以下の文章は、Walled Cultureの「The copyright world is preparing to hobble yet another innovative technology – generative AI」という記事を翻訳したものである。

Walled Culture

先週、話題のジェネレーティブAIにすでに2つの訴訟が起こされていることをお伝えしました。2つの訴訟とも視覚芸術にかかわるものでしたが、本ブログが昨年10月に指摘したように、ジェネレーティブAIはすべてのクリエイティブアートに大きな影響を及ぼすことになるでしょう。その新たな証左となるのが、Google Researchのエンジニアが書いたレポートです。

MusicLMは、「歪んだギターリフに支えられた落ち着いたバイオリンのメロディ」といったテキスト記述から、忠実度の高い音楽を生成するモデルである。

MusicLMはすでに高い能力を持っているようです。

我々は、MusicLMがテキストとメロディの両方を条件として、テキストのキャプションに記述されたスタイルに従って口笛や鼻歌のメロディを変換できることを実証した。

MusicLMがどのような音楽を生み出すかを聞きたいなら、Google Researchがたくさんの印象的な楽曲をオンラインで公開しています。MusicLMのすごさは明らかですが、このレポートの著者は「現時点ではモデルを公開する予定はない」として、その理由を説明しています。

ユースケースに関連する創造的コンテンツの流用リスクが存在する。責任あるモデル開発の実践に従い、テキストベース(大規模言語モデル)のコンテキストで用いられる方法論を適応・拡張し、意味的なモデリング段階に焦点を当てて、暗記に関する徹底的な研究を実施したところ、正確に記憶されたサンプルはごく一部であったものの、1%のサンプルで近似的に一致するものがあることがわかった。

つまり、Googleのエンジニアは、ビジュアルクリエイターがStable Diffusionを訴えたのと同様に、MusicLMの創作物に対して音楽業界が訴訟を起こすおそれがあることを理解しています。実際、Googleのチームが「記憶(memorization )」と呼ぶ問題、つまり入力サンプルの文字通りのコピーは極稀にしか発生せず、コードを少しいじれば簡単に解決できるものです。それとは別に、著作権の世界が原則論からジェネレーティブAIを攻撃する準備を進めていることがEuractivの記事で報じられています。

アーティスト団体は、EU法が急速に発展するChatGPTなどのジェネレーティブAI技術からクリエイティブ産業を保護できていないとの懸念から、規制を求める準備を進めている。

この記事によると、著作権業界は現在EUで議論されているAI法を、ジェネレーティブAI技術を足止めする絶好の機会と見ているようです。

AI法の原案では、ChatGPTなどのさまざまな目的に応用できるAIシステムは対象外とされていた。

アーティスト団体は、作品の使用に権利者への明示的なインフォームドコンセントを義務づけるセーフガード等、AI法にクリエイティブアートに特化した条項を盛り込むよう呼びかけている。

新技術に対する反射的な反発は、過去100年にわたって絶え間なく続いてきました。いつだって著作権業界は新技術を拒絶して殺そうとし、それができないと見るや許諾権を要求することで可能な限り制限しようとしてきたのです。さらに、その制限された使用でさえも、その許諾には高額な費用を請求しています。これは著作権がもたらした永続的な権利意識の産物なのです。

このWalled Cultureで昨年書いたように、ジェネレーティブAIはアーティストにとって大きなチャンスです。(人間の)オリジナリティが重視されるようになり、クリエイターは雑用から解放されると同時にAIシステムを活用した制作が可能になるのですから。しかし、これまでと同様に、著作権業界はこのポジティブな変化がもたらす恩恵を歓迎するどころか、むしろ戦いを挑んでいます。そして、これもいつものことですが、それによって彼ら以外の人々が被る損失はまったく無関心なのです。

The copyright world is preparing to hobble yet another innovative technology – generative AI – Walled Culture

Author: Glyn Moody / Walled Culture (CC BY 4.0)
Publication Date: Febrary 02, 2023
Translation: heatwave_p2p