以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「The US Copyright Office frees the McFlurry」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

米国史上最悪のインターネット法であるDMCA(デジタルミレニアム著作権法)のなかでも、とりわけイカれた条項のとりわけイカれた部分に、私は四半世紀にわたって執着してきた。その部分とは、1998年に制定されたDMCA第1201条で、ユーザのコンピュータを遠隔の企業ではなく、ユーザ自身のために機能させようとする手助けを重罪としている。

DMCA第1201条のもとでは、「著作物へのアクセス制御を回避するツールを提供する」ことが、初犯であっても5年の懲役と50万ドルの罰金という重罪となる。その対象には映画などの伝統的な著作物へのアクセス制御が含まれる。例えば、光感受性てんかんの患者がNetflixプレーヤーに発作の原因となる点滅画像をブロックするプラグインを追加する手助けをすれば、それは重罪になる。

https://lists.w3.org/Archives/Public/public-html-media/2017Jul/0005.html

ここで問題なのは、ソフトウェアも著作物だということだ。プリンタのカートリッジから自動車のエンジン部品まで、今やあらゆる製品にソフトウェアが組み込まれている。メーカーはそのソフトウェアに「アクセス制御」をかけることで、自分の車を修理しようとしたり、互換インクを使おうとしたりする消費者や競合他社を刑務所送りにできるようになった。

DMCAは著作権法である(DMCAのCはCopyrightの頭文字だ)。しかし、ビデオの点滅を遮断したり、互換インクを使ったり、自分の車を修理したりすることは、本来なら著作権侵害にあたらない。なのに、メーカーが製品を「アクセス制御の回避なしでは使えない」ように設計していれば、DMCAは長期の懲役刑をちらつかせて、こうした行為を取り締まることができるのだ。

当然、これは製品をメタクソ化(enshittify)したいメーカーにとっては渡りに船だ。消費者が合法的に製品のメタクソ化を解除できなくなるのだから。この「アクセス制御」という魔法の杖は、ありとあらゆる製品に振りかざされることになった。

ガレージドアの開閉装置:

https://pluralistic.net/2023/11/09/lead-me-not-into-temptation/#chamberlain

冷蔵庫:

https://pluralistic.net/2020/06/12/digital-feudalism/#filtergate

食器洗い機:

https://pluralistic.net/2021/05/03/cassette-rewinder/#disher-bob

トレッドミル:

https://pluralistic.net/2021/06/22/vapescreen/#jane-get-me-off-this-crazy-thing

トラクター:

https://pluralistic.net/2021/04/23/reputation-laundry/#deere-john

自動車:

https://pluralistic.net/2023/07/28/edison-not-tesla/#demon-haunted-world

プリンタ:

https://pluralistic.net/2022/08/07/inky-wretches/#epson-salty

さらには、なんとプリンタ用紙までもが対象になった:

https://pluralistic.net/2022/02/16/unauthorized-paper/#dymo-550

DMCA第1201条は、ビル・クリントン政権の著作権担当官、ブルース・レーマンが作り出した代物だ。この政策が癌のように全体を侵していくことはわかりきっていた。多くの人が警告を発した。こうした批判をかわすために、レーマンは形式的なセーフガードを法律に追加した。それが著作権局に3年ごとに「使用免除」の申請を受け付けさせる、という条項だ。アクセス制御の全面的な禁止に、小さな抜け道を用意してあげようというわけだ。

これを「形式的」と呼ぶのには理由がある。例えば、著作権局がプリンタの互換インクの使用や、スマートフォンでのサードパーティ製アプリストアの利用を認めたとしても、彼らにできるのは回避ツールを使用する権利を与えることだけだ。そのツールを手に入れる権利は与えられない。

何を言っているかわからないって? そのとおりだ。あまりに愚かすぎて理解しようがない。どれほど愚かなのか。2001年、米国通商代表部が欧州連合に同様の法律(EUCD第6条)を押し付け、2003年にはノルウェーもこれを採用することになった。導入直前に私はオスロに飛び、担当大臣と議論を交わした。

https://pluralistic.net/2021/10/28/clintons-ghost/#felony-contempt-of-business-model

大臣は得意げに説明した。この法律のおかげで、視覚障害者は電子書籍のアクセス制御を回避して、スクリーンリーダーや点字プリンタなどの支援ツールで読めるようになるのだ、と。そこで私は尋ねた。「で、そのためのジェイルブレイクソフトは、どうやって手に入れるのです? がそのツールを提供してもいいのですか?」

「いいえ、それは犯罪です」と大臣は答えた。

では、ノルウェー政府が提供できるのか? それもダメだという。視覚障害者の権利擁護団体は? それもできない。大学のコンピュータサイエンス学部なら? それもノーだ。営利企業なら? もちろんダメだ。

大臣はこう説明する。この法律の下では、視覚障害者は個人でAdobe E-Readerのようなプログラムをリバースエンジニアリングし、電子書籍のテキストを抽出できる脆弱性を見つけ出し、それを利用するプログラムを書かなければならない、と。

「なら…」と私は続けた。「もし視覚障害者が実際にそれをやり遂げたとして、そのツールを他の視覚障害者に提供することはできるのですか?」

それもダメだと大臣は答えた。すべての視覚障害者が、誰の助けも借りずに個人で電子書籍プログラムのリバースエンジニアリングを行い、自分専用の代替リーダープログラムを作らなければならないのだと。

これがツール免除なき使用免除(a use exemption without a tools exemption)の意味するところである。何の役にも立たない。ブラックジョークにだって限度というものがある。

著作権局は今世紀初頭から3年おきに免除審査を粘り強く実施し、障害者支援やスマートフォンのジェイルブレイク、教育目的でのDVDクリップ抽出など、数々の合理的な免除を認めてきた。この意味のない作業に何万人時もの労力が費やされ、技術的には許可される行為のリストは延々と続いている。ただし、それはリバースエンジニアリングの専門家レベルのプログラマーで、かつたった一人で最初から最後まですべての作業をやり遂げられる人にのみ許されている。

しかし、著作権局が付与できる免除の中に、一つだけ本当に意味のあるものがある。診断コードの解読に関する免除だ。

DMCA第1201条は、メーカーによる修理妨害の強力な武器として使われてきた。自動車やトラクター、家電製品、インスリンポンプ、スマートフォンなどのエラーコードを暗号化することで、メーカーは独立系修理業者から故障診断に必要な情報を奪い、修理の権利に対して戦争を仕掛けている。

これは平時でも十分に深刻な問題だが、コロナ禍の最悪期には、病院が人工呼吸器を維持できなくなるという事態にまで発展した。人工呼吸器市場をほぼ独占する医療機器メーカーのMedtronicは、修理のたびに数百ドルもの技術者派遣料を病院に請求している。だが、コロナ禍で移動が制限され、Medtronicは現場対応ができなくなった。だが幸いなことに、匿名のハッカーが立ち上がった。病院の技術者が自力で人工呼吸器を修理できるよう、(違法な)回避装置を自作し始めたのだ。古い時計ラジオやギターペダルなど、手に入るものなら何でも使ってケースを即席で作って、匿名で病院に送り続けたのだ。

https://pluralistic.net/2020/07/10/flintstone-delano-roosevelt/#medtronic-again

メーカーがこうして修理を独占すると、何が起きるのか。消費者は正規のサービス拠点でしか修理できなくなり、言い値の高額な修理料金を払わされ、高価な純正部品との交換を強制され、一方的に「修理不可能」と判断されて新品の購入を余儀なくされる。スマートフォンの修理を拒否されて新品を買わされるのも十分にひどいのだが、もっと深刻な例をもある。脊髄を損傷し、10万ドルのエクソスケルトン(外骨格デバイス)に頼って移動している人がいる。これがないと筋肉が萎縮し、血栓ができ、運動不足による様々な合併症のリスクが高まる。そんな人に対して、メーカーは「この製品は古すぎて修理できない」と言い放ち、再び機能させるために必要な腕時計の電池交換のための技術情報すら提供しなかった。

https://www.theverge.com/2024/9/26/24255074/former-jockey-michael-straight-exoskeleton-repair-battery

故障したデバイスから診断コードを抽出する権利を著作権局が認れば、修理の権利を訴える人々は作業台の上でデバイスを解析し、コードを引き出すことができるようになる。そのコードは非公式の診断ツールに組み込まれ、暗号化され難読化されたエラーコードを解読することなく理解できるようになる。つまり、診断ツールを作る企業だけがアクセス制御を回避すればよく、そのツールを使う人々はDMCA第1201条に違反することにはならない。

これが今月の話題と関係してくる。著作権局が最新のDMCA第1201条の免除リストを公開し、その中に「小売用の食品調理機器の修理を可能にする」アクセス制御の回避が含まれた。

https://publicknowledge.org/public-knowledge-ifixit-free-the-mcflurry-win-copyright-office-dmca-exemption-for-ice-cream-machines/

この免除はあらゆる種類の調理機器を対象としているが、Public KnowledgeとiFixitによる申請の発端となったのは、あの悪名高いMcFlurryマシンをめぐるおかしな戦いだった。このソフトクリーム・マシンは故障しやすいことで有名で、常に5~16%が稼働していない。大手厨房機器メーカーのTaylorは、このマシンの修理でフランチャイズ加盟店から法外な料金を巻き上げ、安定した収入源としている。

この悪質なビジネスに立ち向かうべく、アイスクリームハッカーたちがKytchを立ち上げた。これは高性能な自動化・診断ツールで、マクドナルドのフランチャイズ加盟店から絶大な支持を得た(伝説的なハードウェアハッカー、あのアンドリュー「バニー」・ファンが開発に携わっている!)。

Taylorの対応は実に卑劣だった。まずKytchの機能を劣化させたコピー品を作り、次にKytchの買収を持ちかけ、さらにはマクドナルド本社と手を組んで、DMCA第1201条を振りかざしながら「Kytchを使うと恐ろしい目に遭う」という脅し文句をフランチャイズ加盟店に浴びせかけたのだ。

https://pluralistic.net/2021/04/20/euthanize-rentier-enablers/#cold-war

この新たな免除の恩恵を受けるのはKytchだけではない。すべての業務用厨房機器が対象となる。ここで興味深いのは、著作権局が長年の同盟者たちの反対を押し切ってまで、修理する権利を支持したことだ。Entertainment Software Association、Motion Picture Association、Recording Industry Association of Americaといった団体は、いずれもTaylor/マクドナルド陣営側に立って免除に反対していた。

https://arstechnica.com/tech-policy/2024/10/us-copyright-office-frees-the-mcflurry-allowing-repair-of-ice-cream-machines

これは文字通り、著作権局が唯一出せる実効性のあるDMCA第1201条の免除であり、医療機器に対する同様の免除とともに認められたことは、確かに喜ばしい。しかし、誤解してはいけない。DMCA第1201条をわずかでも愚かでなくさせる、極めて限定的な方法が見つかったからといって、この悪法が正当化されるわけではない。この法律を廃止し、歴史の藻屑としなくてはならない。

(Image: Cryteria, CC BY 3.0, modified)

Pluralistic: The US Copyright Office frees the McFlurry (28 Oct 2024) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: October 28, 2024
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Cory Doctorow (CC BY 4.0), Cryteria (CC BY 3.0) | modified