著作権ウィーク、本日のテーマは「パブリックドメインと創造性」だ。著作権政策は創造性を育むべきもので、妨げるものであってはならない。過剰な著作権保護期間は、私たちのコモンカルチャーへのコメントや批評、再利用を妨げている。

著作権は常に過去の上に築かれる。パブリックドメインは、共有された文化的コモンズであり、無限の創造性をもたらすものである。過去何世紀にも渡って、再利用、再構成、再想像がなされ、芸術・科学に新たな発展をもたらしてきた。パブリックドメインの価値は、いくら評価してもしすぎることはない。現代の著作権政策は、パブリックドメインを堅牢かつアクセスを容易にするものでなくてはならず、その価値を減じるものであってはならない。

法律上のパブリックドメイン

法的な観点で見ると、パブリックドメインは知的財産権が及ばない領域ということになる。つまり、パブリックドメインの作品は、何ら制限されることなく使用することができる。作品はさまざまな方法でパブリックドメインに入る。第一に、著作権の保護期間が終了した作品がパブリックドメインとなる。米国の著作権保護期間は、著作者の死後70年間となっている。したがって、それより古い作品(少なくとも、1923年以前に出版された作品)はパブリックドメインに属している。

第二に、著作権の保護期間が終了する以前でも、著作権者が作品をパブリックドメインに入れることができる。これは、CC0 パブリックドメイン提供を使用すれば可能だ。このツールを使用すれば、誰でも著作権を放棄し、著作権が失効するのを待たずして、作品をグローバルなパブリックドメインに直接置くことができる。

第三に、そもそも著作権保護の対象とならない一部の作品は、パブリックドメインとされる。事実やアイデアなどはパブリックドメインにあり、著作権で保護されることはない。

永遠に「その日」は来ない?

著作権政策に向けられる批判の多くが、クエリエイターに著作物の独占的使用権を与える期間が極めて長過ぎるということだ。しかし、最初からそうだったというわけではない。米国が1790年に著作権法を制定したとき、保護期間は14年に設定された(更新することで更に14年延長することができた)。しかしそれ以降、徐々に著作権保護期間は延長されていき、世界各国がベルヌ条約に署名したことで、著作者の死後50年間が一般的になった。

著作権保護期間を延長すべき理由は存在しない。経済学者のルーファス・ボロックは、2009年に公表した論文で、適正な著作権保護期間を約15年と見積もっている。また、エルドレッド対アシュクロフト訴訟(訳註:ミッキーマウス訴訟、ソニー・ボノ法違憲訴訟とも呼ばれる)のように、著作権保護期間延長が法的な問題を引き起こすこともある。この訴訟では、ローレンス・レッシグが原告の出版社エリック・エルドレッドの代理人として、1998年著作権保護期間延長法は遡及的に著作権の保護期間を20年間延長するものであり、著作権が限られた期間存続するという憲法の要件に違反すると主張した。著名な経済学者らはエルドレッド側を支持する法廷助言書を提出し、レッシグのアプローチを是とはしないながらも、保護期間延長の費用は便益を上回ると述べた。最終的に、原告の訴えは棄却され、米国の著作権保護期間は著作者の死後70年のままとなっている。著名な著作権学者であり、パブリックドメイン研究センターのディレクター、クリエイティブ・コモンズの創設理事のジェイミー・ボイルは、今日の著作権保護期間の長さを「文化的災害」だと指摘する

崖っぷちからの後退

では世界的に見た場合、著作権の保護期間はどのように考えられているのだろうか? すでに、多くの国に損害を与えている。ベルヌ条約などの国際条約や世界貿易機関(WTO)などの発展により、著作権者の死後50年間が一般的となっているためだ。しかし、一部の国では、国内の著作権制度の見直しにより、著作権の保護期間にアプローチしようとしている。たとえば、オーストラリアは最近、未発表の作品に永久的な保護期間を許す可能性のあった法の抜け穴を塞いでいる。

カナダ国内の著作権審査を担当する閣僚は、法改正は「利用者がパブリックドメインからの便益を享受できるものでなくてはならない」と述べ、パブリックドメインへの支持を表明している

米国では、音楽業界(RIAA)や映画業界(MPAA)などの強力な著作権ロビーが、さらなる保護期間の延長を求めるつもりはないことを認めている。1998年の著作権保護期間延長法の効力は来年2019年には失われ、新たな作品が米国のパブリックドメインに入ることになる。さらに驚くべきは、いわゆる著作権マキシマリスト団体である作家組合(Authors Guild)からの反応だ。作家組合のスポークスマンは、「多くの会員がパブリックドメインに入った過去の作品への潤沢なアクセスから大いに利益を得ているため、保護期間延長を支持しない」と述べ、さらに「むしろ、政治的に実現可能なのであれば、我々は著作者の死後50年の保護期間に巻き戻すことを支持するだろう」という。

では、二カ国間、多国間貿易交渉などの著作権政策への干渉メカニズムでは、この問題はどう扱われているだろうか? 状況は非常に複雑だ。もともと、環太平洋経済連携協定では、(すでに著作者の死後70年となっている国を除き)20年間の保護期間延長がなされることになっていたが、米国が協定を脱退することになり、残された加盟国が交渉を再開すると、多数の問題を抱える著作権条項の協議は(20年間の保護期間延長を含め)凍結されることとなった

NAFTAの再交渉では、保護期間延長には積極的ではないようだ。米国ではすでに著作者の死後70年間となっており、メキシコでは死後100年間となっている。カナダはNAFTA経由では著作権保護期間を延長するよう強く要請されてはいない。カナダの新民主党は「カナダ政府は、カナダの現行著作権法が国際著作権法に準拠していることを認識し、著作者の死後50年とする現在の保護期間を超える著作権保護期間延長の要請する提案を拒絶すべきだ」との意見を提出している。

EUとメルコスール(南米諸国の関税同盟)との貿易協定は、興味深い事例と言える。私たちは、2016年11月の知的財産条項の草案で示されていた、著作者の死後70年に満たない国への20年間の保護期間延長要求を批判した。しかし最近の条文では、EU側が延長を要請しているものの、メルコスール諸国は国際基準の死後50年を優先させることを明確にしている。さらにメルコスール諸国は、「堅牢かつ豊潤なパブリックドメインを維持するために」加盟国間の協力を促進し、「パブリックドメインに属する素材を特定するために加盟国間で協力する」との文言を追加するよう提案している。EUが提案した文言は、単に「パブリックドメインの重要性」の協働認識を求めるだけである。しかし、メルコスール諸国の活動家らは、パブリックドメインへのアクセスや保存に関する微々たる改善のために、メルコスール諸国が制限的な著作権環境を全面的に受け入れるという犠牲を払ってはならないと懸念している

潮流の転換:何が起こったのか?

著作権政策は、多くの法的、社会的、文化的問題と同様に、政治的陰謀に深く関わっている。それは利益相反する利害関係者同士の権力闘争の結果ともいえる。これまで長きに渡り、著作権分野の権限は、人気コンテンツのゲートキーパー――多くの場合、著作権法制や規制に深く関わる政治家と密接につながる企業や業界団体――に支配されてきた(これこそが1998年著作権保護期間延長法が「ミッキーマウス保護法」と呼ばれる所以だ)。では今、何が変わったのか。こうした企業やロビー団体は、著作権保護期間延長による利益を追求し続けているのではないのか? なぜ著作権は「永遠にその日は来ない」から抜け出せたのか?

先日のArs Technicaの記事では、「インターネットの台頭により、著作権問題の政治的背景が大きく変わった」と論じられている。「オンライン海賊行為防止法案(SOPA)」が2011年に提案された際、Wikipediaを始めとする大手ウェブサイトは同法案がもたらしうるネガティブな影響への抗議としてブラックアウトを実施した。数百万の人びとがインターネットやソーシャルメディアで抗議の声をあげた。こうした公衆の抗議が、同法案の成立を防ぐことに繋がった。政策立案は、極めて複雑な背景を持つこともあり、提出される法案を、単一の理由で説明することは難しい。しかし、過去数年間に目にしてきた大きな変化は、自由かつオープンなインターネットを求めるユーザたちの、新しい(そして組織化された)コミュニティが、政治領域で声を上げていることだ。

著作権保護期間はあまりにも長過ぎる。著作者の死後50年など言わずもがなである。しかし、公正な著作権の実現のために尽力し、知識へのアクセスの改善、高速かつ信頼性の高いテクノロジーと接続性、堅牢な共有パブリックドメインのために戦うコミュニティが存在する事も忘れてはならない。その力は今後も発揮され、さらに強化されねばならない。それにより、クリエイター、ユーザ、そして公益性が、クリエイターに真に報いるバランスの取れた著作権を創造し、我々の知識や創造的なコモンズにアクセスし、再利用し、そして貢献するためのユーザの権利を支える政策立案のイニシアチブを取り戻すことができるだろう。

Is Copyright Term Extension Finally Done? – Creative Commons

Author: Timothy Vollmer (Creative Commons) / CC BY 4.0
Publication Date: January 15, 2018
Translation: heatwave_p2p