学術出版社のアメリカ化学会とエルゼビアは、科学者・研究者向けネットワーキングサイト「ResearchGate」を提訴している。出版社側は、このプラットフォームに研究論文が無断アップロードされているとして、著作権侵害1件につき15万ドルの損害賠償を求めている。
1876年に設立されたアメリカ化学会(ACS)は、化学に特化した学術出版社である。1880年に設立されたエルゼビアは、世界最大規模の学術出版社だ。
両社は近年、学術論文への不正アクセスを許すさまざまなプラットフォームに対して積極的な措置を講じている(1、2)。
今週、両社はメリーランド州連邦裁判所に訴状を提出し、科学者・研究者のネットワークサイト「ResearchGate」が著作権侵害に関与したと訴えている。
「この措置は、査読され、出版された雑誌論文(PJA)への大規模な著作権侵害によりなされたものである。原告は雑誌に論文を掲載し、それぞれの著作権を所有している。被告は意図的にPJAの著作権侵害コピーを利用してその事業を行っている」と訴状にはある。
ドイツに拠点を置くReseachGateは、科学者や研究者に特化したネットワークとしての地位を確立している。同サイトは、1500万人のメンバーがこのプラットフォームを利用して「研究を共有し、発見し、議論している」という。そのミッションは、研究を「万人に開かれたものにする」ことだ。
しかし、ACSとエルゼビアによれば、その開放性ゆえに両社の権利侵害につながっているという。
「この訴訟は、研究者や科学者が協力し、議論し、研究者自身やプロジェクトを広めること、ないし知見やロウデータ、査読前論文を共有することを問題視するものではない」と彼らはいう。
「この訴訟は、PJAの著作権侵害を促すファイル共有・ダウンロードサービスを提供するResearchGateの意図的な不正行為に対するものである。このサービスにより、ACSやエルゼビア、その他の学術出版社の著作権が著しく侵害されている」
出版社側は、ResearchGateがトラフィック、コンテンツ、収益を増やすために原告のコンテンツを利用しており、同プラットフォーム上の侵害は偶然ではないと主張。さらに、ResearchGateは著作権を持たない第三者にもアップロードを促すのみならず、彼ら自身も著作権侵害アップロードを行っていると主張する。その結果、ResearchGateは「大規模な著作権侵害の巣窟」になっているという。
ACSとエルゼビアは、ユーザがPJAのコピーをReasechGateにアップロードすると、そのファイルはサーバに保管され、PDFとして表示・ダウンロードできるようになるという。またユーザは、FacebookやTwitter、Redditなどのソーシャルメディアでも論文のリンクを共有できるという。
「ResearchGateは、RGウェブサイトに掲載されるべきでないことを知りつつ、著者をそそのかしてPJAをアップロードするよう促している。その1つの方法は、著者プロフィール、出版ページ、ジャーナルページを作成する際に付随する『フルテキストを請求』という機能である」と訴状にはある。
こうしたユーザによるアップロードに加えて、ResearchGate自身も同サイトに閲覧・ダウンロードのためにアップロードされた論文をスクラップする機能を利用してコンテンツを追加しているという。出版社側は、ResearchGateがこうしたコンテンツの提供をほのめかす声明をウェブサイトに掲載していると主張する。
「プロプライエタリ・コンテンツは通常、著者がアップロードした場合にResearchGateに掲載されます」と声明にはある。「したがって、あなたの論文のフルテキストがすでにResearchGateで利用可能である場合、共著者がアップロードしたものと考えられます」(強調は訴状に基づく)
さらに原告は、ResearchGateが以前に「大学のウェブサイトを探索し、インデックスするウェブクローラーを構築する」ために、「その開発をメンテナンスに関する実務経験を持つ人材」の求人を行っていたことを指摘している。
ACSとエルゼビアは、この訴訟を提起する前に、ResearchGateと交渉し「法律の範囲内で」運営するよう求めたという。
出版社は国際科学技術医学出版社協会という業界団体を通じて、ResearchGateに論文共有を制限する自発的措置を実施するよう求めたが、同社は拒否したという。出版社によれば、一部の論文は削除されたものの、ResearchGateはその理由についての説明を拒んでいるという。
出版社は同サイトで大規模な著作権侵害が行われているとして、ResearchGateを直接的著作権侵害、著作権侵害の誘引、寄与侵害、代位侵害で訴えている。
ACSとエルゼビアは、ResearchGateが著作権侵害コンテンツをすべて削除し、著作権侵害1件につき15万ドルの法廷損害賠償を支払うよう裁判所に求めている。
ACSとエルゼビアは以前にもResearchGateに訴訟を起こしている。2017年10月、両社はResearchGateが著作権侵害を把握しているため、削除要請を受けなくてもファイルを削除する義務があると主張して、ドイツで訴訟を起こしている。
訴状はこちらから(pdf)。
ACS and Elsevier Sue ResearchGate For Copyright Infringement – TorrentFreak
Publication Date: October 4, 2018
Translation: heatwave_p2p
Materials of Header Image: Pictures of Money (CC BY 2.0) / Vmenkov (CC BY-SA 3.0)