以下の文章は、Walled Cultureの「Peer review has failed, and that’s great news – for diamond open access, science and society」という記事を翻訳したものである。

Walled Culture

アダム・マストロヤンニが「認知的くしゃみと頭のためのインテリアデザイン」と称する自身のブログ「Experimental History」に、科学における査読(ピアレビュー)に関する2つの素晴らしい記事を掲載しています。Wikipediaでは、査読は「論文(work)の筆者と同等の能力を1人以上の人物(ピア)が論文を評価すること」と定義されています。また「関連領域の専門家による自己規制の一形態として機能する」ともあります。

マストロヤンニは、ピアレビューは今日どこででも行われているものの、比較的新しい現象だと説明します。第二次世界大戦後、各国政府は研究に巨額の資金を注ぎ込みました。ピアレビューはその資金が有効に使われたかを確認するためのものだったのです。ですが、マストロヤンニが綴っているように、ピアレビューはほとんどすべての指標でうまくいっていません。

研究の生産性は何十年も横ばい、あるいは低下しています。査読者は査読する論文の重大な欠陥をしょっちゅう見逃し、不正な研究の発表が後を絶ちません。コメントも役に立たないどころか、質の悪い研究を助長すらしています。科学者自身は査読をさして重要だとは思っておらず、できるだけ査読を回避しようとしますし、論文を読むにしても査読の有無を気にしません。

この否定できない失敗を前に、マストロヤンニは査読を正当化できるのかを考察していきます。査読がとりうるアプローチを議論し、そしていずれもうまくいかないという結論に達しています。ピアレビューは失敗しただけではなく、修復不可能だというわけです。マストロヤンニは「ホッとした」と言います。

あなたの論文は査読に値しないと思う、という編集者の返事が来るまでに何ヶ月も待たされたことはないだろうか? あなたの論文がまるで宇宙の諸悪の根源であるかのように書き連ねる査読者の長ったらしい文章を読んだことは? 意味もなく「y」と略すのではなく「years」と書かせてくれないかと丸一日ジャーナルに送り続けたことは?(文字通り、私自身の身に起こったことだが)二度とそんなことをしなくていい。

彼は安心したのです。それは査読やその束縛から解放されて新たな自由を手に入れ、人々が読みたくなるような論文を書けることに新たな喜びを感じたからでした。

先月、論文を発表した。というか、PDFをインターネットにアップロードした。誰にでも理解できるように平易な言葉で書いた。何もためらいはなかった。研究の動機も忘れてしまったと書いた。口やかましいことを行ってくる人もいないので、冗談も書いた。資料、データ、コードもすべて、誰でも閲覧できる場所にアップロードした。まったくのデタラメだと思われるだろうと考えていたし、注目する人もいないだろうと思っていた。それでも、私は楽しみながら、自分が正しいと思うことをした。

すると、誰かに教えたわけでもないのに、数千の人たちがその論文を見つけ、コメントし、リツイートしてくれた。

マストロヤンニが述べているのは、基本的には(このWalled Cultureでも何度か取り上げた)ダイヤモンド・オープンアクセスのアプローチです。研究者が論文を迅速かつ簡単に、できるだけ多くの人に読んでもらうことを目指す、極めてシンプル・軽量な出版プラットフォームの提供のためにデザインされたものです。論文をアップロードする側にも、それをダウンロードする側にも、コストは掛かりません。

ダイヤモンド・オープンアクセスのミニマリスト・アプローチには、従来の査読システムがなく、それを導入できるような仕組みではない、という強い批判があります。ですがマストロヤンニの投稿は、査読がないことが本当の問題ではないことを裏付けています。なぜなら、査読は何かを追加するわけではないし、それどころか査読を受けた論文の科学的価値を下げる可能性すらあります。ゴールド、グリーンで苦心しながら取り組んでいるオープンアクセスにとって、朗報と言えるでしょう。また、科学と社会にとっても、興味深く有用な研究にアクセスしやすくなるという点で、素晴らしいニュースなのです。

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Peer review has failed, and that’s great news – for diamond open access, science and society – Walled Culture

Author: Glyn Moody / Walled Culture (CC BY 4.0)
Publication Date: January 18, 2023
Translation: heatwave_p2p