以下の文章は、Fight for the Futureの「STATEMENT: Treasury’s clumsy approach to Tornado.cash is a threat to the future of financial privacy」という記事を翻訳したものである。記事は8月9日に公開されたもののため、オランダ当局による開発者男性の逮捕については触れられていない。

Fight for the Future

米財務省は、ハッカーやサイバー犯罪者を処罰するために、オープンソースプロトコルのTornado.cashを制裁するという的はずれなアプローチをとっている。Tornado.cashは、多くのユーザがイーサリアムを特定アドレスにを送り、保有するすべての暗号通貨を混ぜ合わせることで、送金者に匿名化された資金を引き出せるようにするミキシング・プロトコルだった。Tornado.cashなどのサービスが存在するのは、イーサリアムのようなブロックチェーンに保存される永続的、公的、不変的な記録が、本質的にプライバシーの保護に反するためである。だが、財務省の行動後、このプロトコルを実行するためのオープンソースコードは検閲され、プロトコルに貢献する開発者はGitHubのアカウントを凍結されたと報告している。

ハッカーやサイバー犯罪者、その支援者たちは忌むべき存在であり、その活動は阻止されるべきではある。だからといって、そのために人権や修正第1条の権利を侵害するような手段を取ってはならない。

財務省の制裁は、まず盗まれたイーサリアムを匿名化するためにTornado.cashを使用していた北朝鮮系のハッキング集団、ラザルスグループ(Lazarus Group)に対抗する切り札として、彼ら(と、彼ら以外のサービス利用者)がこの匿名化サービスを利用できないようにするための措置だと見られている。

また財務省の制裁は、匿名デジタル資産の構築を目指すプロジェクトへの警告でもあり、修正第1条のコーディングの権利に対する攻撃という側面もあるのだろう。

財務省はラザルスグループに関与する個人・組織への制裁にとどまらず、サービスが悪用されたことを理由に、Tornado.cashプロトコルがミキシング・サービスを提供する仕組み(イーサリアムアドレス)全体を制裁したのである。インターネットの黎明期には電子メールがしばしばフィッシング攻撃に利用されていたが、それを理由に電子メールプロトコルに制裁を課すようなものである。Tornado.cashはコードであり、コードは幇助犯を特定するものではない。だが、財務省はただ単にコードに制裁を課したのである。コードは表現である。

すでにインターネットにはこの決定による萎縮効果が現れている。Tornado.cashを動かすために使われていたオープンソースコードがGithubから削除されたのだ。残念なことに、この萎縮効果こそが、米国政府が期待していたものだったようだ。

昨日、財務省はTornado.cashへの制裁を発表したプレスリリースで、「ほとんどの仮想通貨の活動は適法だが、違法行為に使われることもある」と明言している。だがこれは本来、現金にも言えることである。Politicoの報道では、「バイデン政権は、暗号通貨企業が全ユーザに個人情報の提出を義務づけるなど、マネーロンダリング対策として国際的に合意された技術を自主的に採用することを望んでいる。財務省高官は、Tornado Cashへの制裁が、まだ対応していない企業への強いメッセージになるだろうと述べている」という(強調は筆者による)。

匿名性は犯罪ではなく、金融取引で匿名性を必要とする正当な理由も数多くある。たとえば、金融情報を明かせば投獄されたり処刑されてしまうような権威主義国家の活動家にとって、プライバシー保護は切実な問題だ。さらに、金融の匿名性は、米国で中絶を希望する妊婦や、中絶基金・家族計画連盟への寄付が犯罪化されている州の支援者にとって、いずれ不可欠なものになるかもしれない。政府、企業、ストーカー、その他の悪意ある者たちに金融履歴を監視されたくないという願いは、オンラインでのプライバシー保護技術を必要とする正当な理由である。

我々は、財務省がプライバシーツールの構築や利用、あるいはオープンソースソフトウェアのコードを書いたり実行するといった単純な行為を犯罪化しようとするのではなく、バッドアクターへの対処に注力することを強く求める。

Fight for the Future – STATEMENT: Treasury’s clumsy approach to Tornado.cash is a threat to the future of financial privacy

Author: Lia Holland (they/she) / Fight for the Fiture
Publication Date: August 9, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Pawel Czerwinski