営者に同情的だ。

ロシア政府は米国の著作権者との関係も悪化させている。数ヶ月前、ロシアは米国を始めとする「非友好」国が制作したメディアの海賊版を事実上合法化する「強制ライセンス」法案を提出した。

懸念する米国著作権団体

MPA、RIAA、ESAをメンバーとするIIPAなどの団体は、こうした動きを懸念している。同団体は最近、ロシアの世界貿易機関(WTO)ルールに関する年次レビューのために、米国通商代表部に意見を伝えている。

この提出書簡では、常態化する海賊版の問題と、ロシアの知財権執行を改善させるべき領域を強調し、可能であれば刑事訴追の拡大をロシア政府に求めている。

「ロシアにおける商業規模の海賊行為による被害は、民事上の措置だけでは十分に対処できない。行政措置や罰則の強化、刑事上の救済措置が必要である」とIIPAは記している。

このような要請は目新しいものではないが、ロシアとメディア企業との緊張状態を考えれば、いささか奇妙に思えるかもしれない。IIPAもその点は認識しているものの、紛争や制裁とは別に、著作権問題に焦点を当て続けることが重要だと述べている。

海賊版の合法化?

とはいえ、制裁に対するロシアの反応は明らかである。とりわけ、米国企業の意思に反してロシア企業が(非友好国企業の)コンテンツのライセンスを取得できるようにする法案が、重大な懸念材料として捉えられている。

「最近、ロシア政府が、もし制定されたならば排他的権利を著しく損なう法案を起草したことが報じられている」とIIPAは記している。

「ロシアのウクライナ侵攻を受けて、米国産業界がロシアでの事業を停止するなか、このような法案は事実上、米国の権利者が所有する著作物の海賊版を合法化するもので、ロシアはWTOの義務に明らかに違反しており、実質的に国家公認の知財泥棒と言える」と述べている。

海賊版シネマ

ロシア国内の多くの映画館が最新ヒット映画を海賊版を上映していることについても言及されている。こうした上映は、しばしば第三者が主催する「プライベートクラブ」のイベントとして紹介されているが、権利者たちは責任を回避するための言い逃れにすぎないと考えている。

IIPAは「残念ながら、最近、第三者がロシア全土の映画館で米国映画の違法上映を企画し始めた」と指摘する。

こうした映画館は、海賊版サイトからコンテンツを調達しているという。ここには、オンラインで公開されているロシアのDigital Cinema Packagesも含まれている。

西側諸国とロシアとの緊張関係を考えると、カムコーディング(映画盗撮画)防止対策はほとんど機能してはいないのだろう。映画館が海賊版に手を染めているなら、観客が同じようなことをしたとして映画館側が止めようとするだろうか。

「違法上映会で上映されるコンテンツは、オンラインで違法に配信されている海賊版のDigital Cinema Packages (DCP)から供給されたものである。さらに、こうした違法上映でカムコーディングが行われている証拠も得られており、被害は更に拡大している」

この書簡は全体として、ロシアの著作権侵害対策の姿勢を米国の著作権者が非常に懸念していることを明確にしている。ロシアは現在、他に対処すべき問題が山積しているにしても、それでもWTO協定を無視してはならないとIIPAは強調している。

ロシアのWTO協定遵守に関するUSTRのパブリックコメント募集に対するIIPAの書簡はこちら(pdf)

U.S. Copyright Groups Are Concerned About Russia’s Handling of Online Piracy * TorrentFreak

Author: Ernesto Van der Sar / TorrentFreak (CC BY-NC 3.0)
Publication Date: September 26, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Marius GIRE / www.kremlin.ru (CC BY 3.0)