以下の文章は、電子フロンティア財団の「While the Court Fights Over AI and Copyright Continue, Congress and States Focus On Digital Replicas: 2024 in Review」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

「素早く行動し破壊せよ」1訳注:Facebook創業者のマーク・ザッカーバーグが掲げた言葉。という言葉は、(ビッグ)テックへの反発が広がる昨今では、かなりネガティブな意味合いを帯びている。そんな中で、州および連邦の政策立案者たちが、テクノロジーと社会における最新の課題である生成AI、より具体的にはディープフェイクの生成に関して、まさにそのようなアプローチを取っているのは意外に見える。

あらゆるジャンルのクリエイターたちが、生成AIの利用について、ある程度正当な不安を表明している。この不安に加えて、自分たちの作品が、自分たちを追いやる可能性のある技術の開発に利用されたことへの理解できる不満が、複数の訴訟につながっている。

しかし、裁判所が事態を整理している間も、議員たちは何かをしなければという強い圧力に突き動かされる。そして、彼らの最優先事項は、生存・死亡を問わず有名人の人格――そしてそこから利益を得る多くの人々や企業――を保護するための新しい、あるいは拡大された権利を与えることのようだ。

最も広範な「ソリューション」は連邦法となるだろう。今年は複数の法案が提出された。最も注目を集めているのは、NO AI FRAUD(下院)とNO FAKES(上院)の2つである。2024年1月に提出された前者は、人物の画像や声を不正利用するための生成AIの悪用を阻止すると主張しているが、それが創設する権利は、信じがたいほどに幅広いデジタルコンテンツに適用される。デジタル技術、ソフトウェア、アルゴリズムなどを使用して作成または改変された「似顔絵」や「声のレプリカ」のすべてが対象となる。子どもの写真から、政治的イベントの録音、ドキュドラマ、パロディ、政治的風刺画まで、この範疇に入らないものはほとんどない。また、この新しい権利は連邦の知的財産権の一形態として位置づけられる。この巧妙な言い回しには、実は重大な意味がある。Section 230の免責は連邦の知的財産権には適用されないため、AIが生成したコンテンツをホストする仲介者が、訴訟の格好の標的となってしまうのだ。4月に提出されたNO FAKESも、本質的には同じ問題を抱えている。

いずれの法案も多くの問題を抱えている。詳しくはこちらこちらをご覧いただきたい。

根本的な問題は、これらの法案がパブリシティ権という、すでに各州で最も広範な権利となっているものをモデルにしていることだ。たしかに、この権利自体は一定の制限があれば理にかなっている。たとえば、ある企業が自社製品を推薦しているかのような虚偽の広告を打つことを阻止できるのは当然だろう。しかし、パブリシティ権は本来の範囲をはるかに超えて拡大し、今では人物のアイデンティティを「想起させる」あらゆる表現にまで及んでいる。有名人に関連するフレーズ(「Here’s Johnny」など)や、有名人を模した漫画的なロボットまでもが対象となるほどに。この権利は、あらゆる活動や表現を抑制できる金儲けの道具と化しており、実際、有名人たちは楽曲雑誌の特集記事、果てはコンピュータゲームまで訴訟の標的にしている。

各州もまた、パブリシティ権の拡大に向けて素早い動きを見せている。テネシー州が今年制定したデジタルレプリカ法は、その名もエルビス法(ELVIS Act)だ。もはや説明の必要もないだろう。同州ではすでに、有名人とその相続人に対し、名前や写真、似姿に関する財産権を認めていた。新法はこれをさらに一歩進め、声にまで権利を拡大。許可なく似姿を配布する者すべてに責任が及ぶようになり、言論保護のための例外規定も一部制限された。

対してカリフォルニア州は、有名人とその相続人を守る最強の法制度を目指す競争で、テネシー州に後れを取るわけにはいかなかった。AB 1836の可決により、故人の名前、声、署名、写真、似姿を、同意なく何らかの形で使用する者すべてに法的責任が及ぶことになった。確かに多数の例外規定は設けられており、これは何もないよりはましが、これらの例外規定は法律の専門家でなければ理解が難しく、一般市民には混乱をもたらすことになるだろう。

これらの州法は既成事実となってしまったため、今後の展開を見守るしかない。しかし、連邦レベルでは、まだ政策立案者を正しい方向に導く機会が残されている。

もちろん、我々も不安や懸念は理解している。誰もが、自分の人格が不当に商業利用され、欺瞞的に搾取されることから身を守る権利を持つべきだ。だが、そのための解決策は財産権の拡大ではない。議会が本当にパフォーマーや一般市民の画像や声を、欺瞞や搾取から守りたいのなら、表現の自由や競争、イノベーションを損なわない正確で慎重、そして実践的なアプローチを取らなければならない。

While the Court Fights Over AI and Copyright Continue, Congress and States Focus On Digital Replicas: 2024 in Review

Author: Corynne McSherry / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: December 27, 2024
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Roͬͬ͠͠͡͠͠͠͠͠͠͠͠sͬͬ͠͠͠͠͠͠͠͠͠aͬͬ͠͠͠͠͠͠͠ Menkman (CC BY-NC 2.0)