以下の文章は、電子フロンティア財団の「Google’s New Remote Attestation Scheme is As Bad As Its Old One」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

Googleという企業は、オープンなウェブがあったからこそ存在している。だが今日、同社の技術的「イノベーション」の多くは、ユーザを「壁に囲われた庭」に閉じ込めるためのものだ。その最新版が「reCAPTCHA Mobile Verification」である。これは実験的な取り組みで、独立系の「脱Google化」されたAndroidを使っているユーザを企業がブロックできるようにする。こうした「インディーAndroid」は、トラッカーや広告をブロックしてプライバシーと注意力を守りたい人々に愛用されている。残念なことに、これは同社のユーザ敵対的な施策の系譜に連なる、最新の1つにすぎない。

「エージェント型AI」が登場するはるか以前から、ソフトウェアがインターネット上であなたの代理人(エージェント)として振る舞うという発想は存在していた。ブラウザを指す古めかしい技術用語が「ユーザエージェント」であるのはそれゆえだ。ブラウザはあなたに代わって情報を取得し、あなたの選んだ形式で表示してくれる。ブラウザはあなたのエージェントなのだ

この発想は強力かつ、深遠である。ブラウザが我々の「エージェント」だからこそ、我々はブラウザが指示に従うことを期待する。ポップアップをブロックしたり、音声の自動再生をオフにしたり、商業的な監視トラッカーをブロックしたりといった具合に。

ブラウザがそのすべてをやってくれるのは、ブラウザがあなたのために働いているからだ。そして、ブラウザがあなたのために働くことができるのは、ウェブがオープンで標準化された技術だからである。理屈の上では、World Wide Web Consortium(W3C)が公開する標準に従えば誰でもブラウザを作れるし、そのブラウザはどんなウェブサーバにも接続できる。ブラウザとサーバは相互運用可能なのだ。ガソリンタンクにどこのガソリンを入れてもいいし、靴にどこの靴紐を通してもいいし、シリアルにどこの牛乳をかけてもいいのと同じ力学である。

だが、メーカーがその選択をあなたに強制できるとしたらどうだろう。ソケットのメーカーが公認した電球でなければ、電球ソケットが受け付けてくれなかったら? メーカーの「食器パートナー」から買った食器でなければ、食洗機が皿を洗ってくれなかったら? トースターが「非公認のパン」を焼くのを拒否したら?

こんな戦略で市場を勝ち取れるとは考えにくい。そもそも、その食器が本当に競合より優れているのなら、法や技術で強制するまでもなく消費者は自ら進んで買うはずだ。ライバルの食器を拒む食洗機を作る理由があるとすれば、それは自社の食器が不格好で、高くて、粗悪だからにほかならない。

だが、ひとたび企業が市場を手中に収めれば――ライバルを買収し、潜在的な競合には金を握らせて縄張りに入らせず、欺瞞的な手口で主要なサプライヤーと顧客を絡め取ることで支配的地位を築いてしまえば――相互運用性をブロックすることでその支配を盤石にできる。ライバルの食器も、牛乳も、ガソリンも、電球も、靴紐も、パンも締め出し、市場を丸ごと囲い込んで搾り上げるのだ。

それこそがGoogleのしてきたことであり、これからもっとやろうとしていることだ。Googleの商業行動はあまりに非倫理的で、欺瞞的で、濫用的だったため、同社はつい先頃、連邦反トラスト訴訟に3件も敗訴した。この有罪×3の独占企業は、Appleが検索市場に参入しないよう、年間200億ドル超もの金を払い続けてきたアプリベンダーを欺き、法外なジャンク手数料と過酷な条件でぼったくり、価格を吊り上げる一方で、あなたが支払った金のうち、その製品を作った企業に渡る取り分を減らしてきた。広告主も欺いた。広告市場を不正に操作して広告価格で企業から搾り取り、蔓延する広告詐欺への対策投資を怠り、誰も見ない割高な広告のために生産的な経済から数千億ドルを吸い上げてきた。

Googleも昔からこうだったわけではない。「邪悪になるな(don’t be evil)」を掲げたこの企業は、オープンウェブのエコシステムがあったからこそ存在できた。1998年にウェブのインデックス化を始めたとき、同社はオープンな競技場でプレイしていた。そこでは、どんなウェブサーバもあらゆる「ユーザエージェント」と対話できた。そのエージェントの主が、サーバ上の全ページを複製していくGoogleのようなスタートアップであっても。

長年にわたり、Googleはオープンウェブの上で繁栄し、オープンな技術を築いてきた。2005年に買収したモバイルOSのAndroidは、既存のモバイル製品に対する「オープン」なオルタナティブとして売り出された。モバイル市場がGoogleとAppleの2社に収斂していく中でも、GoogleはAndroidを、Appleの「壁に囲われた庭」に対するオープンな選択肢だと喧伝し続けた。だが、Googleの「オープン」なAndroidには、厳密にはオープンと言えない部分が常にあった。同社は違法な「抱き合わせ」契約によって、Googleの競合が作ったAndroid派生版を締め出すよう、ハードウェアベンダーやキャリアに強制していたのだ。

つまりGoogleは、(おおむね)技術的にはオープンなモバイルプラットフォームを提供しながら、その技術的オープン性を活かそうとする代替Androidから市場の酸素を奪うべく、別の手立てを講じていたわけだ。

だが、生命は道を見つける。オープンで、改変可能で、いじり好きに優しいモバイルOSが存在するということは、AndroidハッカーがGoogleの(事実上の)壁に囲われた庭に代わるものを作れるということだ。そうしたオルタナティブは、庭の壁の割れ目で花開いた。CalyxOSPureOSGrapheneといったOSは、よりプライベートで、よりセキュアなAndroid体験を提供している。おおむね「脱Google化」され、Googleによる私的データの絶え間ない収集をブロックするOSである。

そして、Googleのデータへの渇望は止まるところを知らない。Androidは5分ごとに、あなたの個人データと行動データの塊を外部へ送信している。Android監視の「安静時心拍」は脈打ち続ける。デバイスを使っていようがいまいがお構いなしだ。そして画面をアンロックした途端、その鼓動は速まり、さらに多くのデータが同社へと流れ込む。このデータの山は、権威主義的な政府にとって抗いがたい魅力を放ってきた。ドナルド・トランプの執行部隊は、抗議者の身元や、ICEに追われる移民の居場所を知るための重要な情報源として、Googleのデータに飛びついている。

というわけで、ユーザが脱Google化されたAndroidオルタナティブを求める理由はいくらでもある。Googleが競合技術へのアクセスを阻もうと手を尽くしても、ユーザはそれを見つけ出してきた。状況が悪化すればするほど、オルタナティブは輝いて見えたのだ。

改変版Androidの利用を阻む技術的障壁を高めようとするGoogleの長年の取り組みは、おそらくこれで説明がつく。脱Google生活の前に立ちはだかる商業的制約に見合うだけの技術的障壁を、積み増そうというわけである。

2023年、Googleは「Web Environment Integrity」(WEI)という構想をぶち上げた。ウェブ標準に変更を加え、接続先のウェブサーバに対して自らの動作環境を開示するよう、あなたのコンピュータに強制するものだ。たとえあなたがその開示を拒んでも、だ。

WEIは「リモート・アテステーション(遠隔証明)」の一形態だった。デバイスがサブプロセッサ(「Technical Protection Module」、略してTPMとも呼ばれる)や、メインプロセッサ内の隔離領域(「セキュアエンクレーブ」とも呼ばれる)を使い、デバイスとその構成――どんなハードウェア、ソフトウェア、プラグイン、設定を使っているか――を記述した暗号署名付きの証明書を生成する仕組みである。

サーバに接続すると、サーバはリクエストを処理する前に、この「アテステーション」を送るようデバイスに要求する。デバイスがこのデータを提供しなければ、あるいはサーバがあなたのデバイスやその詳細を気に入らなければ(もしくは認識できなければ)、サーバは対応を拒否できる。しかもアテステーションを用意するのは、あなたには改変も上書きもできないTPMやセキュアエンクレーブだ。デバイスに関するどの事実を相手に見せるかを、あなたが決めることはできない。

実際問題として、これが意味するのはこういうことだ。リモート・アテステーションがあれば、あなたが広告ブロッカーと追跡ブロッカーをオフにするまで、サーバは対応を拒否できる。音声や動画の自動再生をブロックするユーザ、ポップアップをブロックするユーザ、強制プレロール広告の再生中にタブをバックグラウンドに回すユーザを、サーバが差別することもできる。

Chromeのアップデートを通じて広告ブロッカーやプライバシーブロッカーを葬り去ろうというGoogleの計画――この取り組みは今日も続いている――を踏まえれば、WEIはことさら不穏だった。

こうしたブロッカーは、ウェブパブリッシャーとユーザの間の力学において重要な役割を担っている。現実世界では、オファーを受けたらカウンターオファーを出せる。広告ブロッカーとはまさにそれだ。「このページを見せてやる代わりに、データを全部寄越して、コンピュータを乗っ取らせてくれないか?」というサーバの最初の入札に、ユーザが「『イヤだね』でどうだ?」と応じるための手段なのである。

ポップアップ広告が駆逐されたのは、違法化されたからでも、それを使う広告主がボイコットされたからでもない。ウェブユーザがポップアップブロッカーをインストールし、ポップアップ広告を無意味にしたからだ。不快なデジタルコンテンツをブロックする力を我々から奪えば、我々がそれに溺れることは確実である。

この種の改変は、広告をブロックするためだけのものではない――アクセシビリティの要でもある。光過敏性てんかんの人や、コントラスト感度に問題を抱える人は、アドオンでページを再フォーマットすることで、安全に、読みやすくアクセスしているのだ。

WEIの作り手たちは、ウェブをアプリと対等な競争条件に置こうとしただけだと弁明した。たしかにアプリは日常的に、あなたに尋ねることなく、あなたが望まなくても、接続先のサーバを運営する企業にデバイスの情報を開示している。アプリは底なしのメタクソ化の温床だ。その一因は、(ウェブと違って)アプリが特殊で危険な法的保護を享受しており、改変が法的にきわめてリスキーだからである。WEIはアプリとウェブの競争条件を対等にする試みなどではなかった――底辺への競争であり、ウェブをアプリ並みにメタクソ化しやすくする試みに過ぎない。

世論の激しい反発を受けてWEIは葬られた。だが、違法な商業的ロックダウンを技術的ロックダウンで補強しようというGoogleの執念が消えることはなかった。そうして、今度は実験的な「reCAPTCHA Mobile Verification」を展開し始めたのである。アプリとカメラ、そしてデバイスのTPMまたはセキュアエンクレーブを使って、Androidデバイスに関するアテステーションを生成する。

あなたが代替Androidを動かしていたり、Google純正Androidの動作を上書きするModを入れていたりした場合、あなたの利用するアプリやその他のサービスがそのデバイスをブロックすることが格段に容易になるだろう

じつに酷いアイデアだ――WEIと寸分違わず酷い。ビッグテックが権威主義的な政府との結びつきをますます深める時代にあって、知られたくないことを見知らぬ相手に告げるようデバイスを再設計するのは、近視眼的であるどころの話ではない。許しがたい行為だ。

Google’s New Remote Attestation Scheme is As Bad As Its Old One | Electronic Frontier Foundation

Author: Cory Doctorow / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: July 9, 2026
Translation: heatwave_p2p