以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「The horrifying tale of a blockchain-based virtual sweatshop」という記事を翻訳したものである。

2004年、Game Developers Conferenceから帰ってきた妻が、突拍子もない話を聞かせてくれた。登壇した講演者が、米国とメキシコの国境に搾取工場を建設して、低賃金労働者にEverquest(訳注:1999年にローンチしたMMORPG)の反復作業をさせてバーチャルゴールドを集め、それをEbayで怠惰な富裕層プレイヤーに売りさばいたと話していたのだという。

その講演者は有名なホラ吹きだったので、当時はみんな半信半疑だったが、私の想像力は掻き立てられた。キーボードの前に座り、上司の目を盗んで書き上げたのが、国境を越えたゲーム内労働組合を結成する「ゴールド・ファーマーズ」の物語、『エインダのゲーム』だ。

https://www.salon.com/2004/11/15/andas_game/

意外にも『エインダのゲーム』はヒットした。その年のベスト・アメリカン・ショートストーリーズに再掲されて多数の賞を受賞し、ジェン・ワンとFirstsecondはNYTベストセラーのグラフィックノベル『In Real Life』 に仕立ててくれた。

https://firstsecondbooks.com/books/new-book-in-real-life-by-cory-doctorow-and-jen-wang/

そして2010年、私はこの物語を『For the Win』というゴールド・ファーミングとグローバル労働組合(ワールドワイドウェブ産業労働組合:IWWW(Industrial Workers of the World Wide Web)、またの名をウェブリーズ)をテーマにしたヤングアダルト小説に改作した。

https://craphound.com/category/ftw/

サイバーパンク作家の古いジョークに、「サイバーパンクは警告である、決して提案ではない」という言葉がある。悲しいかな、デジタル技術がグローバル・サウス(南側発展途上国)の労働環境の劣悪さを悪用したハイテク搾取工場を生み出し、すべての地域の労働条件を悪化させていくという私の寓話的ストーリーは、そのサイバーパンク・ジョークのオチを体現してしまった。こうした物語は何度も何度も、ありとあらゆるグローバルなデジタル労働搾取とグローバルなデジタル労働連帯の試金石となってきたのである。

だが、このような物語は、現状を説明するアナロジーとして用いられるだけでなく、まさしくその通りに実現してしまうこともある。ブロックチェーンベースのPlay to Earn(遊んで稼ぐ)のようなNFTに感染したゲームの世界がまさにそれだ。その旗手はスキャンダルを起こしたAxie Infinityである。

今週、私の言及は「Torment Nexusを作ってはいけない」(訳注:Torment Nexusは「人類のために決して作ってはいけないもの」を指すミーム)というジョークばかりになった。Rest of Worldに掲載されたネイリン・グレイ・デサイの素晴らしい記事――Play to EarnのMinecraft/ブロックチェーンゲーム、Critterzの隆盛と崩壊――を参照したものだ。

https://restofworld.org/2022/minecraft-nft-ban-critterz/

Critterzはもともと別のブロックチェーンゲームを展開していたが、ある致命的なミスを犯してしまう。Minecraft上にバーチャル搾取工場を構築してしまったのだ。Minecraftの開発会社Mojang(Microsoftの子会社)はNFT統合を禁止し、次のように述べている。「ブロックチェーン技術は、当社のマインクラフトクライアントおよびサーバアプリケーション内に統合することは許可されておらず、ワールド、スキン、パーソナルアイテム、その他のMODを含むすべてのゲーム内コンテンツに関連するNFTの作成に利用することもできません」。

Critterzが発行したゲーム内通貨はあっという間に暴落し、プレイヤーたちは――実際にゲームをプレイしていた貧困層も、その成果を買い上げていた富裕層も――出口(exits)に殺到することになった。

MinecraftがNFTを禁止しようとしまいと、Play to Earnの問題は深刻だ。このセクターが新たなライフラインを模索する中、『Torment Nexus』そのままの荒唐無稽なアイデアが飛び出してきている。デサイが取材したNFTコンサルタントのミハイ・コサールは、富裕層のゲーム体験を豊かにするために、貧困層がノン・プレイヤー・キャラクター(NPC)になりきることがPlay to Earnの未来の姿かもしれないと話す。彼らは「ゲームの世界にただ住んで、あれこれ仕事したり、行ったり来たりのおつかいをして、釣りをしたり、話をしたり、店番をしたり、どんな雑用でもこなす」ようになるのだろう。

もう1つ、「AI」は「Absent Indians(見えないインド人)」の略、というテックジョークも紹介しておこう。この世界でやり取りしている「AI」は、実はボットを装った低賃金で働くインド人だったというジョークである。

念を押しておくが、このジョークは警告として言っているのであって、決して提案ではない。

Pluralistic: 08 Sep 2022 Billionaires as policy-failure factories; In Real Life, in real life – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: September 8, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: BRICK 101 (CC BY-NC-SA 2.0) / Maxim Hopman