以下の文章は、Walled Cultureの「The first lawsuit against generative AI seems doomed to fail because it misunderstands the technology」という記事を翻訳したものである。

Walled Culture

昨年10月、ジェネレーティブAIプログラムが著作権とクリエイティビティの双方に大きな影響を与える可能性について書きました。AIプログラムが、日常の用途に「事足りる」テキスト、画像、音声を自由に生成できるようになれば、著作権はほとんど意味をなさなくなります。クリエイティビティにも影響は及ぶでしょうが、それは否定的な結果だけをもたらすものではありません。AIが生成した作品を無料で無制限に利用できるようになれば、むしろ人間が創った真にオリジナルな創作物の価値が高まることになります。しかしもちろん、多くのアーティストはそのようなポジティブな側面には目を向けません。所有権やその権利侵害に取り憑かれた彼らは、彼らが唯一知る方法、つまり訴訟を起こすことでジェネレーティブAIに対抗しようとしています。彼らの主張はこうです。

我々は、世界中の人々、とりわけ作家、アーティスト、プログラマを始めとするクリエイターから、同意もクレジットも補償もなく、AIシステムが膨大な著作物から学習することへの懸念を耳にしている。

今日我々は、AIを万人に公正かつ倫理的なものとするための新たな一歩を踏み出した。サラ・アンダーセン、ケリー・マッカーナン、カーラ・オルティスの3人の素晴らしいアーティストの原告を代表して、我々は、Stability AI、DeviantArt、MidjourneyによるStable Diffusionの使用に対して集団代表訴訟を起こした。

昨年、Walled Gardenのインタビューを受けてくれたアンドレス・グアダムスが、この訴訟について有益な分析をまとめています。以下に、重要なポイントを引用します。

問題は、原告側の主張と、現実の機械学習や拡散モデルの機能の仕方に大きな齟齬があることである。モデルの訓練や、モデルがその知識をどのように保存しているかという点で、大きな理解の飛躍があるように見える。訴状によると、Stability.aiが取得したトレーニングデータセットの画像は「圧縮コピーとしてStable Diffusionに保存され、組み込まれる」のだという。だが、これはまったく違いだ。学習済みモデルは訓練データのコピーを保持していない。そんなことをすれば扱いきれないほど巨大なサイズになってしまう。実際に何が起こっているのかといえば、物事の表現のクラスタ、つまり潜在空間が作られているのである。

裁判で専門家が証言すれば、この主張は簡単に崩れ去ってしまうだろう。

私は弁護士ではありませんが、原告側はどうもジェネレーティブAIの仕組みを正しく理解できておらず、それゆえ裁判に負ける可能性が高いという点では同意します。原告がこの裁判に負ければ、同様の訴訟は今後難しくなるでしょう(英国でGetty ImagesがStability AIへの訴訟を発表したばかりですが、詳細は不明です)。原告側のトップページにある以下のパラグラフも、なかなか示唆的です。

これらの出力画像は、外見上トレーニング画像に似ていることもあれば、似ていないこともある。だが、これらの画像はトレーニング画像のコピーから派生したものであり、市場においてトレーニング画像と競合している。

つまり、ジェネレーティブAIの出力画像が入力データと似ても似つかないことを認めた上で、そしてグアダムスが指摘するようにトレーニング画像のコピーではなく分析したものであるにも関わらず、トレーニング画像から「派生した」ものであることをもって、何らかの侵害を主張しようとしているのです。この訴訟の論理をもってすれば、アーティストが誰かの作品を見て、そこから吸収したものを自分の作品に反映させようとすると、元作品からの「インプット」を理由に侵害とみなされてしまうことになります。

この訴訟の悲しいところは、著作権にとらわれたクリエイターが、新たに登場した刺激的なテクノロジーに反射的に抗おうとする新たな事例になってしまっていることです。アーティスティック・コモンズに属する、ひいてはすべての人のものであるはずの無形の創造的要素を独占できるはずだという誤った所有意識からもたらされたものと言えるでしょう。これは著作権がクリエイティビティとクリエイターに及ぼす悪しき影響の1つのかたちなのです。

The first lawsuit against generative AI seems doomed to fail because it misunderstands the technology – Walled Culture

Author: Glyn Moody / Walled Culture (CC BY 4.0)
Publication Date: January 24, 2023
Translation: heatwave_p2p