映画産業は、映画の劇場公開、DVDセル・レンタル・配信、BS/CS放送、地上波放送など、各メディアでのリリース時期をずらすことで、各メディアでの喰い合いを防ぎ、収益を最大化させるウィンドウコントロールを行っている。

ハリウッド映画など世界に配給される映画においても、このウィンドウ・コントロールが行われているが、劇場公開の時期やDVDリリースの時期は国ごとに異なり、日本では劇場公開前の映画なのに他国ではDVDが売られているということも少なくない。また、公開時期はだいたい同じだったのに、DVDのリリース時期がずれるということもある。以下の記事は、そうしたウィンドウ・コントロールによって生じた国際的なDVDリリース時期のズレが、海賊版を介在して、映画産業の収益を減らしているよ、というお話。

TorrentFreak

カーネギーメロン大学の研究者が、世界的なDVDリリースのズレと海賊行為との関係性に関する論文を公表した。この研究は、リリースの遅れが海賊行為の増加を招き、その間のセールスを害することを示している。さらに、映画産業は不必要な遅延を最小化あるいは撤廃するべきだと提案されている。

映画が劇場公開されると、映画ファンはDVDやBlu-rayを手に入れるまでに数ヶ月を待たなくてはならない。しかもそれは、その国ごとのリリース戦略に大きく依存する。

DVDリリースまでの遅延戦術は、映画興行収入を最大化するために行われる。しかし、映画収益の最大の柱であるアフターマーケットまでを考えると、最良の選択肢とはいえないようだ。

ここで効いてくる要因は、海賊行為である。世界各地でバラバラに行われている人為的なDVDリリースの遅延により、海賊ユーザたちはしばしば、自分たちの国で公式にDVDがリリースされる前に、ほかの国で既にリリースされたDVDの高品質のリップを手にすることができる。

カーネギーメロン大学の研究者が新たに公表した論文は、この「パイラシー・ウィンドウ」に注目し、リリースの遅れが実際にDVD・Blu-rayセールスを害していることを明らかにした。

研究者たちは実データを用い、国際的にリリースされている海賊版映画の利用可能性が、その後のセールスにおよぼすか影響を検討し、明確な正の相関を見出した。

「ある国において、デジタル海賊版が入手できるようになってから正規DVDのリリース日までの間に10日の遅れがあった場合に、その国のDVDの売上は2〜3%減少することが示された」と研究者は記す。

この結果は強固であり、研究者は、さまざまな代替説明を統制している。

たとえば、長い遅延それ自体はセールスに重大な影響を及ぼさない。それが長期間の「パイラシー・ウィンドウ」を生み出すことによってのみ、収益は影響を受ける。

この効果が海賊行為に起因することを示すもう1つの証拠は、セールスの減少がその国の海賊行為の水準に比例していることである。

複数の映画スタジオから提供されたデータは、スペインにおける映画パイラシーが他の国のおよそ6倍となっていることを明らかにしており、研究者の分析でもその効果は確認された。

「スペインとイタリアでそれぞれ回帰分析を行ったところ、合法的な入手可能性が10日間遅れるごとにセールスは10%減少することが観察された。サンプル全体でみると、10日間遅れるごとに2%の減少にとどまる」

論文はこの結果を踏まえ、ハリウッドは海賊版の撲滅に取り組む以外にも、ビジネス戦略を見直すことで、問題の解決をはかることができると指摘する。

研究者は、インターネットの相互連結した特性により、海賊版映画はリリース後、瞬く間に世界中で共有されると言う。15年前とは違って、国際的な映画DVDリリースの遅れは、メリットよりもデメリットのほうが大きくなっている。

「スタジオと映画館は、現在の世界的な海賊行為の状況において、世界な映画リリースの遅延を再考すべきことを、この結果は示唆している」と論文にはある。加えて、遅延を短縮することは、「DVDウィンドウにおける海賊行為を減らすという、ポジティブな副次的効果も期待できる」としている。

この研究は、MPAAから莫大な資金提供を受けているカーネギーメロン大学のデジタル・エンターテイメント分析イニシアチブが実施したものである。しかし、研究者は、研究は中立の立場から実施されたものだと述べている。

MPAAがこのアドバイスを受け入れるかはわからないが、映画スタジオ自身が、海賊行為問題を解決するためにまだできることがあると確認したこの研究は実に興味深い。

“DVD Release Delays Boost Piracy and Hurt Sales, Study Shows – TorrentFreak”

Author: Ernesto / TorrentFreak / CC BY-NC 3.0
Publication Date: June 02, 2016
Translation: heatwave_p2p
Header Image: HenryLi / CC BY 2.5

海賊版が悪いというのは簡単であるが、それでは何も変わらない。それが存在する以上、その環境に合わせた戦略が必要になる。

かつて、ハリウッドが製作するドラマシリーズが、米国での放送と、他国での放送がずれていたことから、米国での放送直後に、米国外から海賊版へのアクセスが激増していた。こうした遅延が海賊版需要を高める一因となっていたということもあり、その期間の短縮、あるいはゼロ化に向かっていった。

たとえば昨年『ゲーム・オブ・スローンズ』は世界173の国と自治領で同時放送され、世界同時放送のギネス世界記録を樹立しているほどだ。もちろん、日本でも米国と同時放送されている。

また、上記のようなウィンドウ戦略は従来の映画産業の手法として整備されてきたが、Netflixなどの新しいプレイヤーの登場を経て、さらに変化していくのかもしれない。もちろん、ショーン・パーカーを含め、ね。